第165話 オートマッピング
宝箱の中身は期待の割にはしょんぼりだったが、まぁいい。
今は魔の女神様の御心によってかストレージに大分ゆとりがあるので、予備の装備枠を一つ作っておいても問題はない。
というか、今まで10枠で運用してたのが一気に20枠まで増えたので、もはや何がなんだかといったところだ。
そろそろ、ストレージ内の整理も一旦しておかないと、何を入れてあるのか忘れそうな気がする。
まぁ、その辺は後でいい。
回復薬とか、買ったは良いが放置してた状態異常回復アイテムとか、あとは投石用の庭石とか、忍具とか鍾馗とかがどこに入っているのか把握できていれば直近は問題ない。
というわけで、その問題はまずよし。
今の時間になにをしたいかといえば、昨日手に入れたスキルの検証。
そう、オートマッピングの検証である。
検証の前に、もう一度その性能を見ておこう。
──────
オートマッピング
行動した範囲を自動でマッピングする。マッピングツールは自前で用意する必要がある。また、端末でもマップを確認できる。
コストCP:15
──────
知りたいことは大体以下の通り。
・行動した範囲とはどういう意味なのか。
・この行動を行う主体はどこまで適用されるのか。
・完成するマップにはどんな情報が記載されるのか。
・どこまでこちらの要望に合わせたカスタマイズができるのか。
今日の探索では早速このオートマッピングを起動して、昨日自分の作ったマップは置いて新しいマップの作成をさせていた。
これがまた不思議なものだ。
どういう原理か知らないが、方眼紙と筆記用具を用意してあげると、俺の体の左上辺り──ちょうどゲームでいうミニマップが表示されそうなあたりに『浮かんで』リアルタイムでマップを記載していくのである。
ボールペンとか、蛍光ペンとか、勝手に使って。
地図の作成範囲は大体俺から半径20mくらいだろうか。
ただし、測量スキルで距離を測ると、その測量で測ったところまでマップが伸びるので、ほかのスキルとの組み合わせには対応してくれている。
オートマッピングの熟練度が上がることで、描画範囲が伸びる可能性も十分にあるだろう。
当たり前だが、俺がフリーハンドで方眼紙に書いていたマップよりも、正確で綺麗だ。
しかも、この四階層はいくつかの地形に分かれている話は何回もしたと思うが、このオートマッピングはその地形情報も完備だ。
色分けしたり、斜線だったり、十字だったり、丸だったり、点だったり、波だったりで、地形ごとに表現を変えてその場所がなんの地形だったかを細かく記載してくれている。
その表現がなんの地形と対応しているかは、別途方眼紙が用意されて事細かに記載されていた。
さらにこちらのマッピングスキル、俺の要望(脳内)に応えてその地形の対応を変えるとかも可能らしい。(新たに方眼紙を消費するので闇雲に変えるのは危険だが)
今まで、このダンジョンでは高低差が存在しなかったが、きっと高低差を表す標高線だって頼めば(脳内)描いてくれるだろう。
ここまでがデフォルトである。
すげー高性能。さすが2000EPを使うだけのことはある。
この時点で『行動した範囲』とはデフォルトの範囲にプラスして、俺が正確に『知覚した範囲』という表現ができると思う。
だから次だ。
「というわけで、そこの曲がり角まで、クミンがちょっとだけ先行してくれないかな。マップがどうなるのかを確認したい」
『了解です』
次に、例えばテイムモンスターが行動した範囲は、オートマッピングの守備範囲なのかの確認だ。
現在地は、少し行った先に曲がり角がある通路の前。
マッピング範囲外に道があることは間違いないが、マップにはまだ記載されていない道があると分かるところ。
その先をクミンが確認することで、情報がマップに反映されるかどうかの確認を行う。
これが出来るかどうかで、このスキルが超神スキルか神スキルかが決まる。
で、その結果は。
「変化なし」
『みたいですね』
ダメだった。
俺のテイムモンスターであっても、クミンが行動した範囲はオートマッピングの対象にはならないみたいだった。
一応先行してもらったクミンの情報から、その先にはゴーレムの気配がないことは確認できた。
では次だ。
「サモン:スケルトンスカウト」
今度はサモンで試してみる。
テイムモンスターは契約しているとは言っても、あくまで俺とは別の個体という扱いになる。だから『俺の行動範囲』や『知覚範囲』と見なされなかったとしても不思議はない。
では、完全に俺のスキルの産物であるサモンの方だとどうだろうか。
スケルトンに軽い指示を出して、さっきのクミンと同じ行動を取ってもらう。
スケルトンがのそのそと曲がり角まで歩いていき、少し進んで、そしてまた帰ってくる。
俺はそれをマップを睨みながら見守っていたわけだが。
「ダメか」
『残念ですね』
サモンでもだめだった。
使い魔みたいな判定でワンチャンいけないかなと思っていたが、やはりクミンと同じで『俺の行動範囲』や『知覚範囲』という判定にはならなかったようだ。
「そうなると、視覚共有スキルとかを取得したらどうなるのか、は、また後で確認しないとだな」
現時点では取得していないスキルだが、そっと未来の行動予定に追加しておく。
例えば、俺の測量以上の索敵スキルを持っていて、かつ視覚が共有できるモンスターがいて、そいつが空を飛べるとしたら。
そんなものはもう、地上であれば一種の兵器になる。
今までは鳥型モンスターとか、飛行型モンスターと遭遇したことはないが、ちょっとだけ夢が広がる。
