第31話 ゾンビキラー(対スケルトン用)
一度スケルトンのことを置いておくことにした俺は、二階層でのゾンビ狩りに戻った。
パッシブスキルは悪臭とストレージの最低限にして、CPの自然回復力を高めながら、俺はスケルトンをどうにか狩る方法を考えていた。
その時、ふと浮かんだのがゾンビキラーである。
──────
ゾンビキラー:200EP
ゾンビに対する高い戦闘適正を有する。
ゾンビに与えるダメージに1.5倍の補正をかけ、アンデッドに属する相手に与えるダメージに追加で1.1倍の補正をかける。
コストCP:20
──────
スケルトンってアンデッドだよね?
つまりこれは、スケルトンにも特攻が入るスキルなのでは?
そう思った俺は、このスキルの取得を心の中で決めた。
もともと、外のゾンビにも効くかもしれない、という思いはあったので取るかどうかは迷っていたのだ。
それに加えて次の階層でも有効となったら、天秤は一気に取る方向に傾くというものだ。
そう決めた俺は、ゾンビを狩りながら、片手間に火炎魔術の開発と検証も始めた。
ゾンビとスケルトンの耐久力が一緒とは思わないが、ゾンビは耐久に優れたモンスターだ。だったはずだ。
下手したら三階層のスケルトンよりもHPは多いということもあるだろう。
そんな彼らを一撃で葬れる威力の魔法なら、スケルトン相手にも有効だと想定しての検証だった。
このあとにゾンビキラーを習得するとすれば、その安全マージンも大きくなるし。
「というわけで、これで、30体目」
轟々とした炎に焼かれるゾンビが、次第に粒子へと変わっていく。
記念すべき30体目のゾンビを、俺は火炎魔術で屠った。
いくつか作った中で、一番使い勝手の良い対ゾンビ用魔術。
その名も『マイン』だ。つまり地雷。まんまである。
これはその名の通り、地面に火炎魔術の罠を仕掛けておいて、対象がその上に立ったときにカチッと爆発炎上するという代物。
これの何が良いって、設置場所から離れてもちゃんと起動できること。
つまり、発動時にわざわざ相手に近づく必要がない。
自分の火力に自分がやられる心配がなく、ダメだったときに逃走用の距離をちゃんと取れるのだ。
普通に遠距離に魔術を飛ばそうとすると消費CPをどか食いするが、設置時はゼロ距離にいる『マイン』はそこの消費が少ない。
細かいコントロールも必要ないので、そこも節約になる。
持続時間を持たせるためのCPがネックだが、ずっと炎上させているわけではないのでそこまで重くはない。
ということで、純粋に火力にCPを注ぎこめるのだ。
今日1日検証した結果では、CP10消費の『マイン』でゾンビ一体を確殺できることが分かった。
仮に、4体パーティ全てを巻き込もうと炎上範囲を広げてもCP15といったところだろう。
これは、かなりの燃費である。
「あとは、実際に試してどうなるか、だな」
本当はジョブを解禁してから挑むつもりだったのに、実際に有効そうな手段ができてしまうと、試してみたくなる。
ただ、ゾンビキラーを取得するとなると、EPに余裕がない。
だから、今日のところはおとなしくレベルアップの方にEPを回して──。
「……おうふ」
そんな俺の背中を押すように、30体目のゾンビは心臓をドロップした。
今日はちゃんと数えていたが12体目が一つ、21体目が一つ、そして30体目が一つと、合計で3個の心臓が手に入った。
なんと10体に一つ、ドロップしている計算になる。
間違いなく、今の幸運はゾンビ相手の適正値に達している。EP効率二倍だ。
これでもう、運を上げなくて良いなんて口が裂けても言えなくなった。
「これでEPは合計……511か」
ゾンビキラーとレベルアップ一つ。そこには確実に届く。
そして、まだ『マイン』を使うCPは残っている。
寝る前には、火炎魔術の検証でCPを空にする予定だった。
「……一回だけ、試してみるか」
安全な距離は確保する。
その上で、一度検証を行うだけだ。
どれだけ上手くいっても、一回で終わり。
そう決めて俺は、少し迷ったが三階層の端末の方へ向かうのだった。
──────
残りポイント:0
力:12
魔:17→18
体:8
速:17→18
運:12→13
──────
『ステータスの割り振りを確認しました。次のレベルに上がるために必要なEPは190です。レベルアップを終了します』
レベル9になった。
ステータスは最初に想定していた通りに振る。
体が置いてけぼりになることはもう諦めた。
何か、補助できる手段を別で用意できるよう祈ろう。
「さて、残るEPは351」
当初の予定では、ここでレベル10になってジョブを確認し、外に出ることを視野に入れた選択をするつもりだった。
だが、ゾンビキラーがスケルトン特攻と分かった以上、俺は、試す。
EP351→151
取ってやったぜゾンビキラー。
時間がないのにそんな無駄なことをしている余裕があるのかと、冷静な俺がチクリと心を刺す。
だが、ゾンビの心臓のおかげで、当初の予定よりだいぶ余裕ができたのは事実。
