第50話 土石魔術と選択
『精査が完了しました。アイテム名称『【初級魔術・土石】の魔術書』です。アイテムとして使用することで、使い切りで土石の初級魔術を発動できるほか、納品することでスキルリストに『土石魔術(初級)』のスキルを追加することができます』
「イエス! 納品お願い」
『かしこまりました』
ミミックが落とした魔術書らしきアイテムを、俺は三階層の入り口にある端末に鑑定して貰った。
出た結果は『土石魔術』の魔術書だ。
避難所で救済ジョブの魔法使いが覚えられる、魔術の種類は聞いてあった。
まずは俺も覚えている火力特化っぽい火炎魔術。
次に、最も生活に直結するだろう氷水魔術。
いまいち何に使うのかふわっとしている衝風魔術。
そして、便利な割に地味な土石魔術。
錬金術の四元素に似た属性魔術が、魔法使いの選択できる魔術だとのこと。
この中で、評価が高いのは氷水魔術だ。
なぜかと言えば、いつ水道が止まるのかもわからない状況で飲み水の確保ができるというだけで、その価値は天井知らずだからだ。
次にガスの代わりになる火炎魔術が評価され、あとは土石魔術がバリケードの構築とかに使われるとかなんとか。
衝風魔術に関しては、南小で取った人間が一人もいなかったので詳細は不明だ。
かくいう俺も氷水魔術が一番欲しかったのは間違いない。
水の確保は俺にとっても大いに死活問題だ。
水はまだ自宅の方にストックはある。だがいつまで続くかは分からない。
雨水採取装置を作成できれば、自然からの補充が可能になるが、当然天候に左右される。衛生面もやや不安。
最悪は近所の川で汲んで来るという手もあるが、今の時期だとだいぶ干上がっているし、こっちも水質に大いに不安があるが。
そんなこんなで、水については悩みどころが多い。
そうやってまとわりついてくる問題が、魔法一つ覚えるだけで綺麗に解決してしまうのだ。
なにより、水がいつでも生み出せるなら、ストレージの空きが1個半は増えるのがとても大きい。
と、散々水魔法の有用性を述べたが、土石魔術も十分に嬉しい。
土石魔術はざっくり言えば土属性魔法で、初級だと石を飛ばしたり、地面を固めたり、石の壁を作ったりなどができるのだとか。
ただ、こちらも初級だと消費CPの上限は30であり、思ったほどすごいことはできない、という話だった。
いきなり石の城を作るとかはまず無理だと。
それでも、俺はやっぱり嬉しい。
咄嗟に石の壁を張れるだけで、普段着でダンジョンをブラブラしている俺の防御能力の向上に一躍買ってくれそうな気がする。
あとは、ダンジョン内の拠点づくりにも貢献してくれるのではと期待している。地べたに寝袋のスタイルは、腰が痛くなるのだ。
土属性といえば、生活環境構築やインフラ作りに最適と相場が決まっている。
「まぁ、問題は値段だが」
と、土石魔術の可能性に思いを馳せてみたところで、現実的な問題がある。
そう、値段だ。
火炎魔術の値段を思い出すと、あまり素直に喜べなくなってしまう。
『【初級魔術・土石】の魔術書の納品を確認しました。一部スキルが解放されます』
端末くんに預けていた土石魔術の書が光の粒子になって消える。
と同時に、俺はスキル習得画面から土石魔術を表示してもらう。
──────
土石魔術(初級):400EP
初級の土石魔術が発動できるようになる。
魔術は発動者が任意に開発、登録し、セットした中から選択する。
魔術のセット数、及び性能は魔のステータスの影響で変動する。
魔術の性能に応じて消費CPは変動する。(初級魔術の場合最大30まで)
──────
「やっぱ400EPかぁ」
想像していた通りではあるが、それなりの値段がした。
この魔術の値段を思うたびに、ゾンビ狩りの苦痛とグールの恐怖を思い出して渋い顔をしてしまう。
とりあえず、現時点でのEPは道中でゴブリンとゾンビを辻切りした分だけ。
ゴブリン7体と、ゾンビ4体、それにゴブリンからのドロップアイテム一個で、合計66。
とてもではないが、ジョブや土石魔術をお買い物するには足りていない。
ジョブは忍者、テイマー(サモナー)がともに400EPで、土石魔術も400EP。
少なくとも400EPは稼がないと、何も選ぶことができない。
「まだ、ジョブのどちらを取るかも決めてないのに、選択肢が増えてしまった」
現状では、スケルトンの相手をするのに土石魔術を追加する予定がないので、ジョブの習得を優先するつもりだ。
だが、そのジョブの段階で、未だに俺はどちらを選ぶのかを決めかねている。
目下のところ怪物──『なれはてたものたち』を相手に囮役をするのに、どちらが良いのかを詰め切れていない。
「やっぱり、ジョブの性能が分からんところには、ってのはあるよな」
残されている時間は少ない。
だが、少ないからと適当に選択して、その結果作戦に支障を来すようなことがあると問題だ。
