第58話 ロードマップ
(クミン。頼むぞ)
『わかりました』
テイマーとテイムモンスター間の意思疎通に実際の発声は必要ないらしい。
俺がクミンに向けて伝えるつもりで念じれば、クミンにはそれが伝わる。
有効距離などはまだ検証していないが、ひとまず声が届く程度の距離であれば問題はないようだ。
俺がマインの設置をして、クミンは自分のフェロモンでマーキングをする。
こうすることで、俺たちだけは罠の場所がわかる。万が一でもクミンを巻き込むわけにはいかないからな。
罠の設置を終えれば、あとは狩るだけだ。
(相手は前衛3、後衛2。マイン一発で焼き払う予定だが、もしものときは)
『生き残っている相手に、ウチが後ろから攻撃ですよね?』
(グッド)
作戦と呼ぶほどでもない手順を共有し、あとはクミンが上手くスケルトンを釣ってくるだけ。
剣、斧、斧、弓、杖という組み合わせは今まで狩ったことはないが、成功を確信している。
それくらい、クミンはよく仕事ができるアリさんだった。
召魔忍者のレベルアップに必要なEPを見た俺は、即座にこれからの優先順位を変更した。
すなわち、自分のレベルアップを一度諦めた。
2000EP使ってレベルを1上げるくらいなら、新たなスキルを覚えるか、クミンの育成に回すか、あるいはCP回復薬を買い込んだ方が有意義だろう。
というわけで、目下の俺たちのロードマップはこんな感じ。
1.クミンのレベルを上げて一週間後の作戦に参加できるようにする。
2.弓持ちのスケルトンからドロップを狙い、マトモな弓を手に入れられるようにしておく。
3.俺のスキルを充実させる(特に土石魔術や忍者関連スキル)
4.三階層のマップを埋め、四階層への階段を発見する。
5.もし四階層でさらに効率的な狩りができるなら狩場を移し、俺のレベルアップを考える。
6.期限が近くなったら、南小コミュニティへの武器を買い集めるためのEPを確保する。
一応、理想を書き出してみたが、現実的には三階層のマップを埋めるくらいまでで、四階層は下見ができれば良いくらいだろうな。
四階層の敵も分からないのに、さらに効率的な狩りを、と考えるのは取らぬ狸の皮算用もいいところだ。
というわけで、最初にゾンビの階層である程度ゾンビ狩りをし、クミンのレベルを5まで上げた。
ゾンビからのEPだけでは早期のレベリングは厳しかったが、ドロップアイテムが運良くポンポンと落ちたのでなんとかなった。
今のクミンのステータスはこんな感じ。
──────
レベル5
HP 70/98
CP 19/43
力12
魔5
体13
速10→13
運5→11
──────
運については上げる必要が本当にあるか端末くんに確認して、その必要があると判断した。
なんでも、モンスターを倒した時に誰の運が参照されるかについては、戦闘の貢献度に応じたランダムという話だった。
運を無視してクミンの前衛系ステータスを上げて、壁役として活躍できるようにすると、反比例的にドロップアイテムの落ちる確率は低くなってしまうということだ。
最終的に自分たちの首を絞めるのなら、大人しく全員の運を上げておくことにした。
ついでにクミンにも一度素直にゾンビと戦ってもらったのだが、彼女の攻撃は体当たりか、ハサミで掴んで振り回すというパワフルなものだった。
アリの体高の低さを生かして、ゾンビを足から崩していく戦い方は見事である。俺も普通に戦いたくない。
なお、一応聞くだけ聞いておこうとクミンに「ゾンビ肉食べる?」と尋ねたら『上杉さんはウチのこと嫌いなんですか?』と悲しげに言われた。
アリさんでもゾンビはNGだったらしい。
というわけで、最低限のレベリングを終え、CP回復薬を買う分のEPもある程度貯めたところで夕食どき。(クミンにはゾンビの詫びになけなしのウサギ肉進呈)
夕食を終えてから改めてスケルトン狩りへと向かったわけである。
後衛を巻き込むことを考慮しつつ、マインに込めたCPは前回と同じ20。
それだとまた弓や杖を取りこぼすのでは、と思うかもしれないが、そこは称号の効果だ。
魔の女神様からもらった『魔道の探求者:序』により、俺は魔術を扱う際のCP効率が上昇している。体感で1割削減程度だろうか。
だから、同じCP20でもより効果範囲の広いマインを設置できるのである。
加えて、俺の魔のステータスの向上によってさらに効率は上がっているので、下手すればCP15で足りるようになっているかもしれない。まだ検証前だが。
そうこうしているうちに、スケルトンを釣りに行ったクミンが顎のハサミで石床をガリガリ削って威嚇していた。
スケルトンたちの怒りの歯ぎしり、続いて足音が聞こえる。
