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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第82話 出費



「とりあえず、南小の現状についてはある程度わかりました」


 最後の最後に特大の爆弾を食らったような気分ではあるが、概ね話は理解した。したつもり。

 意見の一致から考えても、暫定的には、松川さんたち探索班に協力する形で良いだろう。


 まぁ、本来なら、コミュニティで意見が対立している以上、異なる意見を持つ派閥にもそれぞれ話を聞きにいくのが、正しいあり方なのかもしれない。

 ただ、今が緊急事態で、かつ、二人の話から虚偽が検出されなかったこと。

 そしてなにより、そこまでして公平性を保つ必要をこのコミュニティに見出していないことから、肩入れするのは探索班で良い。


「そこで一番重要な問題なんですけど」


「…………聞こう」


 協力すると決めたら、あとは話を進めるだけだ。

 松川さんの返事に、俺はじっと彼の目を見つめながら尋ねた。



「勝算はあるんですよね?」



 一番大事なことだった。

 もちろん、敵の能力が未知数という点で、どこまでいっても希望的観測にしかならないのは承知の上で。


「現状、わかっていることは少ない。はっきり言えば、最初に罠に嵌めて動きを封じ、こちらの全火力で相手を一撃で仕留める、というのが、もっとも現実的で合理的な戦法だと考えている」


「実際に、何度か戦ってみましたか?」


「あれから更に一人死んでからは、観察に留めることしかできていないんだ」


 ……さらに一人減っていたか。

 この状態で、なんでもっとちゃんと調べていないのだ、などと追及するのは厳しい。

 じゃあお前がやれよ、と言われたら俺は何も返せない。

 命をかけるというのは、相応の覚悟がいることだ。


「一応言っておきますけれど、自分が用意できているのは武器だけですよ。相手の攻撃を受ける盾とか、鎧とか、そういうのはありません」


「ああ。俺たちもあまり重要視していない。とりあえず間に合わせの盾なんかは用意してみたが、それだけで抑え込める自信はないからな」


「そんなレベルですか」


 俺はダンジョンの中で紙防御を地でいっていたが、それでも一撃で死ぬような場面はあまりなかった。

 ゴーレムの一撃を喰らえばHPが消し飛んで即死は見えていたが、それ以外ではスケルトンの不意の一矢でも死にはしなかった。


 俺と松川さんたちのレベル差はあるだろうが、戦士としての耐久力も加味して、相手の攻撃力はゴーレム級と考えておいた方が良いだろう。

 盾で受けるというのも現実的とは思えない。刺又みたいな使い方で、とにかく抑えつけるイメージなのだろう。


「皆さんの平均レベルはどんなものなのでしょうか?」


「救済ジョブはレベル10からスタートということは知っているね? だいたい、レベル11、俺たちリーダー格はレベル12。それが現状だ」


「そんなもの、ですか」


 探索の仕事だったり、ローテーションを組んでの行動だったりで、彼らはあまり強化の時間を取れていなかったらしい。

 いや、そもそも第二階層で足踏みしていたという話だから、効率的なレベリングに入れてもいなかった感じか。


 …………偉そうに言っているけど、そういえば俺レベル10だった。

 というか、一週間前からレベルは1も上がってねえや。

 あまり、突っ込んで聞くのはやめておこう。


「とりあえず、要求されていた武器はちゃんと揃えました。これだけでレベル1分くらいのステータスの上乗せになりますし、武器を装備することでシステム的な攻撃力も強化されるはずです」


 俺はレベルの話を誤魔化すように、装備の話に移る。

 彼らの本命の要求は、スケルトンを倒したことでショップに並ぶようになった武器だった。


 武器を装備することによるステータスの変化も大きい。

 だが、武器そのものが持つ、道具としての『攻撃力』という面が、一番大きい。

 ステータスの体を上げた上で、防具をきちんと装備しなければ効果が半端だったのと同じように。

 ステータスのシステム上は、ちゃんとした武器を装備していることは大きな意味を持つはずだ。


「ちゃんとした武器は300EP、ボロい武器は15EPです。ちゃんとした弓を5本、ちゃんとした剣と斧を4本と2本。ボロい剣、斧、杖、短剣をまとめて17。合計3555EP相当になります」


「3555EP!?」


 掛かったEPに驚きの声を上げたのは杉井さんの方だった。

 どうやら、武器の相場について思うところがあるらしい。


「すまない。はっきり言うと用意していた予算では足りていない。2500EP分のドロップアイテムはなんとか用意したのだが、差額の1055EPについてはまた後で相談させて欲しい」


