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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第89話 成長する意志



「うぅううああううああ」


「おおぅうおぉああぉお」


 時間とともに少しずつ、周囲のゾンビの気配が増えていく。

 じわりじわりと、危険が増える。


 ただでさえ、そう広くはない道だ。

 頑張れば軽自動車ならすれ違えるか、という程度の幅の道にゾンビが集まってくれば、ただの障害物に変わる。

 そして、その障害物を俺は気にするし、怪物は気にしない。その差はあまりにも大きい。


 といっても、それを利用することは、簡単だ。

 怪物はゾンビを回復アイテムか何かのように喰らった。

 その習性は、使える。


 回復が必要なダメージを与え、ゾンビを喰らわせる。

 それだけで、邪魔なゾンビは減り、時間は稼げて、俺の体力やCPの温存にも繋がる。



 ただ、犠牲になったゾンビは、人間に戻れぬまま二度目の死を迎えるだけで。



(……なぁ、それだけだろ?)



 たったそれだけで、俺は黄金にも似た時間を手に入れられる。

 約束した120秒を超えて場を持たせれば、学校の準備は整う。

 プランAを実行する準備にかかる時間を考えれば、稼げるだけ稼ぐのが正しい選択だ。


 合理的な選択を取るべきだと、心の中の正しさが必死に訴えていた。

 頭の中に住むロマン派の俺だって、この選択を肯定はしない。


(それだけ……なんだけどさぁ!)


 それでも俺は選んだ。

 この戦いで、明らかに時間稼ぎに向いている選択肢を俺は捨てる。



(なるべく、ゾンビは食わせない)



 誰だって、バカだと言うだろう。

 この状況で、怪物がゾンビを捕食する行動を利用しない手はない。

 なにせ、そのゾンビだって、この場では俺の敵だ。

 怪物の足の指を切り離せば、それだけで比較的安全に時間稼ぎができるのだ。



(だけど)



 だけど、このゾンビだって、人間だ。

 呪腐魔病は、治せる。

 そして俺は、その治療薬の情報まで手に入れてしまっている。


 

 きっともう助からない、という理由で見殺しにできた頃とは違う。

 彼らを見殺しにするたびに、茉莉ちゃんが誰かに殺されるイメージが浮かんでしまう。

 彼らを見殺しにするというのは、俺が『助けない』と選ぶこと。



 これは呪いだ。

 俺はゾンビたちに呪われているのだ。



 聞こえるはずもない、ゾンビからの助けを求める声が、俺の脳裏に響くような気分だった。



(だったら、やれるとこまでやってやるよ!)



「うるるぅうう!」



 カウントは、67。

 怪物は、闇の中で俺を見つけるのを諦めたらしい。

 闇雲に腕を振り回し、少しでも見えない俺を攻撃しようと足掻く。


 不用意に近づいたゾンビの一体が、剛腕に巻き込まれ、首と胴体を離婚させていた。片目だけ閉じて、俺はその様子を見送った。

 じりじりと、怪物は近づいてきている。

 奴が頭ごと腕を振り回せば、そのリーチは道の全幅に届く。 


 唇を噛み締め、そんな腕の嵐の中に一歩踏み込む。


 死を運ぶ色をした腕が迫るが、当たらなければ死なないのだ。

 こちらを狙ってもいない大振りの一撃を、躱すことは容易い。

 難易度で言えば、ミスをすれば死ぬだけの大縄跳び。

 そして、今の集中状態でミスをすることは難しい。


(とりあえずは、腹)


