第72話 虚心
最初に考えたことは、現在の手札であのゴーレムを倒すことができるか。
少し考えてみても、難しいという答えしか出てこない。
そもそも、物理的に見れば俺とクミンは隠密特化系のクリティカルアタッカーだ。
隙を突いて相手の急所を狙うとかが基本で、ああいう見るからにフィジカルモンスターですみたいな相手は不得手。
マトモに攻撃してもカスダメが与えられるかも怪しい。
というわけで、火力担当の手札は俺のメイン地雷ことマインだったわけだが、その運用も今まで通りには行かなそうだ。
相手が俺の仕掛けた罠のあるところまで近寄ってくれるか不明。
そもそも火炎魔術が効くかも不明。
検証しなければ分からないことばかり。
もし突破口があるとするならば、相手が土などで体を形成する前に遠距離攻撃で叩く方法。
休止状態の相手や、警戒状態の相手は見るからに弱点であるコアが丸出しなので、もしかしたら、それで一方的に攻撃できる可能性もある。
……ただ、このダンジョンがそんなあからさまな抜け道を残しておいてくれるかと言われると、なんとも言えない。
最悪、休止状態に攻撃しようとしたら、ダンジョンに警報が鳴り響いて周囲のゴーレムがわらわら集まってくる……なんて可能性も、ちょっとだけ頭に過ぎる。
「というわけで、いずれにしても検証が色々必要そうだ」
なんにしても、まずは当たって見ないことには分からないというのが本音。
このダンジョンは殺意に満ちているが、理不尽ではない。
敵モンスターとして出現した以上は、どこかに攻略法はある。
それを発見できるか、発見できたとして俺が利用できるかは分からないが、攻略不可能だけはないと信じている。
『問題は、検証している時間が今のウチたちにはないこと、ですよね?』
「そうなんだよなぁ」
だが、攻略うんぬんの話は、俺たちに潤沢な時間が残されている、という前提での話だ。
今の俺たちに残されている時間は、ダンジョン脱出の時間を考えて、あと半日がいいところ。
それまでに有効な攻略方法が見つかる保証などない。
そして検証のために貴重なCPを──ひいてはCP回復薬を買うために消費するEPを無駄にする余裕もない。
「現状としては、一旦撤退が無難だろう」
狩れるか分からないゴーレムより、パターンが確立しているスケルトンだ。
たかが半日、されど半日。
ここで回収できるEPで、忍者型スケルトン討伐で解放された俺の防具とか、予備の忍者刀とか、外で補充ができないCP回復薬を買い込むとかしなければいけない。
あと、杖持ちスケルトンが使っていた闇を生み出す魔術とか、もしかしたら解禁されているかもしれない。アレもできれば欲しい。
俺のイメージとか心情は置いておくとして、あの魔術めちゃくちゃ俺と相性いいんだもん。
あれ適当にブッパするだけで称号の方の『闇夜と死の徒』が効果を発揮するし、俺のぶっ壊れスキルコンボにもシナジーあるし、取れるならとりたい。
多分、基礎四属性じゃないから法外な値段要求されるだろうし、そこまで手が伸ばせるかは微妙だけど。
「というわけで、あと一個だけ試したら、三階層に戻ろう」
様々な理由から、現状は撤退一択ではある。
だが、撤退を決める前に一つだけ、試したいことは残っていた。
『何を試すんですか?』
「決まってる。テイムだ」
俺の言葉に、クミンは『あー』とでも言いたげに触角をふよふよ動かした。
「もし、あのゴーレムが仲間にできるとしたら、俺たちが求めていた壁役としてはこの上ないだろう? 移動ができるのかはちょっと怪しいが、最悪俺の口寄せの術で呼び出せるわけだし」
そう。
ゾンビやゴブリン相手に頓挫していた前衛テイム計画だが、俺は諦めたわけではない。
一旦保留していた計画だが、あのフィジカルモンスターっぷりを見たら試さずにはいられない。
忍者型スケルトンとはまた違うが、怪物同士の殴り合いができるなら、この後の展開はとても楽になるはずだ。
『試すのは良いとして、危険はありませんか?』
「とりあえず、ゴブリンくんで攻撃されるされないの見極めだけは行おうと思う」
無駄なCP消費かもしれないが、不用意に近づいて意味もなく敵対されるよりは良い。
というわけで、俺は一度、ゴーレムのテイムに挑戦することに決めた。
「ふむふむ。やっぱり近づきすぎなければ攻撃はされないか」
サモンで呼び出したゴブリンの影を、今度は慎重に近づけたり遠ざけたりしてみている。
最初に俺たちが踏み入った警戒域に入ると、コアが起動。
そこから近づくと体を形成して襲いかかってくる。
離れると警戒を解いて待機状態に移行。
基本的にはこのルーチンだ。
ただし、体を作って襲いかかってきたあとは、警戒域が広がるしその範囲内にいる他の敵にも積極的に攻撃をしかけてくる。
遠距離の敵には近づかず、土で出来た腕を切り飛ばして遠距離攻撃してくるおまけ付き。
ロケットパンチを素でやってくるの、ロマンあるけど怖いわ。
やっぱり釣り出すの難しそうだな。
