第175話 ゴーレムについての検証(今更)
ダンジョンアタック五日目。
ダンジョンの朝は清々しさとは縁が遠い。
目が覚めて真っ先に飛び込んでくるのが、殺風景な天井なのだから仕方がない。
とはいえ、四階層での起床は二階層の悪臭の中での目覚めよりは幾分かマシだ。
「おはようクミン」
『おはようございます上杉さん』
目を覚ましてから俺が最初にすることは、夜通し内職と警戒を行ってくれていたクミンへの挨拶だ。
俺の目には、彼女が七時間ほどかけて作っただろう、努力の痕跡がありありと映っている。
……俺より仕事早くて丁寧じゃね?
……いや、まぁ、いいんだけどさ。
……その前に四階層の恒例行事を行っておこう!
「サモン:スケルトンスカウト」
四階層では朝起きたらまずスケルトンスカウトを召喚し、四階層耐久ランニングを行ってもらう。
彼が長く生きていられるようにCPを多めに込めて、送り出すまでがおはようでやることだ。
「さて、スケルトンが索敵を終えるまで、昨日は行わなかった検証に入るか」
朝食はご機嫌なウサギ肉の煮付け(めんつゆ)を選択し、俺は大きく背伸びをしてからそう言った。
正直、塩胡椒とめんつゆだけでは飽きが来ていると言わざるを得ない、が、それは今重要ではないから、良い。
「まずやることは、ゴーレムの検証。磁場理解と付与魔法の習得かな。それと以前リストアップしたスキルも取れるだけ取ってしまうつもり」
『ウチはもう少し様子見ですかね』
「ああ。鉱物理解はそれなりに高いからな」
一晩中、鉄の生成を行っていたクミンは、想像よりも早く『鉱物理解』スキルが習得可能になっていた。
もともと生態的に土石魔術と相性が良かったみたいだし、鉱物に関しても相性は悪くなかったのだろうか。
話を聞いている限り、俺が鉄を作るのに鉄鉱石の7倍CPを使うとすれば、クミンは5倍ほどで済んでいたようだ。
うそ、俺の土石魔法、無駄が多すぎ……。
ただ、現時点では戦闘中に使うことはないので、鉱物理解習得は一旦見送りだ。
それより重要度が高いのは、魔の女神様からのおすすめもあった暗黒魔術だろう。
おすすめされた通り、こちらに関してはクミンも俺と同じ割引価格の600EPで購入可能だった。
「現状、闇を展開する以外の使い方してないけど、本来はデバフ魔法なんだっけ」
『聞いていると、闇を展開するだけで仕事はしてましたからね』
いつも暗黒魔術とは名ばかりの暗闇製造機であったが、それは暗黒魔術の使い方としては邪道なのだ。
本来は、もっと相手の精神に負荷をかけるとか、闇が動きを阻害するとか、そういう幅広い使い方ができる魔術のはずなのである。
火炎魔術とかより高いからなこれ。
「とりあえず、俺の検証中にクミンの方も暗黒魔術について、いろいろと調べてもらえると」
『了解です!』
正直、暗黒魔術が対ゴーレムでどんな役割をするのかわからないが。
魔の女神様がこのタイミングで習得をオススメするくらいだし、きっと何かあるのだろう。
「で、俺の方で検証したいことは主に二つ」
クミンが作ってくれた『ブツ』を回収しつつ、俺は朝活の内容を確認する。
この『ブツ』については、アイアンゴーレム対策が固まったら改めて話をしよう。
検証したいのはゴーレムについてと、付与魔術について。
まずゴーレムは、素材に込めたCPでステータスが変動するのか、HPがなくなった時点で体が破壊可能になるのかといった基礎的なところ。
