表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/169

第37話 呪腐魔病(重)



 想定外の事態に立ち止まりそうになる心とは裏腹に、パッシブスキルの危機感と集中力は、俺に飛び出すタイミングを正確に教える。

 今ならいける。そう、確かに感じる。


 無意識に動きそうになる足に、待ったをかけた。


 俺は冷静か?

 ……自信を持って答えられない。

 なら俺は冷静じゃない。


 踏み出しそうになった足を意識して戻し、俺はアパートの陰にしゃがみ込むように隠れた。

 音を立てないように静かに深呼吸して、動揺していた心臓と思考を落ち着かせていく。


 まず、大事な確認をしよう。

 もし、ゾンビが人間ではなく死体だったとして。

 想定していた行動にズレはあるか?



 ない。



 生きていても、死んでいても、もしもの時の行動に違いはない。

 仮にゾンビが死体だったとしても、対応に変化はいらない。

 ならば、俺の行動に変化はない。


 はっきり認識すると、混乱が随分と落ち着いた。

 想定外のものを見て正気を僅かに失っていた。

 そんな状態で、道路に飛び出さなくてよかった。


 俺は冷静か?

 先ほどよりは冷静だ。

 なら行こう。

 

 しゃがみこんでいた体を起こし、再び道路の様子を見る。

 俺を動揺させた死体を含め、こちらに気を向けている相手はいない。

 気配察知に異常なし、危機感もグリーン。集中力も問題なし。

 CPも40以上は残っている、もしものときの火力も問題なし。

 では、探索開始だ。



 さっと柵を越え、身軽に飛び出した俺は、放置された自動車の陰へ音もなく移る。

 外にいたゾンビ三体は、こちらに気づく様子もなく、のそのそと動き続けていた。


 車の陰に隠れた俺は、進行方向すぐにゾンビの気配がないことを確認すると、するすると足を滑らせるようにその場を去っていく。

 アパートの前に三体も居たのは、なかなか運が悪かったようだ。


 とはいえ、堂々と歩いていくのは怖い。

 常に気配を探り、安全を確保し、移動するときは迅速に車の陰へ陰へと移るように。

 そうしながら、俺は先ほど見た簡易鑑定の情報を、心の中で整理していた。



 呪腐魔病(重)──そして、正真正銘の動く死体。



 冷静に戻った思考が、周囲に気を配りながらも片隅で考察を始めていた。


 現時点では情報が足りていない。

 だから、あの男性のパターンだけを考えよう。

 パッと思いつく限り、4パターンの可能性がよぎった。



 1.呪腐魔病が軽症から重症に変わったタイミングで、男性が死亡した。


 2.男性が死亡したタイミングで、呪腐魔病が軽症から重症に変わった。


 3.死亡した男性をベースに感染したから、呪腐魔病は重症だった。


 4.呪腐魔病の重さと、動く死体には関連性はない。



 呪腐魔病の情報と、ゾンビのサンプルが足りない。


 仮に人間のままで呪腐魔病が(重)になっている存在が見つかれば、2は否定されるし、1についても関連性は薄くなる。

 逆に、動く死体が全て呪腐魔病(重)であったなら、体の状態と症状の重さには大きな関連性がある可能性が高まる。


 今考えられるのはここまでだ。やはり情報も、サンプルの数もまるで足りない。


 考え事をしながら、体は自然とコンビニの方向へと流れていく。

 順調に進めていた矢先に、遮蔽物となる放置自動車が途切れるT字路の真ん中に、ゾンビが二体ほど固まっていた。

 少しだけ待とう。それでダメなら、アクションを起こす。


 10秒、30秒、1分待ってもゾンビが自発的に動く気配がない。

 やはり彼らは、何かのきっかけがないと自分からは動かない生態をしているのだろうか。

 熟年カップルのようにもみえる男女のゾンビ。

 簡易鑑定で確認すると、どちらもまだ人間で、軽症だった。


 これ以上待っていても無駄だと判断して、俺はストレージから最近ご無沙汰だった庭石を取り出した。

 俺が今いるのは、Tのちょうど下の部分。そしてコンビニは左に曲がった方向にある。ならば、ゾンビたちは右側に向かって欲しい。

 俺は、放物線をうまく描くようにして、石をTの右側に向かって投げる。


 カツン、コン、コン。


 速のステータスで器用さも上がっている俺の投擲は、見事に庭石を向かいの道路へと届けた。

 ゾンビは、音が鳴った瞬間に、ガバッと音の鳴る方を向く。


「うぅううああ」

「おぉおうぉおあ」


 そのまま、何かを探るようにキョロキョロと視線を動かしつつ、T字路の右側へと歩いていく。

 俺はその様子を気配察知でしっかりと確認し、彼らの視線が切れたタイミングを見計らってT字路の左へ抜ける。

 すぐ側にあった電信柱に隠れて、手鏡でゾンビたちの様子を見ると、彼らは音を立てた石に気づいた様子もなく向こうへと歩き去っていった。


(少なくとも、音で意識を向けることは容易い、と)