「とりあえず見えたな」
その検証をこそこそ隠れながら行いつつ、俺が手に入れた情報は二つ。
一つ。目星を行なった結果、やはりゴーレムの弱点はあの赤いコアだということ。このコアは、体を形成するとき体の中にすっぽりと収まっていること。
二つ。アライメント鑑定を遠くからかけた結果、属性が判明したこと。
──────
クレイゴーレム:無性
秩序・虚心
──────
属性の秩序はわかる。
ゴーレムたるもの、命令にはどこまでも忠実であるということだろう。
だが、虚心というのは初めて見た。
ここには通常、善悪が入るはずだが、これは。
「ゴーレムにはそもそも善悪を判断する心がない?」
立てた仮定はそんなところだ。
そもそも、ゴーレムは生き物ではなくプログラムに従って動く機械のようなもの。
機械に、命令系統は組み込んでも心まで組み込もうとするものはそう居ない。
端末くんはAIによって動いているらしいが、ゴーレムはそうではないのだろう。
「交渉できるのかこれ?」
ただ、今の問題はゴーレムが俺との会話に応じてくれるのかという点だ。
心のない相手を会話で説得するとか、ちょっと上手くイメージができない。
あれかな、戦闘用AIを組み込まれたロボットを会話だけで説得するギークの少年みたいな、ああいう感じでいけば良いのかな。
『ウチとしては、ちょっとやめておいた方がいい気がします』
同じモンスターであるクミンの見解はこうだ。
少なくとも、心がない相手を会話でなんとかできるとは考えないアリさんらしい。
だが、俺はクミンとはちょっと考え方が違う。
「まぁ、俺に任せておいてくれクミン。こう見えても、俺は結構感動系のロボものとか好きなんだ。アンドロイドが恋に目覚めるやつも好き」
『絶対上杉さんの考えている感じと違いますよ』
大丈夫だって、今までの感じからすると警戒域からテイムを試みて、ダメなら逃げればいいだけだから。
クミンの心配を押し切って、俺は挑戦するために前に出る。
バックアップとして、クミンはいつでも俺を助けられるように少し後ろに下がっている。
「とりあえず、まずはギリギリのラインだな」
慎重に、今までゴブリンを使って散々検証した警戒域まで近づけば、もう何度見たことか、赤いコアが強烈な敵意を放ってくる。
だが、ここで引き下がる俺じゃない。
この交渉には、この後の安全が大いにかかっている。
「さぁ、俺とおしゃべりしようぜ」
言葉と同時に、俺はゴーレムのコアに向かってテイムを使った。
今までとかなり違う、拒絶感。
これまでは最初のテイムの段階では、一応意思疎通までは問題がなかったのだが、ハナから違和感。
端的に言うと、なんとかテイムの線をつないだが、まるでウイルスを仕込むために無理やり接続しているような、そんな感じが。
「や、やぁ、こんにちは」
『──────────』
ゴーレムのコアは何も答えない。
そもそも、俺の言葉がちゃんと通じているのかも怪しい。
だが、こんなのはアンドロイドものでは日常茶飯事だ。
端末くんから小粋なトークをひねり出している俺には問題にすらならない。
「突然で悪いんだけどさ、実は俺は君みたいなイカした前衛を探していてさ」
『不正なアクセスを検出しました。これより迎撃モードへ移行します』
「クミン! 逃げるぞ!」
そして、ゴーレムが周囲の土を集めて体を形成し始めた直後に、俺はクミンに声をかけて一目散にその場を逃げ出した。
「ごめん交渉失敗した!!」
『だからウチ言ったのに!!』
「だからごめんて!!」
クミンの言葉に俺は精一杯謝罪するが、少なくとも今の俺たちには土下座している余裕はない。
不正なアクセスを攻撃と捉えたのか、クレイゴーレムはすでに遠距離攻撃態勢に移行している。
「サモン:ゴブリン! 囮特攻!」
俺は少しだけ足を緩めてゴブリンを生み出すと、俺たちとは正反対にゴーレムに突っ込ませる。
ゴーレムのアルゴリズム的に、逃げる敵より突っ込んでくる敵を優先するはず。
『狙い変わりません! ウチたちです!』
「マジかよ!! クミン合図お願い!!」
『攻撃──いまです!!』
そう思ったのだが脅威度の判定もされているのか、ゴーレムはゴブリンに構わず俺たちに向けて、振りかぶった腕を切り離して射出する。
俺よりも視野の広いクミンの合図に従って、俺とクミンは大きく左右に別れた。
その数秒後に、ボーリング玉よりもでかいゴーレムの腕先が、ダンジョンの床を砕きながら俺とクミンの真ん中に着弾する。
すでに距離はだいぶ離れているのに恐ろしい攻撃速度だ。
「これテイム無理だな!! あはは!!」
『だから言ったのに! だから言ったのに!』
クミンの繰り返すような追及に、俺は笑ってごまかしながらゴーレムから逃走したのだった。
ゴーレムのテイムができれば良かったのだが、生憎とそれは難しそうだ。
とりあえず、時間とCPをだいぶ無駄にしたが、生き残れただけで御の字と捉えなければ。




