第63話 コミュニケーション弱者
(全文カタカナだと大変読みにくいため、一部を変換してお送りしております)
Case1(壁に頭を打ち付けていた一般男性ゾンビ)
「こんにちは」
『こ、こ、こ、こ、こん、こん、こんんこん』
「こ、こんこん?」
『お、お前の頭、こ、こんこん、ば、ば、バァン!!』
(この後、突然襲いかかってくる)
Case2(上をぼーっと見ながら歩いていた男性ゾンビ)
「今日はいいお天気ですね」
『ダンジョンのどこに天気があんだぁあああああ?』
「えっと、外はいい天気かも」
『お、お、お前は、俺のこと引きこもりのオタクだとおお思ってるんだなぁ!?』
「え!? いや、そうは言ってな──」
『なめぇやがってぇえええ、こ、殺す!』
(この後、当たり前に襲いかかってくる)
Case3(目玉と胸の辺りがボロリと零れ気味の女性ゾンビ)
「えっと、それ大丈夫ですか?」
『だ、大丈夫にみ、み、み、見える? 探してるのよ。いいもの』
「良いものって?」
『見れば、わかるでしょうがぁああああ!』
「……眼帯と、下着とかでしょうか?」
『見てんじゃないわよぉおおおおおおお! 乙女のやわはだああああああああ!!』
「どっちやねん」
(この後、目玉をボロリしながら襲いかかってくる)
Case4(やたらと左に傾いている男性ゾンビ)
『も、も、漏れる』
「何が漏れるんですか?」
『お、オムツか、やっぱりオムツだろうか』
「あの、何が漏れるんでしょうか?」
『お前の脳みそ』
「それはオツム」
『アハハハハハ』
「あははははは」
(ひとしきり笑ったあと、思い出したように襲いかかってくる)
Case5(ずっとひょこひょこ跳ねるように歩いている女性ゾンビ)
「楽しそうですね」
『ぴ、ぴ、ぴ、ぴぴ、ぴ、る、る、ぴぴ、る、ぴ、る、ぴ、るる』
「ぴぴるぴー?」
『…………メサ』
(この後、脈絡もなく襲いかかってくる)
Case6(一見頭部の損傷が少なそうだった縦揺れのゾンビ)
「俺、契約希望。お前、対価所望。OK?」
『お、おおお、けえええええ』
「契約順調。お前何望む?」
『お、おおお、お前ええの、命』
「……パードゥン?」
『お前えを殺させろぉおおおおお!!!』
(この後、契約の同意には至らなかった)
Case7(とりたてて特徴のない一般ゾンビ)
「ねぇ君良い体してるね、よかったら俺たちの仲間にならない?」
『お前、俺の体が腐ってんのわかんねえのか?』
「その腐り具合もイカしてる」
『じゃああああよぉおおおお! お前も腐ってみたらいいんじゃねええのおおおおお!?』
「それはご遠慮つかまつる!」
(口先だけの褒め言葉は相手を怒らせる)
etc.....
以後、似たような事例がずっと続く。
「俺には、無理だ……」
数多のチャレンジの末、俺はダンジョンの床に手をついて項垂れていた。
大学生になって、ある程度は自立した人間になったつもりだった。
そこそこの友好関係を築き、いっぱしのコミュニケーション能力は持っているつもりだった。
だが、思い知った。
俺は、コミュニケーション弱者だ。
何度やってもゾンビとコミュニケーションをとることが出来ない。
なんなら、一番最初のゾンビが一番感触が良かったまである。
会話の「さしすせそ」とか「たちつてとなかにはいれ」とか、もうそういうのなんの意味もない。
そもそも相手が何言ってるのか分からないパターンもちょいちょいあるし、俺がどんなヨイショをしても的確に地雷をご用意して頂ける感じ。
今日だけで俺、一生分以上の『殺す』を聞いた気がするわ。
「ていうかこれ、流石におかしいよな?」
と、落ち込んでも前に進まないので、俺は振り返りに入る。
いくらなんでも、会話が前に進まなさすぎるのだ。
とりあえず、俺が得た情報によると、この階層にいるゾンビは大きく二種類に分けられる。
主に『混沌・中立』と『混沌・悪』の二種類だ。
ゾンビの大半は『混沌・悪』だった。
この属性だと俺は一応、称号効果によって一目置かれるはずなのだが、とりあえず会話をしてみて、二言三言で殺しにかかってくるのはだいたいこのタイプだ。
会話が成立しないパターンもこいつらが多い。
で、少数のゾンビは『混沌・中立』である。
こいつらは、上の連中に比べるとほんの少し会話が通じる。
ただ、ほんの少し通じるというだけで、当たり前に見えない地雷を踏んで殺しにかかられることは変わらない。
ただ、悪よりは中立の方が、ほんの少し感触がいいのもまた事実である。
それらを踏まえて、俺は三つの可能性があると考えている。
可能性1「ゾンビはテイム不可能モンスター、あるいはテイムするために何らかの条件があるモンスターであり、現状はどうあがいても無理」
可能性2「ゾンビのうちテイム可能なのは『混沌・中立』のゾンビのみであり、成功していないのは俺のコミュニケーション能力不足である」
可能性3「全部俺の思い過ごしで、普通にテイムできるけど、俺のコミュニケーション能力がただ低すぎるだけである」
個人的には可能性1じゃないかと思っている。
クミンのことを考えると、テイムモンスターは別にテイムしたからって性格が変わるわけじゃない。
