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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第217話 命を奪いつくすための火力を



 目の前でサモングール軍団が一撃で全滅。

 そして巨体は、俺にめがけて突進中。

 体勢が悪い。行動できるとしても一手が限度。


 その状況で、自分の防御力とHPを信じる判断が俺にはできなかった。


 背水の効果によって力と魔も上昇しているが、重要なのは速だ。

 とにかく、攻撃を躱す。

 マトモに食らったら訳も分からず即死する。



『上杉さん!!』



 クミンからの言葉が脳内に響くが、返している余裕もない。

 ただわかる。俺が回避に失敗したら、クミンが身代わりになるつもりだろう。

 最初の想定通りだ……ふざけんなよ!!



 突進なら、相手の攻撃にぶつかるな。

 避けて、逸らして、ただひたすらに受け流せ。



 左右はだめだ。

 どちらも危機感が黒と告げている。

 おそらく、安易に避けた瞬間、腕が伸びてきてラリアットか爪を食らう。

 ギリギリの回避では間に合わない。


 後ろはだめだ。

 一瞬だけならともかく、前だけ見て突き進む人狼から一瞬避けたところでなんの意味もない。

 バック走で人狼に勝てる自信はない。


 では上。

 一番可能性があるが、やつの体格は俺よりはるかにでかい。

 そんな相手の突進をとっさに上に避けられる自信がない。

 先ほどの爪の攻撃は上にだって伸びる。

 避けきる前に、轢き殺される。



 結論、このままだと突進が避けられない。



 なら。



 答えは下。



 俺は、踏み込んだ足で自身の斜め後ろに飛びながら倒れこむ。

 とっさにバランスを崩したように見えたのか、人狼が犬のような大口で、にやりと笑みを浮かべるのが横目で見えた。


 だが、そうじゃない。

 転んだ俺を支える手は、この戦場の地面より少し『低い』ところに着地した。


 そこは、グールたちの進行を遅らせるための、ちゃちな落とし穴がある場所だった。

 だが、落とし穴といっても当然、俺の体が入りきるほどの広さはない。

 突進から逃れるには、あまりにも狭い。

 俺の手が、何かをするのを相手から見えなくする程度の深さの穴。



 ではどうするか。



 堀り進めんだよ!



