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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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216/230

第216話 この瞬間に畳み掛ける



 人狼、ウェアウルフ、ルーガルー、狼男。


 呼び名は様々だが、その怪物もまた、吸血鬼同様にメジャーなモンスターである。


 鋭く尖って伸びた爪、毛むくじゃらの大きな足。

 歪に広がった大口に、ギザギザの牙が立ち並ぶ。

 金属と見紛う強靭な肉体、剣にも引けを取らぬ硬質な爪や牙。

 スピードもパワーもタフネスも、並の人間を凌駕する。

 まさに、人類の天敵になるために生まれたような特徴を持つのが、そのモンスターである。


 倒す手段は一つ。『銀の銃弾(シルバーブレット)』を撃ち込むこと。

 そうすることで、人狼の不死にも似た呪いが解けて死ぬ──というのがよく聞かれる弱点だ。

 それ以外の弱点らしい弱点は、パッと浮かばない。



 そして俺たちが持っている銀は。

 クミンが試しに作ってくれたというあの一欠片だけだ。



 頭に最初に選択肢が浮かぶ。

 逃げるべきか、戦うべきか。


 もし、相手がグールのように時間を置いて消える相手なら、逃げる選択はアリだ。

 もしくは、最初のときのように洞窟に引きこもって、T君回復まで時間稼ぎをする手もある。



 だが、当然ながら時間はかかる。



 もしここで時間を消費したら、今日中の『ホブゴブリンの塒』攻略は、実質的に不可能になるかもしれない。

 一日の遅れは、残り時間が四日しかない俺には、あまりにも致命的だ。



 可能であれば倒す。まずは、その選択肢を選ぶ。



 ……ため息を吐きたくなる。

 おかわりがくる可能性も考慮していて、実際に来ただけなのに、俺は追い詰められている。

 グールの総数が250と見当をつけているなら、その手前で倒さず無力化することだってできた。

 予測はあくまで予測で、正確ではなかったからその決断はしなかった。

 T君がまだ元気だから、続投できると思った。


 まんまと裏をかかれた。

 ダンジョンに俺の浅い考えを見透かされていた。


 後悔は後からやってくるものだ。

 あの時こうしていれば、という言葉がなくならないのは、人間には未来のことなんてわからないから。

 そして、可能性をわかっていても、人間にはどうしようもない時間という圧力が、選択を急かすから。



 俺は選んだ。そして、今、強敵が現れた。

 戦力は激減した。それでも戦うと決めた。

 久しぶりに、死線が見える。



「クミン! まずは遠隔から攻めるぞ!」


『了解』



 だが、俺たちだってただの人間じゃない。

 ダンジョンに潜り、ステータスを与えられ、何度も死にそうになりながら積み上げて来た挑戦者だ。


 相手が何であろうと、挑まずして、勝つことはできない。

 肌から感じる威圧感が、トラウマがあるグールよりもよほど強大であろうと、俺は歯を食いしばって前を向く。


 ただ強いだけのモンスターがなんだ。

 レギオンを前にした時の『絶対に死ぬ』という畏怖に比べたら、そよ風みたいなもんじゃねえか。

 危機感先生だって、赤だって言っている。

 絶死の黒じゃないなら、勝てる戦いのはずだ!!




「GROOOOOOO!!」




 人狼の遠吠えが響く。

 喚屍草の呪いが撒き散らされた地に現れ、その場にいた俺たちを敵と認め。

 そうして、障害物や落とし穴が多数設置された地形を見て、にやりとほくそ笑む。

 狼顔のくせに、俺たちを嘲るような表情は、不思議と十分に伝わった。


「GUU!」


 人狼が太く強靭な足を、ぐっと踏み込んだ。

 ただでさえ死にかけた乾いた土を、さらに盛大に殺すような強烈な圧をかけて、人狼が跳ぶ。

 土埃が舞い、夜の中でもなお黒い狼の影が浮かび上がる。


 俺の目で見ても、速い。すさまじく速い。

 少なくとも、俺が今まで見てきたモンスターの中では、斥候型の三本腕に次いで速い気がする。


 一歩の歩幅が、グールとはまるで違う。

 それでいて、足の踏み込みの強さも、その大きさも。

 グール用の嫌がらせの落とし穴を気にもせず、ちょっとした障害物程度の扱いで、人狼はジグザグの軌道を描きながら急速に迫る。



「投擲! とりあえず狙いは適当、数で制圧しろ!」



 あの調子では、正確に狙っている間に喉元を食い破られかねない。

 とりあえず数だけ投げて、少しでも敵の速度を緩めないと、攻撃どころの話ではない。

 ゴーレムだけでなく、ただ数を稼ぐためにグールにも投擲を命じ、その合間に俺も動く。



「ステータスリンク:クミン速→グループALL。闇纏闇纏闇纏……ああもう!」



 時間が足りなかったとはいえ、バフの掛け直しができてなかったのは致命的だ。

 ただ、ステータスリンクは、いまちょっとした裏技的な使い方ができるようになった。

 本来ステータスリンクは、俺と配下の間の一々対応なのだが、グループリンクを取得した際にその枷がちょっと外れた。

 俺を含めたグループ全体に統合された感じになって、そのグループ全体を対象にした柔軟なリンクが可能になったのだ。


 現在のステータスではクミンの速が最も高いので、あの動きに対応するにはクミンから速をリンクするのが一番良い。


(くっそ、CP回復薬飲む手間が惜しい!)


