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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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52/166

第52話 茨の道



「はは。笑うしかねえなこれ」


 端末で表示したとある数字を見て、俺は思わず空笑いをこぼした。

 何が笑うしかないかと言われたら、そう。

 俺の現在のHPである。


  HP 2/134


 なにこれ、死にかけ?


「いや流石におかしいだろ。そりゃ俺が紙防御な自覚はあるけど」


 これでも初期ステから比べたら確か+3はされてるんだぞ。称号とボーナスのおまけ振りで。

 ……いや10レベル上がって3はねえな。紙だわ。

 そもそも当初の予定では無振りだったしな。

 いや、でもそれでも元の貧弱な一般大学生ボディに比べたら随分頑丈になったわけじゃん?


「ちょっと相手の攻撃痛すぎないか?」


 俺のイメージとしては、第三階層の適正レベル的にはだいぶマージンを取っているつもりだった。

 世界がこんなになる前のネットの情報では、第三階層に挑む人たちはレベル4から6とかそこらだったし。


 仮に俺のステータスが紙だとしても、斥候のナイフ攻撃二回と、弓矢の良いの一発でHP消し飛ぶのは火力おかしくないか?


『それは上杉様が、いつまでも防具を何一つ装備していないからではないかと』


 俺の疑問を拾った端末くんが、当然のようにそう言った。


「重ね着はしてるんだけど」


『システムに認証される防具を装備しない限り、HPへの影響は全て防具無しの状態と同様に判定されます。従いまして、上杉様の現在の装備は素手に裸であるのとほとんど差異はありません』


「先に言ってよそういうの」


 なんで知らぬ間に裸縛りプレイしてることになってんだよ。

 そりゃ神々も変な目で見るわ俺のことを。


「でも、今まで防具とか入手できそうな手段が存在しなかったよね?」


『武器、防具、およびアクセサリーの類は、ダンジョン内で製作するか、ダンジョン外で作成されたものでも、私達端末に登録することで装備品として認識されます。例えば、鍋の蓋でも持ってきて少し加工すれば盾として認証する、といったことも可能かと』


「ええ……」


 それで良いんならさっさとやってたよ。

 というかそういう製作とかのスキルもあるのか。

 確かに今まで戦闘ばっかり考えてたけど、よく考えたら探索系のスキルとかも俺たくさん持ってるし、そういう方面だってあってもおかしくない。

 将来的には、武器防具、アクセサリーの自作なんかで装備を整える日が来るやもしれん。


「……アクセサリーか」


 俺の記憶に苦いものが走った。

 もし、時間があるのなら、とも少し思ったがそもそも作り方を知らない。

 余裕があるときに頭の片隅で思い出せれば、と俺はその苦味をしまった。


「じゃあ、俺が今着てる服も登録できるの?」


『できますが、普段着は基本的にステータス補正0なので意味はありません』


「そう上手いことは行かないか」


 そも、登録して何か変わるような装備をしていたら、この端末も俺に最初に装備登録を提案してきてもおかしくない。


『本来であれば、もう少し後でモンスターの素材の一部ドロップ機能が解禁された際に、そういう製作スキルも日の目を浴びる予定であったものかと』


「あー、食料の対応が早いと思ったけど、すでに用意してあったものを流用したのか、あの設定は」


 あの設定とは、モンスターを倒した時にEPの代わりに肉体の一部が残るという設定の話。

 元々は、人類がダンジョンに慣れてきたあたりで解禁されて、モンスター素材製の装備が作られるようになる、みたいなロードマップだったのだろう。


 それが、ゾンビ災害のおかげで先倒しになった。

 本来なら、素材の価値は部位やモンスターごとに様々だっただろうが、食料をとりあえず優先させた(あるいは限定解除した?)せいで、うまく噛み合わず地獄のような食料しか出ないダンジョンが残ってしまっていると。

 こことかな!


「つまり俺は、結局紙防御のままってことだ」


 紙防御というか、ステータス的にはノー防御である。

 自分からノーガードで殴り合いしておいて、HPの減りが早いと文句をつけるのはただのクレーマーである。

 良いんだ。もともと殴り合いは専門外だ。そうなる時点で俺のミスだ。



「まぁ、今はいい。とりあえず、本題本題っと」



 減りすぎだったHPから目を逸らし、俺は溜まっているEPを見る。

 元から持っていたEPが66(なお、ミミックは1EPも寄越さなかった)で、CP回復薬に60使い残ったのが6EP

 スケルトンの討伐が合計18体。

 ドロップアイテムが1個。


 6+18×24+240=678。


 ドロップアイテム分で完全におまけが出来ているが、これでジョブを購入する代金は揃った。

 午前中で集まるとは、CP回復薬ドーピングは可能性しかない。




「さて、端末くん。ジョブ習得画面を開いてくれ」




 さっきまでのやり取りはどこへやら。

 端末くんは静かに、以前見たのと変わらない選択肢を表示した。


 ──────


【ジョブ習得】

 所持EP:678


 現在のジョブ:ノービス(無職)


