第166話 ゴーレムには
オートマッピング──いや、違うな。
オートマッピング先生による探索革命は、俺の気持ちをだいぶ前向きにした。
スケルトンスカウトには右手の法則で動くように言ったが、人海戦術を取ろうと思えば、最初にドバッと準備して、曲がり道のたびに半分ずつ分かれてもらうみたいなやり方もある。
勝てないモンスターと遭遇した時にも、複数いればやり過ごせる可能性も出てくる。
未知の階層に挑む前にそれができるのは、大きなアドバンテージになるだろう。
未知に対する特効武器は、情報なのだから。
五階層の攻略の前に、デカすぎる手札を手に入れたものだ。
問題は、決して安く無いコストがかかることであり、その問題を解決するにはひたすらEPを効率的に獲得して回復薬をがぶ飲みするしかない。
……おかしいな、前向きだった気持ちがちょっとだけ後ろ向きに戻ったぞ。
あとは、近くまでは休眠状態だけど、刺激したらずっとアクティブになるみたいなモンスターや、知性があるモンスター(見つからないように隠れるとか、あえて罠に使ってくるとか)には通じない可能性は念頭に置かねばならない。
情報を鵜呑みにすることはしない。何があるかわからない、その心だけは忘れないようにしよう。
とはいえ、何もわからないよりは、何かがいることが分かっている方が心持ちは穏やかだ。
「早く視覚共有みたいなスキルは取得したいところだな」
ただやられるにしても、できれば相手の姿は確認したい。
スケルトンに果たして視界があるのかは謎だが、とりあえずあると信じて夢を見ておくことにしたい。
『上杉さん。そろそろ焼けますよ』
「おっと、わるい」
と、まだ四階層突破の目処が経っていないのに五階層に想いを馳せていたら、クミンに注意される。
今は、今日の夕方までの探索を終えての夕食タイムだ。
本日のメニューは、ウサギ肉の塩焼き、南小でもらった野菜(野草?)のめんつゆスープ、水。以上だ。
クミンは一日肉一個の契約で、お肉は夕飯と決めているらしく、生のウサギ肉を前にしている。
「いただきます」
『いただきます』
俺は両手を合わせクミンは触角を器用に動かして、終わったら食事とする。
ウサギの塩焼きは、まんま塩焼きだ。オーブンなんて上等なものはないし、フライパンもテフロン加工を貫通してこびりつきが目立つようになっている。
だが、水洗いするのももったいないので、ワイルドに焼き続けるしかない。
塩焼きだから、多少焦げ付いたところでそれもまた味だ。
「うまい」
『ハムハム』
クミンはクミンで、一日一個の生肉を、いきなり丸呑みしたりせずにちまちまと大事そうに食していた。
いずれ余裕ができたら一食一個くらい食わせてやりたいな。
今の時間にも、スケルトンスカウト(CP多め)は、探索しきれなかった部分の探索を行なっており、リアルタイムでマップ作成と索敵が行われている。
「それで今後の目標なんだけど良いかな」
『はい』
食事をしながら、俺はクミンと今後の予定を確認する。
まず、言うまでもなく四階層の目標はアイアンゴーレムの突破だ。
その目標を達成するために、必要だと思われるものが以下の通り。
・アイアンゴーレムを倒す作戦の構築
・アイアンゴーレムと渡り合うためのレベリング
・アイアンゴーレムに有効打を与える火力の確保
結局どんな強敵と渡り合うにも、必要なのは上の三つ。
作戦、ステータス、そして武器だ。
ステータスや武器が必要以上に整っていれば作戦が無くてもゴリ押しできることもあるが、そうでない以上は作戦が重要になる。
「可能なら、何度か当たってみて情報を生で入手したいところなんだが」
『最悪、情報収拾のつもりで運悪く死亡する可能性もありますからね』
「それなんだよな」
これがゲームなら、当たって砕けてみて情報を獲得するのも否やはないのだが、残念ながらこれは現実だ。
当たって見たは良いが、逃げることができずに死にましたでは話にならない。
もちろん、サモンモンスターを盾にというのも考えとしてはあるが、ゴーレム相手となると──■■くらいでなければ壁としても力不足。
となると残るのは──。
『ウチが命がけで情報を集めてきますか?』
そう、それは一つの手だった。
俺と違ってクミンは、死んでも生き返る術を持っている。
もちろん、デメリットは明らかだが、可能か不可能かで言えば可能だ。
……頭の中で『慈悲なき者』という称号の名前がちらつく。
「それは最終手段だ。気軽に、提案しないでくれ」
『ごめんなさい』
絶対にやらないとは言えない。
俺が生きるために、先に進むために絶対に必要だったらやるしかない。
ただ、それを選ぶたびに心の中の何かが塗りつぶされて、その分が『ダンジョン』に染まる気がした。
「目下、期待しているのは、ゴーレムのドロップアイテムで、ゴーレムがサモンできるようになることだ」