 背水スキルによって伸びた魔のステータスが、頭の中で完成形の像を結ぶ。

 穴に手をついてバランスを保った俺に、人狼が多少驚きつつ突進の軌道修正をしてくるのを、横目に見て。

 俺は土石魔術で、クミンが均した地形をいじった。


 昔感じた万能感に、近い感覚。

 頭が冴え渡り、魔術の頂に近づく。


 地面が俺の思い通りに、蠢く。

 その仕掛けも動きも、地面の中。人狼の視界の外。

 一瞬で。瞬きの間で。人狼が更なる一歩を踏み出すよりも早く。


 奴の大足がハマる落とし穴をピンポイントで掘り進め、そこに足を踏み込んだ人狼がバランスを崩した。



「GROOO!?」



 その隙を見て、俺は手をついた地面の土を隆起させ、立ち上がる。

 反動を使って姿勢の制御をしながら、同時に踏み出す足を操り。

 加速するための足場を、跳ぶための足場を、即座に固める。

 一歩、二歩、少しずつ上に。少しずつ前に。



 そのまま、体勢を立て直した人狼が再び最高速になる前に、斜め前に跳ぶ。



 人狼もとっさに反応するが、爪が俺を両断するより俺が抜ける方が早い。



 右手には鍾馗の刃。

 すれ違いざまに、人狼の首を薙ぐ。



「っつうっぁああああああ!!」



 首筋に固い抵抗を感じた。切断には至らない。

 軌道修正。

 斜めに抜けるコースで、間違いなく太い血管を断ち切った。





 だが、危機感は全く消えない。





「GGGGRRRROOOROOOOROOUUUUUU!!!!」



 俺の背後で、人狼が吠えた。

 チラリと見れば、片手で首を押さえている。


 ドバドバと血が噴き出している。呼吸も荒い。

 だが、死ぬ気配は微塵もない。

 少しずつ、少しずつ、時間経過とともに傷が癒えて行っていると想定する。



 やはり、ただ斬っただけでは致命傷には至らない。

 さきほど全身につけた傷も、さほど効果はないのかもしれない。

 人狼の弱点は、以前言った通りだ。



 ──『銀の弾丸』



 それを撃ち込むまで、人狼は死なない。

 そう考えて行動するべきだ。


 だが、現状俺たちは銃器なんてものは持ち合わせちゃいない。

 そもそも、俺たちが持っている銀は、クミンが試しに作って俺が受け取ったあの、加工もしてない一欠片くらいだ。

 それを奴の分厚い毛皮を超えて撃ち込むには──胸や腹に風穴を空けてそこに直接打ち込むくらいしかないはずだ。

 それも可能なら心臓に一撃を決めて、即死を狙いたい。



(どうやって?)



 奴のフィジカルは見た通りだ。

 グール五体をたやすく屠った相手の心臓を、なんの苦労もなく穿つことなどできやしない。

 奴の回復力は見た通りだ。

 生半な攻撃じゃ、致命傷どころか行動不能に追い込むことすら程遠い。


 そんな相手の心臓に穴を空けて、さらに銀をぶちこむ?