 習得可能ジョブ:


 戦士:0EP(救済ジョブ)

 魔法使い:0EP(救済ジョブ)

 僧侶:0EP(救済ジョブ)

 斥候:0EP(救済ジョブ)

 弓兵:0EP(救済ジョブ)

 暗殺者:200EP

 魔法戦士:200EP

 罠師:200EP

 狩人:200EP

 ギャンブラー:200EP

 忍者:400EP

 テイマー(サモナー):400EP


 ──────



「400EPだな」


 変わらず、俺を悩ませた二つのジョブは値段が400EPのままである。

 他に比べたら明らかに高いと思うが、魔術の値段を考えるとそこまで暴利ではない。

 なんなら、オートマッピングの2000EPを超えるスキルはまだ出てきていない。


『上杉様は、もう選択されたのですか』


「まぁ、な」


 そう、俺はすでに心の中で答えは決めている。

 だが、その考えをあえてもう一度口にする。

 今度は端末くんにも、静かに聞かせるように。



「俺は、テイマー(サモナー)を選ぶつもりだ」


『そう、ですか』



 俺の選択に、端末くんはこれまた静かに返した。


『ということは、上杉様は自身は一歩引き、テイムモンスターを戦わせる方向にシフトするのですね? テイマーはそれでも、目に見える弱点としてモンスターから狙われる危険を伴う職業です。十分にお気をつけて』


 端末くんは、テイマーの特徴を端的に述べ、それでも俺の選択を尊重するように言った。

 だが、俺はそれに待ったをかける。


「まて端末くん。俺はテイマーを選ぶが、戦闘方法を変える気は全くないぞ?」


『…………はい?』


 端末くん、渾身の困惑ボイスである。

 多分、本心からAIが戸惑っている貴重なシーンだ。


 だが、俺はしっかり考えたのだ。

 そもそも、このジョブの選択で俺の戦い方にどんな変化があるのか、と。


「俺は今まで通りの戦闘を続けるつもりだ。テイムモンスターは、現在の戦い方の手札の一つに加えるだけだな」


『ということは、自身もまた前に出て戦うつもり、だと?』


「いやまぁ、元から前には出てなかったから、今まで通りの暗殺スタイルを変える気は全くない、とだけ」


『…………すみません。どうしてそういう結論に至ったのかがわかりません。ではなぜ、忍者を選ばないのですか?』


 端末くんがそう言うのも分かる。

 俺が戦闘方法を変える気がないのなら、テイマーよりも忍者の方が向いている。

 少なくとも、端末くんはそう思っている。

 だが、それが根本から間違いなのでは?


「そもそもさ、このジョブの選択って忍者とテイマーってなってるじゃないか? でも、少しその考え方って間違っていると思うんだよね」


『間違い……ですか?』


 そう、俺は気づいてしまったのだ。

 このジョブ選択は、忍者とテイマーを選ぶものではないのだ。




「だって俺、すでに忍者みたいなもんじゃん?」



『…………え?』



「だから、俺の戦い方からして、すでに職業は忍者みたいなものなわけよ。それってもう、これからジョブをどう取るか以前の話なわけ」




 俺が今まで悩んでいたのはなんとなくこんな思いがあったからだ。


『忍者を選べば、これまで通りの戦い方が強化される』

『テイマーを選べば、これまでと違った戦い方が主になる』


 だが、その前提がちょっと違うぞと気づいた。

 そもそも、ジョブのない現時点で忍者の真似事をしているのだから、正しくはこういう話なのだ。



「つまりだ。今の俺のスタイルが忍者なわけだから、このジョブ選択は、正統進化する『上忍』になるか、口寄せの術に特化した『口寄せ忍者』になるか。そういう話だったんだよ」



