第168話 ダンジョン的リユース精神
サモンしたゴーレムのコアは、浮いているのもあってか特段重さは感じなかった。
そのコアを抱えて土の地形に入り、手放して見る。
元々召喚していた場所に、ぴゅーっと戻って行ってしまうようなことはなくて、軽く安堵した。
「じゃあ、戦闘形態になってくれるかな」
「(フォン)」
俺が指示を出すと、ゴーレムのコアはモンスターで出てきたときと同じように赤く発光し、周囲の土を巻き上げ始める。
そしてものの数秒で、よく見慣れた……いや、この形態にさせてないから全然見慣れてないわ……多分最初に見たようなゴーレムになった。
コアの違いだけなので、ぱっと見はモンスターのそれと見分けがつかない。
「んー、そんな感じか」
『どうしました?』
「この形態になっていると、込められたCPを消費していく感じ」
こればかりは感覚的な話だが、俺はゴーレムが特殊なサモン形態のモンスターであると感じた。
さっきのふよふよ浮いているだけのときは、存在に注ぎ込まれたCPをほとんど消費していない。
だが、この臨戦態勢に入ってから、存在しているだけでCPをしっかりと消費するようになった。
この形態を解除すれば、また待機状態に戻ってくれるのではないだろうか。
「だから、サモンモンスターだけど拠点防衛タイプというか、面倒見てやれば結構長く保つ感じなんじゃないかな」
『なるほど』
「まぁ、戦闘一回で消えるっていう縛りがなくなっているかどうかは、分からないんだけど」
これまでのサモンモンスターは、その身に秘めたCPを消費しきるか、倒されて消滅することがほとんどだった。
そして戦闘時に生き残った場合も、戦闘終了を条件に消えていった。
だが、もしかしたらこのゴーレムはちょっと違うかもしれない。
例えば寝ている時に防衛用として召喚しておいて、安眠を守るような使い方ができる気がする。
そうなったら、戦闘に使う以上の有用性もある。
やはりコアはできるだけ集めておきたいな。
「でも、あくまで可能性だし、結局CPがなくなったら消えるところは変わらないと思うけど」
『ウチとしては、上杉さんが寝てる時の防衛仲間ができたら嬉しいです』
「話し相手にはやや不足だけどな」
そう思いつつ、俺はゴーレムの臨戦状態を解除した。
ゴーレムの体を構成していた土はさらさらと崩れていき、後には真っ黒いコアが残る。
「とりあえず、色々と何ができるか探ってみよう」
ちらり、とオートマッピングの調子を見る。
ボチボチ出発できそうな感じだ。
あまり検証にかまけてばかりもいられないな。
それで僅かな時間を検証についやし、以下のことが分かった。
・臨戦態勢を解除した状態から再び臨戦態勢に入ることはできる。
・体を構築する時に、こちらのイメージを伝えることで形状の自由が効く。
・足元を完全に固定したり、足を生やして自律行動させたりはできるが、半端なイメージでキャタピラ脚を作ろうとしても無理だった。
・同様に、ホバリングで宙を浮くみたいなイメージでも難しい。
・材質については、デフォルトなら臨戦態勢に入った時に周囲にあるものを自動的に利用する。
・ダンジョンの壁や床は、どれだけ頑張っても利用できない。
・こちらが土石魔術で用意した土や石でも素材にすることはできる(当然別途CPはかかる)
・半分土で半分石みたいなキメラゴーレムも作れる。
・炎や風を素材にすることはできない。水は検証できていない。
・サモンモンスターを素材にすることはできない。
・衣服やメタルラック、武器などを取り込むことはできなくはないが、それだけで体を構築するのは難しそう。
・コアをストレージに突っ込むことはできない。
「ひとまず、こんなもんか」
とりあえず、思いついたことについては色々と試してみた。
面白かったのは、ゴーレムの形状が自在に変化させられるという点だ。
この時点で、俺は一つ悪巧みをしてみたくて仕方がなかった。
「クミン、いけると思うか?」
『あとは、連戦が可能かどうかだと思いますよ』
「うむ」
俺は、数々の実験を終えて、その内在CPをそこそこ消費させたゴーレムのコアを見る。
戦闘は行なっていないのでもう少し耐えられるだろう。なんなら追加でCPを注いでやってもいい。
あとは、連戦が行えるかどうかのチェックだ。
「まずは、おあつらえ向きの相手から試してみるか」
オートマッピングで作成された敵の配置図を見る。
そろそろ、行動の時だ。
ゴーレムのコアはストレージに入れられないので、しばらくご無沙汰になっていたリュックを引っ張り出してそこに収納。
そのまま走ってゴーレムの元へ移動している最中、お目当のものも見つかる。
「こいつを回収していこう」
こいつとは、つい先日俺たちがゴーレム狩りのために呼び出し、使い終わったあとはそのまま放置されていた石の砲台である。
俺のCPが抜け切らない限りはダンジョンに吸収されないということなので、まだしぶとくその場所に鎮座していたわけだ。
もっとも、動かすこともできなければ、砲身も壊れているのでただの置物なのだが。
このままでは。
「それじゃゴーレムコア。この石の砲台を素材に変形だ」
「(フォン)」
俺はリュックからコアを取り出し、そう指示を出す。
するとコアは俺の命令に従って、放置されていた石の砲台を素材にメリメリと体を作っていく。
俺はその様子を見守りつつ、いいと思ったところで、止める。
「やっぱキャンセル」
「(…………)」
コアは体の形成を止めて、素材となっていた石をボトボトと落としていく。
俺は、そうやって落とされた石を、ストレージに放り込む。
でかい石は、怪力持ちのクミンにも手伝ってもらった。
「土台を地面に固定してたはずだけど、こうやれば簡単に切り離せるな」
そう。この実験で、地面に固定していた台座を、ゴーレムの身体形成で無理に引き剥がすことができた。
やばいなこれ、ものすごく悪用できる。
いや、あくまでゴーレムも台座も俺のCPで生み出したものだから可能なのか?