今までなんとなくで運用してきたけど、本来はもっと早く確認するべきだった。
実際、サモンモンスターにはまだ謎が多い。
テイムモンスターは端末くんで普通にステータスを確認できるし、意思疎通もできるから問題ないんだけど、サモンはそうもいかないからな。
とにかく、今回は端末くんの前で、端末くんに都度ステータスのチェックを頼みながら確認する予定だ。
そしてもう一つは、付与魔術【磁力】の扱い方について。
磁場理解とセットで取ることで、ある程度補強はされる読みだが、実際にどんな感じで使えるか。
どのくらいのCPでどれだけ強い磁力になるか、などは検証しておいたほうがいい。
ぶっつけ本番でアイアンゴーレムに試して、思ったより磁力弱かったじゃ話にならんからな。
「というわけで補強のためにも…………やっぱないか」
ついでに、ちらっと名前だけ見えていた雷光魔術がしれっと取得可能になってないかな、と思ったけどだめだった。
まぁ、今まで雷光魔術っぽいの使ってるモンスター見たこともないし、俺が雷関係に触ったこともないから仕方ない。
ちなみに、磁力と電気でレールガン作れるんじゃね? と一瞬思ったがその計画はすぐに頓挫した。
だって俺、レールガンの仕組みぼんやりとしか知らないから。
レールに電気を流して、磁場を発生させて、フレミングの左手の法則がどうこう、みたいなのをうろ覚えで知っているだけだ。
ぶっちゃけ、実用化に至るにはあまりにも知識不足である。
……機械工学系の友達からもっと詳しく聞いておけば良かった、などとダンジョンの中で後悔することになるなんて、少し前の俺は思いもしなかったよ。
いざとなったらわからない部分を魔術のゴリ押しでなんとか、とも思っているが、肝心の雷光魔術が習得できないからな。
この時点で、一旦今回の計画からは外しておくべきだろう。
「気を取り直して、最初はゴーレムの基礎検証かな」
そう独り言を呟きつつ、俺は端末くんを巻き込んで検証を始めるのだった。
そしておよそ一時間半後、だいたい知りたかったことは分かった。
検証結果は以下の通りだ。
・四階層の土で作ったゴーレムをデフォルトとすると、デフォルトのステータスはだいたいこんなもの(変動あり。乱数?)
HP 360/360
CP 60/60
力 120
魔 5
体 120
速 20
運 20
・CPは時間経過で減っていく。30秒ごとに1ずつくらい。
・サモン時にCPを上乗せすると、その分最大CPは伸びる。他は変わらない。
・土石魔術で作った土を素材にすると、全体的にステータスが向上する。
・土石魔術に込めるCPを増やすと、ステータスは増える。ただしHP以外の上がり幅は微小。(HPはCP20追加で10%、それ以外は4%アップくらい?)
・素材によってステータスは変動する。ただ、基本的な傾向は似る。
・HPまたはCPが0になるまでは、戦闘形態を解除することで素材はそのまま残る。
・HPが0になると、身体欠損が修復されなくなる。それまでは素材があるなら素材を吸収してHPを消費し、無いならHPを大きく消費して身体欠損を修復する。
・HP0の状態で戦闘形態を解除すると、欠損した箇所は崩壊する。それ以外は素材のまま残る。
・CPが0になると残りHPに関わらず崩壊する(サモン限定?)
