第32話 レベル10
『スケルトンの頭蓋骨の納品を確認しました。一部スキルが解放されます。一部アイテムが解放されます。EPを240還元します』
当初の予定通り、俺はそこから深追いすることなく端末まで戻ってきた。
戦闘後に流れ作業のようにストレージにしまった、あまり触りたくないドロップアイテムシリーズ第三弾のしゃれこうべを納品すると、還元されたEPは240だった。
「スケルトンのEPは24か。これは、結構、かなり、美味しいかもしれないぞ」
ゾンビのように半分脳死状態で狩り続けることはできない。
それでも1体でゾンビ3体分のEPだ。
これが複数集まって動いているのだから、一回の戦闘で得られるEPは跳ね上がり、時間効率が段違いになる。
足で探し回ってゾンビを狩るより、一回戦闘したあとはずっと休憩してCPを回復させ、また戦闘するスケルトンループの方が効率が良いかもしれない。
「もちろん、戦闘時の危険は段違いだから、一概には言えないけど」
実際に奴らを前にした時の恐怖はまだ残っている。
錆びたナイフを持っているゴブリンですらがっつり怖いのだ。
ボロボロとはいえ剣と斧を持っているスケルトンが怖くないわけがない。
「とはいえ、想定外の収入でレベル10が見えた」
スケルトン3体でEP72+240。
元々持っていた151と合わせて合計463。
レベル10にレベルアップしてお釣りがくるようになってしまった。
「レベルアップ……本来は、もう寝るつもりだったが」
こうなると、レベルアップをさっさとしてしまいたい願望が出てくる。
自然と指もそちらに伸びる。
だが待て、と自分で自分に待ったをかけた。
少し考えろ。自分は今、冷静だろうか?
スケルトンとの戦闘の興奮と、思いがけない収入によって冷静さを欠いていないか?
自分が生き残るための最適解を選択する、自信があるか?
茉莉ちゃんの未来がかかっている自覚が、ちゃんとあるか?
「……だめだ、寝よう。深夜のテンションで何かをするとロクなことにならないんだから」
睡眠不足は、思考力を鈍らせる。
そして今、俺はまともな思考ができているとは思えない。
俺は一度深呼吸して、レベルアップを押しそうになっていた指を止めた。
そもそも、ゾンビキラーを取った時点で少し深夜のテンションだった。
スケルトン相手の検証も、勢いが優っていた。
その頭空っぽがグールの恐怖を呼び寄せたんだろう。
「二階層でもう一度深呼吸だな」
レベルアップの代わりに、スキルセットでいつもの悪臭を付けて、俺は寝床となっている二階層に戻ることにした。
「よし、一晩眠って頭スッキリだ」
翌日。ダンジョンには太陽がないせいで朝の概念が希薄になっているが、時間的にはしっかり朝に俺は目を覚ます。
昨夜の興奮や勢いはもうない。
爽やかな朝と評するには、ロケーションと空気が最悪だが、ダンジョンなんだから仕方なかろう。
目が覚めたら目の前でゾンビがおはようしていなかっただけ、マシと思う。
「今日の予定を確認しよう」
ストレージから味気ない乾パンと水を取り出しながら、これからするべきことを確認する。
まずはレベルアップ。昨日の夜に踏みとどまったレベルアップを行なってしまう。
そのあと、解禁されるジョブの確認。最初に聞いたときはジョブを解放するにもEPが必要という話だったが、救済措置でそのあたりはどうなっているのか。
ほかの人は無料配布なのに、俺だけ有料って言われたらちょっとモニョる。
その後、スケルトンの頭蓋骨で解禁されたはずのスキルを確認し、アイテムも久々にチェックしよう。
先延ばしにしてしまった、毒とか麻痺の状態異常回復も必要だ。
「それが終わったら……一度地上に戻らないとかな」
言ってから、俺は乾パンを水で流し込んだ。
パサついた食感に潤いが与えられ、喉を通り過ぎていく。味は嫌いじゃないんだけど周囲の臭いのせいでどうしてもテンションが下がる。
そう思いながら、俺は空になったペットボトルを振った。そろそろ、水の補充が必要だった。
潜るとき、ストレージの一つを水と食料に割り振ったのだが、水の方が先に尽きそうになっていた。
ダンジョンでモンスターから食料を調達する目処が立たなかった以上、一度は地上で食料の確保を考えなければいけない。
家に戻ればまだ水はたんまりあるが、食料はそう残っていない。
「憂鬱だなぁ」
外での食料調達。
外にゾンビがうじゃうじゃいるのも嫌だが、何より火事場泥棒を肯定しようとしている自分が嫌だ。
根が小心者の俺は、店から勝手に食料をかっぱらうとか、こんな状況でもなければ考えようとも思えない。
金で解決するのなら払わせて欲しいのに、それができないのがこんなに心苦しいとは。
「でも、生きるためだ。ごめんなさい神様」
なお、今謝った神様は、決してダンジョンを作った神ではない。
ダンジョンを作った神には目下恨みばかりある。
ゴブリンとかゾンビとかスケルトンとかの件で。
さて、そういうわけで俺は三階層の端末の前まで来ている。
地上に引き返すなら二階層の方に向かった方が良いとも思ったが、せっかく回復したCPを消費しないなんて勿体無い。
「まぁ、まずはレベルアップだな」
端末を起動し、俺は蘇って来そうな昨夜の興奮を必死になだめつつレベルアップの項目をタップする。
思えばここまで、長かった。ダンジョンに潜り始めてまだ一週間程度ではあるのだが、だいぶ長い道のりだった気がする。
──────
【レベルアップ】
所持EP:463
レベルアップに必要なEPは190です。
レベルアップが可能です。
レベルアップしますか?
