第60話 迷彩アリと完成
魔のステータスが関係してるという意味では『マジックアント』や『コマンダーアント』もそうかもしれない。
むしろ正統に最終進化を目指すなら『指揮官』から上って行くのが正解な可能性もある。
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マジックアント:200EP
アント系モンスターの中でも魔術の素養を持つ特殊個体。
一般的な戦士系個体よりも上位に位置する。
CP、魔に成長補正。
進化条件:ワーカーアント時の魔が14以上。
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コマンダーアント:200EP
アント系モンスターの中でも統率の才能を持つ特殊個体。
一般的な戦士系個体よりも上位に位置する。
力、魔、体に成長補正。
進化条件:ワーカーアント時の力、魔、体がそれぞれ14以上。
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だがその下にさらにレアそうな進化先があったら、チェックしないわけにはいかないよな。
ということで、俺は一応確認してみた上位種族の情報を閉じ、最後の一つを開く。
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迷彩アリ:300EP
アント系モンスターの中でも隠密の素養を持つ希少個体。
周囲の景色に溶け込み、潜伏や情報収集、暗殺などの役割をこなす。
一般的な戦士系個体の指揮系統からは外れた独自の命令系統に従う。
魔、速、運に成長補正。
進化条件1d:テイマーが隠密系統のスキルを複数所持している。
進化条件2:ワーカーアント時の力、魔、速、運がそれぞれ14以上。
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うん。これあれだな。
称号条件がないけど条件ほぼ忍者だな。
忍者に比べると成長補正が少し物足りないのは必要EPの差だろうか。
だが、そこに目をつむれば、俺の隣を歩くのにこれほど適した進化先はないだろう。
……まぁ、俺としては隣を歩くんじゃなくて前に立って欲しかったわけだが。
それは言わない約束にしたのだ。
とはいえ、このまま仮想忍者アリルートに進むと、成長速度の違いこそあれど俺の劣化ステにもなりかねない。
まぁ、掘削や牽引、加工に壁歩きで十分差別化はできる範囲か。
というか、パーティ人数が決められたゲームでもないんだから、そこまで拘る必要もないな。数は力だ。
仮にダンジョンに人員を制限されるようなことがあっても、パーティを二つに分けたとき俺の役割の代わりができるということにもなる。
「しかし……パワーレベリングの弊害も見えるなぁ。迂闊だった。もっと注意するべきだった」
俺がそう思ったのは、迷彩アリの進化条件1dの記載を見てだ。
ここの条件を満たせているのは、テイマーである俺が隠密系統のスキルを大量に習得しているからだ。
忍者のときは確かここが、不意打ちの成功回数300回以上だったか。
つまり、レベル10になってジョブを習得するなり種族進化をさせるときには、それ相応のスキルを習得しておくか、あるいは特定スキルの使用経験がないと問題があるのでは、ということだ。
今の俺は、とりあえずクミンのレベル上げを最優先して、スキルを後回しにしてしまっていた。
この状態で、仮に神からの横槍が入らずに魔も上げていなかった場合。
選択肢として残っていたのは、おそらく100EPの『ソルジャーアント』と『タンクアント』のみだろう。
俺の求めていた役割としては最低限こなせそうだが、果たしてそれが最適だろうか。
前衛系スキルをしっかり習得させていれば200EP以上の前衛系進化先が出現していた可能性は大いにあるのだ。
期限が短いという焦りがあったというのは言い訳になるが、俺はクミンの育成を盛大に失敗していたかもしれない。
この失敗は、今後の教訓としてしっかりと胸に刻んでおかねば。
そしてそう考えると、俺は今回、かなり神からの横槍に助けられた形になってしまう。
あの魔振りがあったから、クミンの進化先を狭めずに済んだ。