「良いですよ。条件に関しては後ですり合わせましょう」


 どうやら、武器の値段を甘くみていたらしい。

 そりゃ、俺だって高いなと思うところはあるが、命には替えられない。

 安い武器を買って結果死ぬくらいなら、無理して高い武器を持った方がまだ良い。

 条件に関しては、ウサギ肉で定期的に払ってもらう感じにしたいな、とちょっと頭の中で考えておく。


「それじゃ取引成立ということで、武器の引き渡しですが。その前にこちらの事情についても少し説明する必要があります」


「ああ。もう、なんでも言ってくれ」


 頭の中でずっとカチカチ計算をし始めた杉井さんに代わって、松川さんが俺の話を聞いてくれるようだった。





 ということで、俺は武器を運搬する前にクミンのことを説明する。

 つまり、俺が口寄せ能力を持った特殊な忍者にジョブチェンジしたという話をした。

 神々の話とか、称号の話は微妙にぼかしたが。





「忍者に、テイマー、そしてサモナーか……仕方なかったとはいえ、救済ジョブを取得した俺たちとはまるで違う世界の話だな」


 俺の話を聞いた松川さん、および金勘定から戻ってきた杉井さんが揃って遠い目をしていた。

 救済ジョブは、こんな世界で危急の状況に対応するために、諸々をすっ飛ばして能力を得るためのジョブだ。

 あくまで基礎的な能力しか持たないそのジョブと比べれば、俺の就いた職業はだいぶ変わって見えるだろう。


「なので、先ほど言っていた減った人員は、ある程度ならこちらでカバーすることができます」


「それは、助かる。正直に言えば、人員の補充ができるのは何より嬉しい」


 俺の戦力強化については、松川さんに特に好印象に受け取られたようだった。

 杉井さんは、俺の能力が工作員向きなことに気づいて、少し頬を引きつらせているように見えた。


「ただ、言ったように俺のテイムもサモンも、モンスターの力を借りる能力です。もちろん有用なのですが──」


「人間への印象が悪い、かな?」


「おそらくは」


 俺の持っている懸念点は特にそこだ。

 今回は、怪物の脅威を前面に押し出す以上、ある程度は他の派閥にも戦いを知ってもらう必要がある。

 だが、そこに俺のスケルトン軍団とかが参戦していると、思わぬ敵意を抱かれかねない。

 あのモンスターどもはなんだ、モンスターを操っている怪しい奴め、みたいなね。


「その点に関しては心配しても仕方ない。というか、そういう声もまとめて打ち消すための作戦なわけだからな……」


 だが、松川さんはその懸念を聞いてなお、その有用性からスケルトン軍団の参加に前向きであった。

 相変わらず顔が青いのは杉井さんの方である。


「上杉くん。参考までに聞きたいのだが、そのスケルトン、費用は?」


「種類問わず。スケルトン5体で200EPです」


「…………ウチが7、そっちが3でどうかな?」


「いいですよ」


 CP回復薬などはこっちの持ち出しになる可能性も考えていたので、ちゃんと杉井さんが考慮してくれる人でよかった。

 まぁ、考慮してくれなかったら今後の取引を考え直す方向だったが。


「と、話がまとまったところで武器の引き渡しと行きたいのですが」


「何か問題が?」


「自分のストレージに入りきらなかった分は、自宅に保管していまして。先ほど言ったテイムモンスターのクミンを喚び出して、彼女に運んでもらう予定なんです。大丈夫ですか?」


 俺の言葉を二人は正しく認識してくれた。

 今からモンスター召喚するけどいいかな、と。



「味方なんだろう。気にしないとも。時間は貴重だしな」


「これからスケルトンに頼るなら些細な問題だ。頼む」



 というわけで、二人の許可ももらい、俺はこの場にクミンを喚び出すことにする。



(クミン、準備はいい? 長物もった?)


(大丈夫です。いつでもどうぞ)



 事前の打ち合わせ通り、クミンがスタンバイOKの返事をくれる。

 というわけで、俺は粛々と、応接間にて召喚を行なった。



「口寄せ:クミン」



 これまでのテイムとサモンには、特に大きなエフェクトなどはない。

 だが、口寄せはそこに少しだけ凝っていて、ぼわんという感じの煙が巻き起こる。(多分消そうと思えば消せるけどデフォルトだと出る)

 そして、すぐにその煙が晴れたあと、そこには、背中に武器を担いだ赤黒いアリさんが鎮座していた。



『はじめましてクミンです。上杉さんともどもお世話になります』


「『はじめましてクミンです。上杉さんともどもお世話になります』と言っています」



 クミンの言葉が聞こえなかろう二人のために、俺はそっと彼女の言葉を通訳してみせた。

 二人はクミンの登場に目を瞬かせたあと、少し肩の力を抜いて答える。



「これはご丁寧にどうも。松川だ。急で悪いがどうか力を貸してほしい。クミンさん」


「杉井だ。よろしく頼む。クミンさん」


『はい。よろしくお願いします! 松川さん、杉井さん!』



 成人男性二人と、アリさんが揃って頭を下げるシチュエーションは、ちょっと今まで見たことがなくて大変シュールであった。




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