第177話 ボスへの道は幸運で舗装されている
磁場理解スキルと付与魔術【磁力】に関しての検証は、そう時間をかけずに済んだ。
何ができるのか、どれくらい効果があるのか、といった曖昧な部分をある程度自分のなかで答えにするだけの作業だったからだ。
その結果として、付与魔術というものも魔術の基本的な部分では基礎魔術と変わらないことはわかった。
つまりは以下の通りだ。
・定められたCPの範囲内で、磁力付与を扱う事柄を自由に魔術として作成可能。
・CPの消費量は、強弱、距離、精度、範囲、付与対象、命令の複雑さなどで変動する。
・魔術発動にかかる時間も、CPの消費量と同様の要素に依存する。
俺は魔道の探求者のおかげで、習得した直後に付与魔術が中級になったので、CP50までの付与魔術が作成できる。
ただ、現状はCPを20も使えば、クミンに作ってもらった『ブツ』に十分な磁力を与えることができるようだ。
そして、CPを50使っても、敵のアイアンゴーレムの動きそのものを遠隔から疎外するような行為は難しいだろう。
例えば、ダンジョンの床に磁力を付与して、その場に足止めする、みたいな使い方をするにはCP50では出力不足ということだ。
せいぜいが、引っ張って動きを逸らすとかだろうか。
「そもそもダンジョンの謎素材床だと、アイアンゴーレムなら破壊して進めそうだしな」
ダンジョンの壁や床は謎素材(石?)でできていて硬いが、壊れないというわけではない。
現に、ゴーレムやロングバレルが壁や床を傷つけるところは確認している。
なにより、石に磁力付与するのは、あまり効率が良くない。
「磁力の付与しやすさは、今のところ鉄が飛び抜けて良いな」
磁場理解によって、どの程度の強さの磁力を付与できたかは体感で分かる。
石と鉄を比べれば、同じCPでも3~4倍は磁力の違いが出る。
まぁ石を強引に磁石にできる時点で、付与魔術はすごいとも言えるが。
「しかし、磁場理解も、すげーなこれは」
俺の感想は軽いが、実感はもっと重いものだ。
例えるなら磁場理解スキルは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感に、新たに磁覚という六感目を付与するがごとしだ。
直感とはまた違って、うまく説明もできないのだが確かに感じることができる。
世界には微弱な磁場がどこにでも存在していて、意識すれば方角だってわかる。
そして磁場が及ぼす影響も、感覚的に理解できるのだ。
今なら高校物理のテストで、磁場のあたりの問題をあくびしながら解けそう。
フレミングの左手の法則も、右ねじの法則も、もはや自分の手を使うよりスキルに委ねた方が理解できるのだ。
まぁ、もうそんなテストを受ける機会はなさそうだけどな……この世界。
「ともかく、あとはこの『ブツ』がちゃんと使えるかだな」
さて、そろそろクミンに作ってもらった『ブツ』を説明しておこう。
肝心のクミンは、暗黒魔術の扱いで色々と試しているようだが、出来上がったものは俺の手元にある。
クミンに夜なべして作ってもらったのは『鉄杭』と『覆い』だ。
鉄杭については、あまり説明する必要はないだろう。
ホームセンターとかにも普通に売っている、先端が尖った棒状の鉄製品だ。
ただし、あそこまで細いものではなく、長さ約40センチ、直径にして5~7センチはあるだろうごんぶとサイズである。
単純に、細く加工するのが難しいという点もあるが、それより重要なのはこれがアイアンゴーレム用の武器という点。
つまり、アイアンゴーレムへの有効打になるよう、巨大に作ってもらったのだ。
そしてもう一つ、この鉄杭とセットになるのが『覆い』である。
これは何かというと、鉄杭の先端部分──尖ったところを覆うような二つ一組の鉄のケースである。
構造は簡単で、凹凸の凹の字みたいな鉄を作って、鉄杭の先端がその凹みに収まるようにし、合わせた鉄板で蓋をする。
そして、この凹に磁力を付与して強力にくっつくようにすることで、先端が危険物な鉄杭の保持ができるようになっている。
これだけだとただの安全装置だが、それだけではもちろんない。
これの真骨頂は、覆いをつけたまま投擲できること。
そして、凹部分が磁石になっているため、アイアンゴーレムの体にくっつくようになっていること。
アイアンゴーレムにこの鉄杭をセットできれば、それを外からぶっ叩いてやることで強烈な突き攻撃を放つことができるのだ。
衝風魔術を使えば、ゼロ距離からロングバレルの一撃を叩き込めるようなものである。
言うなれば『パイルバンカー』もどきだろうか。これが、今回の切り札。
「とはいえ、アイアンゴーレムのHPを削りきるまでは、本当に有効打になるかは分からないけど」
アイアンゴーレムとの戦闘における火力不足の対策を色々と考えたが、俺の脳みそで捻り出せた最大火力がこれだった。
火炎魔術とか土石魔術とかも色々考えたけど、マインに引っ掛けるにしてもHPを削るならともかく、装甲を破壊するようなイメージを持つのが難しかった。
もし【十歩必殺】が使えたのなら話は変わったかもしれないが、アイアンゴーレムが条件を満たすとは思えないので仕方ない。
クミンが夜なべして作った『鉄杭』は全部で6本。
大事に使わなくてはいけない。
