第34話 複合スキル
暗に『金稼いでから来いよ貧乏人』と端末に言われた俺は、一旦ジョブ習得の画面を閉じる。
そもそも、二つに一つで悩んでいたけどEPさえあるなら二つとも習得しても良いのだ。
だって、一度習得したジョブは端末でいつでも変えられるのだから。
もちろん、EP分散というのは成長を鈍化させる悪手にもなりうる。
だが、同時に手札を増やすという意味ではこれ以上のものはない。
いずれデュアルジョブとかが解禁されたとしたら、全て返ってくる(願望)。
もちろん今の俺にとっても400EPは結構な大金だが、決して稼げない額ではないのだ。
スケルトンのEP効率には希望が宿っている。
問題は、地上に戻るまでに習得が間に合うかという点だ。
「……あとは、スキルを見ておこうか」
ジョブは先延ばしにしたが、スキルはそうもいかない。
スケルトンの頭蓋骨で解放されたスキルは気になるし、複合スキルがどうという話もあった。
「先に複合スキルの話を聞いていいかな?」
俺は端末くんに複合スキルの説明を求める。
端末くんは、口頭説明ではなく、画面を使った説明をしてくれた。
『複合スキルとは、今上杉様が所持しているスキルをまとめて一つのスキルに統合することで得られるスキルになります。
統合後のスキルは、元あったスキルの能力を引き継ぎつつ、新しい能力を発現させることがあります。
また、スキル統合後に新たに複合スキルに加えられるスキルを習得した場合、そのスキルも統合可能です。
以下に、複合スキルのメリットとデメリットを記載します。
【メリット】
・個別のスキルを全てセットした時よりコストCPが低くなる。
・個別のスキルに加えて追加効果が発動する場合がある。
・新たに統合できるスキルを獲得した場合、自動で統合されコストCPには影響しない。
【デメリット】
・統合したスキルを戻すことができず、個別にスキルを外すことができなくなる。
・習得時に追加でEPを支払う必要がある。
・まだ統合可能なスキルが残って居てもコストCPは低くならない。
上杉様は現在パッシブスキルの柔軟な付け外しを行なっているため、必要に応じてスキルを外し最大CPを解放する使い方ができなくなるのは十分なデメリットになり得ます。
しかし、総合的に見ると強力な効果であるため、端末個人としては複合スキルの取得をおすすめします』
なんとなく話はわかった。
合体すると全体のコストが安くなる代わりに動かしにくくなる感じね。
あと、その分の金を追加で払えと。
まぁ、総合的に考えれば複合したほうがお得かな。
「OK把握した。とりあえず、俺に解禁されたっていう複合スキルの内容を聞いてもいいかな」
『かしこまりました』
俺の要望に応えて、端末にはスキルの詳細が表示される。
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複合スキル(名称未設定):EP200
スキル『不意打ち』『聞き耳』『危機感』『すり足』『集中力』『罠感知』『早足』『気配察知』『隠密』『ゾンビキラー』を統合する。
コストCP:50
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名称未設定ってなんだよ怖いよ。
そこは仮の名前でいいから出しておいて欲しい。
だがよくもまぁ、俺が持っているスキルのほとんどを複合してくれたものだ。
コストCP50は一見激重に見えるけど、これ全部足したらコスト90だ。
全体でコスト40カットは破格のスキルだ。コストほぼ半額だよ。
それをEP200で買えるっていうんだから、超お買い得。
最近コストカツカツに悩まされて居たからね。
問題はジョブが遠のくこと。
ただ、それを加味しても、複合するメリットは大きい。
このセットを使えば、スケルトン狩りの安定度が大きく上がる。
隠れて爆殺がやりやすくなる=EP効率が上がるだ。
問題は、地上に戻るまでにジョブを獲得する、というの現実的に難しくなること。
水を補給してダンジョンにとんぼ返りしても良いが、そうすると今度は食料の不安を抱えたまま狩りを行うことになる。
三階層といえど、行って帰ってくるのには往復六時間くらいはかかる。
そこで狩りをしても、またすぐ地上に帰らないといけなくなるだろう。
選択は二つに一つ。
ジョブを一つ手に入れるか、複合スキルを取るかだ。
「……わずかに複合スキル、か?」
ジョブは未知の要素も多い。特にテイマーあたりを選んだとすれば、習熟するのに時間もかかるだろう。
忍者にしたって、習得してすぐに性能を発揮できるとは限らない。
その点、複合スキルであれば、すでに使っているスキルの統合がメインだ。
今から大きく使用感が変わることはないだろう。
習熟にかかる時間はほとんどない。
複合スキル自体のデメリットを天秤に乗せても、メリットの方が大きい。
結局、俺の生存確率を上げるにはスキルは多い方が良いし、そのスキルのコストが安くなるなら選択肢はないのだし。
「……よし、複合してくれ」
ジョブへの未練はまだダラダラにあるが、俺は結局複合スキルを取ることにした。
考えてみれば、状態異常回復アイテムだって、なんだかんだ買うと言ってから買ってないわけだし、EPが余ったらその辺りに回そうと思う。
『複合スキルは戻せません。本当によろしいですか?」
「男に二言はない」
『かしこまりました。ただいまよりスキルの統合を行います』
俺は決断し、複合スキルの習得を頼んだ。
すると、今まで俺の中にスキルとして入ってきていた色とりどりの粒子が、一度俺からこぼれ出ていく。
それらは端末に吸い込まれると、綺麗な闇色の粒子になって再び俺の元へと戻ってきた。
『スキルの統合を終了します。複合スキル《闇と死の徒》を獲得しました』
「待って!?」
『はい?』
思わず、待ったを叫んでしまった。
いや、男に二言はないって言ったけど、ちょっと待って欲しい。
今、なんかものすごくこう、複合スキルを取ったことを後悔しそうな名前が聞こえたような気がした。
「スキルの名前、もう一回言ってくれる?」
『複合スキル《闇と死の徒》です』
「そんな名前になるってどうして教えてくれなかったの?」
『今決まりましたので』
端末くんは、淡々と事実を述べた。
いや、俺も見たよ、複合スキルの名前が『名称未設定』だったのは。
だけど、そんな、物語に出てくる敵組織みたいな名前にしなくても良いじゃないか。
俺がまだ中二病全盛期のころだったら、全然気にしなかったよ。
