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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第40話 なれはてたものたち



 落ち着け。

 どんどんとペースを上げる心臓と、空回りしそうになる頭に声をかける。

 気配察知の結果、この周囲にはアレ以外の存在はない。

 一度、心を落ち着けるために、離れるべきだ。


(車の、陰だから、大丈夫)


 おそらく、まだアレは俺を見つけてはいない。

 危機感はグリーン。いやイエロー。

 迂闊な行いをすれば危険だが、今はまだ安全。

 体が勝手に逃げたがっているのは、俺がビビっているからだ。


 一度、アレから完全に目を逸らし、身を隠すのに利用していた車の後ろにすっぽりと隠れる。

 荒い息を吐きそうになる体を必死に理性で押さえつけて、俺は音の出ないように深呼吸を繰り返す。

 ドッドッと、よく聞こえるようになった耳にうるさく響いていた鼓動のリズムが少しずつ緩やかになる。


 得られた情報は何もない。

 だが、直感的にわかったことはある。


 最低でも、アレはグール程度には強い。

 肌に感じる怖気が、その証拠だ。

 俺の中で二度と戦いたくないリストNO.1に輝くあの屍食鬼と同程度に、戦うなと本能が告げている。

 俺の成長を加味すれば、グール以上の強敵の可能性も十分にある。


 だが、まだ慌てるような状況じゃない。

 あの時とは違って、俺は奴に手を出していない。

 アレはまだ俺の存在に気がついていない。

 あの怪物は、俺を追いかける気もなければ、食らう気もない。


 パッシブスキルの隠密は正常に働いている。

 まだ、気配察知に変化はない。

 危機感もイエローのまま。

 今、差し迫った危険はない。


 そう判断できると、ようやく頭が現在の状況を整理し始める。

 十中八九、アレがホームセンターの怪物であろう。

 少なくとも、全くの無関係ということはないはずだ。

 あんな気配の怪物が、別にたくさんいるなんて考えたくない。


 と、考えながら、その思考に別の角度から疑問が挟まる。


 でも、もしアレがホームセンターの怪物ならおかしくないか?

 何がおかしい?

 アレがいる場所は、ホームセンターではないぞ。



 そうだ。

 それはおかしい。



 アレがいるのはホームセンターに向かうための橋の上だ。

 決して、ここはまだホームセンターではない。

 ではなぜ、あれは『橋の上の怪物』と呼ばれていない?




 そう思考が進むと同時に、気配察知に動きがあった。

 ゆっくりと、橋の上にいた怪物が、動いている。




 のそりのそりと、歩くように。

 俺のいる、車の方へと向かって。



(バレた!?)



 瞬間、心臓が再び跳ねる。

 全身の毛穴から、一瞬にして冷たい汗が噴き出たような錯覚。

 だが、まだ危機感には反応がない。

 動かなければここは安全だとスキルが言っている。



 気配察知で感じられる、悍ましくも強い気配は、それでもゆっくりと近づいてくる。



 逃げるなら、早い方がいい。

 でも、もし見つかっていないなら、今逃げたら見つかる。



 心は逃げろと言う。

 頭は待てと言う。

 気配は近づいてくる。

 危機感は未だイエロー。



 スキルのもたらす情報と、それを処理する頭が齟齬に悲鳴を上げる。

 逃げたがる自分が、懸命に声を上げて怒鳴っている。



『スキルが正しいなどという保証がどこにある!!』



 俺は答えられない。

 スキルの能力を敵が凌駕しているが故に、スキルが間違った答えを出している可能性は頭にある。



『スキルをどうして信じられる!?』



 スキルを信じられる根拠など、この短い時間で体験したわずかな積み重ね以外にない。

 所詮は出会ってまだ数日も経っていない程度の関係。

 ダンジョンというシステムに植え付けられた、人外の能力にどうして己の命を預けられようか。



『今ならまだ間に合うから逃げよう!!』



 そう、弱気な自分が主張しているのは理解できる。

 怪物は、俺が今こうしている間にも近づいて来ている。

 どう考えても、俺に向かって来ている。



 スキルに振り回された結果、悲劇に見舞われるというキャラを創作で何回も見てきた。

 スキルに振り回され、己の腕を磨くことをやめ、結果として敗北するという敵キャラを何回も見てきた。

 結局、システムに与えられたまがい物より、それを扱う人間の方に本質があるのだという話も何回も何回も見てきた。



 彼らの末路を知っているから、弱気な自分の言いたいことは理解できる。



 だからこそ言える。

 俺にはそもそも、スキル以外に頼れる本質など持ってない。

 スキルよりも優れた本質など持ち合わせてはいない。

 積み重ねてきた努力も、磨いてきた技術もない。



 元から何も持ってないのだから、ただの臆病者の弱気より、血の通っていないシステムの方がまだ信じられる。



 もし、スキルが信用できないのなら、どのみちこの先の冒険は全ておしまいだ。

 俺は自力でダンジョンを突破できるなどと考えちゃいない。

 スキルなんて要らないなんて口が裂けても言えない。

 だったら、俺は最初からスキルの判断に命を預ける。



 気配察知が告げる怪物は、ついに俺のすぐそばで立ち止まった。

 この場にある気配は、俺と怪物の二つだけ。

 危機感は未だにイエロー。

 もはや逃げている余裕はない。

 これでダメだったら死ぬしかない。



(…………)



