第203話 吸血蝶の検証と最高効率
吸血蝶に限らず、効率的な狩りに必要なことは大きく分けて二つ。
それは獲物を見つける、または集める方法を確立すること。
そしてそれを倒す方法を確立すること。
これまでの階層で狩りを行う場合、獲物を見つける方法は『足で探す』というのが基本だった。
それ以外の方法ももしかしたらあったのかもしれないが、洞窟型というフィールド特性では、相手をおびき寄せて狩るという方法はあまり向かない。
さらに言えば、ゴーレムなんかは完全に動かないタイプのモンスターだった。
それが、五階層の吸血蝶に関しては『屍肉草の匂いに集まって来る』という習性がほぼ確定している。
であれば、それを必要な分だけ利用できるように検証を進めれば良い。
とはいえ、ただ闇雲に吸血蝶を集めれば良いという話ではない。
倒す方法の確立、これが重要になってくる。
これがゲームであれば、ストーリーイベントを進めるまで止まる時間の中で、存分に時間をかけて物理でぶん殴りながらちまちま経験値を稼いでも良いのだが、時間に追われている現実では効率が大切だ。
考えた方法を試すにしても、どれだけのCPを使うか、一回でどれだけの吸血蝶を倒せるか、一回にかかる時間はどの程度か、繰り返し有効な戦法か。
それらを総合的に見て、120時間で成果を上げられる方法を選ぶべきだ。
この世界には攻略本なんてあるわけがない。本当の最適解も分かるわけがない。
全て手探りで、できることを探していかなければいけないのだが。
そして、俺とクミンは、ある程度一人と一匹で案を出し合い、吸血蝶狩りを詰めていくことになった。
まず、吸血蝶を呼び寄せる方法について。
これは大雑把だが以下のことを試した。
1.ただゴブリンを囮にする。
2.屍肉草を磨り潰す。
3.屍肉草を潰して匂いを拡散する。
4.屍肉草を燃やす。
5.屍肉草を燃やして匂いを拡散する。
現状分かっていることが屍肉草の有効性だけなので、まずはそこから始めたわけだ。
ゴブリンを使う場合はゴブリンだけ。そうじゃない場合は、とりあえず『かかし』は何もなしで試してみた。
それぞれ以下のような結果になった。
1.ただゴブリンを囮にする。
消費CP:10
経過時間:約2分
集まった吸血蝶:約10頭
備考:ゴブリンが死ぬとすぐに解散する。留まらせる工夫が必要。
2.屍肉草を磨り潰す。
消費CP:10(磨り潰すのに土石魔術を使用)
経過時間:約30秒
集まった吸血蝶:約15頭
備考:集まった蝶は30秒ほどで解散する。
3.屍肉草を潰して匂いを拡散する。
消費CP:30(磨り潰すのに土石魔術、拡散に衝風魔術を使用)
経過時間:約1分
集まった吸血蝶:約50頭
備考:より広範囲に拡散した場合は、より集まる可能性あり。一度行なった場合クールタイムが必要?
4.屍肉草を燃やす。
消費CP:10(燃やすのに火炎魔術を使用)
経過時間:約30秒
集まった吸血蝶:約20頭
備考:屍肉草は一度燃やすと再生しない? 集まった蝶が解散するまで2分ほどかかる。
5.屍肉草を燃やして匂いを拡散する。
消費CP:30(燃やすのに火炎魔術、拡散に衝風魔術を使用)
経過時間:約1分
集まった吸血蝶:約70頭
備考:一番効果が高い。持続性に乏しい。一度行った場合はクールタイムが必要?
