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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第91話 浮き出たもの




「まだ動くぞ! 囲んで警戒しろ!」


 黒焦げになった化け物の声が聞こえた瞬間に、松川さんの怒声が響いた。

 思わず呆けそうになっていた者は、一人残らず背筋を伸ばして武器を構える。

 ジリジリと包囲を作り、どの方向に怪物が動いてもいいように油断なく。

 俺は、正門を背にするように回り込む位置につく。


「遠距離班! もう一度斉射!」


 怪物の動きを待つことなく、松川さんは再度の総攻撃を命じた。

 とはいえ、地雷はもう出し尽くした。

 遠距離から降り注ぐのは、石矢と火の玉や石飛礫のような魔法だ。


 それらは黒焦げでただ呻いているだけの怪物へと再び収束する。

 だが。


「うるううるううるううううう!!」


 それらが着弾する前に、怪物の黒焦げになっていた体が、弾けた。

 まるで攻性防壁のような反応を見せ、攻撃が着弾する前に、弾けた黒焦げの体がそれらを巻き込んで散っていく。

 それだけを見れば、最後のあがきで自身の体ごと爆発したようにも思えた。


 だけど、そんな感想は、ものの数秒後にはひっくり返される。



 落とし穴の中に、何かがいた。



 初めに見えたのは、頭上へと伸びる触手のような何か。

 複雑に絡まってしまったワイヤーのような何かが『二本』、ぴょんとソレから伸びている。


「るるぅ」


 何かは落とし穴から這い出し、俺たちの前に姿を表す。 


 頭頂から少しずつ下に視線をやると、飛び込んでくるのは目だ。

 まるで福笑いをしたかのように、歪に配置された大きな目が、上下左右バラバラの方角を見るようについた頭がそこにある。

 口だけは、先ほどと変わらぬ三重の歯がついた大口。

 頭の構成要素は、だいたいそんなところ。


 そこから短い首を通じて胴体に移る。

 胴体は、ダルマのようなずんぐりとした形、そしてその胴体に直接大きな耳がついてる。そう。まるで、腕のように。


 胴体の下には頭上から伸びているのと同じような、絡まった管状の足がニュルニュルと伸びていて、その先端部分は足の代わりをするように開いている。


 先ほどの怪物は、まさしく肉塊の化け物だった。

 その中から現れたのは触手の化け物といった風情だ。


 その異様な姿に思わず思考が止まりそうになるが、そんな想いとは裏腹に、頭はスキルを使用していた。


 ──────

 なれはてたもの

 状態:呪腐魔病(悪性変異)

 ──────


 本体だ。

 そう確信すると同時に、即座にもうひとつスキルを流す。


 使うのは『目星』。

 そして、俺の目には、はっきりとそれが見えた。


「弱点! 頭と首!」


 俺の叫びに、同じように動きが固まっていた探索班が動き出す。

 その反応の一瞬後に、怪物が吠えた。


「るるううううう!!」


 目をギョロギョロと動かし、頭から伸びたワイヤーを地面に突き刺したかと思うと、それらが縦横無尽に『咲く』。

 束ねられたものが解され、その数は数十にもなりそうだ。その触手の一本一本から、圧縮された土の礫が放たれた。

 その攻撃は、先ほどまでの力任せのものとは違う、明確な意思を持った牽制に見えた。


「つっ!?」


「うぉっ!」


「なっ」


 頭から伸びた触手からの攻撃ひとつひとつが、それぞれ俺と探索班のメンバーへと襲いかかる。

 危機感は大半が赤。わずかに黒。

 四肢を狙う攻撃に、頭や心臓という急所を狙う攻撃が時間差で紛れてくる。

 だが、距離はやや遠い。各々が対処できない速度ではない。

 俺は赤い点を避けながら、黒い二つには鍾馗を叩き込んだ。


「ぐっ!」


「くぁあ!!」


 探索班から悲鳴が二つ上がった。

 対処しきれなかったものが2名。

 わずかに動きを止めた二人を、怪物は見逃さない。


 頭の二本の大触手が、まっすぐに二人へと伸びた。

 まるで、二人を捕らえようとしているように。


「ぶった切れ!」


「おう!」


 しかし、松川さんの号令の方が早い。

 反応できない二人に代わって、伸びた二本の触手に対して、松川さんが剣を、竜胆さんが斧を叩きつけていた。

 二人の攻撃は、束になった触手を切り落とし、怪物が悲鳴をあげる。


「るううあああああおおおおああ!」


 明確な怨嗟の声。

 先ほど俺がぶよぶよの肉塊を相手にしていた時とは違う。

 攻撃が通じているという感触を与えてくれる。


「怯むな! 攻撃を叩き込め! 奴は弱っている!」


 松川さんも即座にそう判断していた。

 本体が出てきたからさっきより強い、そういうわけじゃない。

 大火力の攻撃で、ようやく弱点である本体を引きずり出したのだ。


「っ! 撃て撃て!」


「敵は死に体だぞ!」


 さっきまで様子見に徹していた遠距離班が、にわかに活気付く。

 再び雨あられと降り注ぐ攻撃の数々に、怪物は大声をあげた。



「きゅぅううああああああああああああああああああああああ!!!!!」



「うっ!?」


 それまでとまるで違う怪音波に、俺以外の探索班が頭を抱えてうずくまった。

 明らかに隙だらけのその姿に戸惑う。



「なんだ!?」


(上杉さん! 多分状態異常攻撃です!)