 俺とクミンが二人掛かりでかかって、相手の攻撃を避け続けて隙を見つければ、なんとかなるだろうか。

 もしくは、グールよりも高度な連携で奴の手足を潰して、行動不能に追い込めればいけるだろうか。



 頭の中でふっと浮かんでは消える考えを、振り払った。



 それらは、俺たちが十全に人狼と格闘戦ができる、という想定の上での仮定だ。

 自分の限界を超えた性能を、土壇場で自分に求めるような話だ。



 万全の状態で、初めて検討を開始できるような話で。

 そしてもう、机上の空論に等しかった。




「っっ……!」




 左足から伝わる、激烈な痛みに思わず顔をしかめる。



 さっきのすれ違いざまに、抉られた。

 ほんの一瞬だったが、左足のふくらはぎがごっそりと削げている。


 筋肉の代わりに、流れる灼熱が俺の足を形成している。

 太い血管は避けたのか血は死ぬほどは流れていないが、明らかにやばい。

 久方ぶりに、頭以外の痛みで生命を実感している。


 もう一度、突進を避けるのは無理だ。

 立っているのだって、きつい。

 まともに動いてくれる気がしない。

 そして、逃げるのはもっと厳しい。


 つまり。

 できるのは、痛みを無視しながら捨て身で近づいて。

 奴の首が癒える前に、どうにかトドメをさすことくらいしか……。





「上杉さん! 下がって!!」





 クミンの声が響く。

 それもいつもの念話ではなく、空気を震わせる音として。


 何故? と思案して、即座に理解する。


 音として発することで、人狼が目を向ける。

 人狼の背後から迫るように、人型の形態になったクミンが、腕の甲殻をブレードのようにして振りかぶっていた。

 そういう形状に甲殻を変形できることを、今初めて知った。



「GGGGGOOOOOOOOO!!」


「舐めんなぁッッッ!」



 クミンの甲殻ブレードと、人狼の爪がぶつかり合う。

 クミンは両腕を使える。対して人狼は、首を押さえたままなので片腕だけ。

 スピードはほぼ互角、いやクミンの方が僅かに早い。

 人狼の体には、細かい切り傷が刻まれていく。


 ただし、その差を容易く凌駕するほど、人狼の方がパワーは上だ。



「っ!」



 人狼の薙ぎ払いで、クミンは両手を盾にして吹っ飛ばされる。

 アリ種族の甲殻があるとはいえ、体ステータスが控えめなクミンでは、相手の攻撃をマトモには受けられない。

 必然的に、耐えるのではなく受け流す形になる。



「まだっ!!」



 それでも、クミンは即座に前に出る。

 人狼に選択の余地を与えぬように。

 なぜか? 決まっている。

 今彼女が前に出ないと、負傷した俺が即座に人狼の餌食になるから。



「GooRooooAaaaaaaa!!!」



 人狼の声に、嘲笑が混ざった。

 クミンの攻撃力では、奴の体に有効なダメージを与えられないと知られた。

 効果はあるが、それで行動不能に追い込むよりも早く首の傷が癒えると見たか。


 いつも俺たちは、これに悩まされる。

 決定力不足。火力不足。

 どこまで行っても、相手の命を奪いつくすための火力が足りない。



『上杉さん! なんとか、アレを!』



 だから、それをなんとかするための仕掛けを、俺たちはいつも考えている。

 そのための秘密兵器を、俺たちはずっと考え続けている。



 いや、考え続けて『いた』だ。



「『夜のカーテン』」



 今は夜。

 この場には俺たちを含めて、暗視を持っていない奴はいない。

 だから本来ならこの魔術に大した意味はない。

 元の目的である、目くらましの効果はほとんどない。


 一瞬だけ、夜よりも濃い闇が広がったところで、暗視に慣れた目はすぐに闇に適応する。

 人狼が視界を奪われるのはほんの一瞬。そしてその瞬間はクミンにも訪れる。

 援護としては何の意味もない、そんな魔術、だが。


 その一瞬で十分。

 人狼が俺の姿を、気配を、匂いを、闇に溶かして見失い。

 俺は、鍾馗をストレージにしまった。



「GRR?」


「よそ見すんなぁっ!!」



 突然俺の気配が消えたことに人狼が戸惑うが、クミンが叫び、気を引いた。


 スキル『神出鬼没』

 たとえ戦闘の最中にあっても、非武装状態及び非攻撃状態で隠密効果を極限まで高めるスキル。

 夜のカーテンとこのスキルにより、俺はこの戦闘の真っ最中に完全に気配を消した。


 それだけじゃない。

 背水によって強化された魔の思考が、少しだけ俺に『闇を操る感覚』を取り戻させる。

 俺が全身に闇を纏っていることも、無意味ではないかもしれない。

 足場にするような無茶はできないが、闇を操ることくらいなら、出来ると確信する。


 俺は、血液をだらだらと垂れ流している左足を、闇で覆った。

 空虚な隙間を闇で埋め、役割を与えられた闇が、流れ出る血を強引に循環させる。



 闇が肉の代わりを務め、左足が、動く。



 この状態であれば、もう一度人狼の首を裂くこともできるだろうか。

 後ろから、心臓を一突きすることも、可能かもしれない。


 だがそれだけだ。

 弱点となる銀を打ち込む前に、反撃を食らって俺が死ぬだろう。

 クミンのかばうを前提にしたところで、二撃目の隙を作れなければ意味がない。

 だから、俺の行動は決まっていた。





 俺はクミンに背を向けてゴーレム達のところまで走った。





 ゴーレム達は投石の準備で固まっている。

 人狼とクミンの格闘戦に手を出す隙がないゆえに。

 それだけ二人の攻防は激しい。


 だが、人狼はクミンに致命傷を与えられるのに、クミンは時間稼ぎしかできない現状。

 このまま見ているだけでは、俺たちの負けは確定する。


 問題ない。

 俺は洞窟の入り口付近まで戻り、クミンと準備していた『秘密兵器』を手に取る。



 それは、一辺20cm強くらいの金属板で作られた立方体だ。



 パッと見ただけではただの鉄の箱であり、実際にこの状態だと鉄の箱以上の意味はない。

 だが、これこそが俺たちが火力不足に悩んでいたときに作った、一つのアイデアだ。


 俺はその鉄の箱に、CPを注いでいく。

 その合計は300。

 回復薬を飲みながら、T君召喚に匹敵するCPを吸い取ったところで、ようやくその箱は準備を終える。


 CPによって確かな熱すら感じさせる鉄の箱。

 だが、チャージをして終わりにはならない。

 俺はその箱を手に戻ると、石玉の投擲体勢に入っていたゴーレムへと預けた。



「ゴーレム、俺が合図したら、人狼にこれを投げろ。足元を狙ってな」


『──────』



 指示の上書き。

 これでゴーレムは、その指示が発令するまで待つだけの存在になる。



 さぁ、あとは、俺がうまくやるだけだ。



(クミン。今から戻る!)


(足は大丈夫なんですっかぁっっ!)


(大丈夫だ!)



 大丈夫。まだ抉られた肉はまるで戻らず、今もクソみたいな痛みを訴えてはいるけれど。

 闇がそれを包み込み、痛みを押し付けた思考が死ぬほど苦しんでいるだけ。通常通りに動かせる。


 隠密状態は維持できる。

 不意の一撃は放てる。

 であれば、仕事はこなせる。



 俺の足を抉ってくれた人狼に、一矢報いることはできるはずだ。





 次で、仕留める。


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