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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第227話 自分を正当化しつづけろ




 そもそも、俺は忍者であって盗賊でもなければ強盗でもない。


 そして、これまでの経験がスキルとして反映されていく仕様があるダンジョンで、解錠スキルが生えてくる理由がなかった。

 ……まぁ、俺の勘が正しければ、経験以外に人が欲するものもスキルとして生えてくる要素があると思っているが、それはひとまず置いておいて。


 今まで『誰かの家の鍵を開けたい』みたいに思ったことがない俺には、家の鍵を開けるためのスキルなどない。

 そこで、利用するのが罠解除のスキルである。


 もともと罠を見つけるスキルはダンジョンに潜るには必須。

 ダンジョンと罠は切っては切れないもののはずだ。


 その発想があったので、俺はダンジョンに潜り始めたときに罠感知スキルは取った。だが、それを解除するためのスキルは最序盤でEPを見て取らなかった。

 それから四階層の宝箱にぶち当たるまで、罠を解除する必要がなかったのと、EPの余裕が全然なかったことが相まって、放置していた。


 おかげで、罠解除スキルの使い方自体は、あまり上手とは言えない。

 だが、俺が持っているスキルで鍵を開けられそうなのがこれくらいしかないので、拡大解釈をして鍵を開けていこうと思う。


 まず、目の前の家の存在についてだ。


 一見するとただの家である。

 中にはおそらく、ホブゴブリンレベルのモンスターが眠っている。

 つまりは、この家に入ろうとするのが間違いであり、家にかかっている鍵を開ける行為そのものがナンセンスとも思える。

 この考え方だと、罠解除スキルは使えない。


 だから俺は、この家をまず、一種の巨大な宝箱のようなものと認識を拡大する。


 そうすると、どうだろう。

 玄関の鍵は宝を守るためのものになり、中にはあるかわからないお宝、そして鍵の解除に失敗すると襲ってくるモンスターがいる仕掛けに変わる。

 もちろん認識の上ではそうなったというだけで、実態が変わったわけではない。

 だが、こういう拡大解釈によって、玄関の鍵を罠解除スキルの対象に引き上げることができた。



(罠解除)