となると、ゾンビの性格というか、思考能力がこのままだと、マトモにテイムできる気がしないのだ。
だって、会話がそもそも通じないのだから。
つまり、食用に向くモンスターと向かないモンスターが居るように、テイムに向くモンスターと向かないモンスターがいるのではないか。
そして、少なくともゾンビは、一般的なテイマーがテイムできるようにはなっていないのではないだろうか。
「まぁ、その結論が出たら困るのは俺なんだけどさぁ」
そう。困るのは前衛の壁役を確保したいのに確保できない俺である。
ただ、俺自身はもう、ゾンビは良いかなという思いでいっぱいだ。
マジで、頭のおかしいやつとずっと会話しつづけるの、精神的に辛いんだよ……。
「一旦ゾンビのテイムは諦めよう。俺が鋼の心を手に入れたとき、どうしてもゾンビが必要だったらまた考えれば良い。ゾンビがダメとなるとプランBだ」
そう。ゾンビはあくまでもプランA。
速が物足りないが、筋力と耐久力に優れた壁役候補1号にすぎない。
1号がダメなら2号。
つまり、一階層のゴブリンのテイムにチャレンジすればいいのだ。
「と、一階層に向かう前に実験だったな」
ゾンビを見限った俺は、一階層の階段を上る前にかねてより試す予定だった実験を行う。
それは、離れている地点からクミンに念話を行うことができるか、というものだ。
クミンと俺は、現在テイムのつながりのおかげか、頭の中で会話を行うことができる。
ただ、今まではずっと近くにいたため、この念話がどの程度の距離まで使えるものなのか分かっていない。
今回、初めて二手に分かれることになったので、この機会に試してみようという事になっていたのだ。
(クミン、聞こえるか?)
俺は、テイムの繋がりを意識しつつ、クミンへと念じてみた。
すると、普段の意識よりもすうっとテイムに引っ張られるような感覚を覚える。
少しして、頭の中に反応が返った。
(上杉さん。聞こえてますよ。少なくとも、一階層分くらいなら会話は行えるみたいですね)
(おお、こっちも聞こえた。とりあえず実験は成功か。あとはこれが、ダンジョン内部限定か、それとも外でも使えるのかが次に気になるところだな)
どうやら、テイムは思った以上に強力なスキルのようだ。
こうなると、クミンを偵察に出してリアルタイムで情報を探ってもらうような使い方ができるようになる。
テイマーとしてよくある、テイムモンスターの視覚を共有する、みたいなスキルもいずれ生えてくるんだろうな。
(とりあえず、進捗報告だが、ゾンビとの交渉は難航した。一旦、ゾンビのテイムは諦める方向)
(分かりました!)
(……ん?)
心なしか、クミンの思考が弾んでいるように思えた。
気になってちょっと尋ねると、クミンは食べ物の好き嫌いを恥ずかしがるように、ボソリと言った。
(正直言うと、ウチはあの臭いのがずっと付いて回るの、ちょっと嫌だなって思ってました)
(あ、はい)
どうやらクミンさんは、俺の思っている以上にこの腐臭が嫌いだったようです。
……じゃあ、交渉失敗して良かったな! うん!
(とりあえず、ゾンビは諦めたので、一応ゴブリンも試してくるよ)
(了解です! 拠点も間も無く完成予定ですので、楽しみにしていてくださいね!)
(おっけー。念話終わり)
そして、意識してテイムの繋がりから離れると、先ほどまでの繋がっている感覚が落ち着いて、いつもの俺の意識に戻ってくる。
どうやら、ちゃんと集中していないと遠隔での念話はできないようだ。
「周囲の警戒を怠るなってことかな」
ここは二階層だからまだ大丈夫だが、未知の階層で多用は厳禁だなと心に念じておいた。
というわけで、久々に一階層にまで戻ってきた。
階段前のゴブリン3匹は復活していない。あれの復活周期は謎だが、なんとなく一度ダンジョンから出ることが条件な気がする。
(さて、早速テイムチャレンジといくか)
もはやEP的には狩るも見逃すも大差ないレベルのゴブリンだが、成長させればまた話は変わってくるに違いない。
そう思って、俺は気配を丸出しにしているゴブリンを探ってみる。
(おお、いるいる)
とりあえず、ぱっと見つけたゴブリンに近づいていってみる。
一応、印象を気にして悪臭はゴブリンのものに変えている。
ややあって、醜悪そうな顔をした、錆びたナイフを持ったゴブリンを発見した。
こっちの索敵範囲が広がりすぎて、相手は全くこちらに気づいていない。
(アライメント鑑定っと)
──────
ゴブリン・男
混沌・悪
──────
あ、ダメそう。
と、徐に湧いてきた諦観の念に一時蓋をする。
いや、まだ分からない。
スケルトンと違って、称号効果がクリティカルするかもしれないし。
そう信じて、俺はテイムを発動しながら、声をかけて近づいた。
「こんにちは」
『ギギ? ナンダオマエ? ナンノヨウダ?』
お、話が通じるかも。
俺は少し願うように、さらに踏み込んでみる。
「実は仲間を探しているんだけど、俺とテイム契約してくれないかな?」
『ギギギ、イイゾ、イイゾ。ヤッテヤッテモイイゾ』
「本当か? ええと、条件は?」
『オマエの命! ゲッゲッゲッゲ!』
「……………………」
結論だけ言うと。
ゴブリン殺すべし、慈悲はない。であった。




