第174話 地上の素材
と、付与魔術について色々と悪巧みをするのは良いが、その前にもう一つ聞いておきたいことがあったのだ。
「ところで端末くん」
『お答えできる範囲でしたら』
まだ何も言ってないのにこれである。ツーカーの仲かな?
俺が端末くんに質問しすぎなんだろうか。
まぁいい。お言葉に甘えて質問しよう。
「地上の素材──たとえば鉄なんかを使ってアイアンゴーレムを作るのは、土石魔術で作った素材を使ってアイアンゴーレムを作るのとどう違う?」
今現在、アイアンゴーレム対策を思いつきつつある中で、これはちょっとしたサブプランに移行しかけてはいるが、確認は大事だ。
答えてもらえるかは微妙なラインかなと思っていたが、端末くんはわりとすんなり教えてくれた。
『基本的に、地上の素材を使ってゴーレムを作ることは可能ですが、あまり推奨はできません』
「というと?」
『人類の皆様が、地上の道具でダンジョンに潜るのと一緒です。地上の資源を使ったゴーレムには、システムによる攻撃力や防御力の補正がほとんど入りません」
「……あー、やっぱり」
そういう設定がこのダンジョンにはあった。
俺が現在身につけているのは忍者装束であるが、これを手に入れるまでは普通の私服だった。
そして、今はもう何度命を救われたか知らない鍾馗を手に入れるまでは、メタルラックが武器だった。
で、それらの装備は、ダンジョン的な不思議補正がほとんど入っていなかったらしい。
簡単に言えば、ひのきのぼうと布の服以下の装備。
裸とさしてかわらぬ程度の、セルフ縛りプレイみたいな装備だったと。
どれだけ重ね着してもボコボコ攻撃を通すから、どうなってんだと聞いた時とだいたい同じような答えが帰ってきた。
『ダンジョンのシステムに認証される素材を用いない限りは、HPへの影響はコアがむき出しである状態とさして変わりません。また、システムの影響を受けない鉄は、システムに認証された土などと比較してもそう強い素材とは限りません。従いまして、ダンジョン内で手に入れた素材、あるいは上杉様やその仲間のCPで作られた素材でゴーレムを形成することを推奨します』
どんだけ物理的に強くなっても、システムを通さないとステータスの影響を受けないので、思ったような強さにはならない。
ダンジョンのシステムに認証されていないと、土より柔らかい鉄のゴーレムとかになりうる。
「仮にだけど、外の素材をシステムに認証させることはできる?」
『たとえば、地上の素材を上杉様のCPで染め上げる、というような技術を身につけることで可能だと考えられます』
「今はできない?」
『現時点の上杉様では、CPによる物質の支配にまで理解が及んでいないと考えられます』
端末くんの言葉に俺も頷くしかない。
CPによる物質の支配って、多分あれだよな。
あのレギオン戦の最終盤、【十歩必殺】で魔のステータスが跳ね上がった俺が、周囲に展開した闇を足場に行動していたのと同じような感じだろう。
あの感覚は、全く思い出せない。
思い返しても、何やってたんだか自分でもさっぱりわからないのだ。
宇宙の知識がたまたま流れ込んできて、俺を一時的に動かしていたのではとすら思える。
そのくらいの難易度を超えれば、外の素材でも強力なゴーレムが作れるようになると。
「大人しく、土石魔術で頑張った方がよさそうだな」
『私個人としても、そちらをオススメします』
端末くん個人のオススメという、稀によくあるレアな文言が出た。
これが出た時は、だいたい素直に従った方が吉だ。
……まぁ、地上のは利用できなくても、俺にはまだ考えが──。
『また、ショップから購入できる金属製の武器をかき集めてゴーレムを作るのも推奨しません』
「…………」
考えがあったのに、たった今否定された。
『ショップで販売されている武器に関しては、ダンジョンのフィールド素材など以上に加工に関するプロテクトがかけられています。武器をそのままゴーレムに取り込むくらいは可能ですが、武器を溶かしたり変形させて体を作ることは非常に困難です。地上の素材を扱えるようになる方が難易度としては簡単でしょう』
「それじゃ、修理とかもできないの?」
『プロテクトは修理には及んでいません。鍛治スキルなどを習得することで、ある程度の干渉は可能になります』
苦し紛れに尋ねてみたが、ダメっぽい。
