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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第61話 土石魔術の圧



 スケルトン狩りのパターンを完成させた翌日、俺は元気に二階層のゾンビの腐臭の中で目を覚ました。

 目の前には無骨な壁、淀んだ空気、硬い寝床。安全性を加点してこの宿の評価は星一つというところか。

 相変わらず、朝の気分は最悪である。


「おはようクミン」


 起きて早々嫌な気分になりつつ、俺は隣にいるクミンに挨拶をした。

 テイムモンスターは眠るのか、という問題については『モンスターによる』という身もふたもない答えをいただいている。

 生物型のモンスターは睡眠を必要とするものが多いし、逆に石とか植物とかアンデッドなんかは眠らない方が多いらしい。


 アリさんはどうかというと『長時間は眠らない』が答えだとか。

 曰く、俺が考え事とかをしていて動いていない時に秒単位でこまめに睡眠をとっていたりして、ぱっと見は24時間動いているような感じだとか。

 なので、基本的に俺が寝ている間もクミンは起きている(ようなもの)というのが答えで良いらしい。


『上杉さん。ウチ、言いたいことがあります』


 そして俺と違ってだいたい一晩中起きていたクミンは、寝起きの挨拶に対してこう返す。



『この階層で寝泊まりするのは人間として間違ってます』



「……うん。そうだね」



 クミンの一言に、俺は何も言い返せなかった。

 だってここ、宿屋でもキャンプ地でもなくて、ただのダンジョンだから。

 しかも安全地帯でもなんでもない、ただの行き止まりだから。


 これに言い返すというのは、海が青いとか、地球は丸いとかに対して言い返すのと大差ないことだろう。


『そしてウチとしても、じっとここにいると嗅覚がおかしくなりそうでとても辛いです』


「ごもっともだね」


 俺が失った人間性を、俺より保っているアリさんであった。

 普通に考えりゃそうだよな。

 アリは嗅覚に関しても人間よりも鋭いと聞く。

 俺は慣れてしまって『このゾンビの家臭えな』って思う程度だが、慣れてないアリさんが腐臭の中で一晩過ごすのは、想像以上のストレスであっただろう。


『だから土石魔術を習得して、三階層に拠点をつくりましょう』


 そしてクミンは、初めて俺に提案をした。

 自分の成長すら俺に委ねた彼女の、初の要求であった。


「ああ。それは、予定の中ではあったけど」


 クミンの要求に対して、俺は少しだけもにょもにょと思うところがある。


『嫌なんです?』


「いや、その前にやりたいことがあって」


 別に、土石魔術を習得するのが嫌なわけではない。

 むしろ、土石魔術の習得はこのダンジョンアタック中にはマストだと思っている。

 問題は優先順位の話だ。




 昨日打ち立てたロードマップのうち、いくつかは既に達成されている。

 残っているのを整理すると、こうだ。


 ──────


 1.弓持ちのスケルトンからドロップを狙い、マトモな弓を手に入れられるようにしておく。


 2.俺のスキルを充実させる(特に土石魔術や忍者関連スキル)


