第172話 ゴーレム運用における損失について
敵クレイゴーレムvsサモンゴーレム2体の戦いは、なんて言うか泥仕合だった。
曲がり角の近くにいるから狙撃もできないということで、ガチンコバトルをする必要があったわけだが、最初は俺も様子見である。
道中で放置していたロングバレルの砲台をもう少し回収して、ストーンゴーレムを二体投入した。
ただし、一体はなけなしのCPで作った鉄で腕を作り、もう一体は鉄鉱石をそのまま使って腕を作ってみた。
曲がり角を曲がったところで、相手も臨戦態勢を整えていた。
相手にその場を動く気配がなかったので、敵の遠距離攻撃を受けながらの接敵。および戦闘開始。
結果としては20分ほどかけて、ゴーレム二体がクレイゴーレムを削りきった感じだ。
まず、相手の先制攻撃。遠距離攻撃としてロケットパンチもどきを放ってくる。
これは、一撃でも食らえば人間なら即死が見える威力であるが、盾がわりのストーンゴーレムが受けるのなら、それほど被害はなかった。
連射はできないようなので、一度対処すれば接敵まではいける。これが確認できた。
そこからは防御を捨てたゴーレム同士殴り合いだ。
お互いにガンゴンガンゴン殴り合う。
どうして鉄と土と石で殴り合って、そんな硬質な音が出るんだよと少し思った。
それを観察しながら気づいたことはいくつかある。
まず、クレイゴーレムは自分でロケットパンチした場合は、すぐに周囲の土を集めてもう一度腕を形成していたが、しばらく戦って腕が破壊された時には腕の再形成を行なっていなかった。
仮説だが、これは途中でHPが切れたのではないかと思っている。
HPが切れるまでは、腕はHPで保護される対象であり、即座に周囲の土から再生されるが、それが切れたあとは再生ができないのではないだろうか。
そうなると、ロケットパンチもどきは、ただの遠距離攻撃ではなく、自身のHPを消費して発動するスキルの一種なのかもしれない。
いずれにせよ、ゴーレムとの戦いはまずHPを削りきるのが大事だろう。
そうすることで、ようやく相手の部位を破壊することができるようになる。
と思われるので。
直接的な戦闘力に関しては、完全に俺の主観になるが。
HP、攻撃力、防御力などは恐らく一本腕よりも高い。
代わりに、素早さは一本腕よりも低いと思えた。
どちらもフィジカルに頼ったパワーファイターの気質はあるが、一本腕はこちらの攻撃が通る柔らかさがあった。
だが、ゴーレムは見た目のイメージ通り、たとえHPを削りきったとしても容易にダメージを受けない堅牢さがある。
正攻法でやろうと思ったら、本当にじっくりと腰を据えた持久戦で、相手の装甲をちまちま削り取っていく必要があるだろう。
救いなのは、反応スピード自体は一本腕よりも遅いこと。
振り回した腕のスピードは驚異的だが、その動作に至るまでには時間がかかる。
相手の攻撃動作をしっかり見極めて、回避優先で立ち回れば、危険はあっても避けられない攻撃とは思えなかった。
もちろん、持久戦になっても集中力が続けば、という前提は変わらないが。
それと、もう一つ気づいたこととして、例の発狂モードなのだが。
恐らく、それほど心配する必要がない。
あの発狂モードはどうやらコアが一定以上のダメージを受けて、初めて発動するものであるらしい。
そして、外から狙撃でコアに一方的にダメージを与えるようなことがない限り、コアを狙える状況=装甲をほとんど破壊し終わっている状況なのだ。
だから、本来発狂モードになるころには相手は手足をだいぶ失った状態であり、HPが無くて修復もできないので、それほど脅威にはならないのだ。
要は、ズルしてコアを狙った場合に対するお仕置きモードみたいなものなのだろう。
結論としては。
「相手の攻撃を耐え続けるタンクを用意できるのなら、確かに役割で固めた6人パーティで倒せない敵ではない気がするな」
無論、相手の攻撃を受けきるには、相応の防御力と、HPを回復してくれるヒーラーの存在は必要不可欠だろう。
だが、崩れない盾があるなら、あとは時間をかけて削るだけの作業だ。
相手の攻撃パターンの把握が終われば、戦闘そのものは安定する気がした。
『相手の行動が不規則になる可能性を考えなければの話ですよね』
「それがないのが、ゴーレムってモンスターだとは思うけどな」
クミンの反論に、俺は曖昧に返す。
もちろん、さっきから俺が言っているのは理想的な戦闘パターンの話だ。
ゴーレムが盾を無視して真っ先にヒーラーを狙ってくるような行動をとれば、一瞬で瓦解する組み立てに過ぎない。
