第214話 神々への信頼
四階層ゴーレムランニングは三時間強で切り上げて終了。
稼いだEPは9600。ドロップは今日もなし。出現位置も悪くて数も稼げなかった。運が下振れている気がする。
CP回復薬は溜め込んでいるので、さっき消費した分程度だけ補充して、あとはレベルアップの貯蓄に回す。
時間は間もなく、18時になるところだ。
つまり、五階層に夜がくる。
五階層に挑んでからは三日目。
吸血鬼ラベンダーに首輪を付けられてからは、二日目の夜だ。
……今更ながら、五日間待ってやるの五日がどこ基準なのかちゃんと聞いてなかったのが致命的だな。
そもそも吸血鬼界の一日ってどこ刻みなのか。
あの発言が昨日の昼で、そこから120時間とすれば、今は丁度30時間経つかくらいだな。
夜に出向かないといけないことを考えると、首輪を付けられて五日目の夜がデッドラインか。
今日を入れても、あと四日で場所も分からない屋敷までたどり着いて、しかも戦える強さになってないといけないって、やっぱおかしくねーか。
……泣き言言っても変わらない。自分の命がかかってんだから仕方ない。
幸い、ゴーレムランニング、無料吸血蝶狩り、そして無限グールのおかげでEP稼ぎ自体はなんとかなりそうだ。
まぁ、その無限グールが本当に使えるかどうかは、今日このあとの戦いで決まるんだけどな。
「クミン。とりあえず鉄製武器の様子はどう?」
『吸血蝶処理の合間合間でしたが、一応形にはなったかと』
おずおずとクミンが繰り出してきたものが、グール狩りのための秘密兵器たち。
まずは、スケルトンアーチャーに使わせる用の、石の矢の鏃に鉄を採用したものだ。
今までは鏃の部分も石だったものを、今回は鉄製に換装している。
その分重くなったりの問題はあるが、それを差し置いても対グール戦では火力が大幅に向上したはずだ。
欲を言えば、周囲に木材があるんだから木製の矢に鉄の鏃みたいな感じの方がいいのかもしれないが、木工スキルとかないんだ俺たち。
そもそも、何魔術を使えば木が加工できるのかもわからん。
慣れないことをする前に、まずは一歩ずつ進んでもらうことにした。
そして、雪合戦の雪玉ならぬ、石玉だったものの進化系。
まぁ、つまりは鉄球である。
正直言えば、鉄球まで来ると俺はコントロールを保つ自信がないのだが、ゴーレムとT君の力自慢達は、この重量の球でもなんなく投擲してくれるだろう。
石玉では確殺できなかったグールが、これで一撃で殺せるようになったらかなりのアドバンテージである。
その分、使ったCPは増加しているのだが、敵を甘く見てケチると痛い目を見るってのは、発狂ゴーレムで痛感しているからな……。
あとは、鉄棒が予備を含めてもう何本か。
折れた分の補充プラス、ゴーレムたちに使わせる用のものであろう。
合計7本になっている。
「クミン、鉄の加工早くなったよね」
『まぁ、何回も何回もやってたらいい加減慣れますよね。CP効率も随分と向上してますよ』
「マジで足向けて寝れないなぁ」
さすがは土石魔術(上級)のクミンさんだぜ。
俺なんて全然その作業してないせいで、全く向上した気がしないぞ。
移動の補助とか、追撃とかに使うんなら土と石で十分なんだ。
……おかしいな、土石魔術に働きかけるスキルは《混沌の魔君》に入っているはずなんだけどな。
スキルは使わなければ成長しない。それを思い知った気分である。
『あと、試作ですけど、これ』
そう言って、クミンは貯めに貯めた鉄材の中から、そっと小さな鉄の端材のようなものをくわえて持ち出した。
サイズにして百円玉くらい。だけど、この鉄はなんだろう。俺が使えるサイズの鉄球か?