 忍者になるかテイマーになるか。ではないのだ。

 俺はすでに忍者(自称)なのだから、正統進化するか派生職ルートに進むかという話だったのだ。


「そして俺は決めたわけだ。ここはステータスの正統進化ではなく、特殊技能が増えるエクストラ職の方の忍者を選ぼうと」


『……上杉様。念のためお聞きしますが、なんらかの状態異常を受けているわけではございませんよね?』


「いたって真面目だ」


 俺は先ほどの事実に気づいた時に天啓を受けた。


 正統進化ルートは確かに王道だ。

 王道であるがゆえに、そういう職業は長所は長所のまま、短所は短所のままになりやすい。


 逆に、派生職ルートは一見邪道である。

 直接的な能力は王道ルートより劣ることが多い。

 だが、そこで生えてくる特殊なスキルは、普段はその職業では攻略できないような難所を意外な手で攻略させてくれたりする。


 例えば、直近で戦うことになっている『なれはてたものたち』との戦闘を見据えたとき。

 テイムモンスターを囮に使えるかどうかは、とても重要な要素な気がしてならない。



『上杉様は現在。自分が忍者であると思い込んだ状態で、茨の道を進もうとしているようにお見受けします』



 端末くんは、俺の考えにあまり賛同できない様子だった。


 いや、もちろん俺だってわかっている。

 これは俺が自分を納得させるために考えた理論だ。


 テイマーはやっぱりテイマーだし、忍者のつもりだろうと及ばないことなどたくさんあるだろう。

 だが、それは、俺が今まで培ったものを捨てる理由にはならない。


「端末くん。俺はとっくの昔に、自分の命はベットしてるんだ。モンスター相手にビビることはしょっちゅうでも、命可愛さで日和った選択はしないと決めている」


『…………』


「俺の覚悟があれば、ジョブが忍者でなくとも今の戦い方は続けられる。テイマーになれば、そこに追加で手札が増える。だから、俺はその道を選ぶ。そういう話なんだ」


 結局、ジョブはあくまで能力の傾向を決めるものでしかない。

 俺がノービスの間に培ったものは、そのまま俺に残る。

 それはテイマーを選んだところで消えるわけじゃない。

 だったら俺は堂々と、忍者の真似事をしながらテイマーをこなしてみせる。



『承知しました。上杉様の選択を尊重いたします』



 端末くんは、そう言ってテイマーの画面を開いた。

 冷静に考えると、ここでわざわざ端末くんを説得する理由は特になかった気もするが、個人的なアドバイスをくれた彼(彼女?)の思いに報いるためには必要だったと思う。



「よし。選ぶぞ」



 俺はテイマーとして表示されている説明文をもう一度読む。


 ──────────

 テイマー(サモナー):400EP


 モンスターの力を借りて戦う特殊職。

 契約したモンスターの種類によりあらゆる状況に対応できるが、弱点は常にあなたである。

 個の集まりとなるか、群となるかはあなた次第である。

 CP、魔、速、運に成長補正。


 習得条件1:モンスタースキルを合計100時間以上使用している。

 習得条件2:生態系に関わる称号を持つ。

 習得条件3:魔、速、運がそれぞれ16以上。

 ──────────


 読めば読むほど、どこにも自分で罠を仕掛けろとか、奇襲しろとか、隠密しろとかそういうことは書いていない。

 だが問題ない。ノービスでできるんだから、テイマーになったって問題なくできる。

 そもそも俺の複合スキル《闇と死の徒》はジョブに依存しているスキルでもないし、そこに必要な技能はだいたい詰まっているのだ。


 俺はこの画面で一度深呼吸する。

 自分で迷いなく選んだつもりでも、心臓の鼓動は否応なしに高まっている。

 ……さらばだ忍者よ、デュアルジョブが解禁されたときに、また会おう!



「では、ポチッと……あれ?」



 そして、俺が意を決してジョブの購入に進もうとしたところで、




 端末くんの表示がぶつんと切れた。




 俗に言うブルースクリーンみたいな状態になる。


「端末くん?」


『申し訳ありません。ただいま緊急の申請が入りました。少々お待ちください』


 とりあえず、端末くんが平気なようで良かった。

 そう思っていたところで、端末くんはちょっと余裕のなさそうなことを言い始める。



『──もうしわけありませんが、その申請は却下させていただきます。特定個人への過度な干渉は、人類の可能性を阻害する危険が高いとして禁止されたとご存知のはずです。それはひいては皆様の目標達成の障害にすらなりうることです。もし要望を通したいのでしたら、規定通りお二方を含めた六柱以上の認可をもって新たに申請を──え、認可を集めた? 少々お待ちください──そんなバカな。……失礼しました。提案事項として承認されました。ただし、可能性を狭めることは許されません。あくまで選択肢の一つとして加わるだけであり、それを選ぶも選ばないも挑戦者の自由であることは、深くご理解ください。失礼します』



 なんか怖いことを、ぶつぶつ言っている端末くんだ。

 これ、多分俺に聞かせるつもりで言っているんじゃなくて、あまりにも余裕がないから思わず口に出てしまっているとか、そんな感じな気がする。


 そんな端末くんは、先方に別れの挨拶を告げたあと、本当に、本当に珍しく、端末のくせにどこか疲れた感情を滲ませながら、こう言った。





『上杉様。一件のお知らせがございます。確認しますか?』

 


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