第70話 四階層へ
「……お疲れ様。スケルトンたち」
『────────────』
敵スケルトンとの戦闘が終わると、サモンによって生み出されていたスケルトンもまた溶けるように消えていった。
一時的な召喚というのは聞いていたが、時間制限か、あるいは戦闘ごとの区切りなのか。
いずれにせよ、サモンで召喚した子たちを冒険に連れ歩くことは難しいらしい。
あとに残った俺の与えた弓を拾い上げて、俺はサモンの燃費に思いを馳せていた。
やはり、切り札としての運用が関の山だろうな。
「とりあえず、まずは無事に残った石矢を拾おうか」
『任せて下さい! ウチ、物を集めるの得意です!』
クミンがアリさんらしい主張をしているのに微笑ましい気持ちになりながら、俺は先ほどの戦闘で消費したCPに頭を痛めるのであった。
戦闘後の処理を終え、まずは戦利品を確認する。
忍者型からドロップした忍者刀が一本。
何かからドロップした頭蓋骨が一個。
しめて二つのドロップがあった。
ちなみに、乱戦中にアイテムがドロップしたところで、頭蓋骨だけじゃ誰のかなんてわかるわけがない。
「なんで、忍者刀なんだろうな」
戦闘中にこっそり拾っておいた刀を握りながら、俺は首を傾げる。
スケルトンのドロップといえば基本は頭蓋骨。というか頭蓋骨以外は見たことがない。
だから、仮に忍者型から落ちるとしてもそれは頭蓋骨であり、その頭蓋骨を納品することで装備が購入できるようになると思っていた。
最悪、ドロップが無くても倒した実績でボロ装備は買えるだろうから、それでヨシと割り切ってもいた。
だが、今回落ちたのは忍者刀である。
物語の忍者が良く持っているような、鍔が少し広めの直刀。
鞘は黒塗りで、少し抜いてみた刀身はゾッとするような鋭さを感じる鈍い黒銀色だった。
明らかに、今までのドロップとは毛色の違う逸品である。ついでに簡易鑑定だと『刃物』と出た。相変わらずクソの役にも立たない。
「まぁ、端末くんに聞けばわかるか」
考えても仕方のないことは考えないに限る。
端末くんが答えを渋るようだったら、その時改めて仮説でも立てることにしよう。
「時間は、まだ12時前か」
朝起きてから、今日はこの忍者型を狩ることだけを考えて準備を進めていた。
そのため、決戦までに多少の時間を食ったとはいえ、まだ今日の活動を終えるには早すぎる。
『どうします? もう四階層へ向かうか、もう少し三階層で稼いでおくか』
クミンの提案にふむと唸る。
俺は今日、四階層の様子見はするつもりだった。
だが、当然ながら初見の四階層でいきなり狩りができるとまでは考えていない。
時間を無駄にする余裕はないので、四階層をチラ見したところですぐに引き返してくることにはなるだろう。
クミンの提案は、一度三階層で湧いているスケルトンを狩り切ってから四階層へ向かうか? という確認だ。
相手のリポップを考えると、そちらの方が時間効率は良いかもしれない。
俺は、少し考える。
手の中の忍者刀をじっと見つめてから、答えを出した。
「いや、今から降りよう。CPの消耗は激しいし、回復アイテムは心もとない。今から頑張ってもスケルトンを狩り切るのは難しい。なによりさっきの戦いの精神的な疲労もある。一度、四階層の端末の前で軽く休憩してから行動しよう」
『わかりました!』
スケルトン狩りはパターンが決まっているとはいえ、決してながら作業で進めていいものじゃない。
集中力が途切れたら思わぬ失敗をするかもしれない。
まだ、先ほど命の危険を味わった興奮が抜けていない中で、無理に狩りを進める必要はないだろう。
「じゃあ……行くか」
『はい!』
俺はじっと広間の奥に鎮座している階段を見つめた。
そして、しばし固まる。
待て、一つ忘れていることがあったな。
『上杉さん?』
「ちょっと待ってて」
俺は階段の前に、すっと膝を折って座り込んだ。
そして、一心不乱にダンジョンの神様──の食糧生産とかやってる部署に祈りを御中で捧げる。
作法を知らないので、とりあえず二礼二拍一礼のリズムでキメてみる。
『上杉さん!?』
クミンが、俺の突然の行動に目を白黒させている。
だが、大事なことなんだ。俺はそれをクミンに説明する。
「クミンも祈りを捧げるんだ」
『なんの祈りですか?』
「次の階層で、食料になるモンスターが出現しますようにって!」
そう、これは重要な儀式だった。
一階層のゴブリン。
二階層のゾンビ。
そして三階層のスケルトン。
俺の家に突如現れたこのダンジョンは、まったくこれっぽっちも俺の食生活を改善する気がない。
だが、さすがに四連続はない。四連続はないだろう。
南小のコミュニティが、一階層でウサギ肉を安定供給できているのに、四階層まで降りて食料無しはおかしい。
おかしいと思いますよね? 神様?