「一応、鉄鉱石相手なら十分な破壊力ではあるんだが」
鉄鉱石に試し打ちをした限りでは、手応えを感じた。
だが、俺が先日体感したように、鉄鉱石は鉄に比べてだいぶ脆い。
今日はこの後、アイアンゴーレム本体の検証を少し行ってみるつもりだが、HPを削りきるまではいくまい。
故に、鉄杭の有効性に関しては、実際に叩いてみないと分からない。
「というわけで、EPをだいぶ消費してしまったが、可能なら今日中にアイアンゴーレムまで足を進めたい」
『本当にいけますか? パーティ資産も枯渇してますし、当初の予定通りに進めるなら今日中にEPを25000~30000くらい貯める必要がありますよ?』
「ううむ」
スケルトンスカウトの索敵も終わりが見えたところで、暗黒魔術を色々と試していたクミンと合流した。
彼女からの結果報告もそこそこに、本日の希望を告げたところで帰ってきたのはそんな言葉。
「まぁ、想定外の浪費にはなったが、運が良ければ巻き返せる範囲だろう」
『ゴーレムのドロップが3個くらい必要ですけど」
「祈ろう」
想定外というのは当然複合スキル周りの話だが、逆にいい意味での想定外もある。
クミンの内職のおかげで、朝の時間を使うつもりだった鉄杭の作成時間が丸々カットされたこと。
午前中はひたすらゴーレムを狩り、午後には道を塞いでいるゴーレム相手にガチンコのテスト。
そしてそこから夕方にかけて、アイアンゴーレムについての情報を集め、夜には突破。
これが最速パターンになる。
ただ、このパターンを引くためにはさっきクミンが言っていたように、ゴーレムのドロップが三つくらい落ちてくれないと話にならない。
まぁ、落ちなければその分低レベルで挑むという手もあるが……その辺はクミンをレベル25にするのを最優先にはしたい。
もしここで種族の進化があれば、戦闘が楽になる可能性が高いから。
「でもここだけの話、結構行ける気がしてるんだよ」
『何を根拠に?』
「自慢じゃないけど、俺が試練に挑もうってときには、幸運なのか忖度なのかそこまでの道が全力で舗装される気がしてる」
『…………いまいち否定しきれないですね』
クミンもなんとなく心当たりはありそうだった。
これが俺だけなのか、あるいはダンジョンのシステムなのかは定かではないが、ダンジョンは試練に挑もうとしている人間を優遇している気がする。
ダンジョンは『待て』とは言わない。
いついかなる時も『進め』と誘っている。
「まぁ、ダメだったら大人しくもう一日待とう」
『そうですね。自ら試練の難易度を上げる必要はありませんし』
というわけで、俺たちは五日目の探索を始めることとなった。
改良型ゴーレムバレルの調子は概ね良好だ。
砲台と砲身はゴーレム、弾丸は鉄製に、魔術の補助用パッシブスキルも取った影響か、ゴーレムのコアを狙撃するのに必要なCPは合計35まで削減された。
最初に比べてゴーレム一体の利益が100EPくらいは増えている計算である。
これで十も二十も狩るわけだから、トータルのEPにかなり響いてくる。
弾丸の破損が心配ではあったが、今のところは問題ない。
一日くらいは、余裕で使い回しがいけそうだ。
『そういえば、暗黒魔術に関わるパッシブスキルは取らなかったんですか?』
もはや狙撃における自分の仕事がなくなって、ただの散歩になっているクミン。
鉄の弾丸の保持は、砲身を形成しているゴーレムが微細な調整で行ってくれているので、困らない。
故に、クミンは万が一の警戒要員くらいになっている。
「暗黒魔術関連のスキルはね……すでに《闇夜と死の徒》の中だったよ」
『それでなんで、暗黒魔術をダークゾーン作成にしか使ってなかったんでしょうね……』
今更言うのもあれだが『暗視』とか『隠密』とか『隠蔽』とかは、思い切り暗黒魔術に関わってくるスキルだったらしい。
もしかして暗黒魔術が安かったのは、そういうスキルばっかり俺が持ってたせいじゃねえのかな、これ。
そういう系は迷彩アリになったクミンも持っているわけで、つまりはそういうことだったんじゃないかと。
ついでに、付与魔術関連のスキルは何もヒットしなかった。
今まで何かを付与するとかそういう感じの行動は、ほとんど取ってなかったからな。
ただ、付与魔術を使っていけばそのうち何か芽生えそうな気はしている。
そして、そんな話をしながら、範囲外から狙撃されたゴーレムがまた一体。
同時に、コロン、と何かがドロップした音も響く。
「……落ちたな」
『……落ちましたね』
先ほどは、話半分でドロップがたくさん落ちれば、なんて言っていたのだが。
午前中の狩り。倒したゴーレムは15体。
そしてドロップしたコアは、これで3個だ。
5体に1個の計算。初日と比べても、明らかに異常なドロップ率である。
「……正直、言っておいてなんだが不気味だな」
『ランダムで偏ることはありますよ』
「そうなんだが、やっぱり手招きされている感が否めない」
対ゾンビでは協調できたダンジョンだが、人類の味方と決まったわけではない。
とはいえ、集まってしまった以上は、足を止める気もない。
「とりあえず、狩れるだけ狩って、予定通りに進めよう」
俺は静かに深呼吸をして、お昼の時間を少しオーバーしながら狩りを進めたのであった。




