第171話 できねーじゃねーか!
「アイアンゴーレム作れねーじゃねーか!」
俺は手に持った鉄鉱石をダンジョンの床に叩きつけながら叫んだ。
ダンジョンで大声を上げるのはご法度にもほどがあるが、どうせこの階層にはゴーレムしかいない。
そしてその程度ではダンジョンの床も凹まない。
『作れないことは、ないじゃないですか』
「コストを度外視すればね……」
俺が何を嘆いているのかといえば『鉱物理解』スキルによる産業革命が、思いの外すぐにストップしてしまったことである。
ついさっき俺は『鉱物理解』スキルによって、土石魔術で鉄鉱石を作れるようになった。
だが、相変わらず土石魔術でそのまま鉄を作ることはできなかった。
一足飛びはできないと理解し、ならばどうすればいいかと鉄鉱石を手に考えて、推測を立てた。
この鉄鉱石を、さらに土石魔術と鉱物理解でもってして『製鉄』していく必要があるのではと。
鉄鉱石とはすなわち酸化鉄。鉄と酸素が結びついた、錆びた鉄が主成分。
これを鉄にするために、まずは溶鉱炉内でコークス──ようは炭素──と反応させなければならない。
で、そうするとできるのが銑鉄、炭素を含有した脆い鉄だ。
そこから今度は転炉でその炭素を酸素と反応させて除き、ようやく鋼になる。
俺の高校の化学知識だと、そんな感じだったはず。
当然、この場所には炉なんてあるわけない。
だから、その辺の反応はCPをゴリゴリ盛り込んで、魔術で強引に行なっていく必要があるのだが、これがめちゃくちゃコストが高い。
どれくらい高いかって言うと、CPを空にして作った鉄鉱石を銑鉄にするのに、さらに二回CPを空にするくらい。
つまりイメージは鉄鉱石生成の二倍くらい使う。
でそうやって作った銑鉄を鋼にするのにも、また銑鉄生成の二倍くらい使う。
そして、できた鋼を加工するにも、おかわりのようにCPがかかる。
お試しの鋼鉄製アイテムを作成するにも、アホみたいにCPが必要だった。
だいたい10CPで作った鉄鉱石を、求めたアイテムにするのに、70CP(+α)くらいかかるイメージ。
さらに言うと、それらを行う時間もべらぼうにかかる。
土石魔術で土の家を作るのには大して時間はかからないのに、鉄だと犬小屋を作るのにも10倍以上の時間がゆうにかかる。
とてもじゃないんだが、アイアンゴーレムを作るのに必要な量の鉄なんぞ作っていられない。
「おそらく、鉱物理解以外にも色々とスキルが足りてないな? あとステータスも」
ようやく出来上がった鋼鉄を手に、俺はそう判断していた。
恐らく、土石魔術と鉱物理解は、土石魔術で金属を扱うための基礎の部分。
言い換えれば、基礎でしかない。初めの一歩だ。
ここからさらに、鉱物精錬だとか化学反応だとか純化だとか金属加工だとか、まぁ、そんな感じの反応を補助するスキルとかを取っていくことで、より反応がスムーズになったり、あるいは必要な過程を飛ばしたりできるのだろう。
あと、恐らくだが火炎魔術や衝風魔術、それに氷水魔術の熟練度を上げて、それらの魔術を適宜複合していくことも必要になってくる気がする。
酸素や二酸化炭素を炉で反応させる、という作業は火炎魔術や衝風魔術──火や大気を大いに利用できそうだからだ。
今の俺は、そういう補助機能をろくに使わず、土石魔術だけのゴリ押しで作業しているから、アホみたいにCPを使っているのだと思われる。
さらにそのもののスキル熟練度も足りてないから、時間もガンガンかかる。
加えて、複合魔術を扱おうにも今の魔のステータスでは制御できずに暴発させるのがオチ。
「大々的に扱うのはまだ早いって感じだな」
召魔忍者のおかげで、本来なら手を伸ばすのが早すぎる組み合わせにたどり着いてしまったが、そのせいで扱いきれていない。
ミスリル鉱石を生成しようとして弾かれたのも、ステータスが足りていないせいもあるだろう。
まだ適正レベルに達していない狩場に、裏技で無理やり入り込んだせいでスムーズな狩りができなくなっているのが今の俺だ。
だが、逆に考えることもできる。
「ピンポイントに必要な部分だけ、無理やり用意することはできる」
俺はふふふ、と悪そうな笑みを浮かべた。
認めよう。今の俺がアイアンゴーレムを作るのは難しい。
時間とコストの両方が重くのしかかってくるからだ。
だが、例えば鉄の拳だけならどうだ?
