表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/164

第74話 夜柳茉莉について


「茉莉ちゃんについてが聞きたい?」


 ダンジョンに突入して七日目。

 三階層の簡易拠点にて目を覚まし、味気ない朝食を食べていた俺にクミンがそう言った。


『はい。今までも少し聞いてますけど、これから先で待っている彼女のことを、ちゃんと聞いておきたくて』


「うーん」


 少し考える。

 別に断る理由はない。

 そもそも、茉莉ちゃんの存在自体や、俺がどうしてダンジョンに潜っているのかという話は、これまでの生活の中でクミンに共有はしてある。


 今日の予定は、朝に少しだけ追加でスケルトン狩りをしたあとに地上に戻るだけだ。


 本来は直行で戻る予定だったが、階層を上がっている間や移動の間に回復するCP分くらいは消費しておこうかという話になったのだ。

 ドロップアイテムが落ちれば、それこそ回復薬の足しになる。

 EPが持ち越せたら助かるのだが、それはシステムの規約でダメなので仕方ない。


「いいよ。帰りがてらに、少し話をしよう」


 そうして、俺は帰り道でクミンに茉莉ちゃんの話をすることに決めた。

 なお、朝の狩りは特にめぼしいものは落ちなかったが、五体パーティを狩れたのでCP回復薬Ⅱ一個分くらいの収入はあった。





「まぁ、俺が言うのもなんだけど、茉莉ちゃんはあんまり女子高生っぽくない子だよ」


『変わり者ってことですか?』


「ある意味ではそうかなぁ」


 三階層を後にし、ゾンビの階層を静かに歩きながら、俺は茉莉ちゃんについて語る。

 クミンはそんな俺の話を、適度に相槌を打ちながら聞いてくれる。


「最初に出会った時は確か中学生くらいだったんだけど……クミンって中学生とか分かる?」


『わかりますよ。テイマーにテイムされるときに、テイマーが所属している国家の一般常識は私たちに与えられてますから』


「へぇー」


 茉莉ちゃんの話をしようと思ったが少し脱線してしまった。

 ただ、言われてみれば、特に教えてもいないのに『世界一周旅行』とかも知っていたわけだし、テイマーとの意思疎通に問題がおきないよう、システムがうまくそのあたりを補助してくれているのだろう。


「まあそれならいいや……そう。確かちゃんと話した時は、茉莉ちゃんが中学の卒業式だったかな。そんな時でさ」


『え? 上杉さんが中学校の卒業式を覗きに行ったみたいな話ですか?』


「ちがうよ!?」


 クミンの突然の疑惑の目に俺は驚いた。

 少なくとも、そんな行動をとる人間と思われることはしてないよ。

 俺。

 してないよね?


「そうじゃなくて。言ったように茉莉ちゃんの家は大家さんの家で、アパートの隣なんだけどさ。俺が外をぶらぶらして帰ってきたら、玄関に座り込んで泣いてたんだよ」


『それはなぜ?』


「なんか、家の鍵を忘れて入れなくなったみたいな感じで」


 あの時のことは、なんとなく印象に残ったから覚えている。

 まだ肌寒い季節で、買い物に行ったかなんだかで帰ってきたら女の子が泣いているのだ。


 普段だったら関わらないでおこうと思うのだが、あいにくそれが大家さんの家の前であり、泣いている女の子が引っ越しの挨拶だかで会った子だったから、思わず声をかけてしまった。