だから、俺は恥も外聞も捨てて祈る。
ご担当者様、お願いします。
ご担当者様がいないならこの際、闇の女神様でも、死の女神様でも構いません。
どうか俺に食料をお恵みください。
人間には食料が必要なんです。
ここで食料が出るかどうかで、俺のダンジョン探索が変わるんです。
俺にダンジョンに潜ってほしいとお考えなら、どうか、俺に食料を!
「俺に食料を!!」
『…………しょくりょうをー』
俺の祈りの横で、クミンも小さく声を上げていた。
よし、これで準備は万端だな。
一人より二人──一人と一匹の祈りの方が、きっと届きやすいに違いない。
確率的に、そろそろ良いだろう。これで出なかったら、南小の人たちに頭全力で下げて兎狩り放題の一日を開催するしかない。
「さ、行こうか」
『あ、はい』
スパッと気持ちを切り替えた俺に比べて、クミンはどこか浮かない感じであった。
「……また、雰囲気が変わったな」
三階層からの薄暗い階段を降り、たどり着いた四階層の感想を一言で述べるとそんな感じ。
なんだろうか。
三階層のテーマがスケルトンだとすれば、そこにはどことなく死を感じさせる薄暗さがあった。
一転、この四階層からはそういう雰囲気は感じない。
どこか無機質な、静かな印象。
それでいて、通路の広さは三階層よりもさらに広い。
十メートルは道幅があるだろうか。
なんとなくだが、巨大な生き物と多対一で戦うのを想定しているような広さに思えた。
「クミン、何か感じるか?」
『気配は感じないですね』
俺の気配察知の結果と一緒だ。
周囲には、危機を感じるような気配はない。
ひとまず、四階層に入ってから保っていた緊張を一段階だけ下げる。
周りをキョロキョロ見回せば、お目当のものはすぐに見つかった。
「端末くん。来たぜ、四階層」
『はい。お待ちしておりました』
相変わらず事務的な対応の端末くんである。
だが、端末くんの反応は想定の範疇だったので、俺はさっそく質問を投げかけてみる。
「それで、この階層についての情報は何かある?」
『ダンジョンの攻略情報は、あなたの攻略進度に応じて解放されます』
「よし、ノルマ達成」
想定通りの答えに喜んでいる俺を、端末くんはどこか冷めた目で見ている気がした。(端末には目がないので気がしただけ)
「それじゃさっそくで悪いんだけど、このドロップアイテムについて教えてほしい」
端末くんをからかうのをほどほどに、俺は先ほど手に入れた忍者刀を端末くんに掲げてみた。
いつもの流れなら『納品しますか?』と尋ねてくるところだが。
『倒したのですね。神からの尖兵を』
「……尖兵?」
反応は、いつもとだいぶ違っていた。
そのただならない様子に、俺はまた緊張の度合いを一つあげる。
『言い方が悪かったですね。尖兵という言い方はあまり正確ではありませんでした』
だが、そんな俺の様子を見てか、端末くんは言い直す。
「尖兵じゃなかったら、なんなの?」
『お気に入りへのちょっかい、でしょうか』
「…………俺、下手すれば死んでたんだけど」
『でも生きている。神にとってはそれが全てです』
どうやら、あの忍者型は神様がわざわざ用意してくれた、俺のための強敵だったらしい。あんまり嬉しくねえ。
ただ、道理で他のスケルトンと比べて段違いに性能が良いわけだと納得もした。
『そのドロップアイテムは、試練を越えた褒美のようなものです。端末へと納品することもできますが、そのまま装備することも可能です』
「納品したら、買えるようにならない?」
『廉価版でしたら、討伐実績により既に解放されています。そちらのアイテムは、オリジナルの一点物です。納品した場合二度と戻りません。なお、納品しなければEPを消費しての修理も可能です』
「ふむ」
どうやら、思ったよりも特別なアイテムだったらしい。
納品したら二度と手に入らないと言われると、ゲーマーとしては確保に前向きになってしまう。
「ちなみに納品したらおいくらほど?」
『およそ20000EPほどです」
「二万!?」
まじかよ。
いきなり納品の選択肢が現実味を帯びて来たよ。
だが、そうまで言うなら、性能もぶっ壊れているんだろうな?