 俺は息を潜め続ける。

 絶対に、自分から気配など漏らしてなるものかと意地を張る。

 《闇と死の徒》に備わった、全てのパッシブスキルが、俺の隠密に補正をかける。


 奴の顔は見えない。そもそも顔がない。

 直後、怪物の影が、伸びる。

 頭につけた奇妙な腕が、俺と怪物を隔てていた車の屋根を突き破った。


 ズガン、という音があたりに響く。

 怪物は、俺ではなく、俺の隠れた車の中にそのまま腕を伸ばしている。

 やがて、ずるりと腕が車から引き抜かれる。

 その様子を、俺は物音一つ立てずに見ている。


 引き抜かれた腕が何かを掴んでいる。

 俺は、怪物ではなく、その何かをじっと見つめて、そして悟る。



 やはり、怪物は俺に気づいていない。

 危機感は間違っていない。

 そして気配察知も間違っていなかった。

 ここには、俺と怪物以外に動くものはいなかった。



 ──────

 死体・男

 状態:正常

 ──────



 怪物に掴み上げられた何かから情報を得る。

 そこには、ただの、動かない普通の死体の姿があった。


「ううぅるうるるうう!!」


 怪物が、まるで歓喜の声を上げていた。

 頭から生やした腕でその死体を抱え上げた怪物はくるりと向きを変えると、再びノソリノソリとしたスピードで橋の方へと向かっていった。


 奴は、人間の死体を見つけたから近寄ってきていたのだ。

 俺が隠れた車の中に、たまたま残っていた人間の死体を。

 それも、呪腐魔病に犯されていなかった……犯される前に亡くなってしまったらしい、男性の死体を。


(死体を、どうするつもりだ?)


 頭の中で、ゾンビパニック当日に見た光景がフラッシュバックする。

 死体を貪るようにしていたゾンビが居た。

 奴らは生きた人間だけでなく、死んだ人間にも何らかの執着を示す。

 それがなんなのかはまだ分かっていないが、その一端を、垣間見た気がした。


 不意に、気配察知が新しい情報を飛ばしてくる。

 川沿いに伸びる遊歩道のような道を、じりじりと歩いてくる何か。

 おそらく、周遊型のゾンビの気配。


 そう思った瞬間に、怪物はすさまじいスピードでそちらへと向かっていく。

 少なくとも、俺が本気で走ったのと同程度のスピードは出ているだろう。

 車の周囲からは完全に意識が剥がれたのを感じて、俺は車の陰からそっと手鏡を取り出し、その様子を盗み見た。


「うぅううぅうううううう!!」


「ぐぅうおあああ……」


「ううぅうるるるるうう!」


 怪物は即座にゾンビの元へとたどり着くと、そのゾンビにも頭の腕を伸ばす。

 じたばたともがくゾンビの首を掴むと、先ほどの男性の死体と同じように吊るし上げ、歓喜の声を上げていた。


 そのまま、頭の腕から分かれた3本のうち、2本に、男性の死体と、ゾンビを掴んで、のそりのそりと怪物は歩き去っていく。

 俺が最初に怪物を見つけた橋の上でも止まることなく、のそり、のそり。

 まるで狩りを終えた獣のように。


 その足取りの向かう先は想像がつく。

 おそらく怪物はホームセンターへと帰っていく。

 手に持った戦利品を、意気揚々と掲げたまま。



「……っふはぁあ!」



 怪物の気配が完全に離れ、手鏡が写す世界にも居なくなったのを確認して、俺は生ぬるい息を吐いた。

 隠密状態で止まっていた汗が一気に噴き出し、背中を嫌な感じに濡らす。


 もし、俺が飛び出して逃げていたら、奴は俺と同じスピードでどこまでも追ってきていただろう。

 そうなっていたら……グールの時と同じように、九死に一生をかけて命がけの戦いを強いられていた。もちろん、ほぼ確実に負けていたはずだ。

 見つからないというのが、ただ一つの俺の正解だった。

 スキルを信じてよかった。臆病な俺の本性を信じなくてよかった。



「……情報もクソもねえだろ、あんなの」



 そして、ホームセンターへの偵察を俺は断念する。

 もう少し近づいて、奴が死体に何をするのか確認したい気持ちはある。

 だが、その危険に見合うだけのものが得られるとは思えなかった。



「……手土産は何もないが、生存者との接触を図るか」



 結局、めぼしい情報のない偵察を終え、俺は生存者たちから情報を得るためのシミュレーションを始めるのだった。




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働き者ななれはてさんですわね
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