・崩壊した際には素材は残らない。
・コアへの攻撃は大ダメージ。HPが0の状態ならほぼ即死する。
「だいたい、想定通りにはなったかな」
想像した範囲からは大きく逸脱していない。
嬉しくもなければ悲しくも無いくらいの結果だ。
問題があるとすれば、CP関連は多分サモンモンスターだから余計シビアになっているだろうこと。
前回の泥仕合で一体が崩壊したのは、CPがなくなったことが原因だと思われる。
敵モンスターはそのあたりの弱点はない代わりに、素材にCPを込めることによるステータスの上乗せが無いはずだ。
「それで肝心のゴーレムの倒し方は、やっぱりこうか」
検証結果をまとめると、ゴーレムを倒すには以下の手順がいる。
1.相手のHPをどうにかして削りきる。
2.HPを削り切ったら少しずつ外装を剥いでいき、どうにかコアをむき出しにする。
3.コアへと攻撃してトドメを刺す。
「検証前と何一つ変わってないんだが、まあいいか」
長い検証の末にゴーレムの生態はよく分かったが、肝心のゴーレムの倒し方に目新しいものがなかった。長期戦による泥仕合オブ泥仕合が王道だ。
まぁ、長期戦を見据えるのなら、サモン時にできる限りCPを上乗せすることと、素材にもCPをふんだんに使うことが確認できただけでもヨシとするか。
「端末くんもお疲れ様」
『…………断言しますが、ダンジョンの端末をサモンモンスターの検証のためにこき使ったのは、世界で上杉様が初めてです』
「やったぜ」
どうやら、くだらないことで世界の先駆者になれたようだ。何よりである。
俺はそのあたりで、ちらっとマップの様子を確認する。
スケルトンは順調にマラソンを続けている。
今日の湧きは、いい具合に密集していて狩りの効率も良さそうだ。
「あとは付与魔術か」
『習得いたしますか?』
「うん」
ゴーレムの検証で結構なCPを消費した=結構なEPを消費したというわけだが、それでもまだ買い物をする余裕くらいはある。
磁場理解と付与魔術【磁力】のセットで2000EP。
オートマッピング先生と同じくらいする。高いが背に腹は変えられない。
事前にクミンには言ってあるので、俺はそっと端末くんに頼んだ。
「二つセットで購入する。ついでに、前回リストアップした魔術に関わるパッシブもまとめて購入してしまう」
『かしこまりました』
次の戦いでは、多分魔術は総動員することになる。
土壇場で火力や精度が足りなくて、あの時とっておけばと後悔するのはごめんだ。
というわけで、今回の大量購入、しめて3800EPである。
これで残る手持ちは3000EP強くらいだ。
『調理、発破、煙術、水泳、風読み、天候観測、土木、掘削、磁場理解、付与魔術【磁力】(初級)を習得します。風読みは《闇夜と死の徒》に統合されます』
端末君のアナウンス。
それとともに、大量の技能の結晶が光の粒になって俺の体へと吸い込まれていく。
というか、なんでまだ習得してない氷水魔術用のパッシブまで取った俺?
などと軽く考えていられたのはここまでだった。
「ぅヌぉおおォオオ!?」
天候観測と磁場理解の重めコンビが、脳の容量にダイレクトアタックをしかけてくゥルゥ!
「やっぱ一気にじゃなくて小分けで習得すればヨカっタァああ!?」
スキルの大量購入によって脳が揺れるゥウウ!
ていうかいたたたたた、頭が痛えええェエェ!
思わず思考加速と並列思考を全開にする。
だが、それでも受け止めきれずにのたうちまわっているのを、クミンと端末くんが冷めた目で見ている気がした。
そうしていること、およそ20秒ほど。
ようやく、俺の体がスキルに順応してくる。
『……上杉様。もう遅いかもしれませんが、スキルの習得──特に理解系や知識系のスキルの習得には時に苦痛を伴う場合がございます。まとめて習得するのはお控えになったほうがよろしいかと』
「本当に、もう遅い」
どこぞの追放系小説のようなもう遅い加減であった。
とりあえず脳への衝撃からようやく回復してきたところで、端末くんがふいに『は?』と声を上げた。
「え? どうしたの端末くん」
『……………………いえ、しかし。そうですか』
「なに、怖い。なんなの」
端末くんが、俺へと返答する余裕もなさそうに何か交信している。
大抵こういうのの後は、俺に衝撃がやってくるのだ。
そう俺が身構えていると、端末くんは諦めたような雰囲気を出しつつ言った。
『上杉様のこれまでの行動を評価して、新たな複合スキルが提案されました。習得いたしますか?』
久しぶりに聞いたなぁ、そんな提案。