──────
「レベルアップします」
万感の思いを込めて、俺は答える。
するとまた珍しく、端末の方から声をかけてきた。
『ここまでお疲れ様です上杉様。ノービスレベル10に到達したのは、全世界であなたが七人目です』
「へぇ」
端末からもたらされた情報に、思わず考え込む。
俺のレベルアップの速度は、かなりのものだと思っていた。
ぶっちゃけ世界最速もあると。
だが、俺よりも成長が早い人間が上に6人はいた。
ちょっとがっかりする気持ちもあるが、同時に希望も湧いてくる。
彼ら(彼女ら)はきっと、このゾンビの溢れる世界で人間の未来を切り開く存在になってくれるのだろうから。
『そして、ソロでここまで到達したのはあなたが初めてです』
「アッハイ」
どうやら縛りプレイでやってたのは俺だけだったらしい。
確かに言われてみればそうかも。
ぼっちでなければ、ゾンビを倒せる時点でスケルトンも倒せそうな気はするし、EPがパーティで等分になってもさらに奥に行けば効率は上がるか。
武器だって、軍隊とかなら金属バットやメタルラックより良いものたくさん用意できるだろうしな。
メタルラック、そろそろ一本目はダメになって来てるし……。
『それではこれよりレベルアップを開始します』
俺のぼっち奮闘記を笑うこともなく、端末は事務仕事をこなすように先に進んだ。
途端、今までよりもやや豪華な演出でもって、俺の中の白い粒子が端末へと吸い込まれていき、様々な色に染まった虹色の粒子になって俺へと戻って来た。
なんだろう。なんか今までと違う気がする。
実際、レベルアップした感覚も、普段とは違うような?
『レベルアップが完了しました。ステータスの割り振りを行なってください』
──────
残りポイント:3
ボーナスポイント:8(割り振り済み)
力:12+1
魔:18+2
体:8
速:18+2
運:13+3
──────
「ボーナスポイント?」
なんか知らないポイントが入って、ステータスがどえらい盛られている。
俺の呟きを拾った端末くんが、さっそく説明してくれる。
『ボーナスポイントは、レベル10までの行動や戦闘結果をもとに、ダンジョンの管理をされている方々から追加で与えられる恩恵です。レベル10到達時に、合計で最大10ポイントから、最低0ポイント与えられます』
「ってことは、俺は8ポイントでそこそこ貰えたってこと?」
『肯定します。特に、闇の女神、死の女神、夜の神、孤独の神、混沌の神、魔の女神から高評価されています』
わぁ、ついに神とか直接言いだしたこの端末。
まぁ、ダンジョンの管理をしているのが人間より上位の存在なのは明白だったからそこはそれなんだけど、これ絶対唯一神教のところはひどいことになるじゃん。
日本人は、その辺ぶっちゃけ適当だから気にしないけど。
そして俺に高評価くれてる神が、なんかこう、ネガティブというか暗い感じの方々多くない?
『反対に、戦の神、闘争の神、肉体の神からは低評価されています。曰く【戦い方が狡い】とのことです』
「でしょうね」
なんか好戦的そうな神様からは軒並み見放されてそうな感じ。
そりゃ戦闘らしい戦闘なんてほとんどしてないからな。自然回復分のHPじゃんじゃんこぼしているし。
でも仕方ないじゃん。俺ただの大学生よ。グール戦で頑張ってたとこは評価して欲しい。
『また、これまでの戦いを評価して、複合スキルが解禁されます』
「また興味をそそるものを」
『複合スキルの説明は、レベルアップ後に行いますので、ポイントの割り振りを行なってください』
これ以上は、先にレベルアップを済ませろとのこと。
俺はレベルアップの画面をうーんと睨む。
もともとは、今までの法則通りに振っていくつもりだったけど、ボーナスポイントをドンと盛られて、結構ばらつきが出ちゃいそうなんだよな。
それを修正するには……よし。
──────
残りポイント:0
ボーナスポイント:8(割り振り済み)
力:12→14
魔:18→20
体:8→10
速:18→20
運:13→16
──────
せっかくボーナスが入ったんだから、普段は補強できない体に割り振っておこう。
本当は力に全振りした方が、全ての値が4の倍数になって美しかったんだけど、美しさを優先して動くのは違うからな。流石に。
この状態でも、全て偶数だしまあまあ美しいだろう。
『ステータスの割り振りを確認しました。ノービスのレベルは最大です。以降はジョブを習得してレベルアップを行なってください。レベルアップを終了します』
端末くんの事務的な連絡をもって、俺のレベルアップは完了した。
もし、救済措置でジョブを解禁していたらこのボーナスがなかったと思うと、これは後々の差になってくるのではと思った。