……未確定情報が多すぎる。
現状、これらしい答えってのは出ていない。
だが、持続可能かを考えるなら。
「吸血蝶を呼び込むなら、地道に屍肉草を潰して匂いを振りまいておくのが安定かなぁ」
というのが、今のところの見解だ。
正直いうと、時間的な単価で見ると衝風魔術を使ったり火炎魔術を使ったりする方が上なのだが、その辺りにはデメリットもある。
燃やすときはある程度の範囲を燃やさないといけないし、屍肉草が復活するのかも定かではない。
風で匂いを拡散するにしても、一度広範囲から集めてしまうと次に集めるのには時間がかかるようだ。
つまり一回一回の狩りで、待ち時間が必要になるのだ。
一回で5倍の成果をあげられたとしても、必要以上の時間がかかるのなら効率が落ちる場合もある。
この辺りは狩り方の問題も関わってくるだろう。
少ない消費でちまちま借り続けられるなら持続的な方法を選ぶ意味があるし、一回どかんと集めたあとにまとめて潰して、を繰り返す方がコスパが上の可能性もある。
というわけで、吸血蝶の集め方を考えたあとは、それの倒し方になる。
現状、吸血蝶自体はそう強いモンスターだとは思えない。
だが、何度かにわたるゴブリンくんの死に様を見た上で、ある程度確信していることはある。
こいつら多分、麻痺か睡眠あたりの状態異常攻撃を持ってやがる。
考えてみればおかしな話ではあったのだ。
たとえゴブリンが知らぬ間に背中から血を吸われていようと、気づいた時点で動けなくなるほどというのはおかしい。
つまりは、吸血攻撃と並行して、麻痺や睡眠などのゴブリンを動けなくさせるための攻撃も行われていたのだ。
スケルトンに全く効いてないことから、鱗粉を使った呼吸系の攻撃か、吸血時に注入する攻撃かのどっちかだとは思う。
ゴブリンへの効きから見ても、それほど強力なわけじゃない。
少なくとも忍者的なルートを通ったことで耐性を持っている俺やクミンに、即座に影響が出る強さではない。
だが、不測の事態という言葉がちらつく程度には、気にしないといけない事柄でもある。
この辺もパーティを組んでいたら、状態異常強化とか味方からのフォローとかでなんとかなる範疇なんだろうけど、いかんせん俺たちはソロ活動を前提に置いているところがある。
というわけで、吸血蝶の狩り方も可能な限り接触を必要としない方法を考えた。
どれだけ理屈を並べようと、相手はフィジカル的にはゴブリンより弱いくらいのモンスターなのだ。
物理的に仕留めるには、ちょっと的が小さいくらいの。
だから、攻撃をどうにか当てる工夫さえあれば、よっぽど楽に狩れる、はずなのだ
そしてクミンと軽く相談しつつ、集めた吸血蝶を狩る方法は、主に二つに絞られた。
火炎魔術で炙るか、土石魔術で潰すかの二択である。
火炎魔術で炙るのは言葉の通りだ。
基本的に、蝶に限らず生き物は火に弱い。
特にタンパク質で体を作っている生き物は、それが変質する程度の熱に晒されただけでいともたやすく致命傷を負うのだ。
まぁ、今の俺たちにはステータスによるHPバリアがあるので、それに即座に当てはまるわけではないが。
吸血蝶は見ての通り体が小さく、HPもわずかしかないので、呼び寄せた地点に範囲広めのマインでも仕掛けておけば簡単に爆殺できる。
なんなら、熱風を浴びせるだけでも死ぬ。
火炎魔術で倒そうと思えば、CPを20も払えば狙った範囲に集まっている吸血蝶は100程度はまとめて倒せるだろう。
だが、火炎魔術で倒すには二つの難点がある。
一つは、火炎魔術をクミンが習得できていないこと。
単純に俺が火炎魔術の魔導書を取ったタイミングのせいか、あるいはクミンの適正の問題なのかわからないが、クミンは現在火炎魔術が取得できない。
だから、一番お手軽火力な火炎魔術で倒すという方法は選べなかった。
というわけで残っているのは、土石魔術で潰す方法。
ざっくり言えば、蝶が集まったところでそいつらを覆うような石の板を作って、それで押しつぶすだけの簡単な作業だ。
こちらも、消費CPはそこそこで処理は大変楽なのだが、問題は精度が少し悪いこと。
ぶっちゃけ、自身に向かって倒れてくる石壁を見て、避けない方がおかしい。
ましてやひらりひらりと風に乗って飛ぶ蝶であれば、自分に向かって倒れ込んでくる風を利用していともたやすく回避してしまう。
