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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第80話 悪いお知らせその1とその2



「しかし、しばらく見ない間に、随分とらしい格好になったな」


 校舎へ向かう道すがら、松川さんが俺の服装に向かって感想をこぼす。

 それに俺は苦笑いを返すしかない。


「えぇ。まぁ。ダンジョンに潜る以上、装備は重要でして」


 そう答えた俺の装備は、以前も言ったように所謂忍者スタイルである。

 頭巾から始まって忍び衣装を身に纏い、足袋まで装備していればどうあがいても忍者。忍者のコスプレとして百点満点だろう。

 俺だって、別にしたくて忍者しているわけではない。ただ、装備としてどうしても優秀だから装着せざるを得ないのだ。


「ダンジョンは今、どこまで?」


「四階層です」


 このくらいは、開示して問題ない情報だろう。

 ダンジョンは、各々登場するモンスターに大きな違いがあるようだし、階層の情報にはそれほど大きな意味はない。

 まぁ、ここで20階層まで行ってますとかだったら、それはそれでだが、現時点ではそこまで到達している人類はいないだろうし。


「素晴らしいな。我々は、まだ二階層で足踏みしているところだよ。いろいろ、問題があってね……」


 答えた松川さんは、どこか疲れている様子を隠そうともしなかった。

 二階層。勝手な意見だと、進捗が悪く思える。


 俺とは違ってパーティを組んでダンジョンに潜れるのだ。

 外の探索や見張りなどの持ち回りがあって、小学生たちの面倒を見る仕事があることを加味しても、一週間もあれば二階層くらいは突破していてもおかしくはない。


 二階層はまだ、パーティを前提とした難易度ですらないのだから。


「さて、お話はいいんだが、ここで少し止まってほしい」


 俺と松川さんがお互い探るような会話をしていたところで、杉井さんが校舎に入る直前で、俺を引き止めた。

 さて、校舎までは残り数メートルという、なんの変哲も無い場所だ。

 だが──俺のスキルはビンビンに情報を伝えてくる。


 殺意とまではいかない。

 そこまでの害意ではない。

 だが「何かあったら」という意識で構えている伏兵が、そこらの陰に潜んでいるな。


「歓迎会の用意がお済みですか?」


 俺は手をグーパーしながら杉井さんに尋ねた。

 武器は手にしていない。だが、何かあれば即座に武具を召喚する用意は済んでいる。クミンを呼び出す準備も同様だ。

 脳内では、クミンに警戒準備を送ってある。


「……下手なごまかしは無意味みたいだね。単刀直入に言うとだ、君の体を検めさせてほしい」


 俺が臨戦態勢に入ったのを感じたのだろう。

 杉井さんは敵意はないと示すように手を上げながら言う。


「つまり?」


「君の体に傷が──例えば歯型などが付いていないか、校舎に入る前に確認させて欲しいんだ」


「……ああ、そういう」


 俺は納得した。

 もちろん、南小のコミュニティが俺の装備を剥いでから亡き者にしようとする盗賊集団に変わったという可能性はあるが、これは多分そうじゃないだろう。

 切実に、俺の体に傷が付いていないか確認したくて仕方ないのだ。


「悪いお知らせの内容の一つが分かった気がしますよ」


「…………ああ、面目無い」


 俺は警戒だけは解かないまま、彼らの求めに応じて服を脱いでパンイチになってみせた。ちょっと寒い。

 腕のあたりにはグールとの戦いで付いた傷跡が生々しく残ってはいるが、それ以外はHPのおかげで綺麗な体であることだろう。


 俺の体を松川さんと杉井さんは二人がかりで念入りにチェックしたのち、ほぅ、と安堵の息を吐いた。


「異常はないね。唐突に本当に申し訳なかった上杉くん」


「いえいえ。この状況ですから、必要なことだと思いますよ」


 そう。必要なことだ。

 俺は基本的にソロだったからその辺の情報は持っていなかった。

 だが、南小の彼らは十分に体験した後なのだろう。



 体に傷を負った人間が、ゾンビになるまでのプロセスを。






「改めて、こちらの都合を押し付けている上に、色々迷惑をかけて申し訳ない」


 一週間前と同じ応接室にて、松川さんははっきりと頭を下げた。

 俺はそのことに、あまり腹を立てる気はない。


「さっきも言いましたが、必要なことだと思います。むしろ前回はなかったのが緩かったんですよ」


 先ほどの体のチェックは当然意味がある。

 ようは『時間差でゾンビ化する人間を、コミュニティの内部に入れないための措置』なのだろう。

 俺はゾンビの攻撃を受けてから、どれくらいで人間がゾンビに変じるのかを知らない。


 呪腐魔病がウイルスであることからそれなりに猶予があるようにも思えるし、逆に魔術的な何かで即座に感染してもおかしくはない。

 推測だが、門の内側に入れてからチェックを行ったところを見ると、時間差はあるのかもしれない。