 罠解除スキルはアクティブスキルだ。

 発動とともに、罠の構造とその解除方法がわかる。

 今回は単純に、罠の解除に手間取るとモンスターが出てくる仕組みとして、玄関の鍵の開け方が頭に入ってくる。


 あとは、土石魔術で簡単なピッキングツールを作成し、己の手で解除に挑むだけだ。

 簡単な構造の鍵だ。致死性の罠もない。

 解除に何十秒もかからない。

 そう自分に言い聞かせる。


 ここまで上手くやってきた緊張が、今更ながらに襲ってきた。

 だが、震えそうになる手を、無意識に発動しているスキルが抑えつける。


 思えば、この暗殺作戦を始めてから、ずっと思っていた。

 俺の想像以上に、俺の心が揺れていないなと。


 恐らく『正心』スキルの効果だろう。

 心を揺らすような出来事と向き合っても、正しい心を保つ。

 俺の行動が客観的にどんな行動であっても、それを正しいと思い込む。


 だから、揺れるな。

 茉莉ちゃんを救うために、自分を正当化しつづけろ。

 そのために、何度も戦ってきたんだろうが。



 カチリ、と鍵の開く音がした。

 少し緊張したが、気配察知に動きはない。



 ゆっくりと音もなく玄関のドアを開ける。

 相変わらずの土の床。むせ返るようなゴブリンの臭気。雑な寝床。

 宝箱を開けたにも関わらず、お宝らしいものの見当たらない、粗末な空間。

 だが、明確な違いもある。


 ゴブリンとは比較にならない、大人と子供くらいの差がある巨躯。

 そんなホブゴブリンらしきモンスターが一体。

 あとは、三層目から急激に増えた、番らしき一体と、子供らしき二体。


 俺は息を止めた。

 冷静になればわかる。


 ゴブリンの進化の法則は知らないが、自然発生で最内の家の数にちょうど収まるホブゴブリンが生まれる道理はない。

 つまりは、これも含めてダンジョンに用意された、まやかしに過ぎない。

 動揺する必要は、ない。


 呼吸も、足音も消したまま、悩まずにまずはホブゴブリンの方へと向かった。

 一番能力が高いのなら、一番異変に気付くのも早いはず。

 なら、一番最初に仕留めるべきはこいつだ。


 慎重に動き、仰向けで眠っているホブゴブリンの枕元に立ち。

 鍾馗を抜き放って首元に落とす。


「っ」


 ゴブリンとは違う抵抗感。

 首を両断しきれないと直感した。


 これまでのゴブリンなら、パッシブが全て乗った一撃で、HPを削り切って首を落とせていた。

 だが、ホブゴブリンは無理だった。


 HPを削り切る段階で火力を使い切ったのか。

 HPをただ削り切れなかったのか。

 あるいは、ホブゴブリンの首が想像以上に硬かったのか。

 首を両断する前に、鍾馗が止まった。


「っ!?」


 ホブゴブリンが、目を覚ます。

 俺はその口を再び抑えつける。


 叫びは上げさせない。

 一撃でダメなら二撃与えればいい。

 首で止まった鍾馗を、包丁を入れるように引き斬った。


 両断までは届かないが、そこで称号の効果が発動する。

 急所を攻撃した時の即死が発動し、ホブゴブリンの目が光を失ってEPへと変わった。


 俺の心臓が跳ねている。

 暗殺の途中だが、一度だけ深呼吸をした。

 それで、動揺は全て消えた。








(クミン、調子はどうだ)


(順調ですよ。入り口付近のゴブリンは可もなく不可もなくくらいの強さみたいです)


(了解。こちらも、もう終わる)



 解錠の時間は、回を重ねるごとに短くなっていった。

 そして、暗殺の手際もまた向上する。


 振り下ろすだけでは届かない、と分かっているなら工夫をする。

 鍾馗にも闇を纏わせ、体の動きや捻りで勢いを増し、上から落とすのではなく引き斬る。

 作業ではなく、ちゃんと戦闘のつもりでホブゴブリンに相対すれば、一撃で首を落とすことはできた。


 周りに気づかれる危険性は増したと思うが、その音や気配すらも闇を広げて飲み込んだ。

 何一つ気負うことなく処理できていた、これまでのゴブリンとは格段にコストがかかる。

 一殺ごとに無駄なCPを使っているのは重々承知の上で、それでも重ねる。


 気づかれたら暗殺はおしまいだ。

 あとで乱戦になる手間を考えれば、先にCPを消費するのはプラマイゼロ、むしろプラスだろう。


 順調に行き過ぎると、決戦の舞台を作るのに使ったCPが丸々無駄になるが、問題ない。

 もしもの備えは、もしもがこないで余らせるのが最善なのだから。

 それに最近は、大掛かりな準備や大規模戦闘続きで4桁5桁のEPを消しとばすことも増えたので、必要経費と割り切る心も身についていた。


 クミンの方も順調だということはわかったので、俺も最後の仕上げに入ろう。

 最内の7軒目。

 最後の、ホブゴブリンの家。


(ここだけ、雰囲気が少し違うんだよな)


 そう思うのは気のせいではないだろう。

 最内とは言ったが、その中でも格差はあるように思える。

 最後に残した家が、さらに一回り大きい。

 立派な屋敷にいるのが集落のボスだとして、サブボスは屋敷の方か、それともこの家か。


 いずれにせよ、集落の制覇の前に立ちはだかる、中ボスの風格を感じさせる。


(だが、鍵は相変わらず粗末なものだ)


 そう思いながら、罠解除スキルで見通す。

 他の家にはない、鳴子の罠が仕掛けられていると気づいた。

 もし下手に鍵を開けようとしたら、鳴子が盛大に鳴って侵入に気づかれるだろう。

 冷や汗が流れる。舐めてかかるべきじゃない。


 これまでもし罠解除スキルではなく、普通に鍵開けスキルで来ていたら気づかなかったかもしれない。

 いや、そのスキルを取る人間は罠感知も持っているだろうから、気付くか? わからない。

 少なくとも、今までと同じ感覚で挑むべきではないな。


(罠解除)