「大丈夫? とかそんな感じの声かけたら、めっちゃ睨まれたよ」


『まぁ、女子中学生にいきなり声をかけるのは事案ですからね』


「事案って一般常識なんだね」


 その時に、女子中学生くらいの子にめちゃくちゃ警戒された目を向けられて、内心ちょっと傷ついたのを覚えている。

 そこで逃げ帰っても良かったのだが、一応声をかけた義務として彼女にちょっと話を聞いてみたのだ。


「そしたら、なんか鍵を学校に忘れたとか言ってて、でも学校には戻りたくないとかなんとか」


『何かあったんでしょうね?』


「たぶん、卒業式の日に友達と喧嘩したとかじゃないのかな」


 その日に何があったのかを、俺は詳しく聞いていないので知らない。

 ただ、後日けろっとした様子だったので、たぶん卒業式の問題はすぐに解決したのだと思っている。


「まぁ、そんなこんなで、鍵がない上に学校に取りに戻れないって言うから、じゃあ両親は? って聞いたら、卒業式に出席してていつ帰ってくるかわからないと」


『じゃあ、ずっと寒空の下で待っていることに?』


「それじゃ可哀想だと思って、俺から大家さんに連絡入れたんだよ。なんか、娘さんが玄関で座ってますんで早く帰ってきてあげてくださいって」


 それで、話は終わりだと思った。

 大家さんは十分くらいで帰ってくるというので、そんな感じでと言ってお別れの流れだった。

 そして、俺はもう二度とこの子に関わらないのだろうなと思っていた。



「なんか、話の流れで、茉莉ちゃんが俺の家で両親を待つ感じになって」


『やっぱり事案だったんですね?』


「事案じゃないよ!」



 どうしてそんな流れになったのかは、今でもあまりよくわからない。

 ただ、寒空の下で待っているのは可哀想かなくらいのことは思った気がする。

 だから、なんとなく提案してしまったのだ。俺の家で待つ? って。


 最悪、俺が信用できないのなら、鍵だけ渡して勝手に待っててくれとまで言ったはずなのだが、結局俺と一緒に家で待つことになった。



「で、そしたらもう、俺の家にあったレトロゲームに、茉莉ちゃんが目をキラッキラさせてさ。十分で両親が帰ってくるっていうのに、やりたいとか言いだすんだよ。気づいたよね『あ、この子結構ガチなゲーマーだな』って」


『単純に、見知らぬ男性と無言で待っているのが嫌だったんじゃないですか?』


「その可能性は否定できないよね」



 というわけで、茉莉ちゃんは確か、魔界的なサムシングにパンツ一丁の男が挑む系のアクションゲームをプレイしていた。

 結果はボロボロで、思わず笑ってしまったのを覚えている。


「それで、クリアできなかったのがよっぽど悔しかったのか、それから俺の家にたびたび遊びにくるようになって、そんですっかり居着いちゃったわけだ」


『本当ですか? ゲームやるためだけに男性の家に入り浸りますか? うら若き乙女が?』


「いやマジなんだよ。そもそも茉莉ちゃん、ちょっと男性苦手みたいなところがあるんだけど、ゲームになるとそんなのぴょいって超えてくるから。あれは学校で男を勘違いさせまくってる魔性の女だよ、多分」


