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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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208/223

第208話 わんこグール




 グール狩りを考えた上で、一番手間がかからず安全そうだった一つ目の作戦が頓挫してしまった。

 少しがっかり感はあるが、なってしまったものはしょうがない。



「もともと、リスクを抑えたやり方だからそういう結果もあるか」



 やはりダンジョンはこういうところがある。

 ゴーレム狩りではまかり通ってしまったが、本来狩りというものはリスクと隣り合わせなんだ。

 安心安全なレベルアップなんてものは、本来道理が通らない。


 ……要らないところでリスクを背負ってつじつま合わせされている気がするが、とにかく計画が一つダメになった以上、次を考えるしかない。



「一応、無駄に音を出しておびき寄せられるか試してみるか?」


『それで最初のグループが寄ってきても、そこからまた「逃げろ」と言われたら同じことになるのでは?』


「口を塞ぐ?」


『うーん、とりあえずやってみる価値はあるかもしれないですね』



 というわけで、それも試してみたが駄目だった。

 結論としては、普通に寄ってきた最初のグール以降のおかわりができない。

 もしかしたら声以外の伝達手段があるのかもしれないし、『逃げろ』と言っているから寄ってこないのではなく『集まれ』と言っているから寄ってきているという説もある。


 グールは俺が想定していた以上に賢いモンスターの可能性がある。

 見た目は、魔改造されたゾンビみたいな感じなのに。




 そんなこんなで、何度か検証を行ったところで、俺は足を止める。

 目的地である『ホブゴブリンの塒』まではまだ遠いが、事情があった。


「そろそろCP回復薬が半分を切る。一旦、端末くんのところまで戻ろう」


『了解です』


 検証のためとはいえ、一回につきCPを300消費するT君をばかすか呼んでいれば回復薬は凄まじいペースで消えていく。

 余ったEPを全部回復薬につぎ込んでいてもそれは仕方ないことだった。


 現状の収支は、トータルではプラスというところだが、ほとんどトントンくらい。

 回復薬の補充を済ませたら、リスクを承知で二つ目の作戦に出よう。


 つまり、グールを問答無用で興奮させる作用があると思われる屍肉草の利用である。









「やるか」



 端末君から再びCP回復薬を仕入れたあと、俺たちは五階層の入り口からほど近い場所で、少し緊張していた。

 目の前にあるのは、昼に散々見たのとはこれまた形状が違う屍肉草であるつくしもどきである。


 これの匂いを感知したグールは、気配感知の領域外からでも集まってきていたし、ゴーレムを倒した興奮の中にあっても新しい匂いに反応して駆け出した。

 つまりこれは、五階層でグールの行動をある程度制御するためのギミックであることはまず間違い無い。


 怖いのは、その効果がどのくらい及ぶのか分からないこと。

 だから、実験場所として入り口洞窟の真ん前を選んだ。


 ここなら、仮に想定以上の数が集まってきたとしても、洞窟にすぐ逃げ込めるし、T君が一度に相手しなければいけない数を半分にできる。

 信じていないわけではないが、T君も無敵ではないのだ。

 無敵だったら、俺たちは今ここにいないわけだし。


 また、主にクミンが担当になって洞窟前広場の地形の改造も行なっている。

 土でできた壁と堀を組み合わせた防衛用の地形になっていて、わざと歩きやすいルートを作り、グールが迫って来る方向を制御している。