 俺の攻撃が怪物の腹を浅く切り裂く。

 血は吹き出さない。

 返ってきた感触も足と大差ない。


 足の指を落とさないと決めた以上、少しでも多くの場所を裂き、情報を集めなければ。

 どこへの攻撃が、どんな結果を導くのか、調べなければ。


 どれだけ負傷すれば回復したがるのか。

 どれだけ傷つけば、怪物がひるむのか。

 この怪物への攻撃には、本当に意味はあるのか。


 答えを知ることはできないだろう。

 だが、行動に対する結果があれば、答えに近づくことはできるかもしれない。

 安易な道を捨てたのならば、それに見合う何かを得る努力はするべきだ。


「うるるううううう!!」


 切り裂いた直後に鍾馗はストレージに戻す。

 それでも、俺を見失う前に怪物は動いている。

 暴れていた怪物は、即座に俺へとカウンターを放った。


 少しだけ、奴の攻撃パターンは掴めてきた。

 反撃は、速度を重視した突きか、範囲を重視した払いのどちらかが多い。


 突きであれば、危機感の先読みに従って左右に躱す。

 払いであれば、下か後ろに躱す。


 ゾンビの気配を読みながら慎重に、動ける方向を探りながら確実に。

 攻撃のタイミング、奴の注意の間隙、ゾンビたちの反応、それらを脳で処理して導いていく。


 神経が信じられないスピードでガリガリと削られていく感触を、どこか他人事のように感じていた。

 返って来た、槍を突き刺すような攻撃は、俺の胴体の二センチ横を貫く。


 回避の時点で鍾馗を手放していれば、二撃目以降は奴の狙いが定まらない。

 狙いの定まっていない大振りな攻撃を、丁寧に避ければ良い。

 さっきも言ったように、ミスをすれば死ぬだけの大縄跳びだ。

 体感時間が何倍にも引き伸ばされた今の俺なら、見てから回避することすらできなくはない。



 72……73……74……



 もはや全く使われていない、体に付いている方の腕を裂いてみた。

 案の定、特に大きな反応は示さない。

 反撃で少し腕をかすった。

 HPがなくなったのか、皮が裂け、血が飛沫いた。



 83……84……85……



 頭の腕への攻撃を敢行する。

 位置が高く、攻撃後に隙を晒す危険が高いことから遠距離攻撃を選択。

 遠距離攻撃なら攻撃と同時に隠蔽が成り立つため隠密性が高い筈。


 土石魔法で作った棒手裏剣を打つ。

 棒手裏剣はゆるく突き刺さるが、貫通するようなダメージはない。

 お返しとばかりに、怪物が刺さった棒手裏剣を俺に返してくる。

 とっさに避けたが右の耳たぶが弾け飛んだ。



 97……98……99……100


 カウントは100を数えた。

 あと20秒耐えれば良い。


 ゾンビの蠢きも、もはや意識するまでもなくイメージできる。

 怪物の動きも、パターンが読めれば回避に余裕が生まれる。


 だから、欲が出た。

 正面からでなく、背後から切り掛かりたいという、安全に対する欲だ。



 そして俺は、背中側から斬りかかる。

 これが失敗だった。




 奴には目が付いていない。

 口は付いているが目はない。




 二足歩行の動物は、自身の目が向いている方向を『前』と認識するだろう。

 鼻や口が顔面についているのは、目がそちらの方を向いているからなんだと思う。

 そして俺は、自然と怪物の口がついている方向を『前』と認識していた。



 それが過ちだとすぐに理解した。



 俺が『背中』へと、鍾馗を振り抜いた直後。

 俺は、奴の体がどう動くのかを観察しようと『静止』していた。

 即座に、後方に逃げるべきだった。



(なっ!?)



 奴の体は、あまりにもあっけなく、反転した。

 腕も、足も、初めからそう動く想定であったかのように、180度回転して後ろと前を入れ替えた。


 怪物に、前という概念は無かった。

 そこで、足の指を切った際の違和感に気づく。


 足の指の中心には、おそらく骨が無かったのだ。

 代わりにあったのは、硬い繊維を束ねたような何かだったのだろうか。

 正体はわからないが、奴の体は、人間の関節によって動くそれとは、根本から違うものだったのだ。



 それに気づいた時には、奴の頭の腕がまっすぐ俺に向かってきていた。

 しかも、その動きは、パターン化されていた今までの動きとはまるで違う。



 まさにそう。

 嘘の情報を与えて、それを盲目的に信じてしまった敵を嵌めるための一手を、ここぞというタイミングで切ったかのように。



(逃げ、道がっ!?)



 奴の攻撃には常に危機感の黒い気配がつきまとう。

 突きならば点状に、払いならば線状に。

 だが、今危機感が見せる像は、そのどちらでもない。


 線でも、円でもなく、面で。

 いや、面ですらない。歪な立体構造で俺に迫る。


 三連撃ではない。

 三本同時攻撃。



(つっ、まずいっ!)



 俺が後ろへ下がることを許さぬ、大外から包み込むような一本。

 その腕をカバーしながら、反対側へ逃げることを許さぬ逆からの一本。


 そして最後に、上にも下にも逃げることを許さぬように、残った一本ごと怪物は倒れこむように俺に向かってきた。

 突進でありながら、頭から腕が生えているという利点を存分に生かすような、逃げ場を塞ぐ飽和攻撃。


(前からは巨体。後ろには包む腕。頭上にはもう一本の腕。下に逃げても巨体に潰される──っ!)


 反応速度で負けた。

 攻撃した瞬間に離脱しなければならなかった。

 上下左右に、逃げ道が、ない。


 極限の集中力が奴の動きをスローモーションで見せている。

 頭の中に走馬灯が流れそうになる。


 まずい。まずい。何か手を思いつけ。

 さもないと。




 死ぬ。




(くそっなんで、こんな時に──)



 こんな時に、頭に浮かぶのは、迷宮の中の記憶。

 壁を蹴り、天井を蹴り、弓矢の包囲網から悠々と抜け出したヤツの記憶。

 あの動きが、頭の中で何度も何度も繰り返される。



 巨体。

 壁。


 迫る腕。

 弓矢。



 逃げ道がない。

 否。

 体一つ抜けられる隙間ならある。




 道は、宙にある。




(くそっ! やるしかねえ!)