さらに問題なのは、怪物戦を突破しても、さらにダンジョンを潜ることになったとき、そのジョブがかみ合っているのかという懸念があること。
南小のコミュニティと協力できたはいいが、そのせいでダンジョンに潜るための選択ができないのでは本末転倒だ。
茉莉ちゃんの状態も、いつまでこのままでいてくれるかは分からないのだから。
「…………端末くん」
不意に俺は、端末へと声をかけていた。
答えが出ていないことを、誰かに話すことでふっと答えが見つかることがある。
そんな気づきが得られないかと思った時、話ができる相手が端末くんしかいなかった。
『はい?』
「少しだけ、相談に乗ってくれないかな?」
『相談ですか?』
端末くんは困惑の様子を見せたような、それすらも淡々とした演技のような返事をした。
間違いなく、不思議には思われている。
まあいい。俺も実際に有意義な会話を期待していたわけじゃない。
壁に話すよりはマシだろうくらいの気持ちで、端末くんに話しかけただけだ。
「忍者とテイマー。ダンジョンに挑むとしたらどっちがいいんだろうか」
『それは、上杉様個人の性質に依るところが多分に含まれているため、一概には言えないと思われますが』
端末くんは当たり障りのない返事をしてくれる。
気まぐれだろうと、俺の思索に付き合ってくれるのはありがたい。
「自身の戦闘能力という観点では忍者だと思うんだ。単純に、敵に狙われない能力が伸びるのは生存につながる。ステータスもきっとテイマーよりも高い。死にたくないという俺の根源的な願いに直結するのは、忍者の方だと思う」
『そうですね。一般的に前衛職も兼ねられる忍者は、生存に重要なステータスが上がりやすいものと考えられます』
忍者の利点は、まず隠密能力が高くなるだろうこと。
次に、直接の戦闘能力が高くなるだろうこと。
罠や、火遁──火炎魔術などの適正も十分に有しているだろうこと。
つまり、今俺がやっているようなことと純粋にマッチしていること。
単純な自分の能力アップ、純粋な生存能力向上なら、こちらに軍配があがる。
「テイマーについては真逆だ。自身の強化ができない代わりに、それを補える存在を用意することができる。もし、この先、自分だけではどうしようもなさそうな場面に直面したとき、別の方向から解決できるかもしれない。そういう可能性に満ちているのは、テイマーの方だと思う」
『テイマーのステータスは、一般的な後衛職と遜色ありませんね。自身の生存に関わる事柄を、テイムモンスターなどに依存することになると思います』
テイマーの利点は、ソロとは比較にならないほど手数が増えるだろうこと。
自身の戦闘能力を犠牲にして、対応力を高めるイメージに思える。
今まで培ってきた技能とは別方向の技能も要求されるだろう。
単純に自分の能力アップで考えると微妙だが、ダンジョンの探索能力向上を考えれば、テイマーの方にも魅力を感じる。
「両方を取れれば一番いいんだが」
『ジョブの複数選択に関しては、攻略進度に応じて情報が解禁されます』
「いや、今ので十分だ。いずれ解放される目があるって教えてくれてありがとう」
どうやら、端末くん的にこのあたりは教えてもいい情報になったようだった。
となるといずれ、メインジョブとサブジョブという形で二つを組み合わせる日がくるかもしれない。
だが、それはいつかの話だ。
残念ながら、少しでもミスれば一発ゲームオーバーのクソイベが一週間後に迫っている。
「忍者か、テイマーか……」
なおも迷い続ける俺に、端末くんが言った。
『これは、ダンジョンのシステムとしてではなく、現在稼働している私というAI個人の意見なのですが』
「お?」
それまで、基本的に自我というものを感じさせてこなかった端末くんが、唐突にそう切り出した。
珍しいことだと思った。最初よりは多少仲良くなった気はしているが、それでもこういう意見を言ってくれるほどとは思っていなかった。
俺は、端末くんの中性的な声に、そっと耳を傾ける。
『もし、上杉さまがダンジョンの攻略に詰まった時、他者の力を借りても構わないと思うのであれば、個としての性能が高まる忍者をオススメします。もし、どのような状況にあろうとも、己だけでの突破を望むのであれば、群としての性能が生まれるテイマー(サモナー)をオススメします。ただ、これはあくまでも私個人の意見です。惑わされることなく上杉様が納得のいく選択をされることを願います』
それきり、俺が何を言っても端末くんは自我を見せてくれなくなった。
彼(彼女?)の本心からのアドバイスは、一度きり。
惑わされることなく、最良の選択を選べというが。
システムとしてその先を知るはずの端末くんからのアドバイスを、無下になどできるはずもない。
「よし。決めた」
そして俺は、最初に選ぶジョブを決めた。
あとは、明日以降の狩りでEP400を貯めるだけだ。