「まず、話をしようか。悪いお知らせが三つあるが、どれから聞きたい?」


 俺への謝罪を終えた松川さんがそう尋ねてくる。

 三つも悪いお知らせを聞きたくはないのだが、聞かれた以上は直近の話題から潰してみようか。


「さっきの身体検査が必要になった理由からお聞きしましょうか」


「…………うむ」


 松川さんは重々しく頷く。

 だが、返ってきた答えは予想を外れるものではなかった。


「悪いお知らせ一つ目だ。端的に言えば、ゾンビの攻撃を受けたことを隠して帰還した者がいてね。そのせいで、小学校内で混乱が発生した」


「…………やっぱり」


 さっきの身体検査はそういうことだった。

 俺たちの体は、HPというシステムに守られている限り、すぐには傷を負わないようになっている。

 だが、ゾンビの攻撃はそのHPというシステムを貫通してくる。


 俺は直感的にそれを感じ取っていたが、そうでないものもいたのだろう。

 情報としても南小ではその事実が共有されていたはずだが、人が何十人と集まれば迂闊なものは現れる。


 油断か、あるいは慢心か。

 外での探索中にゾンビの攻撃を受け、傷を負ったものが現れ、そいつは事もあろうにその傷を隠した。


「傷を負ったのは若い男性でね。そのとき一緒に探索に出ていた他のメンバーも、小さな傷に気づけなかったらしい。彼の容体が悪化し、突如小学校内でゾンビに変じて暴れ出したのは、今から三日前のことだった」


「……被害は?」


「子供には被害はない。大人は……三人が戦力外通告だよ」


「…………」


 三人の犠牲で済んだのなら、それはむしろ健闘したほうだろう。

 もちろん、気休めだ。


 一人が傷を隠したせいで、その一人を含めて四人が使い物にならなくなったとすれば、南小としてはたまったものではあるまい。


「ゾンビになった人たちは、殺したのですか?」


 俺は少し踏み込んで聞いた。

 聞きたくなかったが、聞いておく必要があった。

 今はまだいい。

 だが、万一茉莉ちゃんの情報がはっきりと漏れたとき、彼らとどこまで敵対するかは、この考え方に依る。


 俺の鋭い視線を受けつつ、松川さんは鷹揚に答えた。


「実は、最初の一人を含めて、四人全員、殺してはいないんだ」


 ピクリ、と動きそうになる眉を堪えた。

 ちらり、と杉井さんに視線を送るも、彼は彼で俺の反応をじっと見ているようだった。


「では、四人はどうしたのですか?」


「空いている教室に、手足と口を縛って隔離している。幸いなことに、魔術師はいなかったから魔法で脱出されることもない」


「……少し、意外ですね」


 有情な判決だと思った。

 というのも、俺は南小のコミュニティが、ゾンビを治す方針をとっていないと思っていたから。


 ゾンビ化した人間を元に戻す目処がないのならば、彼らを生かしておくのは余計な火種を燻らせていることに他ならない。

 だのに、彼らがゾンビ化した仲間を殺していないのは、有情というほかない。


「お恥ずかしい話だが、それが悪いお知らせの二つ目にかかわってくる」


「と、言いますと?」


「現在、南小のコミュニティは、今後の方針を巡って大きく分裂している。方針がまとまらない以上、ゾンビ化した人間をどうするというところまで、話が進んでいないんだよ」


 たった二週間弱ではあるが、やはりそうなったのか。

 俺は、想像していた悪い方向の答えが的中してしまったことに、苦い笑みを見せるほかない。


「参考までに、どうしてそんなことに?」


 一週間前の彼らは、一応は団結していたはずだ。

 子供を守りながら、ダンジョンで食料を確保し、外への探索に赴いて物資も確保する。

 そういうサイクルを協力しながらこなしていたはず。


 そこから一週間で、どう変わったと言うのか。


「端的に言えばだ。内部に、さっきの傷を隠して帰ってきた男の恋人が居てね。彼女がゾンビ化した人間を殺すのに強硬に反対した。それに伴って、今まで共同体としてのルールだからと我慢していた人たちからも、次々と不満が飛び出すようになり、極め付けは小学生たちだ」


「小学生……?」


 一週間前は、まだ立ち直れても居なかった子供たち。

 彼らが、急に意見を主張するようになったのだろうか。


「現在、小学校に備蓄していた水などの災害用の物資がほぼ底をついた。それに伴い、小学生を魔術師の職に就けて、水を確保させるなどして働かせるべきだという派閥、小学生を利用するような行いはやめるべきだという派閥。その積極的、消極的な賛成反対で我々は大いに分裂してしまっているんだよ」



 松川さんの疲れた表情から、これは相当深刻な意見の対立があることが読み取れた。


「危急的な物資の不足に伴う分裂が、我々の悪いお知らせその2というわけだ」


「……あまり、他人ごとではありませんね」



 水道から水が出てこなくなった現状、その件に関しては俺も笑って済ませてはいられなかった。



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