もしそうじゃなかったら、さすがにとんでもないからな。
これは、無事に帰れたらまた検証しよう。クミンのは参考にならない気がする。
「まぁいいや、次行こう」
俺はコアをリュックに仕舞いなおし、次を目指す。
道中台座の石をもう一つ回収できたところで、まっすぐ目的地へと向かった。
当然、今日リポップした新鮮なゴーレムのところである。
「よしよし、やはり索敵範囲外なら反応しないな」
いつもの狙撃距離に陣取り、ゴーレムコアを解放してみたが、野良のコアが臨戦態勢に入る様子はない。
索敵範囲外であるなら、こちらが何をやっても感知できないのは変わらないようだ。
「さて、じゃあ早速試すとして」
そして俺は、さっき道中で回収してきた元台座だった石材をストレージから解放する。
結構な重さがあるのだが、ステータスが高まった今なら持てなくはない。
ストレージからちょっと出てれば、あとはクミンがなんとかしてくれるし。
「ゴーレム。スナイパーモードだ」
「(フォン)」
そして、回収してきた石材を元に、俺はゴーレムを形成する。
ただし、その姿は人型ではない。
ゴーレムはこっちの要望に応じて、その形状を変化させる。
望むのなら、およそゴーレムとは思えないような形状にだって。
そして、俺はゴーレムが形状を変化させているところで、指示を出していく。
「よしよし、オーライオーライ、はいオッケー」
もちろん、狙撃スキルを存分に発揮して狙いを定めながら。
そして、それは完成した。
台座は地面に固定されており、その台座の中心にはコアが入っている。
それまでよりもややゴテゴテしているが、その砲身の部分にはなんら変化はない。
「少し補強はしたほうがいいかな」
『CPをちょっと注いで、砲身の強度は確保したほうがいいかもです』
「だな」
クミンのアドバイスで、そっとCPを注いでやる。
それによって、強度の補強も完了したので、完成だ。
「名付けて『ゴーレムバレル』だ」
胴体を砲身に、足を台座にしたゴーレムの砲台。
作成段階から狙いは定まっているし、ゴーレムなのでなんとここから形状を僅かに変化させて微修正まで行える。
これぞまさしく、ロングバレルの改定版。
ダンジョン的リユース精神にあふれた、新たな武器である。
「コアを呼び出すのに120CP。補強に5CP使ったから125CP。普段の砲台が一つ作るのに25CPだから」
『一個のコアで6体以上狩れたら、コストカットが見えてきますね』
「うむ」
これぞ、次世代のコストカット。
ゴーレムの形状がある程度自在であると知って最初に考えたことだ。
正直、強度の関係で固定砲台なので仕方ないとは言っても、CPで作った石材を放置していくのにちょっと抵抗があったんだよね。
ただ、それを破壊するのも手間だし、加工するのも手間だしで放置するしかなかった。
だが今は違う。
「よし、やるか」
『やりますか』
今までのロングバレルよりも、土台がしっかりしている。
これはゴーレムの形を作るのに、ある程度素材の量が要求されたので、砲台二つ分を回収し余分を全部台座に押し込んだからだ。
まぁ、これまではコストカットの果ての量だったので、しっかりしている分には問題ない。
ゴーレムが砲台となり、クミンが弾丸を生成し、俺が射出する。
二人三脚ならぬ、三人四脚。
これで、費用がさらに安くなれば、こんなに嬉しいことはない。
「行くぞ!」
拳に衝撃の魔術を纏わせ、ぶっ叩く。
射出された弾丸は、寸分違わずに敵ゴーレムのコアを撃ち抜いた。
狙撃は今日も絶好調である。
それを確認したのち、俺はゴーレムに台座を地面から切り離しながら解体するように指示する。
石の台座がまたゴロゴロと崩壊していき、後にはふよふよ浮かぶ黒いコアが残っていた。
一戦を終えたが、消える気配は、ないな。
ゴーレムは、やはり連戦可能な次世代のサモンモンスターだ。
侵攻させるのにはまったく向かないが、使い道が多い。
「素晴らしい。ひとまずこれで、さらなるEP効率の上昇だ」
『パーティ資産の計算やり直しますか?』
「んー、いや、一旦そのままで」
俺はふよふよと浮かび続ける黒いコアに満足しながら、次のゴーレムの元に向かうのであった。
サモンモンスター故に自我や学習機能はないが、適宜CPを注いでやってなるべく長く使ってやろうと思った。
そのうち名前とか付けようかな……。