 頭の中にしつこく浮かぶ骸骨の口が、いびつに、ゆがむ。

 恐怖心をねじ伏せて、俺は動いた。


 前に足を踏み出す。

 奴の体がトップスピードに至ったら、ぶつけた瞬間、足が砕ける。

 だから、こちらから向かう。


 歪な体。ぶよぶよの肉体。

 最悪な足場だが、ないよりはマシだ。


 体勢を低く。

 狙うは奴の暫定太もものあたり。

 そこに思い切り飛び込んで、足を踏み込む。


 にゅちゃ、と沈み込むような感触。

 その奥に、硬い芯のような何か。

 怯んでいる暇はない。



(抜けろ!)



 踏み込んだ足を伸ばし、俺は中空へと飛んだ。



 体はできるだけまっすぐ。

 面積を可能な限り小さく。


 怪物の包み込むような腕と、覆いかぶさる腕。

 そのほんの少しの隙間を、斜め上方へと抜けるルート。

 それが唯一の活路だった。



(いけぇ!)



 抜けたと確信した。

 奴の腕の包囲網が完成するほんの少し前に、脱出しきる。

 タイミングはギリギリだが、確実に。


 そのビジョンが確かに見えた。



「うるるぅうううう!!」



 だが、怪物はそんな俺の動きに即応する。

 包み込むようにしていた腕を一本、強引に、関節などないように曲げて、俺の進路を塞ぐ。

 どす黒い危機感が、道を閉ざす。



「邪魔だぁああああああ!!」



 その程度の反応が来るのはわかっていた。

 だから俺は、鍾馗を握ったままだ。


 頭の中で描いた動きには続きがあった。

 中空で踊るように、スケルトンアーチャーの首を刎ねた骸骨の動き。

 必死にそれをトレースしながら、俺は体の捻りだけで鍾馗を振るった。



(腕を切断して、そのまま抜ける──!)



 狙うは、俺を阻む腕の一本。

 先ほどは棒手裏剣で貫くこともできなかった一本。

 体感時間が加速しすぎて、己の腕の動きすらもどかしく感じながら、俺は忍者刀を振り抜き──。



 鍾馗と腕がぶつかった瞬間に、その刃は中程で硬い何かの抵抗を受けた。



 直感的に、悟った。

 このままでは、振り抜けない。



(……っ)



 今度こそ、走馬灯が流れた。


 幼い頃──これは今はいい。


 頭の中で、引っかかるのは、つい最近のこと。

 俺の家で、未だにベッドに横たわっている茉莉ちゃんのこと。

 怪物の抱擁を受ければ、二度と会うことのない少女のこと。



 ここで俺は死ぬのか?

 このまま、死ぬのか?



 茉莉ちゃんはどうなる?

 お前が死ねば、彼女の未来はどうなる?



 お前が、彼女の未来を奪っておいて、無責任に死ぬことが許されるのか?



 否。

 否、否、否!



 死んではいけない!

 死ぬことは、まだ俺には許されない!

 彼女を再び人間に戻すまで、絶対に死ぬわけにはいかない!



 ならば、どうする?



 斬れなければ死ぬのなら。

 絶対に斬らねばならない。


 火事場の馬鹿力なら既に振り絞っている。

 それでも足りないなら。



「鍾馗ぃいい!」



 俺は、叫びながら渾身の意志を込めた。



 お前には、その力があるはずだ。

 お前は意志の力で成長する武具だった筈だ。



 俺が絶対に死なないと誓っているんだ!

 ならばお前がその意志に答えずして何が武器だ!

 根性見せろよこの野郎!




 俺の武器に相応しいところを見せろ!!




 念じた瞬間、手応えが変わった。

 行く手を阻んでいた何かが、俺の意志に押し負けるように道を譲る。

 抜ける。そう確信した。




 スパッと、怪物の腕が空を舞う。

 道が拓ける。

 目の前に広がっていた黒い危機感の渦の外が見える。


 宙を飛んだことも、刀を振るったことも、腕を切断したことも。

 全てが一瞬の出来事であり、残った結果はシンプルだ。




 俺は、絶対に死ぬと思われた、怪物の攻撃を躱し切った。




「るうううあああああああぁぁああ!?!」




 怪物が、今度は明確に怯んだのが分かった。

 だが、今の俺が気にするべきはそこじゃない。



(よくやった。送還)



 忘れずに、武器を手放す。神出鬼没はすでに発動している。

 観察も考察も、闇に溶けた後にいくらでもすればいい。

 恐怖でイかれそうな頭で、必死に冷静さを保ちながら、俺は数を数える。




 112。






 115。






 118。




 ──120。





 時間稼ぎは、ここに成った。





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