 無事だったのは、俺とクミン、それに遠距離にいる人たち。

 いや、遠距離の人たちも若干ふらついているか?

 クミンは種族が違うから対象から外れたと仮定すると、俺に効かない状態異常は。


 混乱。


「っ! クミン! 軽くみんなの頭をぶん殴ってやれ!」 


 前衛が軒並み混乱して総崩れはまずい。

 最悪、何もできないまま全滅もありうる。


 俺は怪物が何か次の行動を起こす前に、即座に前に出た。

 ギョロリとした目が、明確に俺を捉える。


「もう少しだけ俺に付き合ってもらうぞ!」


 さっきまで戦ってたんだ。今更リベンジはなしとは言わせないぞ。

 そう虚勢を張りながら、俺は必死に頭を働かせている。


 正直に言えば、奴の今の状態でわかることは少ない。

 おそらく、スピードや手数は今の方が優れている気がする。

 反面、攻撃力や防御力は明確に下がっているはず。

 弱点がはっきり見えるのがその証拠。


 であれば、こちらが弱点を狙うそぶりを見せることで、相手の行動をわずかにでもコントロールできるはず。

 俺がそう思い、鍾馗を構えながら突っ込んだところで、



「うるるぅ」



 怪物は、待っていたとばかりにニヤリと笑った。



「なっ!?」


 その後の行動は、逃げだ。

 奴は、俺との戦いからいともたやすく逃亡し、距離を取った。

 攻撃の体勢をとりつつ、いつでも逃げられるように構えていた俺は、その行動に虚を突かれて動きが遅れる。


「るるるぅ!」


 奴の狙いは、クミンが土石魔法の石飛礫を軽くぶつけて正気を取り戻させている探索班の一人。



 ──ではない。



「まさか!」


 そちらを狙うそぶりを見せ、さらに皆の意識を誘導した直後に、怪物は一転、校舎の方へと走っていた。

 最初からそうするつもりだったと、言わんばかりの迷いのない動き。


 狙いは、そうだ。


 抵抗の意思を見せ、己を殺そうと動く『厄介な連中』ではない。

 そんな戦いを遠巻きに見ながら呆けているだけの、有象無象の『餌』だ。

 避難が間に合わなかった非戦闘員を、おそらく奴は捕食の対象に選んだ。


 効率的に回復し、有利に俺たちと戦うために。


「くそっ!」


 俺はそんな怪物の意図を悟って追いかけるが、先よりずっと身体が重い。

 疲労もそうだが、称号の効果が消えているからだ。


 『混沌と孤独の同胞』は俺が単独行動をとっているときに、強い補正を与えてくれる。今は、そうじゃない。仲間という存在が今、俺の足を引っ張っていた。


「遠距離班! 奴を止めろ!」


 意識を取り戻した松川さんから号令が飛び、校舎に近い側にいる人々が弓を引きしぼる。

 だが、動きを止めていた先と違い、動く的への攻撃は難易度が上がる。

 怪物は、自分に向かってくる矢をときに躱し、ときに弾きながら、悠々と校舎へとたどり着いた。


「うるるづううぅうう!」


 奴はそのまま少し短くなった頭の触手を伸ばし、強引に二階のベランダへと取り付いた。

 ずるりずるり、と奴は触手を引きながら力任せに上がっていく。


 必死に追いかけるが、俺はまだそこまでたどり着けない。

 何より、二階へと一足に駆け上がるすべを持っていない。


(このままだと死人が!)


 二階から怒号にも似た悲鳴が上がっている。

 蜘蛛の子を散らすように走って逃げる人や、盛大に何かにぶつかって転ぶ音などが遠くなった耳に届いてくる。

 だが、その足は遅い。

 少なくとも、怪物から逃げられるようなスピードを持っている人はいない。


 もう、被害は止められない。

 それどころか、ここで捕食が成れば、せっかく削った肉塊の鎧まで復活する恐れがある。


 そんな予想に背筋を凍らせた瞬間。



(上杉さん! 乗って!)



 俺に追いついてきたクミンが叫び。

 目の前に、石の柱が立った。


 土石魔術で作った、階段とも言えぬほどのか細い柱。

 到底、人間がどうこうできるとは思えぬ足場。


 だが、今の俺ならそこを駆け上がることができる!


「信じたぞクミン!」


 クミンのアシストに心から感謝しつつ、俺はその柱を跳んでいく。

 一歩進めば、すぐに次の柱が立つ。


 一歩。

 二歩。

 三歩。

 四歩。


 そして五歩でベランダを超える高さにたどり着く。

 あとはもう、前へと進むだけだ。


 最後の六歩目。

 今まさにベランダから教室の壁を破壊し、腰を抜かした女性を捕まえようとしていた怪物の背後に躍り出た。


 否、背後ではないな。

 奴に、前と後ろという概念は希薄だった。

 その証拠に、奴の頭にあるギョロリとした目は、確かにこちらを見ている。


 だが、俺が現れたことが理解できなかったように、その目はきょとんと見開いていて。

 次の瞬間には、初めて怪物の目が『怯え』のような色を見せた。



「死ね」



 そして動きを止めたままの怪物へと、鍾馗を一閃。


 奴の首を切り落とした。






ここまで読んでくださってありがとうございます!

今日はここまで

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