俺は少し離れた位置で壁に沿うようにして気配を殺し、クミンは即座に曲がり角から戻ってくると、床に伝い、天井まで登っていく。
少しして、スケルトンの前衛集団が現れるも、走っている勢いを次第に殺してキョロキョロし始めた。
そう。奴らは目標を見失うと立ち止まってあたりを見回す習性がある。
そうしていると後衛も追いついてきて、前衛と合流する。
こうなったら、ただでさえ範囲を広げたマインのいいカモだ。
俺は奴らの歩みをじっくりと観察し、ここぞというところでマインを起動。
一匹の漏れなく、やつらを火葬してみせた。
断末魔の代わりに歯をガチガチと鳴らしたスケルトンたちは、光の粒子になって消えていく。
「なんというイージーゲームだ」
真正面からやりあったら、おそらくタダではすまないだろうスケルトンの群れではあるが、こうやって罠にはめてしまえばいとも容易い。
加えて、クミンのおかげで危険度まで下がったとあれば、もうスケルトンはただのEPにしか見えない。
「ま、それも斥候抜きならの話なんだけどさ」
と、粋がってみたはいいが、こう上手くいくのは奴らが斥候なしのパーティだからだ。
ここに斥候が入るとどうなるか。
まず、斥候は曲がり角を曲がったところで、すぐに天井に居るクミンの姿を看破する。
続いて、奥に潜んで居る俺の姿も見つける。
この時点で作戦は半分失敗だ。
あとは後衛と前衛の数次第だが、後衛がいればクミンは集中砲火を受けるだろう。
一度試したときは斥候と前衛のみのパーティだったから、クミンへの攻撃が武器を投げるくらいしかなく、なんとか無事に済んだ。
ただ、クミンの怯えた悲鳴は今でも耳に残っているので、斥候入りのパーティを襲うのはひとまず保留にしているのだ。
「とはいえ、斥候入りを避け続けても効率が悪い。なんとか、奴らも一網打尽にできないかね」
と、独り言をこぼしていたところで、マインの火が消えたのを確認し、俺は戦利品の確保に向かう。
俺が近づくと同時に、天井からクミンが落ちてくる。
『どうです? ウチ、役にたってます?』
「パーフェクトだクミン」
『えへへ』
手放しでクミンを称賛すると、彼女は嬉しそうに触角をくねらせた。
見た目はやっぱりアリさんなのだが、声だけ聞いていると可愛い女の子がここにいるように幻視してしまいそうだ。
さて、クミンを褒めるのもほどほどにドロップを確認するが、今回は何も落ちていなかった。
体感だが、クミンが加入してからドロップ率がわずかに落ちている気はする。
囮の貢献度が思いの外高く設定されているのか、単純に運が悪いだけなのかは分からない。
『アイテム、残念ですね』
「なに。EP効率自体は上がっているから問題ないよ」
事実、簡単に前衛後衛のパーティを狩れるようになって、時間あたりの効率も、CPあたりの効率も上がっている。
あとは数をこなすだけ。クミンの運ももう少し盛ってやればさらに効率は良くなるだろう。
「さて、三階層の探索に戻ろうか」
『はい!』
戦闘を終えれば、すぐに探索に戻る。
CP回復薬を買い込めることに気づいてから、俺は測量スキルを発動しつつのマッピングを再開していた。
三階層は二階層に比べて明らかに広い。
まだ四階層への階段はおろか、三階層の端らしき部分にも到達できていない。
ダンジョンが三階層から本番というのも、頷ける話だ。
「とはいえ、そろそろ端に着いても良さそうなんだけど」
現在地から端末に戻るのにも、歩いて2時間はかかるかというくらいだ。
元のダンジョンは階層での長居を禁じていたのだから、ちょっとした探索に何時間もかかるようにはなっていない、と思いたい。
その辺はダンジョンのさじ加減だからな。
と、そんな時だった。
俺の気配察知に感あり。
(クミン、ストップ)
『はい』
俺は、自分が感じた気配に応じてクミンの足を止める。
クミンを待機させたまま、俺は忍び足で進む。
歩いていた通路の先には、通路からつながる広間が見えた。
複数の気配も、その広間から感じられる。
(なんか、一階層で似たようなのあったよな?)
そう、嫌な予感を覚えながら、俺はそっと壁に沿うように進んでいって、広間の中を伺った。
まず、階段があった。
探索を終える前に、四階層へと続く階段を見つけてしまった。
これは嬉しい誤算だ。
だが、それだけではない。
(ひい、ふう、みい……12体!?)
階段の前の広間には多種多様なスケルトン合わせて12体が、階段を守るようにひしめき合っているのだった。
しかも、斥候も三体……いや。違う。
(もしかしてあれ、忍者型じゃね?)
斥候型の中でもひときわ強い気配を放っているスケルトンを見て、俺は思わず心の中で呻いた。
斥候の攻略方法も見えてないのに、上級職出すなよ、クソダンジョンめ。