 これは良い情報だ。

 ダンジョンのゾンビもそうだったが、呪腐魔病のゾンビも音を知覚の一つとして使っている。

 俺はすり足の効果で足音がほとんどしなくなっているので、歩いているだけで彼らを不意に呼び寄せることは無さそうだ。


 そのまま、静かにコンビニへと向かう。

 昔はのんびり歩いて3分のコンビニだったのに、慎重に、たっぷり15分ほどかけて、俺はようやくコンビニの前の駐車場までたどり着いた。

 そして、ついにその痕跡を見つけてしまった。


(……駐車場で、何かが争った跡がある)


 コンビニは、郊外を走る環状線の一つと隣接した立地にあり、よくトラックが停まっているのを見ることがあった。

 それは今も健在で、何台かのトラックが、無事だったり横転していたりする。

 そのトラックの中に、一つ。

 明らかに、何かがぶつかって凹んだような荷台をしたトラックがあるのだ。


(ゾンビ同士が争ったとは思えない。となると、ゾンビと人か、あるいは人同士か)


 さらに痕跡を探すと、僅かに焦げたようなアスファルトや、砕けたアスファルトなども散見された。

 そして、元が人だったのかゾンビだったのか分からない、頭の無い体がいくつか。

 物言わぬ彼等は、規則正しく並べられていた。

 俺は黙って、その死体に手を合わせる。


 間違いなく、ここで戦闘があったのだろう。

 それも、普通の人間を超えた力を持った何者かの戦いが。


(この辺りに、少なくとも二人くらいは生き残りがいるんだな)


 俺みたいに野良で勝手にダンジョンに潜っていたのでなければ、役割的に力自慢の人間と、火を操る人間の最低二人は居るだろう。

 おそらく、その生き残りたちはグループを組んでいる。

 そして、俺と同じ目的でコンビニを訪れた。


 その結果、この駐車場でゾンビか何かと戦闘になり、痕跡を残した。

 となると、この辺り一帯のどこかにダンジョンがあって、そこに避難している人間がいる。はず。


(ただ、俺の記憶ではこの辺にダンジョンはなかったはずなんだよな)


 だから、俺は自室にダンジョンができた時に興奮したのだ。

 もし、この近辺にダンジョンができていたら、茉莉ちゃんと二人で見物の一つにでも行っていた自信はある。


 となると、ダンジョンの管理者が、ゾンビ災害からの救済のためにダンジョンを増やした可能性も、現実味を帯びてくる。

 あるいは、俺がダンジョンに潜っている間に、生えてきた可能性があるか。


(まあいい。まずは物資の確認をしよう)


 正体不明の生存者のことは気になるが、それよりもコンビニの中に物資が残っているのかが一番の重要ごとだ。


 俺は周囲をキョロキョロと見回しながら、そろそろとコンビニへと近づいていく。ゾンビの気配はない。

 自動ドアは開けっ放しになっており、慎重に中に入る。

 まだ肌寒い気温がコンビニの中にまで満ちていた。

 コンビニの店員の声も当然ない。ちゃんと避難できていれば良いのだが。


 まず、最初にカップ麺や缶詰、それにスナック菓子などのコーナーを探った。

 案の定、ごっそりとその辺りが抜かれている。

 とはいえ、一度に全てを持っていくことはできなかったのか、俺一人が一週間生きられる程度の食料は残っていた。


 この探索のために、ストレージの中はある程度開けてある。

 また、レベル10になってストレージの枠も増えて7になっていた。

 容量も少し大きくなっていたので、根こそぎ持っていくこともできなくはない。

 ただ、思うところはある。


(ある程度残っている。ということは、駐車場で戦闘したグループが戻ってくる可能性もある?)


 もし、グループが戻ってきたとき、物資が何一つ無くなっていたら、機嫌が悪くもなるだろう。

 接触する可能性がある以上は、ある程度、その辺りにも気を使っておくべきか。


 とはいえ、積極的に接触するかはまだ決めかねている。

 戦闘があったということは、過激な思考の持ち主の可能性もある。

 可能であれば、一度、見つからないように観察したい。


(観察か……ちょうど良いかもしれないな)


 ゾンビの種類についてもサンプルを集めたいと思っていたところだ。

 しばらくこの辺りに潜伏して、通りかかるゾンビのサンプルを集めながら、できれば生存者の確認をするというのも、悪く無いかもしれない。


(もう一度問うぞ。俺は、冷静か?)


 生存者の痕跡を見つけて興奮している自覚はある。

 だが、むやみに接触したいとまでは思っていない。

 ぎりぎり、冷静。


 では、観察をしよう。


 そう思った俺は、駐車場に出てあたりを見渡す。どこに隠れようかと思って、コンビニの屋根を見る。

 ここのコンビニは、珍しく屋根が平らではなくやや遮蔽がついてるので、体を伏せればギリギリ隠れられそうだ。

 横転しているトラックを伝っていけば、ギリギリコンビニの屋根に登れる。

 昔は無理だったろうが、今の身体能力ならいけるだろう。



(さて、どれくらい待つ? 二時間だ。それだけ待とう)



 そして、コンビニの屋根に潜伏しながら、俺は動くことのない渋滞を引き起こしている環状線を眺めつつ、ゾンビウォッチングと洒落込むことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