「この刀の詳細を確認させて貰える?」
『かしこまりました』
端末くんは、用意していたような速さで忍者刀の詳細画面を開いた。
──────
護刀・鍾馗
疫病を払う守護の力を宿した忍者刀。
武器としての性能もあるが、その本質は装備者に降りかかる厄災をはねのける護りの力である。
ステータス補正:力+2、魔+3、速+2、運+2
特殊1:成長する武具(装備者の意志の力に応じてその性能を増していく)
特殊2:対魔(戦闘中に一度だけ、魔術によるあらゆる攻撃に高い耐性を得る)
特殊3:修復(EPを注ぐことで損傷を修復することができる)
──────
うわぁ、ぶっ壊れている。
これ絶対にエンドコンテンツの一角で入手できるタイプの武器じゃん。
ステータスがどんどん上がっていって、最終的に最強武器になるやつ。
しかも護刀ってことは、他にも色々バリエーションあるやつでしょ。
現時点での単純なステータス補正も序盤だとぶっ飛んでるし、さらに特殊技能三つはやりすぎだよ。
そして、この特殊技能2のせいであの忍者型スケルトン生き残ったんだな……
うっかり殺されるところだったのはこいつのせいか。
そう思うと、素直に喜べない性能に思えて来た。
「逆に聞くけど、このレベルの武器納品してEP20000なの?」
『こういう一点物は、納品額が低めに設定されていますので』
「実質的に売るなってことね」
性能良すぎて売る気にはあんまりならなかったけど、それでもやっぱりEP20000では勿体無いくらいの高級武器なんだな。
神様のちょっかいもあるみたいだし、売ったら普通にばちが当たる可能性もある。
ということで、現状では装備する一択だが、一応、クミンにも聞いておかないと。
「クミン。俺は可能だったらそのまま使いたいんだけど、良いかな?」
『むしろ、売るという選択肢があったんですか?』
「これ売ってEP10000ずつ山分けしたら、直近の戦闘は楽になるかもしれない」
『……む』
クミンは言われると少し悩んだ様子。
だが、それも一瞬だった。
『やっぱり手元に置いておきましょう。ウチとしては、その刀が一度でも戦闘中に上杉さんを守ってくれる可能性があるなら、それだけでとても嬉しいです!』
「クミン……なんて良い子……」
こんなに俺のこと心配してくれるアリさん他にいる?
世の中にはこんな良いアリさんを初対面で食おうと考えた奴がいるらしいな。信じられないことだよ。
「じゃあ、これは装備するという方向で」
『はい!』
そうして、俺の装備に『護刀・鍾馗』が加わった。
今までありがとうメタルラックの足。
君のことはホームセンターで次のメタルラックが手に入るまで忘れないよ。
「それじゃ、頭蓋骨は納品して、溜まったEPで回復と、アイテムの購入かな」
頭蓋骨が一個240EP。
スケルトンノーマルタイプが11体で264EP。
それに忍者型が一体で200EPだった。
忍者型ぶっ飛びすぎだろ。
神様、そのちょっかいは余裕で人を殺すやつです。自重してください。
ついでに、さっきの戦いで一番危なかったのはクミンのHPである。
忍者の一撃をかばっただけで、HPが残り30くらいになっていた。
「さて、準備は済ませたし、飯を食ったらいくか」
そして精算を終えた俺は宣言する。
様子見だけのつもりではあるが、俺は確信している。
だからこその宣言だ。
「俺のご飯になってくれるモンスターを拝みに行こうぜ」
そんな俺に反応したのは、クミン──ではなく。
いつも事務的な端末くんだった。
『え?』
「え!?」
唐突な反応に思わず聞き返す俺。
だが、端末くんは澄ました感じでこう言った。
『……ダンジョンの攻略情報は、あなたの攻略進度に応じて解放されます…………』
…………さぁ、気を取り直して四階層のモンスターを拝みに行こうか!