だけどもう中二病、高二病を超えて大学にまで入ると、そういうのから距離を取った人生を歩み始める頃なんだよ。疼くんだよ記憶の奥底の痒い部分が。
「ぶっちゃけ超恥ずかしいんだけど」
『スキルが強化されたことは嬉しくないのですか?』
「それは嬉しいです」
端末くんは人間の羞恥がわからない。
……切り替えよう。
俺の羞恥など、茉莉ちゃんを救うためには些事だ。
ステータス画面を開く。
ばっちりと、俺のステータスにはその複合スキルが記載されていた。
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《闇と死の徒》
闇に生き、死を呼ぶ者の技術を集めた複合スキル。
闇の女神、死の女神の期待を受けた証でもある。
『不意打ち』『聞き耳』『危機感』『すり足』『集中力』『罠感知』『早足』『気配察知』『隠密』『ゾンビキラー』を内包する。
複合効果:闇と死の側では効果が微増する。
コストCP:50
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わぁ、厄い女神様たち。
高評価だけでなく期待までくださってありがとうございます。
おかげでこんな立派な名前のスキルになりました。くそぅ。
「ちくしょう。あとは新規スキル獲得だ」
俺を期待の目で見てくれているらしい女神様にやけくその感謝を捧げて、俺は改めてスキルの表示を頼む。
スケルトンの頭蓋骨と、あとはちょっとした行動の結果で、スキルもやはり微増していた。
いちいち列挙されたら分かりづらいなと零せば、端末くんは増えたスキルだけを分けて表示してくれた。
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【スキル習得】
所持EP:73
[パッシブスキル]
白骨化:1EP
カウント:5EP
暗視:20EP
武器術:100EP
HP回復力上昇:200EP
[アクティブスキル]
骨鳴らし(スケルトン):50EP
魂魄攻撃:200EP
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いつものモンスタースキルシリーズの白骨化だけ、ちょっと見ておく。
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白骨化
体の好きな部位を白骨化できる。
コストCP:5
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腐った肉体と同じタイプだね。
これ白骨化した肉体はちゃんと戻るんだよね?
相変わらず、使い道はよくわからない。
とりあえず、パッシブスキルのほうで気になるスキルは生えているが、いかんせん俺のEPは73しか余っていない。
アクティブの骨鳴らしが、声真似シリーズと同じだとすると、実質取れるのは『カウント』と『暗視』の二つだけだ。
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カウント
秒数を正確にカウントできるようになる。
コストCP:5
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暗視
光源のない場所でも周囲を見ることができるようになる
コストCP:10
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両方とも、取って損はないスキルだろう。
今までの俺の戦い方とも合致するところはあるし、カウントが正確になるというのは、ちょっとありがたい。
……いや、もしかしたら。
「目星発動。この中で『闇と死の徒』に統合できるスキルを探したい」
以前悪臭を取ったときと同じように、条件をつけて目星を発動してみる。
すると『カウント』『暗視』の二つがそうであると、目星が教えてくれた。
「これは、取り得だな」
もともと、取ろうかとは思ったスキルだったが、コストCPが0と聞けば、取るしかない。
その二つを習得すると、すぐに端末の方で『闇と死の徒』へと統合処理を行ってくれた。
『カウント、暗視の二つのスキルの統合を完了しました』
EP73→48
久しぶりに、ここまでEPを減らしたような気がしないでもない。
最後に、俺は今まであまり覗いていなかったアイテム購入の項目をタップした。
「状態異常回復系のアイテムを表示してくれるか?」
『かしこまりました』
もう一度、端末にソートを頼むと、即座に対応してくれる。
どうして俺は今までこれを頼まずに、全種類表示なんてしていたのだろうか。
気づくとなんてことないのに、気づかないことって案外多いなとしみじみ思った。
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毒消しⅠ:EP15
効果:受けた毒を中和する丸薬。猛毒、神経毒には効果がない。
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麻痺治しⅠ:EP30
効果:受けた麻痺を中和する丸薬。神経毒には効果がない。
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とりあえず、今買える範囲ではこの二つか。
猛毒や神経毒といった、かなりやばそうな状態異常も見えているが、とりあえず、今は置いておこう。
そういう奴らと戦わない限り、たぶんアイテムショップに並べてくれないし。
EP:48→3
こうして、久々にほとんどEPを素寒貧にして、俺のレベル10へのレベルアップは終わった。
とりあえず、今のステータスはこんな感じだ。
パッシブスキルは、悪臭を除いたフル装備で動こうと思う。
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上杉 志摩
ノービス(無職)
レベル10
所持EP:3
HP134/134
CP34/58(使用中80/138)
力:14
魔:20
体:10
速:20
運:16
【所持スキル】
[パッシブスキル]
悪臭
【セットスキル】
[パッシブスキル]
《闇と死の徒》 ストレージ(極小)
[アクティブスキル]
強打 目星 測量 火炎魔術(初級) 簡易鑑定
【称号】
『屍鬼を喰らいし者』
『闇と死の徒』
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しれっと、称号にも複合スキルと同じ名前のあれを足すのやめて貰えないですかね。




