第66話 壊れたシナジー
大強化大会を開催すると言ったが、予算はある。
合計で4372EP、これ以上は使わない。
で、キリを良くするために372EPは回復薬購入費用として残しておくと。
残ったのが4000EP。
「この4000EPを俺とクミンで山分けします」
『えっ』
俺の宣言を聞いて、クミンはハトが豆鉄砲食らったみたいな声を出す。
多分、何か口に含んでいたらポロンと落としていたと思う。
『えっと、上杉さん。山分けで良いんですか? ウチは基本的にテイムされている側なので、まず上杉さんの強化をして、余ったポイントでウチをって流れが普通だと思いますよ?』
と、クミンは殊勝なことを言った。
「そういう考えもあるな」
『というか普通はそういう考えだと思いますけど』
「だが、最初に言ったように、俺はクミンのことを下に見るような真似はするつもりはない。もちろん、名目上はテイマーだし、作戦を立てる時には上に立って命令したりもするけど、そうじゃない部分では対等なパーティメンバーとして考えている」
現状、クミンがいなくなって一番困るのは俺だ。
スケルトン狩りは、俺とクミンが二人揃って初めて成り立っている。
現状では俺にEPが一括で入ってくるが、パーティとしてはやはり山分けが基本だろう。
『いえ。これでもCPとか、今は貰えてないけど貰う約束のお肉とかで契約の対価は支払われるわけですから、対等っていうのは違うんじゃないですか?』
「それ言ったら俺だってクミンに家とか作ってもらったわけだから。こっちなんて約束してないのに対価もらってるよ。だから、あんま難しいこと考えずに等分で行こうぜ?」
『ううん……上杉さんがそこまで言うなら……わかりました!』
と、クミンはまだ多少思うところはありそうだったが納得してくれた。
これで、晴れて俺たちの強化費用はそれぞれ2000EPになった。
「というわけで端末くん」
『……お互いが2000EPを超えないように警告いたします』
「さすが、話が分かる」
もはや端末くんとはツーカーの仲と言っても過言ではないのでは?
というわけで、俺は早速端末くんに習得予定のスキルを表示してもらった。
以前から言っているように、俺はこのEPをレベルアップに回す気はない。
将来的にはレベルアップもしなければだが、現時点ではレベルアップの底上げよりも、召魔忍者になったことで解禁された忍者用スキルの方が、費用対効果が高いと踏んでいる。
ああ。
ついでと言ってはなんだが、ここでスキルの費用について少し補足を入れておこうと思う。
これまでしばらくスキル習得画面を開いていなかったので、2000EPもあれば表示されているスキルとか全部とってもお釣りがくるのでは? と思うかもしれない。
だが、その考えは、ジョブを習得した時点で打ち砕かれた。
これがノービス時代のスキルの費用の例。
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ナイフ術:20EP
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で、これがジョブを習得したあとのスキルの費用の例だ。
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ナイフ術+5(ゴブリン):200EP
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お判りいただけるだろうか?
パッシブスキルが、軒並み値上げしてくれているのだ。
しかも上がり幅十倍とかの、めちゃくちゃな倍率で。
これは俺がEP貯めの最中に、習得スキルを絞ろうかと思ってスキルリストを確認した際に発覚した。
なぜ、こんなに値上がりしているのかと端末くんに問い詰めれば、帰ってきた答えはこうだ。
『成長に基づき、スキルの熟練度を上乗せした状態で習得できるように価格が上昇している。望むのであれば元の価格でスキルを習得することもできるが、有用性の観点からオススメできない』
曰く、スキルにも内部熟練度のようなものが設定されており、俺の能力が向上している状態だと、熟練度に下駄を履かせないとあまり意味のあるスキルにならない、と。
ざっくり言えば、20EPで攻撃力1.1倍を買うより、200EPで攻撃力1.25倍を買った方が今の俺にはお得だろ、みたいなことらしい。
言い換えれば、スキルの熟練度稼ぎにかかる時間を、EPを支払うことで短くできるということだ。
今から20EPでスキルを買って育てるより、さっくりとスケルトンを狩って稼いだ200EPで育ったスキル買った方が絶対早い。
これは、ダンジョンからの温情の部分が大きい。
まぁ、メリットは大きいんだが、その結果、やっぱり取るスキルは吟味する必要ができたわけだ。
ついでにアクティブスキルは、パッシブスキルとやや性質が違うらしく、あまり大幅な値段の上昇は起きていない。
特に初級魔術など、アイテムを元に解禁されたスキルの場合は、一切熟練度の上乗せはしてもらえないようだ。世知辛い。
「というわけで、俺が取る予定だったスキル、ぴったり2000EPだったはずだ」
スキルのあれこれの事情を置いておいて、俺は端末くんに予約を頼んでいたスキルの表示を願う。
値段の上昇にあれこれ言ったが、今回取る予定のスキルは全て、ジョブ習得後に解放された新規スキルだ。
正直言えば、合計2000EPとか法外な値段だと思うが、このスキルにはそれ以上に取る価値がある。
『上杉様は、以下のスキルを習得予定です。間違いありませんか?』
端末くんは、俺がピックアップしていたスキルを表示させた。