俺がそれを受け取りつつ不思議に思っていると、クミンが呆れた様子で言う。
『試しに作ってみた、銀ですよ』
「あぁ! これが銀か!」
そういえば余裕があったら頼んでいたんだった。
あまりにも見た目が鉄というかステンレスっぽいから見分けがつかなかった。
だが、よくよく見れば磁場理解のスキルが鉄との違いを教えてくれている。
鉄は磁石にくっつくけど、金銀銅はくっつかないって覚えた気がする。
そうかぁ、これが銀かぁ。
『作ってみた感触だと、土石魔術で作成するの自体はかなりCP使いますけど、そこから加工しようと思うと意外と柔らかいですね』
「ゼロからイチは難しいけど、一度できてしまったら扱いやすい金属ってこと?」
『はい』
クミンからの所感を聞いて、俺はふーんと眺めてみる。
ただ、クミンがこのサイズでしか作ってこなかったということは、現時点でポンと作れるのはこれくらいが限界ということでもあるんだろう。
クミンのスキルアップかレベルアップを経なければ、小さなナイフなりでも作るのは難しいかもしれない。
もともと、鉄に比べたら軟らかくて、武器に加工するのには向いてないと聞いたこともあるが。
「とりあえず、これはどうする、クミンが持ってる?」
『いや、それは上杉さんに差し上げますよ』
「……もらっても使い道がなぁ」
くれるというなら、まぁ、もらうにしても、この小さな銀をどうすれば。
と、俺が悩んだところで、もう一度クミンが呆れた顔をしているのに気づく。
数瞬の後、その理由がなぜかと思い至った。
「ごめんクミン、ありがたく貰う。俺の土石魔術でも、加工はできるの?」
『できると思います。上杉さんはウチの主人ですから』
「ありがとう」
俺はその銀の塊をストレージにしまう。
今じゃない。だけど、いずれ時間を作らなければ。
たとえあと四日で目標を達成できなければ死ぬみたいな状況でも、やらなければいけないことが一つあった。
茉莉ちゃんと約束した、手作りアクセ作り。
クミンは、そのアクセサリー用にと思って、先駆けて銀を少量作ってくれたんだろう。
俺の土石魔術で加工できるなら、いくらでも手はある。
ストレージにしまったままの、たった1EPのEP結晶を、思い出す。
今となっては本当に何の意味もなかった嘘と、それを大げさに喜んでくれた茉莉ちゃんの顔を思い出す。
彼女のために、アクセサリーを作ろう。
彼女が目覚めたとき、心からの謝罪とともに、あの日の嘘を本当にするための何かを作ろう。
これは、俺の命と同じくらい、忘れちゃいけない予定だ。
「それじゃクミン、準備を始めようか」
『はい。今日中に、進めるところまで進みましょう』
「今日の目標は『ホブゴブリンの塒』の攻略だ」
その前の無限グールは、前哨戦のつもりで挑む。
本当はそんな余裕は全くないんだけど、そのくらいの気持ちでなければ、五階層は攻略できないだろうからな。
それから、整地に予定通り30分ほどかけて、俺たちは三度目となる対グール用のキルゾーンを作る。
全くの準備不足だった一度目とも、その時点で可能な限りの準備をしつつ、肩透かしに終わった二度目とも違う。
おそらく一日経てば湧きも回復しているだろう、無限グール軍団との戦い。三度目の正直だ。
俺のスキルも万全。
贅沢を言えばサモンモンスター用のパッシブも付けたいが、それより思考補助系のスキルが優先なのは身に染みている。
……本当はどっちが有用なスキルかについては最後まで悩んだが、何かあった時に俺が死なないようにする、という点を考慮してこうなった。
クミンを説得する材料がなかった。
問題はない。
十分に対処できる。
あとは、どれだけ被害を少なくできるか。
その気持ちでいく。
「CP回復薬は万全だな?」
『EPを余分に回してますから大丈夫です』
昨夜の二度目のグール狩りのEPは大部分をCP回復薬に回したし、現状ではちょっとした余裕はある。
といっても、クミンの作業用で結構な回復薬は溶けてるので、万全と言い切れるほどではない。
この戦いに向けて俺のレベルを1上げるか、CP回復薬を十全に用意するかは悩んだが、今回はCPに回した。
最初の時よりレベルアップはしているのだ、不測の事態も色々と想定はしたが、1レベルよりも1000のCPが役に立つと踏んだ。
あとは、どう出るか、だ。
「最悪、一発でお代わり来なくなるまでグールを狩り切ったら、おまけの大ボス出現は、可能性としてはありうると思っている」
『上杉さんのそういう予想って、当たるから嫌なんですよね』
フラグじゃねーんだよ。
ただの、神々への信頼だよ。
このフィールドでまだ強敵の出現が観測されてないのも、俺の不安に拍車をかけている。
一応『ホブゴブリンの塒』は残ってるけど、無限グールよりは難易度低いはずだからな。
あの方たち(魔の女神様は除く)は、やる。
隙を見せたらやる。
今まで散々、強敵に次ぐ強敵をぶつけられてきたから俺は信じている。
多分、俺が闇纏に気づいていなかったのを見てやきもきしただろう分を乗せて、盛大にやる。
こう思っておけば、逆にやらないんじゃないかなって可能性を、ちょっと信じている。
問題は何が出るのかわからないことだが、そこはもう出たとこ勝負で行くしかない。
最悪、戦わずに逃げる。この考えは絶対に捨てない。
そのためのCP。そしてそのための思考加速スキルだ。
少なくともT君が速攻やられるレベルのやつは、そんな簡単には来ないだろう。
出てくるのが吸血鬼ラベンダークラスは無理だが、さすがにそのクラスは出ないだろう。
出ないよな。分からない。もし出たら、全力で逃げる。
T君が一撃でのされるレベルのが来たら、何も考えず逃げるしかない。
そのための心の準備だけは済ませておく。
「進化したカウントスキルを盛大に使ってグールの討伐数カウントしていくつもり。もし大ボス出現がグール討伐数関係だったら、今度からはそこ超えない調整にできる」
『その最初の1回目で死にそうだから嫌なんですけどね』
そんなことを言っているクミンをまた庇うスキルで殺させないためにも。
もし、やばいのが出てきたら全力で逃げる心の準備だけはしておいて、俺たちは喚屍草の呪いを五階層にばらまくのだった。