散々抜け穴突いてきた俺が言うのもなんだけど、微妙にこういうシステムの根幹あたりには入り込む隙がない感じなんだよな。
まぁ、ちょっと検証していた時点で難しそうだなとは思っていたんだけどさ。
無理とまでは思っていなかったのが、無理と確認できただけヨシとするか。
「災害支援特別ショップにはそういう鉄材とか売ってないかな?」
『上杉様……』
「アッハイ」
ダメなんですね、わかりました。
まぁ、武器の対策をしておいて、そういう建材とかは対策してないのは片手落ちだもんな。
ダンジョンから普通に採取できる素材と、ショップで扱っているアイテムは全くの別物と認識しておいた方が良いんだろう。
「なんていうかさ、ゴーレムってサモンモンスターの割に、土石魔術にかなり依存してない?」
『全てのモンスターは何らかの属性や魔術に依存しております。たとえばスケルトンの運用でも、暗黒魔術のあるなしで扱いは大きく変わります』
「それもそうか」
ゴーレムが土石魔術に依存しているのはまぎれもない真実だろうが、それは別にゴーレムが特別なわけじゃない。
例えば水棲モンスターをサモンするときなんか、氷水魔術が使えなきゃ話になんないだろうしな。
サモンやテイムを扱うには、主人のほうがモンスターに合わせる努力も必要なのだな。
「とりあえず、俺が使える手札は土石魔術が基本ってことはわかったよ」
今まではメイン火力として火炎魔術を一番よく使っていたが、ここにきて土石魔術の株がストップ高だ。
衝風魔術は、衝撃はともかく風のほうがまだよくわからない。
あと、氷水魔術チャレンジ、なんとなく先延ばしになっているけどそろそろやってもいい頃合いかもしれない。
ジョブチェンジするとクミンが不愉快な空間に送られるとかあるみたいだし、サモンしているゴーレムのコアも消えそうなので、タイミングは見ないとなんだけど。
「とりあえず、質問はこんなところ。ありがとう端末くん」
『上杉様のダンジョン探索のお役に立てたのなら幸いです』
俺が礼を言うと、端末くんは相変わらずの定型文みたいな言葉を返すのであった。
「さて、結構無駄遣いもしたけど、方向性は定まったかな」
『アイアンゴーレム突破は予定通り明日ですか?』
端末くんとのやりとりを終えて、就寝前の確認タイムだ。
俺たちの当初の予定では、明日アイアンゴーレムを突破して第五階層に足を踏み入れるつもりだった。
四階層のEP効率を考えれば、もう少しレベリングするのも手ではあるが。
「……突破できそうなら、予定通り明日いこう。五階層で足りないものが見えたら、戻ってきてレベリングしてもいいわけだからな」
俺は方針を変えない。
本当は、もう一日くらい余裕を持った方がいいかもしれないが、茉莉ちゃんに残された時間はわからない。
撤退を視野に入れつつ、一度アイアンゴーレムと当たってみるのは悪い選択肢じゃない。
今の俺たちには、撤退のとき殿を務めてくれる頼もしいモンスターが二体はいるわけだからな。
『わかりました。上杉さんはこれから就寝ですよね』
「もうできることもそうないからな」
『でしたら、上杉さんが寝てる間に、ウチも鉄の生成にチャレンジしててもいいですか?』
クミンからの提案を少し考える。
先ほど考えたように、クミンは今鉱物理解を取得できない。
だが、俺がスキルリンクすることで、その知識を与えることはできる。
現時点で鉄の生成に必要なのは、CPと時間だ。
そして俺が眠っている間も、クミンは基本的に起きている。
その時間を有効活用するには、時間のかかる作業を行うのが得策。
あえて問題があるとするなら。
「鉱物理解を飲み込むの、結構頭のリソース持っていかれるぞ。せめて『思考加速』くらいは取っておいた方が良い」
『了解です!』
と、軽くアドバイスして、俺は深夜の内職をクミンに託すことにした。
──磁力を攻略に生かすにしても(わざわざ説明に注意書きがあったように)金属があったほうが都合がいい。
なにより、頭にあるアイデアを生かすには、自由に成形できないと何かと困るしな。
「それじゃクミン、よかったらなんだけど──」
『──ふむふむ。わかりました』
そして、クミンに作って欲しい鉄材の形状なんかを軽く説明してから俺は眠りにつくのだった。
眠ったらリンクが切れるようなら起こして欲しいと頼んでおいたが、クミンが俺を起こすことはなかった。
諸々の本番は、明日起きてからだ。