全身がだめでも腕だけなら、作れないことはない。
装備と一緒だ。
全身鉄装備は難しくても、武器だけ鉄にすることはできる。
それだけで、攻撃力だけなら上げることができる。
そして、今の俺にとって攻撃力が上がって一番嬉しいものはなんだ。
答えはこれだ。
「ゴーレムバレルwith鉄鋼弾だ」
俺の目の前には、今まで石で作っていた弾丸の、鉄バージョンがごとりと鎮座している。
そう。今一番嬉しいのはゴーレムバレルの強化である。
何故かって、EP効率が上がるから。
今まで弾丸は全て土石魔術で作った石だったが、これは一発撃つごとに壊れてしまって使い回しが出来なかった。
だが、鉄は石よりも頑丈だ。硬さについては諸説あるが、壊れなさについては鋼鉄の方が定評がある。
込めたCPも違うのだから一度や二度では壊れない、だろう。
弾丸部分が使い回し可能になれば、毎回かかっていたCP30がカットできるのだ!
これにより、ゴーレム一体を狩るのに必要なCPは衝風魔術分の35と、バレル修復の5、合わせて40にまで下がる。
これ、スケルトンのパーティを狩るのに必要な値段とそう変わらないからね。
産業革命には失敗したが、コスパ革命は始まっていた。
『そんなにうまく行きますか?』
「……まぁ、正直ちょっと夢だけを見ているところはあるよ。ただ、今回の検証結果自体は無駄にはならない。それに見えない熟練度もめちゃくちゃ溜まっている筈だ」
ぶっちゃけ石をガンガン硬くしても壊れていたんだから、金属とは言え鉄の弾丸が壊れないという保証はない。
ただ、これ作るのに結構なCPがかかっているので後には引けない。
もしダメだったとしても、この考察は無駄にはならないし、純粋に火力強化は嬉しいポイントだ。
「一発だけでも、アイアンゴーレムにバレルをかませるとしたら、火力は高い方がいいからな」
石の剣より鉄の剣の方が強いのなら、石の砲弾より鉄の砲弾の方が強い。
これ一撃でアイアンゴーレムが倒せるなんて思っちゃいないが、出会い頭の一発ができるのなら、なかなか大きな一歩なのではないだろうか。
「まぁ、アイアンゴーレムの前にまずは普通のゴーレム達だ」
と、バレルの強化できゃっきゃしていたところから現実に戻る。
アイアンゴーレムの前に、今向き合うべきは普通のゴーレムだ。
現実的にアイアンゴーレムを自作するのは困難だが、さっき言ったように拳だけアイアンにすることは出来なくはないだろう。
なんなら、そういう雑な運用で良いなら、別に鉄鉱石のままでも良いだろうしな。
……本当にいいのかな。わからない。俺は情報系であって化学系でも物理系でもないんだ。
とりあえず、今の俺の構想はゴーレム2体による完封作戦だ。
現在のゴーレム狙撃作戦で、獲得できるEPに関してはかなり黒字になっている。言い換えれば、多少余裕がある。
だから、現在俺の探索を邪魔しているゴーレムに関しては、多少儲けが少なくなってもいいから、ゴーレムを2体サモンして安全に対処することを考えている。
俺が何もしなくても、ゴーレムを2体戦わせれば普通に勝てる、だろう。
そして、この戦いは情報収集にあてるつもりだ。
ゴーレムの戦いを、比較的安全に観察し、ゴーレムの動きのパターンや、隙になりそうなところ、そしてゴーレムに有効そうな戦術を編み出すことを目的としている。
本番はアイアンゴーレム。
そいつと当たる前に、まずはゴーレムを観察し、推察をして検証し、最終的に安全にアイアンゴーレムを狩る手法を構築するのが理想だ。
もちろんそこまで行けなくても、観察にはそれだけの価値がある。
今まで対ゴーレムの経験値はゼロにほぼ等しいくらいなので、貴重な学習タイムを逃してはならない。
五体もいるのなら、四体までは色々と検証と実験を繰り返し、五体目で相手の硬さに寄らない攻撃方法を確立できれば御の字だ。
そこまでできなくても、攻略の糸口くらいは掴みたいものだ。
「……今夜の間に、一箇所くらいは突破したいな」
鉱物理解の検証に少し時間とCPを使いすぎた。
思ったよりも成果が得られておらず、ため息を吐きたい自分に蓋をして、俺は今夜の予定を詰めるのだった。