そういうイレギュラー的な行動があるかないかは、現時点では分からない。
ただ、松川さんが大声スキルを持っていたように、そしてクミンがかばうスキルを覚えたように、そういう状況をカバーするための方法はいくつもあるだろう。
やはり俺の見立てでは、パーティがしっかりメタを固めて対応すればなんとか戦えるレベルには思えた。
いやまぁ、盾役の防御力やHPがレベル10の段階でどのくらいになるのか知らないから、あくまで俺の想像の話ではあるんだが。
『それで、そこまで考えてウチらはどう戦いますか?』
「それなぁ」
クミンからの問いかけ。
まぁ、普通に考えれば、俺たちは遊撃だろう。
壁役としてゴーレムを立たせて、相手の攻撃を受けてもらい、その隙をついて火力を叩き込んでいく。
俺とクミンの二人掛かりで魔術を放つだけでも、相応の火力にはなるだろう。
「だが……」
俺はちょっと渋い顔で、ゴーレムを倒した我らがメンバーを確認する。
立っているゴーレムは一体だけ。
もう一体は、どうもコアの限界を迎えて消滅してしまったらしい。
その時は、素材になった石材も道連れに消えた。
正確には、体を構築していた石材に込めていたCPがなくなり、さらさらの土に変わってしまったとでも言うべきか。
「石はまだ良いとして、鉄鉱石が……」
『そもそも、戦っている最中にすでに砕けてたじゃないですか、鉄鉱石』
「それはそうだけどさ……」
鉄鉱石は意外と脆い。
だが、本題はそこではない。
もともと、敵として戦っているゴーレムも、よく考えれば綺麗に体を残していたとは言い難い。
今まで見た残骸としては、マッドゴーレムが残した泥しかないのであれだが。
ただ、泥と思えないほどカチカチだった体がただの泥になっていた時点で、こうなる可能性も考えるべきだったか。
「ゴーレムが死んだら、素材は道連れか」
ゴーレム運用による大きな損失が目に見えてしまったなぁ。
この時点で、俺はゴーレムと鉄生成の検証で、合わせて4000EPくらいは使っているのだ。
そしてその一端が今、虚空の彼方へと消えた。
仮に全部鉄で作ったゴーレムが破れて、再利用できないくず鉄に変わってしまったらと思うと、普通に泣ける。
一応、任意で解除した場合は大丈夫そうなので、これもまた仮説の域をでないのだが。
現状の想定は以下の通り。
・ゴーレムのHPやステータスはコアと素材に込められたCPに左右される。
・HPがまだ残っている段階で解除すれば、素材が崩壊することはない。
ゴーレムは戦うために体の素材を求めるモンスター、だからこその特別な仕様ではないだろうか。
『ゴーレムのHPが素材に込めたCPに依存するってことは、鉄は石の7倍以上のHPがあるんですか?』
「いや、話はそう単純じゃないと思う」
今、俺が鉄を作るのにべらぼうにコストがかかるのは、俺自身の能力の低さが原因だ。
つまり、7倍のCPを使っていても、どれだけ無駄になっているのかは分からない。
流石に石の時と同じステータスとまでは思えないが、単純な足し算にはなっていまい。
もしそうなら、未熟な時に作ったゴーレムの方がHPが多いことになるからな。
「……しかしそうなると、地上に一瞬戻るアイデアも、どうだろうな」
俺はひとまず生き残ったゴーレムの方を素材に戻してから、唸る。
鉄を作ろうにも現在の能力では難しいと考えたとき、一つ腹案も考えていた。
それは、地上に戻って廃車や金属製品などを素材として持ち帰る、というものだ。
今はストレージに余裕があるし、ある程度圧縮したら車をそのまま持ち込めないこともない。
行き帰りの時間を計算して、その間に稼げるEPなども考慮しても、その後手札にアイアンゴーレムを加えられるなら無しではない。
と思っていたのだが、今回の戦闘結果から疑惑が生まれる。
果たして、地上の素材で作ったゴーレムは、本当に『使える』のか?
「……無駄かもしれないが、端末くん案件だな」
もし、ゴーレムのステータスと、素材に込めたCPに相関があるのなら。
ゴーレムの素材に地上のものを使うのは、とんだ罠になりかねないのだ。
なんにせよ、曲がり角を塞いでいたゴーレムを突破できたことで、俺たちは未探索領域を一箇所埋めることに成功した。
そしてその奥に、お目当のものも見つけてしまった。
「やっぱりあるじゃないか」
『上杉さんのダンジョン勘も捨てたものじゃないですね』
「そう褒めるな」
というわけで、俺たちは四階層で二つ目の宝箱を引き当てたのだった。