 3.三階層のマップを埋める。


 4.もし四階層でさらに効率的な狩りができるなら狩場を移し、俺のレベルアップを考える。


 5.期限が近くなったら、南小コミュニティへの武器を買い集めるためのEPを確保する。


 ──────


 このうち、1~3までは並行してこなせるわけだが、その前に俺は一つタスクを追加したかった。

 それはこう。



 0.忍者になったクミンの代わりに前衛役を確保する。



 いざという時の壁の補充である。

 選択肢がゴブリン、ゾンビ、スケルトンという極悪メンツなのが気がかりだったのだが、昨日、そこに一つだけ希望が生まれた。

 そう、種族進化だ。


 クミンはレベル10で進化したことから、他のモンスターも仲間にできればレベル10で進化する可能性がある。

 進化さえしてしまえば、外見がマシなちゃんとしたモンスターになる可能性は残されているのだ。


 外見さえクリアできるのなら、いざという時の前衛はいた方がいい。

 召魔忍者と迷彩アリとかいう偏ったパーティはバランスに欠けている。

 そして、スキルの習得が進化先に関わってくる可能性が高い以上、もし前衛を増やすなら、勧誘は早い方がいいのだ。

 その分より多くの経験を積めて、スキルをたくさん習得できるようになるはずなのだから。




「だからクミン。俺としては土石魔術の確保の前に、まずは他のモンスターのテイムを試した方が……」


 という俺の構想をクミンに言って聞かせること少し。

 その間、クミンは静かに俺の話を聞いていた。

 聞いていた上で、全てを聴き終わったクミンはこう言った。


『上杉さん』


「はい」


『土石魔術を取ります』


「はい」


 昆虫らしい、温度のない言葉であった。


 クミンとしては、まず拠点作りによる衣食住の向上がマストであるらしい。

 俺は二階層に宿泊し続けることによるクミンの友好度の低下が心配なので、その言葉に粛々と従うことにした。





 朝食は火を使わないもので簡単に済ませ、三階層に降り立った俺たちは午前中いっぱいを使ってスケルトンを狩れるだけ狩った。

 その戦果がこれである。


 スケルトン23匹。

 ドロップアイテム2個。

 獲得EP=23*24+240*2=552+480=1032。

 に、元々の端数を足して合計は1048。

(一瞬キリが良さそうに見えてモヤモヤする数だ)


 1日で俺のレベルアップが見えてくる大戦果である。

 今までで一番時間効率が良かった。


「よし、よし。いいぞクミン。確実に狩りは進歩している」


『はい!』


 斥候入りのパーティの場合は俺が囮、そうでない場合はクミンが囮で回すことで、どのパーティも無傷で殲滅できている。

 組み合わせ次第でCP効率は変わってきてしまうが、そこは時間効率には代えられない。

 ということで、目についたスケルトンを片っ端から狩り続けた。


『土石魔術は400EPって言ってましたよね? じゃあそれを取って、回復薬購入も含めてもだいぶEPを他に回せますね!』


 クミンは自分の仕事ぶりを思い出してウキウキしながらそう言っている。

 そんなクミンに対して、俺は少し考えていたことを提案してみた。


「それなんだがクミン。俺はこのまま土石魔術を習得するつもりだが、クミンも習得してみる気はないか?」


『え? ウチも魔術をですか?』


 巣穴に水、ならぬ寝耳に水といった調子でクミンが聞き返してきた。


「ああ。もともと、クミンのアクティブスキルってそんなにCPを消費するようなものじゃないだろ? それに加えてこのダンジョンでは使う機会もあんまりない。だったら、一緒に土石魔術を取って扱いを習熟しないか? 多分、土石魔術だとクミンの動きを補助するような使い方ができると思うし」


『なるほど』


 これはクミンの魔を上げるとなったときから少しだけ考えていたことだ。

 現状、クミンは多分救済ジョブの魔術師程度には魔のステータスやCPが高まっているはずだ。

 加えて、話している感じでも頭が悪いとは思えない。


 であれば、魔術の一つでも覚えておけば、存分に使いこなしてくれるのではないかと。


「例えば、体当たり時にハサミや甲殻を岩で覆って強度を高めるとか、戦闘中に足場を作ってそこを縦横無尽に歩いたりとか、俺じゃなくてクミンに合った土石魔術の使い方もきっとあると思うんだよ」


 俺はきっと、土石魔術をメイン魔術に据えることはない。

 火炎魔術をメインに、他の魔術でその補助や、それではできないことを埋めていくといったイメージになるだろう。

 だが、クミンであれば、俺とは違った使い方で土石魔術を使いこなせる気がする。


『でも良いんですか? ウチに割いた分、上杉さんのスキルが』


「良いんだよ。もともと、パッシブスキルはコストの関係上どうしても無制限には取れないからな。多少の吟味はしたいが、それほど無駄に注ぎ込むつもりもない」


 これは本心。

 このシステムの性質上、どうしてもパッシブにはコストの限界がある。

 特に火炎魔術をメイン火力に攻略を進めている現状だと、むやみに最大CPを削るわけにもいかない。

 もちろん《闇夜と死の徒》に混ざるやつは問答無用で取っていくつもりだが、そうじゃなければ、EPを湯水のごとく使うことはないだろう。


 ……可能であればオートマッピングを取りたいなとか、思っているのは内緒だ。そのEPがあればレベルアップに回します。はい。


「だから、クミンがどうしても嫌じゃなければ」


『嫌なわけないです! 上杉さんがウチにスキルを与えてくれるなら! ウチは精一杯土石魔術を極めます! 上杉さんのピンチに颯爽と活躍できるくらい!』


「頼もしいなおい」


 というわけで、最初のEPの使い道は決まった。


「端末くん。聞こえてたよね?」


『はい。上杉志摩、およびテイムモンスター:クミンが『土石魔術』を習得する。ということでよろしいのですね?』


「そのとおり」


『かしこまりました』


 端末くんは、俺とクミンのやり取りに何を思ったのか。

 あるいは何も思わなかったのか。

 まぁ、要するにいつものような淡々とした口調で、俺たちのスキル習得を進めたのだった。




『所持EP:1048→248』


『上杉志摩は土石魔術を習得しました』


『クミンは土石魔術を習得しました』



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