第215話 これは増援じゃなくて
「UUUUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRRRRrrrrrrrrrr!!!!!」
T君の声が五階層の入り口前広場に響き渡る。
戦闘は、順調に推移している。
特に鉄球とアーチャー隊による牽制攻撃によって、近づいて来られるグールの数が激減しているのが一番大きい。
最初はとりあえず鉄球を投げられるだけ投げる。
ゴーレムとT君には射程という概念がないくらい、ガンガン遠くまで投げまくっているので、ここでとりあえずグールの勢いが一度削がれる。
それでもある程度まで近づいてきたグールの群れには、少し高台を作って配置したスケルトンアーチャー隊が、鉄の鏃の弓矢をお見舞いする。
スケルトンアーチャー隊の数は合計10体。このためだけに、新品の弓も10本買った。
痛い出費だが使いまわせるので、初期投資とした。
お手製の矢なので射程はお察しなのだが、それでも高所から一方的に足を狙った攻撃が降ってくるのは、グールの行動を大幅に制限できる。
それによって、T君までたどり着くグールの数が減り、タイミングがバラける。
そして最後にT君が待ってましたと言わんばかりに、近づいてくるグールを処理していく。
近づいてくる数が少ないので、鉄棒は二本態勢で、常に一本は鉄球に専任できる程度には余裕があった。
それでも生き延びてくるグールについては、俺とクミンがおこぼれを狙うように刈り取る。
途中で鉄球や鉄の鏃の数が足りなくなってからは、再び石玉作りが必要になったりとやや準備不足はあったが、グール狩りは前々回とは比べものにならないほどスムーズに進む。
狩りのスピードも、段違い。
T君任せであったときになんとか到達した137体は、一時間経たない程度の時間で到達した。
スケルトンアーチャー隊はすでに機能を停止してしまっているが、ゴーレム石玉部隊はまだ健在。
T君のダメージも目に見えるほどのものはない。
俺とクミンもほぼ無傷。
順調な推移だ。
確実に流れが来ている。
更なる安定のためにはもう少し物資が必要だということは分かったが、それはクミンの生産能力もあるので如何ともしがたい。
とりあえず、この状態なら終わりまで見えて来ている。
「グッルウウウラアアアアア!!」
敵のグールが大きく吠えている。だが、それに怯むT君ではない。
今回も開幕にクソデカ遠吠えは聞こえたが、身構えていた故に影響はほぼなかった。
でも、油断はするな。
終わりが見えたときこそ、気を引き締めるべきだ。
「UUURRRRURURRRR!!」
グールに応えるわけではないが、T君が再び声をあげた。
昨夜の、相手がT君一人だけの時にはまだ翻弄する余裕があったグールたちだが、ゴーレムの大振りの攻撃に、俺のちょっかいも合わさると流石に余裕がない。
そして、余裕がなくなればT君の一撃を避けられない。
そして数が減ることで、更にグールたちには余裕がなくなる。
前回俺たちがやられたときとは逆の好循環。
鉄球や鉄の鏃がなくなっても、十分に回っている。
そして、目に見える範囲で明らかに変化が起きてきた。
「現れるグールの数が減って来てる!」
『もうすぐ終わりってことですね!』
森から湧いてくるグールの勢いが減った。
それまでわらわらと間断なく、いったいどこから湧いて来ているんだと不思議に思う勢いで集まってきたグールに陰りが見える。
俺のカウントでは、倒したグールが200を超えたあたりから、顕著になってきている。
「250想定! あと一踏ん張りッ!」
俺はとりあえず、グールの終わりをそう定義づけた。
数は適当だ。昨日倒したグールの合計もそのくらいだったはずだ。
これが一回の限界だとすれば、何かがあるとしたら250体。
クミンには分からないとは言ったが、実はそういう想定で動いていた。
時間にして、一時間半は経った。
敵の勢いが弱まれば、さらにこちらに余裕が生まれる。
ゴーレムもT君もまるで疲れ知らずだ。
相手のグールにも疲労はないが、同じ条件ならT君の方が強い。
そして、240……244……248……249……。
「UUURRRAAAAAAA!!」
今、俺のカウントでは250体目のグールがT君に頭をかち割られた。
そうなる前に分かっていたことだが、そのタイミングで林の方から現れるグールは、ゼロになっていた。
つまり、250体のグールのラッシュを捌ききったということだ。
「終わった──が」
『まだ、警戒してください』
思わず言葉が漏れたが、クミンの声かけで気を引き締め直す。
何かあるかもしれない。
今に、まばらに生えた木々をなぎ倒して、腐肉の巨人が現れるかもしれない。
頭の中で思わずレギオンの姿が浮かんできてしまって、俺はいっそう身を固くした。
のだが。
「何も、来ないな?」
『みたい、ですね?』
予想に反して、増援の姿はない。
というか、それを待っている間も無く──