……空を飛べるモンスターが、この狭い石の迷宮に出てくるとは思えないが。
夢を見るのは自由だろう。
とりあえず、その辺は未来の話だ。今はテイムでもサモンでもオートマッピングは動かない、と確認できただけ。
「じゃあ、お試し検証はこんなところにして」
『はい』
「そろそろ『本番』を始めよう」
ここまでは予想通りだ。
出来たら良いな程度の話で、やっぱりできなかったかという結果を得ただけ。
これから先が、テイマーの真骨頂である。
「スキルリンク:オートマッピング→クミン」
本命の検証。
オートマッピングをクミンにリンクして、その結果がどうなるのかを確認する。
「それじゃクミン、悪いけどもう一回頼む」
『はーい』
スキルリンクは、もともとあのクソダンジョンで俺が■■に暗視を共有するために取得したスキルだ。
その能力は、俺と使役モンスター間で、スキルを一つだけ貸し借りするというもの。
その消費CPは、スキル毎のコストによって変わるという。
オートマッピングのコストは15CP。高くはないが安くもない。
そして、この結果如何では──破格の安さになるだろう。
「…………!!」
クミンが少し進んだあたりから、変化はあった。
左上のマップが、俺が動いていないにも関わらずマップの続きを描き出したのだ。
俺が注視していると、クミンはすぐに曲がり角のところに差し掛かる。
そこで俺はクミンを呼び止めた。
(クミン。実験は成功だ。曲がらないでそのまま戻ってきて大丈夫)
(了解です)
クミンがピタリと止まれば、マッピングの動きも止まる。
そのマップを見やれば、俺が目にしていない曲がり角の先の、通路のマッピングが始まっているのがはっきり分かった。
「いける、これはいけるぞ」
俺は逸る気持ちを抑えて、クミンが戻ってくるのを待つ。
明らかに上機嫌の俺を見て、クミンも少し嬉しそうに見えた。
「それじゃいよいよ最後に、このシナジーが無法になるかどうかの境目」
『サモンモンスターですね』
俺は「うむ」と頷き、すでに召喚済みだったスケルトンスカウトにも、同じことをする。
「スキルリンク:オートマッピング→スケルトンスカウト」
再度のCP消費。
必要経費だ。
俺からオートマッピングのスキルを受け取ったスケルトンスカウトは、特に何か反応を示すことはない。
これがサモンモンスターの普通である。
そのことに、少しだけ寂しくなりつつ、俺は言った。
「スケルトンスカウト。さっきと同じように曲がり角の先までちょっと行ってから戻ってきてくれ」
「カチカチカチ」
スケルトンスカウトが歯を鳴らして命令を受諾する。
そして、曲がり角へと向かっていき、順調にクミンが足を止めたところまで到着。
俺はその先を、固唾を飲んで見守って。
そして。
「動いた」
スケルトンスカウトが先へ進むと、オートマッピングが地図の描画を再開した。
いける。サモンモンスターに共有しておけば、オートマッピングは機能する。
超神スキルではなかったが、紛れも無い神スキルである。
「ふふ、ふふふははははは」
『上杉さん。悪役のようですよ』
「これが笑わずにいられるか」
なにせ、この検証のおかげでオートマッピングの性能がぶっ壊れていることがわかった。
これまで、俺が一人でせこせことマッピングしていた時にはあり得なかった、地図革命の到来である。
これからは、俺ではなくサモンモンスターが勝手に地図を作る時代だ。
「人海戦術で地図を作成できるんだぞ。それだけでも探索の手間がだいぶ減るが、それだけじゃない」
『と言いますと?』
「それを今から実際にやってみよう」
地図の作成だけでも革命だが、使い方はまだまだある。俺が想像できていないことだってあるだろう。
ただ、とりあえず一つ、今すぐにでも検証したいことがある。
オートマッピングの性能を思えば、俺が思い描いたこともできるはず。
俺はもはや待ちきれないとばかりに、スケルトンスカウトを追いかけて、そして次の指示を出した。
「スケルトンスカウト。これからずっと右手を壁につけるように進み続けろ。そして『モンスターの反応』を感じたらそこで反転、再び右手を壁につけて進み続けろ」
「カチカチカチ」
スケルトンスカウトに追加の指示を出せば、彼(彼女?)は歯を鳴らして意気揚々と進んで行った。
このために、索敵能力の高いスケルトンスカウトを実験台にしたのだ。
その間、俺は地図を睨む。次々と続きが作成されていく地図を見ながら、ゆっくりとスケルトンスカウトを追いかけていく。
思ったよりもその時はすぐに来た。
その作業を始めて五分もしないうちに、マップの続きが記されることはなくなる。
スケルトンスカウトが反転した。まだ死んだという気配はない。
「じゃあ、オートマッピングさん。マップを作成しているものが『モンスターを発見した』場所に、小石で目印を立てておいて」
オートマッピングは、俺の要望に応える。
俺が適当に土石魔術で用意した小石を謎の力学で浮かすと、マップが途切れた位置に配置した。
「ここがゴーレムの位置になる。俺たちは自分たちが動かないまま、ゴーレムの位置を知る手段まで手に入れた」
本当にすごいぞオートマッピング。
まじで2000EPの価値はある。
消費との兼ね合いはある。
ゴーレムの奥にゴーレムの場合もある。
それでも、俺たちはその日どこにゴーレムがリポップしたのかを、朝飯でも食べながら知ることができるようになった。
さらに言えば、未知の階層に挑む時でも、どこに敵が現れるのかをおおよそ事前に知ることができるようになったのである。