 これまで以上に慎重に、解錠に挑む。

 罠を作動させないために抑える場所、触ってはいけない場所。

 単純な錠前のくせにやけに複雑だ。


 それこそゴブリンが作れるレベルとは思えない。

 だからダンジョンが作ったしかけなのだろうと、何度目になるかわからないまま頭に刻む。言い訳を心が欲している。



 それまでとは違って、1分以上の時間をかけた。

 結果として。



 カチリ。



 俺は鍵の解錠に成功した。

 これまで、多少なりとも経験を積んで来たこともプラスになっただろう。

 慎重に扉を開け、中を覗き見た。


 これまでのホブゴブリンと比べても、一回りでかい。

 そばに立てかけてある装備も、切れ味が鈍そうな大剣に、金属製の鎧。

 どう見ても、これまでのホブゴブリンとは一線を画す。

 それを象徴するように、一緒に寝ているゴブリンの数も多く感じた。

 一夫多妻という言葉が浮かんだ。


 はっきりとは言えないが、明らかにグール以上の強敵。

 装備の質によっては、四階層のゴーレムを一人で打倒しうる強さ。

 流石にT君には勝てはしないだろうが、時間を稼いで粘るくらいはできるかもしれない。いや、かつての俺ができたのだから、きっと出来るだろう。



 それほどの強敵。

 いや、強敵だった。



(闇纏)



 俺は音もなく中ボスホブの枕元に立ち、それまでのホブを仕留めたのと同じように、音もなく、渾身の力を込めて、首を落とした。

 どれほど強かろうと、どれほど良い装備だろうと、無防備に寝ている今は他のホブゴブリンと大差はない。


 それでも、一撃では落とせない可能性も考慮していたが、杞憂に終わった。

 数多のパッシブスキルとアクティブスキルが重なって、暗殺に凄まじい補正がかかっている俺の一撃は、ダンジョンが用意していただろう苦難を一つ、難なく越えた。


 俺は緊張していた息を吐き出し、残りの暗殺も進める。

 複数の妻らしきゴブリンを、子供らしきゴブリンを眠ったまま屠る。

 血は出ない。全てEPとなって消える。

 だが、もし血が出たとしても、俺は同じ行動をとるしかなかった。



 それがダンジョンの悪意なのか、優しさなのかは、俺にはわからなかった。



(クミン、終わった)


(こちらも終わりました)



 最後の一軒の処理を終えたところでクミンに連絡をとる。

 クミンもまた、見つからずにゴブリンの処理を終えたようで、合流することにした。


 ここまで、誰にも見つからず、気取られもせずに暗殺を進めてこれた。

 この時点で、目標の九割は達成しているだろう。

 経過時間は、2時間と15分というところ。まだ多少は、時間的な余裕をキープできている。

 残るは。



(最後の屋敷に、何がいるかだな)



 ホブゴブリンの塒の中央に聳える、人間が住むのと遜色ないような立派な屋敷ただ一つだ。





 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 本編では上杉くんがちょっと労しい感じになっていますが、この辺でカクヨムの方でサポーター限定ノートを公開したので一応載せておきます。

 またメインヒロインの貴重な日本語シーンが収録された、ゾンビパニック発生前の話になっています。



 世界が変わる前の日3 夜柳茉莉とゲームについて 前編(お試し版)

 https://kakuyomu.jp/users/score/news/16818792439746965213



 世界が変わる前の日3 夜柳茉莉とゲームについて 後編(限定版)

 https://kakuyomu.jp/users/score/news/16818792439746994322



 今回は、冬のある日に土曜の朝から茉莉ちゃんがゲームをやりに襲撃する話になっています。

 いつものように、お試し版は誰でも読めるようになっていますので、興味がある方は気軽にご覧ください。


 

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