それが現段階で俺が考えている手段だ。
相手がゴーレムであるなら、こちらもゴーレムを出すのが作法というもの。
こちらのレベルをいくら上げようと、おそらくゴーレムのフィジカルに敵うことはない。
であるならば、こちらも仮初めとはいえゴーレムを出せるようになって、ゴーレム同士をぶつけるのが一番だろう。
ゴーレムに前衛を張ってもらいながら、アイアンゴーレムの情報を集めるのが今後の予定だ。
ただ、ゴーレムのドロップアイテムは現時点でまだ拝んでいない。
流石に俺たちのレベルで幸運を振っていれば、幸運が基準値未満というのはないだろうとは思うんだけど、いかんせんな。
こればっかりは、運だ。今日一日狩り続けて落ちないようなら、運振りのレベルアップを挟むのも良いだろう。
俺のゴーレムにはゴーレムをぶつけんだよ作戦に、クミンが少し不安を吐露する。
『相手の方が明らかに格上になりそうですが大丈夫ですか?』
「絶対にいないよりは良い。アイアンゴーレムの具体的な突破を考えるのは、ゴーレムがサモンできるようになってからにしよう」
言いながら、俺はめんつゆ野草スープを飲み干した。
うん。めんつゆと草の青っぽい風味が溶け込んだ、まぁ料理? ってくらいの代物だ。どちらかと言えば美味しい。
少なくとも、これまでの肉オンリーの食事に彩りを与えてくれる。
ウサギ肉も美味しいのだが、これだけ食っていると心の中の茉莉ちゃん(料理担当)が野菜も食えとうるさいからな。
「ごちそうさまでした」
『ウチも、ごちそうさまでした』
食事をしながらの目標の共有はだいたい終わった。
ちらりとマップを見てみる。
スケルトンスカウトの場所も、現在はちょっとした白石で表示してもらっているが、まだ、ゴーレムの探索途中であるのは見て取れた。
それでも、何体かのゴーレムの居場所は発見してくれている。
えらいぞスケルトンスカウト。走れスケルトンスカウト。
今から出発して、ゴーレムに蓋をされた未探索エリアも適度にマップ埋めをしていくか。
ほぼ一日で運良く次の階層へのルートを発見してしまったが、階層全体としてはマップの完成度は6割あるかないかくらい。
まだまだ、未探索のエリアは多い。曲がり角ゴーレムで諦めた箇所もある。
とはいえ、一日で埋め切る量でもないので、寝る前にいい時間で探索を切り上げ、場所が分かっている分のゴーレム狩りをして一日を終わろう。
敵の場所が分かるというのは、なんとありがたいことか。
「マップの未探索エリアを埋めたら、今後はゴーレム狩りに専念できるな」
『未探索エリアを全て埋める必要はないんじゃないですか?』
「いや、四階層にはまだ宝箱が眠っているはずだからな。がっかり箱の可能性もあるが、ボス突破の鍵になる有用アイテムが入っている可能性もある」
例えば、アイアンゴーレムに特攻のある強酸の魔術を覚えられる魔術書とか。
……言ってて、ちょっと無理があるな。だが、宝箱の探索はレベリングと並行して行えるのだから、優先順位を下げる必要もない。
そうやってマップを埋め終わったら、レベリングと、有用スキルのリストアップに全力できる。
現在はダンジョンに入って三日目。可能なら五日目くらいにはアイアンゴーレム突破の目処を立てたいところだ。
本番は五階層だ。こんなところでいつまでも足踏みしてはいられない。
「というわけで出発しよう。忘れ物はないな?」
『そもそも、ウチは何もアイテム持ってませんよ』
「それもそうだ」
このパーティ?のアイテム係は俺だからな。
ストレージに全部ぶっこめばいいだけなので、なかなか忘れ物は出ない。
むしろ俺がストレージのどれに入れたか忘れる可能性の方が高い。
そして、食事後の一発目のゴーレム戦(戦いが起きたとは言ってない)でのこと。
「落ちた」
『落ちましたね』
色々と考えていたのが嘘のように、あっさりとゴーレムはドロップアイテムを落としたのだった。
近寄って見てみると、それは俺たちが遠方から狙撃を繰り返しているゴーレムの核そのものに見えた。
まぁ、ヒビがこれでもかと入っているので、このままで使えるとは思えないが。
『どうします? 一旦戻りますか?』
クミンの提案は、まだ端末からそれほど離れてないので、検証のために端末に戻るかというもの。
俺は少し悩むも、首を振った。
「いや、どうせ明日以降もスケルトンスカウトに索敵を任せるから待機時間は生まれるんだ。考え事は空いた時間にやろう」
『了解です』
新しいおもちゃを早く確認したい衝動はあるが、時間の有効活用が今の俺たちには必要不可欠だ。
当初の予定通り、俺たちはオートマッピングで埋まっていないエリアの探索を中心にして、最後にゴーレム狩りを挟んでその日の活動を終えることにした。
本日の獲得EP:18600