「uuurrrr」
一戦を終えた判定になったらしいT君が、一仕事終えた感じで消えていこうとしていた。
「ああ、ごめん。ありがとうT君。お疲れ様でした」
「OU」
「やっぱ普通に返事してるよね」
「RRRUUUUR」
その一点だけは頑なに認めないまま、T君は光の粒子になって消えていった。
サモンモンスターである以上、これは仕方のないことだ。
仕事は無くなっていたスケルトンアーチャー部隊も、一応何かあった時のために残しておいていたが、彼らもT君と同様に消えていく。
彼らにもお礼を言って、後には戦闘が終わった静かな戦場が残った。
ゴーレムは消えていない。
そのあたりも特殊なサモンモンスターである。
まぁ、外付けコアをつけた一体はともかく、もう一体の方は内蔵CPが無くなった時点で「お先に失礼」していったのだが。
「なんか、拍子抜けだな」
『まあいいじゃないですか。別に好き好んで強敵と戦いたいわけじゃないですよね』
それはそうなんだが。
ちらりとT君のサモン状況を確認する。
──────
?????????:300CP(再召喚可能まで1:24:27)
──────
軽傷だった故か、それとも戦闘時間が短かったからか。
前々回よりも再召喚までの時間は短い。
今すぐは無理だが、これなら『ホブゴブリンの塒』に着く頃には、切り札としてストックできる状態になりそうだ。
と、とりあえずの現状を確認し、回復薬とかを一通り口にして、さてお待ちかねのドロップアイテム拾いに挑もうか。
そう思ったところだった。
「GUUUUURRRRUUUUUUUUAAAAAAAA!!!」
グールの住まう森から、唐突な大声が響く。
俺もクミンも気を抜いた、ちょうどそのタイミングを狙ったかのように。
咄嗟のことで俺たちの身体が一瞬強張るが、かろうじて残っていた意識が即座に口を動かした。
「やっぱりいたぞクミン!」
警戒していたのは正解だった。
だが、それでもさらに裏をかかれた。
ここで増援として来ていたら、T君は続投できたしスケルトンたちも残って骨壁くらいにはなってくれた。
だが、これは増援じゃなくて、連戦だ。
一戦毎の縛りがあるサモンモンスターが一度解散し、俺とクミンも戦闘が終わったと認識した時点でぶつけて来られた。
戦闘中にかけていた闇纏等のバフも切れて、回復も終えて、一区切りついたところで次がくる。
即座に戦闘準備を整えようともがく中、頭の片隅ではふとゲームのことを考えていた。
闘技場とかは、こういう一戦毎に少し間があるスタイルが多いな、とか。
ボス前の連戦とかは、確かに雑魚戦が一度終わってからボス戦になることが多いな、とか。
そういう流れじゃなかったレギオンは、第二形態も含めて大ボス戦っぽかったな、とか。
益体もないことを考えている間に、事態は進んでいく。
「位置取りは俺たちがT君の場所にいく。いつでも逃げられるように整えておいて、あとは『秘密兵器』の準備もしておいてくれ!」
『了解です!』
増援と連戦の違いで一番困るのはT君の扱いだ。
消耗したT君は現在クールタイムに入っているから、次の戦闘では呼べない。
他のサモンモンスターを呼び出すことはできるが、事前に矢などを準備する時間がなければ、スケルトンアーチャー隊なんかは運用できない。
気配感知の範囲外なのに、強大な何かがすぐそこまで迫ってくる危機感があるくらい、準備にかけられる時間は少ない。
できることを最低限行っておかないと。
「サモン:ゴーレム」
まずは、外付けコアなしのゴーレムの再召喚。
材料は土だが贅沢言ってられない。CP回復薬を吞み下す。
続けて、T君とゴーレムを除けばもっとも頼りになる集団を呼び出す。
「サモン:グール5体」
数の縛りはまだ変わっていない。
俺を一度は殺しかけた怨敵にして、さっきまで散々狩り続けていた現在のサモンモンスターの三番手、グール軍団を呼び出す。
モンスターのグールとは違う、黒い影で作られたような彼らは、正直普段のグールよりカッコいいと思う。
あとは、グールとの戦いで荒れてしまった陣地を、可能な限り補修して。
『上杉さん、例のアレは準備できました!』
「了解! あとは石玉を!」
秘密兵器の準備ができたらしいので、最後に投擲用の石玉を時間が許す限り量産する。
クミンも人型形態になって、投擲の準備を整え。
そうして、もう気配感知にはビンビンに突き刺さっていた、グール軍団を倒した後の隠しボスらしき存在が、森から、その姿を現した。
「GGGUUUURRRRROOROROROROOOO!!!」
一瞬だけ、グールをそのまま大きくした存在かと思った。
体長2メートルを超える、筋肉質な体をした黒塗りの怪物。
だが、違う。
グールは犬のような顔をした人間風ゾンビであるが、姿を現したそいつは。
狼の頭を持ち、身体中を黒い体毛に覆われた、人間風の狼。
つまりは、人狼。
吸血鬼の配下の一人になることもある、有名な怪物であった。