 消費したCPを回復薬をガボガボ飲んで回復し続ける。

 ゴーレムのサモン、グールのサモン、リンクによる消費に闇纏の連打。

 その横で、投石用の石玉を作り続けつつ人狼の動きを警戒。

 攻撃が途切れそうなタイミングで、魔術よりも速い棒手裏剣で牽制。


 そうしながら、次の手を必死に考えている。

 思考加速と並列思考がなければとっくにパンクしている。

 戦う前のスキル選択だけは、正解を選んだ気がする。




「GUURRUUOO!?」




 その投石の雨の中で、事態が一つ動く。

 さっきまでの投石速度に慣れていた人狼が、ステータスリンクによって一段階上がったスピードにとっさに反応できず、着弾。

 その隙を逃さず、ゴーレムからすかさず追撃が入り、右足の足首あたりに痛打。

 足の骨が折れたのか、人狼が悲痛な声を上げた。



 スピードが、落ちる。



「っ! グール部隊! 五体がバラバラに動いて牽制攻撃! 続けて足を狙え! ゴーレムはそのまま投石! 今度からはよく狙え!」



 接近される前に機動力を落とせたのは大きい。

 頭の中で計算が動く。


 HPを削りきれた? クリティカルが入った?

 相手は見るからにタフなモンスターだが、ステータスは防御ではなく再生能力に寄っている?

 ゴーレムの投石の火力と、グールへのダメージなどを諸々考えて。

 HP低め、防御やや高め、再生能力持ち、そういうタイプと推測する。


 であれば、この状態は一時的なもの。そう長時間続くわけがない。

 とにかく攻撃を加えて、相手の手足を奪い、行動不能に追い込む。

 そうしなければ、次の手を打てない。


 銃器がないなら、銀を直接打ち込む。

 動き回る相手にそれを行うのが至難なら、まず相手の行動不能が前提になる。

 そして強引に風穴を開けて、塞がる前に叩き込む。


 ただし、人狼の回復力は未知数。

 せっかく落ちたスピードがいつ戻るかもわからない。

 ならば、この瞬間に畳み掛ける。

 一気に行動不能にもっていく!



「クミン、俺も出る!」


『上杉さん!?』


「クミンはここから遠隔攻撃をしつつ、人狼の動きを俯瞰で見ててくれ! 何かあったら即座に連絡を!」



 クミンを残し、俺はグールの陰に隠れるように前に出た。

 今のステータスならクミンの方が接近戦は強いかもしれないが、ストレージから自由に銀を取り出せるのは俺のほうだ。

 ……それに最悪、クミンは身代わりと食いしばりで一回だけなら耐えられる。俯瞰で見ていた方が、判断は正確にできるだろう。



 なら俺が接近し、クミンにバックアップしてもらう方が良い。



 実際に近づくと、人狼の大きさがわかる。

 体長は2m30cmくらいだろうか。かなり大柄だがアイアンゴーレム(第一形態)のときのような圧倒的な体格差とまではいかない。


 ただ、体がでかければそのぶんリーチは伸びる。

 腕も、足も、人間のつもりで距離をとっていては手痛い反撃を食らうだろう。



(近づくと、途端に攻撃の圧が増す。一瞬でも気を抜けば持っていかれるっ)