……くそ、認めたくない。
認めたくはないが。
「お礼は言っておきますよ! 神様!」
恩知らずにはなれないので、俺は歯を食いしばりながらお礼を言った。
クミンは俺の唐突な宣言にやや面食らった様子だった。
「というわけでクミン、迷彩アリだ」
『ええと、何がというわけなんだか』
「きっと一番強い、理由はそれだけだ」
『ふ、ふふふ』
俺のシンプルな宣言に、クミンは少し困ったような雰囲気を見せていた。
だが、少しだけ苦い笑い声はしても、嫌がる素振りは見せていなかった。
「じゃあ端末くん。進化をお願いできるかな?」
『警告:テイムモンスターを進化させた場合、契約条件のコストCPが増加する場合がございます。上昇値をご確認の上、あらためて意思決定を行なってください』
「おう?」
言われてみるとそうか。
今のコスト10というのはワーカーアントをテイムするためのコストで、種族が進化するならコストもそれ相応に増える。納得はできる。
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種族:ワーカーアント→迷彩アリ
コストCP:10→18
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ずいぶん中途半端に上がるな、と思ったら端末くんから補足が入る。
『テイムモンスターを自身で進化させた場合、相手との友好度に応じてCP譲渡効率に変化が生じ、コストに影響を与える場合がございます』
「じゃあ、安くなってるってこと?」
『一般的な迷彩アリの必要コストはCP20です』
ということは、クミンの好感度がちょっと上がって一割引になっているということか。
ウサギ肉賄賂を渡した甲斐があったというものだな。
『なお、友好度の悪化によりコストが高くなる可能性もございますのでご注意ください』
ゾンビ肉は、今後冗談でも出すのはやめておこう。
変化するCPを確認したが、許容範囲なので俺はクミンの種族進化にOKを出す。
そのあと、レベルアップの時もそうだったが俺の中に溜まっていたらしいEPが一度端末に吸い込まれていき、今度はそれが黒色の粒子になってクミンへと向かってく。
それが収まったクミンは、なんだろう。
さっきよりもちょっとだけ黒っぽいというか、艶消しした感じになっていた。
『テイムモンスター:クミンの種族進化を完了しました。詳細は以下のステータスをご確認ください』
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クミン
迷彩アリ
レベル10
HP82/166
CP28/129
力14→18
魔16→20
体14→18
速16→24
運14→18
【セットスキル】
[パッシブスキル]
甲殻(蟻種) 嗅覚(蟻種) 怪力(蟻種)
壁歩き(蟻種)
《迷彩アリの心得》
[アクティブスキル]
掘削 加工 牽引
【テイム条件】
1.コストCP18
2.ウサギ肉1個/1日(保留中)
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「おお。かなりのステータスがアップしてる!」
召魔忍者より控えめだが、あれはぶっ壊れすぎていただけだろう。
それを抜きに考えても、なかなかの成長率ではないだろうか。
なにより、耐久のステータスはやっぱり俺より高いのが良い。
いざという時の壁役はまだクミンがギリ適任である。
「この《迷彩アリの心得》ってもしかして複合スキルか?」
そんなステータスの中でも異彩を放っていたスキルを一つタップしてみる。
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《迷彩アリの心得》
影に潜むアリ種のスキルを集めた複合スキル。
『気配察知』『潜伏』『隠密』『忍び足』『迷彩』『暗殺』を内包する。
複合効果:閉所では効果が微増する。
コストCP:(40:種族特性として計上済み)
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「廉価版《闇夜と死の徒》だな」
内包しているスキルの数は少ないが、その分ちょっと安い。