『…………』


 クミンはまだ訝しむように俺をみているが、間違いではないはずだ。

 初対面の警戒心丸出しな目を、俺は今だに覚えている。

 そっからゲームの話になった途端、さっきまでの警戒心をどこへやったと言いたくなるほど、距離が近くなったのも覚えている。


 結局、俺と茉莉ちゃんの関係はゲーム友達というのが正しいところなのだ。


 俺は勝手に、茉莉ちゃんのことを妹みたいなものだと思っているし、ただの他人とまでは思っていないが。

 茉莉ちゃんも俺のことを兄みたいに思っているらしいし。

 一度、大家さんの奥さんと話したときに、茉莉ちゃんは俺のことを「お兄ちゃんみたいだと言っていた」としっかり聞いたこともある。


「だからなクミン、人間の男女の関係は、時に恋愛感情なんてなくても成立するものなんだよ」


『本当かなぁ』


 クミンの追及するような目は未だに厳しい。

 と、話の途中だが、ゾンビの気配を察知したので、俺とクミンは目を合わせただけで共に頷く。


 隠密機動で近づいて、敵の背後から頭に一撃。

 ふらついたゾンビの足を挟んだクミンが、豪快に床に叩きつけておしまい。


 二人でいれば、ゾンビの相手はもはや流れ作業である。


『ウチとしては、恋愛感情を持ってない相手の家にそんな頻繁にゲームやりに行ったり、手料理を作りに行ったりとか、しないと思いますよ?』


「その辺はなぁ。俺の生活があまりにも破綻していたから、めちゃくちゃ心配されてという可能性がだなぁ」


『ああ……確かに上杉さんが心配の化身ってことは、ウチもわかりますけど』


「…………初めて聞いたよその化身」


 そんな心配を集めて作ったような存在なのか俺。

 確かに、この短い日数でクミンに何回も心配をかけてしまった自覚はあるけど。


『ウチとしては、上杉さんが鈍感なだけで、相手は上杉さんに好意を持っていた説を推します』


「ははは、クミンはまだ茉莉ちゃんに会ったことないからそう言えるんだよ。本当に楽しそうにゲームやるんだから、あの子は」


 ふと在りし日の茉莉ちゃんを思う。

 彼女との思い出の大半は、ゲームと共にあった。


 攻略に詰まって口をへの字にしたり。

 理不尽なボスの火力に憤慨していたり。

 少ないヒントでたどり着いた目的地に手を上げて喜んだり。

 苦難の果てにたどり着いたエンディングで、目を潤ませていたり。


 そんな彼女の様子を見ているのは、俺は嫌いではなかった。

 まぁ、ちょっと俺の家に遊びに来すぎていて、友人関係とか大丈夫なのと思ったりもしたけど。

 というか、この子普通に恋人とか作れるのかなと心配になったりもしたけど。


 でも、本人曰く結構モテると言っていたので、なんやかんや、しれっと彼氏の一人や二人作って、俺の家に遊びに来なくなる未来だってあったんだろう。


 そんな未来を、今彼女が理不尽に奪われているのが、俺は許せないのだ。



「だからクミン。そんな茉莉ちゃんを救うためにも、改めて力を貸して欲しい」


『はい。ウチとしても、お話の中で聞くだけじゃなくて、ちゃんと目覚めた茉莉ちゃんと、お話してみたいです』


「茉莉ちゃん、アリとか大丈夫な子だからきっと仲良くなれるよ」



 大丈夫というか、たまにクソでかいアリから地球を守るゲームとかやってたしな。

 そう思うと敵対しそうな気がしないでもないけど、まぁきっと大丈夫だろう。



「さて、そろそろ二階層も終わりだ。地上に近づいて来たぞ」


『いよいよですね』



 茉莉ちゃんの話をしているうちに、最短距離で抜けたゾンビの階層が終わりを告げる。

 そのあと地上で待っているのもまたゾンビなのだが、こことは比べものにならない脅威なのが、本当に恐ろしいよ。




 ここまで読んでくださってありがとうございます。


 この作品はカクヨムで先行しているのですが、この話の頃にカクヨムのサポーター制度でギフトをいただいたお礼にSSを書いておりました。

 こちらではそういう制度がないのでカクヨムのURLになってしまいますが、一応載せておきますのでご興味があればご覧ください(後編はサポーター限定になってしまいますが……)。


『世界が変わる前の日1 夜柳茉莉の恋について 前編(お試し版)』

 https://kakuyomu.jp/users/score/news/16818622172192501681


『世界が変わる前の日1 夜柳茉莉の恋について 後編(サポーター限定版)』

 https://kakuyomu.jp/users/score/news/16818622172192560085



 こんなSSを公開するよ、という紹介込みで前編だけ誰でも見られる形になっています。

 内容としては、今回主人公が語っている出会いについてと、その後のちょっとしたやりとりをメインヒロイン視点から描いたものです。


 本編の内容には基本的に関わらない話です(というか前日譚なので関わりようがありません)。

 あえて言えば、メインヒロインが日本語を喋っている貴重なシーンが見られます。


 以上になります。

 今回はちょっと話があまり進んでいないですが、次話からいよいよ地上に戻る予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アリさんの方が女心が分かってるんだよなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