 足を怪我しているくせに、その足を時として武器に使うのはありなのか、爪が、牙が、腕が、足が、圧倒的な攻撃力を伴って繰り出される。

 闇を纏ったグール達もそれがわかっているのか、必要十分な間合いを取って人狼を囲むように動いている。

 決して、一人で踏み込まないように、攻撃は必ず仲間に任せるようにしながら。



「GROOOOO!!」



 怒声とともに、人狼の剛腕が俺の真上を薙いだ。

 咄嗟に頭を下げなければ、鋭い爪の一撃でHPなど一撃で消し飛んでいたかもしれない。

 だが、そうやって大振りの攻撃を俺に見舞ってくれるなら、俺は代わりに意地でほくそ笑む。

 隙を晒した分だけ、他の攻撃チャンスが巡る。


 以前グールが、ゴーレムやT君にやったのと同じように。

 敵の攻撃を誘ってひらひらとそれを避け、その隙に誰かが踏み込んで少しずつ肉を削る。

 今回は俺もグールと一緒になって、彼らの一撃に合わせて鍾馗を振り、時間で回復する奴のHPを削り続ける。


 人狼のステータスは依然分からないが、小さくても少しずつダメージを与えられるなら御の字。

 闇纏の影響で、相手からの回避しきれない攻撃によるダメージも、かなり抑えられているように感じる。

 たまに襲撃に俺が混じれば、人狼は俺にあからさまなヘイトを向ける。

 そのヘイト移動だけでタイミングを乱すきっかけになって、さらにグールの動きをアシストできる。



「GRRROO!!!?」



 鬱陶しいグール達を打ち払うように、人狼が動く。

 爪を薙ぎ、牙を剥き、潰した足を引きずりながら暴虐の嵐を振りまく。


 人狼の武器も基本はグールと一緒だ。

 鋭い爪と、硬い牙。それに強靭な肉体と、忘れてはいけないのは尻尾だ。

 基本的には、爪による切り裂きと、牙による噛み付き攻撃。

 だが、肉体のスペックを生かしたぶちかましや、膝蹴り、そして手足とはまた別に動く尻尾の牽制が、人間を相手にしている以上の緊張を強いる。


 三本腕よりは、きっと弱い。だが、三本腕より容易いと思ってはいけない。

 どちらも俺よりスペックが上の怪物なれば、侮ることなどできるはずもない。

 足を怪我し、動きが鈍った今が絶好のチャンスと見たのはそのためだ。



(クミン、変わりは?)


(特にありません。双方被害は軽微ですが、着実にダメージを与えていっていると思います。ただ、時間をおけば傷は少しずつ回復しているように見えます。ゴーレムの投擲のタイミング、難しいです)


(いつでも投げられる準備だけは頼む!)



 時折、上から俯瞰して見ているクミンに尋ねる。

 さっきも言った通り、本当はクミンも前線に加わった方がいいかもしれない。

 安全策を取った。結果的に、状況はそれなりに有利に推移している。



 ──本当だろうか。火力が足りていないのではないだろうか。

 このまま続けて、勝機はちゃんと訪れるのだろうか。



(いや、怯むな、信じて攻撃を続けろ。奴は強敵だが不死身じゃない!)



 そうして何分の間、人狼を削っていただろう。

 回復が追いつかない程度には、人狼の体には切り傷や掻き傷が刻まれ、そこから血を垂れ流している。


 攻撃の圧力は脅威だが、足の負傷によって動きが鈍った今であれば、ガチンコできないわけじゃない。

 度重なる出血で、今も少しずつ奴の動きは鈍り続けている。

 動きの鈍さが、今の俺たちを助けている。

 グールたちの損耗も想定内なら、このまま押し切れるか。




 そう思った直後だった。





「GuuuOOOORRRRRRRAA!!」





 人狼が、周囲に展開したグールを鬱陶しそうに睨みつけ、咆哮した。

 戦闘中でも無意識に体が硬直する。グール達もそれは同様で、一瞬だけ、翻弄する動きに陰りが見えた。



「っ! 散開しろ!」



 咄嗟に叫んだ。

 根拠らしい根拠があったわけじゃない。

 ただ、咆哮で硬直した瞬間の勘にしたがって動いただけだ。


 だが、どうしても声による命令は、ワンテンポ遅れる。

 俺の命令が届いた瞬間には、グール達は回避行動を取っていた。

 だが、それよりも、ついさっきまで隙を窺っていた人狼の方が早かった。


 奴は、潰していたはずの右足を『軸』にし、左足の爪をこれでもかと『伸ばして』大きく一回転をした。



(……くそ、そうかっ!)



 破壊したはずの右足が治っていたことを隠されていた。

 少しずつ、動きを鈍らせることで、状況は有利だと誤認させられていた。

 攻撃のタイミングを見計らい、初見の咆哮をうまく当てられた。


 そして、この瞬間まで足の爪を伸ばしての攻撃を温存し続けた。




 その人狼の作戦が全て綺麗にハマった結果。




「グウロオオオロオオ──ッッガ…」

「グウウルウウウウウ──……」



 たった一撃の回し蹴りで、俺のサモンしたグールの軍団はバラバラに引き裂かれて全滅した。

 人狼の牙の生えた狼顔が、ニヤリと歪む。



 俺と奴の一対一。



 瞬間、人狼の両足を万全に使った踏み込みが、回避動作を終えた直後の俺に突っこんで来る。

 さっきまでとは違う、本気の突進。


 体勢が悪い。後ろに下がっている最中。

 このままだと何もできずに終わる。

 頭を回せ、思考を加速しろ。

 今が正念場だ。


 突進が俺にぶつかるまで、ギリギリ一手の余裕はある。

 一手だけ、行動できる。

 なら、どうする?





「背水」





 俺は、防御を捨ててその突進を回避することに命を賭けた。



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― 新着の感想 ―
ここで背水を切れるのが上杉君。
背水ブッパは最強だって古事記にも書いてる
やはり背水…背水は全てを解決する
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