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首切り:400EP
相手の首、または急所を攻撃した場合にダメージに1.5倍の補正をかける。
また、相手に気づかれていない状態ならさらに1.2倍の補正をかける。
コストCP:20
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武装召喚:600EP
登録済みの武具を任意の場所から自分の手元に召喚する。
召喚した武具は任意のタイミングで元の場所へと送還できる。
消費CP:5
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神出鬼没:1000EP
非武装状態、および非攻撃状態において隠密に大きな補正をかける。
この効果は攻撃後に解除されるが、武装解除後に隠密判定に成功すると再び効果が発動する。
コストCP:40
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お判りいただけるだろうか。このシナジーが。
忍者職とテイマー職の複合職だから可能だった、この組み合わせ。多分運営の調整不足によって生まれた産物だろう。
解禁されていたスキルを確認していて、この組み合わせを発見したときに『召魔忍者始まったな……』と呟いてしまったほどだ。
これで何ができるかというと、隠密行動で敵の背後を取り、武装召喚で手元に武器を召喚して一撃で首を刈り、武器を送還して再び隠密行動に移行する、なんてことができてしまうのである。
首がない相手だとしても、おそらく目星を使えば急所は確認できるはずだ。
まさしく、手や口から火遁しながら空を飛ぶのとはまた違った正統派首切りNINJAスタイルを貫けるのだ。
ネックは消費CPがお世辞にも軽いとは言えないところだが。
「そして良いのは、これが怪物戦でも有効だろうことだ」
俺が特に意識しているのは、このスキルのシナジーは乱戦時にも生きてくるという点だ。
怪物戦で一番良い展開は、乱戦になる前にどでかい魔法をかまして一撃で倒しきることだが、そうならなかった場合は、前衛が前を固めつつの乱戦へと移行するだろう。
乱戦になると、どうしても俺はメイン火力の火炎魔術を行使するのが難しくなる。火力を高めるということは、仲間を巻き込む可能性に直結する。
そういう時に役立つのが、この首切りセットだ。
こちらの数が多い乱戦ともなると、敵の意識はどうしても分散する。
分散するということは、俺への認識が外れるタイミングが多いということ。そうなれば俺は隠密状態に移行する機会が増える。
隠密状態の俺は敵に気づかれていないわけなので、急所への攻撃なら不意打ちと首切りの効果が乗ってダメージが跳ね上がる。
そしてダメージを与えたあと、武装を解除すれば俺はまた隠密状態だ。
最初の囮役から一転したような、安全性を最大限に考慮したチキン戦法だが、そもそも前衛役を張るには俺の体ステータスは心許ない。
申し訳ないが、そのあたりは南小のみんなに頑張ってもらおう。
……最大の懸念点は、隠密状態の俺が味方にも見つからず、誤射や誤爆に巻き込まれないかだが、そのあたりは情報共有でなんとかできないかな。
「じゃあ、端末くん。一思いにやってくれ」
『合計2000EPですが、本当によろしいですね?』
「ああ」
『かしこまりました。スキルの習得を行います』
俺の了承の声を聞いて、端末くんが操作を開始すると、久しぶりにドバッとしたEPの粒子が俺の中から漏れ出していく。
それが端末くんの中へと吸い込まれていき、すぐに黒と青紫っぽい色の粒子として俺の中へと戻ってくる。
その粒子が俺の中で落ち着くと、現在の俺には相当の力が宿ってしまったことを実感できた。
やはりEP2000分のスキルだからか、高揚感がある。
『『首切り』のスキルを《闇夜と死の徒》に統合しました』
「あれ? 神出鬼没は?」
『統合対象外です』
まじか。
名前の感じからして統合できると勝手に思っていたけど、別枠だったか。
ちょっと想定外にCPを削られるが、まあいい。
「とりあえずステータスを確認」
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上杉 志摩
召魔忍者
レベル10
所持EP:2372
HP147/147
CP78/120(使用中140/260)
力:21
魔:32
体:13
速:33
運:24
【所持スキル】
[パッシブスキル]
悪臭
【セットスキル】
[パッシブスキル]
《闇夜と死の徒》 神出鬼没 ストレージ(極小) 石工
[アクティブスキル]
強打 目星 測量 火炎魔術(中級) 土石魔術(中級)
簡易鑑定 アライメント鑑定 テイム サモン
口寄せの術 武装召喚
【称号】
『屍鬼を喰らいし者』
『闇夜と死の徒』
『混沌と孤独の同胞』
『魔道の探求者:序』
【テイムモンスター】
『クミン』(迷彩アリ)
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召魔忍者に上がった時に比べても、スキルのおかげでだいぶ見栄えが良くなった気がする。
最大CPの削れ方が予想以上だが、それでも3桁は確保できているので上々だろう。これ以上は回復薬を買い込んで対処するしかない。
「あとはクミンの強化だが」
俺の強化を済ませ、残るクミンの強化に移行しようと思ったところで。
『ふむむむむむ……やっぱりレベルアップ……でもスキルも……』
クミンは、自分の強化案について盛大に悩んでいるのだった。