 うまくハマれば、モグラ叩きの要領でT君がグールの頭を砕き続けるアトラクションが完成する、はずだ。

 グールがそんなもの知るかと破壊しながら突破してくる可能性も否めない。


 そして、グール以外の化け物がやってくる可能性もまたある。

 心構えだけは、しておくに越したことはない。



「というわけで、やるぞ、クミン」


『いつでもどうぞ』



 現状、俺たちの仕事はもう終わっている。

 あとは、グールの知性とT君の暴力のガチンコ勝負である。

 というわけで、俺たちはまず、根元から採取していたつくしもどきを、普通にその辺の石ですりつぶして、しばらく待ってみることにした。

 すりつぶしたつくしもどきからは、血肉のような匂いが撒き散らされているが……。



「来ないな?」



 五分ほど待ってみても、グールは現れなかった。



「うーんこれは、匂いで近寄ってくる範囲にはグールが居ないってことか?」


『そうですね。帰ってくるときに近くにいたグールは狩ってしまいましたし、そのときに「逃げろ」の連絡があったとしたら、この近くに居ないとしても頷けますよ』


「分からないな」



 そういう可能性はあるか。

 仮につくしもどきに、グールの理性を崩壊させるような効果があったとしても、そもそも効果範囲内にいなければ、寄ってくることもない。

 普通に考えれば、そういうことになる。



「やっぱり、衝風魔術で撒くしかないか」


『危険じゃないですか?』


「それは承知の上で。だから、逃げられる準備はしている」


『……まぁ、逃げられるなら大丈夫ですか』



 その結果を受けて、俺は計画を一つ進めることにした。

 もともと、すりつぶしただけの効果を試したあとに、今度は衝風魔術で広範囲に匂いを捲くのは規定路線だ。

 本来は、ここで比較検証をするつもりだったが、前者がうまくいかないのでは仕方ない。

 クミンの言うとおり危険はあるが、やってみないことには検証も進まない。



「……いくぞ」



 俺は覚悟を決めて、新しくストレージから取り出したつくしもどきを、今度は丹念に土石魔術産すりこぎですりつぶし、それを衝風魔術であたり一面に撒き散らした。


 待つこと数秒で、その変化は起こった。






「「「グウウルウルウウウグウウウッッッラアアア!!!!!!」」」






 夜の五階層を構築している枯れた森の各地から、恐ろしいほどの雄叫びが上がっていた。

 それは、俺の心を恐怖で飲み込むような、とてつもない怪物の声にも思えた。


「……ぁ」


 思わず、じり、と後ずさりをする。

 死んだように乾いた地面に、俺のためらいの足跡が強く残った。

 カツンと、かかとに小さな石が当たっただけで、びくりと体が跳ねそうだ。

 腹の奥から、ゾクゾクとした恐怖が這い上がってくる。

 心拍数が心なしか上がってきたと実感するところで、ハッと気づく。



 さっきの雄叫びは、何かの状態異常を誘発するものじゃないか?



 それに気づくと、次第に、冷静になっていった。

 時間経過とともに、怖気付いていた自分が嘘のように平静に戻る。


 やはり、さっきのは恐怖に付随する状態異常を引き起こす何かか!

 これ『混沌と孤独の同胞』の状態異常耐性がなかったら、動けないまま恐慌状態に陥って下手すれば死んでいたか?



「クミン! 大丈夫か!」


『……っ! は、はい!』



 俺が声をかけると、同じように固まっていたクミンが正気に戻る。

 キョロキョロと辺りを見回すように動き、ようやく、彼女も落ち着いた。



『すみません、取り乱していたようです』


「俺もだ。とりあえず、急いで準備をしよう」


『はい!』



 気配感知を作動させる。

 恐ろしいスピードで、この場所に敵が迫っているのが分かる。

 それにこの数は……なんだ、これは?