それを防ぐには、一度逃げ道を塞ぐように周囲に石のドームなりを作ってそのあと圧殺するという方法が考えられる。
だが、そうなると火炎魔術の熱風と違って、土石魔術はCPをふんだんに使って罠をはらなければ、マトモな数を押しつぶすことはできないということになる。
火炎魔術ならCP20で済むところをCP70くらい使わないといけなくなるのだ。
まとめると、火炎魔術なら比較的簡単に倒せるがクミンには使えない。
土石魔術では、倒すためのコスパが悪い。
吸血蝶を集めるのに使うCPを考慮しても、なかなか難しい問題に思えたのだった。
裏技に気付くまでは。
「よし、クミンやるぞ」
『……ええと、はい』
これまでのCPを研究費と割り切って湯水のごとく使ってきた俺たちは、ついに最も効率的な狩り方を編み出した。
それに必要なのは、やはりというか土石魔術であった。
散々実験を行なったことで屍肉草が狩り尽くされたかと心配されるような、五階層入り口洞窟前のスペース。
そこでまだ残っている屍肉草を、磨り潰すモンスターが一体。
それは、ゴーレムであった。
グール相手には散々な負け戦を披露したゴーレムであるが、吸血蝶相手ならほぼ無敵の存在となる。
そんな彼は、ゴーレム用の外付けの燃料(半分になったコア)を設置され、時間の不安から解放されてのんびりと屍肉草を磨り潰す。
そうしていると、次第に集まってくるのがどのくらいのペースでリポップしているかも定かではない吸血蝶たち。
彼らは匂いにつられて飛んできて、そしてその匂いを振りまいているゴーレムに狙いをつける。
といっても、スケルトンにすら刺さらない蝶の口が土でできたゴーレムに刺さるわけもなく、ゴーレムはただ蝶を集めるためのモニュメントと化す。
少し待って、狩りの対象である吸血蝶がある程度集まったら、次の手順である。
「クミン、アレを投擲」
『あいあいさー』
クミンのやややる気のない声とともに、アレ──形状記憶住居コア(半分になったもう一つのコア)をゴーレム近くの地面へと投げ込んだ。
そこは、すでに土石魔術で作った土に支配された地面であった。
すると、形状記憶コアは即座に地面の土を使って記憶されている住居を構築する。
それは、窓もドアもない、ただゴーレムが入る程度の広さの箱である。
居住性は皆無に等しい、逃げ場のない空間だった。
無論、ゴーレムに張り付いていた吸血蝶たちもまた、この逃げ場のない狭い箱の中に閉じ込められた形になる。
「ゴーレム。第二形態に移行!」
『おねがいしますー』
そしてその箱の中でゴーレムは言われた通りの形態に移行する。
それは、この住居として登録された箱と寸分違わぬサイズの同じ形。
つまりは、箱型ゴーレム。
さっきまでの人型から箱型への変化は、当然箱の中で行われる。
そうなるとどうなるか。
ゴーレムに張り付いていた吸血蝶たちは、ゴーレムの変化に押されるような形で住居の壁に近づいていく。
逃げ道もなく、ただただ住居とゴーレムに挟まれる形で追い詰められ、最後は、プチュンと潰れた。
後に残るのは、箱型の住居と箱型のゴーレムだけだ。
「クミン、回収だけお願い」
『はーい」
ここまでの流れが終わると、クミンが箱型住居からコアを取り除く。
すると中に箱型ゴーレムがいるので、一声かける。
『次の狩りまで温存形態でお願いします』
『────』
果たして、もともとのルーティンか、あるいはクミンの指示に従ったのか、箱型ゴーレムは素材を脱ぎ捨ててふよふよ浮かぶコアと、外付けバッテリーの姿になった。
「とりあえず、屍肉草を集めたらまた同じ作業で」
『はーい』
吸血蝶が去ったところで、再び屍肉草を集める俺たち。
これがある程度集まったら、再びゴーレムを作り、草をすり潰させ同じことをする。
「永久機関が完成しちまったな」
『これ、本当に大丈夫なんですかね……』
もちろん、流石に永久機関は嘘である。
ゴーレムの維持費と、住居記憶コアの維持費の分だけCPは消費している。
それでも、逆に言えばそれ以外にCPはほとんどかかっていない。
つまり、この『四階層のアイアンゴーレムからもらったアイテムフル活用狩り』は、コスパという点で他の追随を許さないほどの数字を叩き出すのだった。