この検証はいずれ将来のレベリングに必ず役に立つのだ。
食料もあと二日は余裕で保つ。
ジョブのことはまだ分からないが、少なくとも1日くらいは外を慎重に探る時間は作れるはずだ。
だから大丈夫。
「さて、検証に向かうとするか」
俺はゾンビ用の最低限のスキルから、スケルトン用のスキルセットに変更する。
──────
上杉 志摩
ノービス(無職)
レベル9
所持EP:151
HP118/118
CP26/26(使用中97/123)
力:12
魔:18
体:8
速:18
運:13
【所持スキル】
[パッシブスキル]
聞き耳 危機感 すり足 悪臭
罠感知
【セットスキル】
[パッシブスキル]
不意打ち 集中力 ストレージ(極小)
早足 気配察知 隠密 ゾンビキラー
[アクティブスキル]
強打 目星 測量 火炎魔術(初級) 簡易鑑定
【称号】
『屍鬼を喰らいし者』
──────
結構思い切ってパッシブを外したのにCPがカツカツである。
だが、この辺が俺のノミの心臓でも検証ができる最低ラインだ。
あとは、気配察知でなるべく数が少なそうなスケルトンを探し、それを狩る。
狩れたらね。
「よしいくぞ。唸れ俺の火炎魔術」
誰も聞いていない宣言を一つして、俺は三階層の薄暗い通路を進んでいった。
マッピングはもちろん、最低限こなしながらだ。
そうして歩いていると、気配察知に感あり。
すり足を外しているので、意識して静かに歩きながら、ちょっとずつ敵に近づいていく。
そして、曲がり角の向こうの通路に三体の集団がいるのを確認した。
剣、剣、斧。
幸運なことに、遠距離攻撃持ちは居なさそうだった。
「さて、どこにしかけるか」
できれば、相手に気づかれてない状態で『マイン』を爆発させて不意打ちも狙いたいが、相手がこっちに曲がってきてくれるとは限らない。
スケルトンの巡回ルートを俺は把握できていない。
自分から姿を晒して『マイン』の方へ誘導するしかないだろう。
「まずは『マイン』を設置」
俺はちょうど角を曲がった先、つまりは俺の目の前に『マイン』を設置する。
道幅が広いので、ややこちらの壁寄りに。
設置したマインは、鈍く赤く染まった丸いペイントのような感じだ。
ぱっと見では気づけないが、もし魔力を見るスキルとかを持って居たら、ここに魔力が溜まっているのが丸見えなのだろうか。
「さて、誘い出すか」
基本のCP10に、範囲を拡大してCP15。
対ゾンビでの検証では十分な威力。
あとは、スケルトンの耐久次第。
「……よし」
深呼吸して心を整える。この場所はゾンビの臭いがしないのは良い。
さぁ、と気合いを入れ、俺は曲がり角から飛び出す。
前方15メートル程度のところを、スケルトンはのんびり歩いていた。
「かかってこいやこの豚骨どもが!」
「!!」
スケルトン相手の罵倒がわからなかったので適当な言葉になってしまった。
だが一応反応してくれたので、スケルトンに豚骨は悪口になるらしい。
「カチカチカチ!」
「カチカチカチ!」
スケルトン達が歯を打ち鳴らし、何か意思疎通のようなものを行っている。
その後、彼らは斧を前に、剣二人を後ろにという陣形を組んで、まっすぐに向かってきた。
やはりゾンビより遥かに頭がいい。それに素早い。
なにより、手に持った武器がいかつい。人を殺せる武器が実際に目の前にあると、どうしても恐怖が浮かんでくる。
「っあばよ!」
だが、恐怖はグールほどじゃない。
もし『マイン』が不発しても、逃げきれない速度じゃない。
俺は、ここでは死なない。
動きを軽く見た後はさっさと曲がり角の向こうに引っ込む。
スケルトン達の姿は見えなくなるが、カチャカチャとした足音が俺を追ってきているのはわかる。
後ろを見ながら、スケルトンが現れるのを待ちながら俺は走る。
時間にして数秒。
斧を持ったスケルトンがまず現れ、それから数瞬遅れて剣を持ったスケルトンも来る。
タイミングは、ドンピシャ。
奴らはまとめて、地雷の上だ。
「ボン!」
頭の中で起動のスイッチを押すように、俺はそう口にした。
直後。
ズボアアア! と音を立て、爆発しながら『マイン』は炎上する。
「っっ!?」
「ッッカ!」
声帯がないので声を出せないスケルトンが、炎に飲まれ声なき悲鳴を上げる。
彼らは俺を追う余裕をなくし、闇雲に体を振って炎を撒こうとしている。
だが、足元からどんどんと燃え上がる炎は、彼らの抵抗を認めずになおも轟々と燃え続けた。
初級魔術にあるまじき火力。さすが、そのほかのステータスを捨てただけのことはある。
「…………終わった」
途中で俺は、逃げる体勢を解いていた。
もう、その必要はないということが分かったからだ。
ややあって『マイン』の炎が消えると、そこには何も残っていなかった。
いや。
「超ラッキーじゃん……」
そこには一つだけ、俺に何か言いたげな顔をした、ドロップアイテムのしゃれこうべが残されていた。
運を要らないステータスとか言って本当にすみませんでした。