 10や20じゃきかない、意味がわからない数が迫ってきている。


 しかも、あと1分もしないで、接敵する。




「サモン:■■!」


「URRRRRUUuu!」




 まだ敵は見えていない。

 だが、迫る気配のあまりの多さに、俺は先んじるようにT君を呼び出した。

 流れるようにCP回復薬を飲んで暗視をリンクする。

 T君は状況を理解していると言わんばかりに、俺に手を差し出した。


 ストレージからそっと鉄棒を差し出すと、少し考えるようにして一本だけ受け取った。

 あとの鉄棒は、予備の武器と言いたげに洞窟前の地面に突き刺した。先端とか尖ってないんだけどこれ。


「RUU」


 それから、T君はさらに何かを要求するように唸る。

 大きな手で、おにぎりを作るような動作。

 それで、なんとなく察した。


「投擲用の石を作ればいいのか?」


「OU」


「やっぱ普通に返事した?」


「UUUUUUUURrrrrrrrrrr」


 日本語が喋れない中で普通に意思疎通を図ってくる感じのT君とコミュニケーションを取りながら、俺とクミンでせっせと石玉を作る。

 雪合戦で投げるような雪玉より大きめの、殺意あふれる石の玉だ。


 そうこうしているうちに、気配だけは感じていたグールの一団が、ついにその姿を表した。

 その数は、ざっと見ただけで30を超えている。

 しかも、気配察知はその数がさらに増え続けることを示している。



「どこにこんな潜んでたんだよこれ!」



 思わず叫んでしまったが、泣き言はあとだ。

 ダンジョンのモンスターポップの法則を知らないから答えは出ない。



「URAAAA!!」



 姿を現した一団に向けて、T君は二つの腕を使って二つの石玉をぶん投げた。

 この怪物の投擲の恐ろしさは、俺が身にしみて知っている。


 グールは以前の投げ鉄棒の時と同じだ。ギリギリ反応が間に合ったやつは避け、そうじゃないやつは石玉にぶっ飛ばされる。

 だが、石玉にぶっ飛ばされたやつも死んではいない。生きている。

 やはり鉄が弱点なのか、石玉の直撃を受けても、ダメージは受けながらじりじりとこちらに向かってくる姿勢を見せていた。



「っ、クミン、俺も投げる。石玉任せた!」


『はいっ!』



 俺は、その弱ったグールを狙って自分用に石玉を作って放る。

 最近ずっとゴーレムバレルで楽をしていたとはいえ、元々は投擲で戦ってた時期もあったんだ。

 それなりのコントロールで、石玉は弱ったグールに直撃し、最初の一体が光の粒子と化した。


 それを確認したわけではないだろうが、T君はまだ五体満足なグールを積極的に狙って、クミンが作った石玉をこれでもかという勢いで投げ続ける。

 俺は、そのおこぼれをもらうように、弱ったグールにとどめを刺していった。


 ただ、その攻防もグールがこちらに接敵するまで。

 投石を警戒してやや進行速度が落ちたとしても、グールの接近を止めることはできない。

 ついに、石玉の攻撃をかいくぐって、最初のグールがT君の元へたどり着いた。



「グウルルウゥウウウウウ!!」


「UUURRURURRRRRRRRRR!!」



 鋭い爪と強靭な牙をむき出しにしたグールの頭に、T君は正確に鉄棒を叩きつける。

 最初の勇気ある一体は、それで潰れた。

 だが、後から後から、グールは溢れ出す。

 T君は、予備として後ろに置いておいた鉄棒を掴み、三本体制に移行していた。


 気配を察知するのも億劫になるほどの数。

 すでにグールの数は3桁を超えているだろう。


 明らかに、森にいたグールの数と釣り合っていない。

 一時間ほど歩いてもその半分にも遭遇しないのだ。

 これはもう、完全にギミックの使い方を誤った感しかない。


 つくしもどきは、グールを呼び寄せるギミックというより、むしろグールを喚び出すギミックだったんじゃないだろうか?


 目の前で、T君が凄まじい勢いでグールたちを殲滅している。

 だが、ゴーレムを翻弄して削り切ったこともあるグールたちだ。時には慎重に翻弄するように動き、時には自分たちの死も意に介さずに突っ込んでくる。

 俺とクミンも、T君を援護せんと必死に後ろから投擲をするが、それでもグールを捌き切れない。


 爪が、牙が、少しずつT君の存在を削っていく。

 だが、T君は一切ひるむ様子を見せない。



『それでもまだHPはある。まだ戦える』

 そんな声が、黒い背中から聞こえてくるようだった。



 もう何分戦って、何体のグールを倒したのかも定かじゃない。

 だけど、一向にグールたちが途切れる気配がない。

 無限おかわりが、本当に無限になっているのだろうか。


 まるで、クソダンジョンの一階層で味わった防衛戦を何倍も濃密にしたような時間。

 あるいは、レギオンとの前哨戦に、一人で挑んだ時のような、そんな絶望感。

 このままじゃ負けるという現実が、なぜか他人事のように頭に浮かんだそのときだった。






「RRRUUUUUUU!!!!!」






 T君が一際でかい叫びをあげた。

 その声に反応し、びくりとグールが動きを止める。


 同時にT君が力任せに鉄棒を横に薙ぐ。

 それで、近場に居たグールたちは一度一掃され。



 T君の握っていた鉄棒がへし折れた。



 ぽっきりと折れた鉄棒を見た時、負ける未来が浮かんでいたにも関わらず、なぜか撤退の言葉が出てこなかった自分に、遅まきながら気づいた。




「っ! もう限界だ! 一旦引こう!!」


『はいっ!』


「UuuRUURUUU!!」




 これ以上はまずい。

 それが今はっきりとわかった。

 そう判断した俺たちは、一時的に洞窟に引きこもり、その入り口を土石魔術で丹念に塞ぐことにしたのだった。



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