そしてちょっと安いということは、今後スキルを習得していってもこの中に含まれるスキルはあまりないということだろう。
もしかしたら、この時点で完成系の可能性もある。心得だし。
「というわけで、生まれ変わった気分はどう? クミン?」
種族進化をしてから、感動しているのか言葉を発さずにいたクミンに尋ねてみると、クミンはちょっと声をわなわなさせながら返した。
『う、ウチなんかこう、力がどばーっと溢れてきて変な感じです!』
「そうかそうか」
『必死で押さえてないと、今にも走り出しそうで!』
「ちゃんと帰ってくるならちょっとくらい走っても良いぞ」
『!』
言うが早いか、クミンはその溢れる喜びを隠そうとせず、ビューっと今までよりずっと速い足で駆け回り出した。
なんというかあれだ。
犬だ。すごい犬っぽい。見た目は純度100%のアリさんなのに、やってることが犬っぽい。
あれかな、ほぼ性能的に忍者になったから主人に仕える的な要素が芽生えて、結果的にちょっと犬っぽくなったとかなのかな。
さて、後はもう寝るだけだと思っていたが、クミンの種族進化までできたとあらば、寝る前に一回だけ挑戦してみるのもアリか。
幸い、切り上げた時点でCPには余裕を持たせてあったからな。
(それじゃクミン、今回マインは曲がり角のすぐ近くに仕掛けるから、気をつけるんだぞ)
『はい!』
寝る前の最後の一回。
俺たちは適当に気配を捕まえたスケルトン六体の討伐に赴いていた。
今度のは、俺が今の今まで避け続けていた相手。
前衛3、後衛2、そして斥候1の組み合わせ。
そう、現状、最も狩りにくいと思われる、三種の複合パーティだ。
今までのクミンであれば、天井に登っても即座に斥候に発見されていた。
だが、迷彩アリとなり隠密スキルが増した彼女ならあるいは……。
なに、ダメなら二人、ダッシュで逃げるだけだ。
(よしCP20でセット完了。俺が出るぞ)
『それじゃ、準備してきます』
言うが早いか、クミンはさっと壁を登って俺の視界から消え失せる。
俺はそれを確認したのち、まだ少し距離のあったスケルトンパーティにその身を晒す。
「やーい! お前の母ちゃん鶏ガラスープ!」
繰り返すが、煽り言葉に特に意味はない。
斥候が即座に気づいて、後ろとの連携もそこそこに突っ込んできている、そういう足音がする。
俺は反応が見えた瞬間には曲がり角に引っ込んでいた。
ほどなくして、斥候がすぐに俺を追いかけて角を曲がってくる。
俺の役割は、今回はあえて身を晒すこと。
斥候は俺を見つけると、カチカチと歯を鳴らしながら一心不乱に追ってくる。
何も気づいていないな。マヌケめ。
それから少し遅れて前衛、さらに時間差で後衛のパーティが姿を現したところで、俺はマインを起動した。
「ガガガ、カチカチカチ」
「キキキチチキチキチ」
炎に焼かれた前衛後衛がそのまま火葬されていく。
しかし斥候は、そんな消えゆく仲間たちに一瞥くれることもなく、まっすぐに俺へと向かってきた。
そうだ。お前はそういうやつなんだ。
斥候は一番クールじゃないといけないのに、敵を見つけてしまうと視野が狭い。
今まではそれでもスキルでなんとかなってきたんだろうが、今回はスキル頼りじゃ足りないんだよ。
だから、こうなる。
『おしまいです』
「ギギ!?」
斥候は天井という死角から襲いかかってきたクミンから完全な不意打ちを喰らい、ハサミの一撃でその頭と胴体を分離させた。
まぁ、それで本当に死ぬのか自信はなかったのだが、どうやらゾンビと同じように頭がなければ動けないタイプだったらしい。
『でも一応、トドメは差しておきますね〜』
そう言ったクミンは、残った胴体の胸の中心、生前だったら心臓があったあたりも骨ごと豪快に砕いた。
後に残るのは、バラバラの白骨死体と火葬された白骨死体だけ。
それらは、成仏のタイミングを思い出したようにスルスルと光の粒子へと変わっていく。
まぁ、行き着く先は天じゃなくて、俺たちの経験値だけどな。
『ウチ、どうでした?』
「超パーフェクトだクミン」
『えっへへ〜』
こうして、迷彩アリに進化したクミンは、俺の補助があれば完璧に斥候タイプの索敵から逃れられることが分かった。
ここに、三階層のスケルトン狩りは完成を迎えたのである。




