第164話 嬉しいけど嬉しくない、ちょっと嬉しいもの
三日目。
昨日は検証の話などもしたが、優先順位的に今日は楽しくレベリングだ。
一応、TODOリストには色々とやりたいことは詰まっている。
・オートマッピングの性能の調査
・パッシブスキルのリストアップと検証
・アイアンゴーレムの観察や調査
・四階層のマップ埋め(宝箱探索込み)
杉井さんと話をした制限時間は二週間だが、あくまで努力目標。
いつまで無事かわからない茉莉ちゃんのこともあってなる早で動くのはそうだが、この先何が待っているのか分からないダンジョンに挑むのだ。
自身の強化や、探索の効率化、そして強敵の突破に繋がる検証はいくらやっても足りるということはない。
時間を気にしすぎて、危険な行動はなるべくとらないように気をつけよう。
だが、その前に一つ、重要な心残りを回収しなければならないだろう。
というわけで、まずは昨日諦めた宝箱の回収を──。
『ちょっと待ってください上杉さん』
「ん?」
そう意気揚々と出かけようとしたところで、クミンに呼び止められる。
『その前に、防具の交換が必要じゃないですか?』
「あー」
さて、俺の防具といえば、薄汚れた忍者装束シリーズである。
もともとのアイテム名ですでに薄汚れた認定なのに、昨日のマッドゴーレムとのやりとりで輪をかけてドロドロになっている。
というのも、ダンジョンには魔力で動くコインランドリーなんてない。
となると手洗いとかが必要になるが、防具を洗うために使っても良い水など俺にはない。
そうなると、隠密効果を気にした場面でもなければ、衣服の汚れをどうにかする優先順位は低い。
装備のステータス効果を消失するほどでもないので、あまり気にしてはいなかった。
なにより、一番変えたい地下足袋が一点物でどうしようもないのだ。おのれガラス片。
まぁ、地下足袋も含めて、装備のところどころに穴が空いているのも気になるところではあるのだが。
HPは体を守ってくれても、装備そのものは守ってくれない。
だから、多少局地的に肌が露出していようと、そこまで気にしている状況ではない、と思っている。
『宝箱の罠解除に失敗する可能性もあるんですから、念には念を入れた方がいいと思います』
「そうは言っても、EPがな」
『だから、ウチの分を使って良いですよ。プレゼントします』
「いやいや」
EPの枯渇を理由にあげて断ろうとしたが、クミンに提案されてしまった。
でも、ねぇ?
ただでさえウサギ肉を我慢させていた実績があって、つい先日は借金までした上に、今日は防具をプレゼントされる?
クミンに迷惑かけすぎでは?
アリさんに集るとか人として恥ずかしくないの?
それよりはクミンの強化にEP使った方が素直に良いのでは?
「さすがに、そこまでは」
『上杉さん』
「はい」
『良いから着替えてください。命に直結するところで迷惑も何もないです』
「分かりました」
俺はアリさんに防具分の450EPを恵んでもらった。
薄汚れた忍者装束シリーズ復活である。
あとで、何かお返ししようと思った。
「よし、開ける」
装いも新たに、俺たちはまず昨日の宝箱の地点に戻ってきた。
道中のゴーレムに関しては、ボチボチといったところ。
昨日はハイになってオートマッピングを取ったが、冷静に考えてCP回復薬分のEPは残しておくべきだった。
そしてそのCP回復薬分もクミンが俺の代わりに残してくれていた。
ゴーレムを狩ればすぐに返せる額だし、役割的に折半になるとはいえ、ちょっとオートマッピングが取りたすぎて気が急いていたのは否めない。
そのオートマッピングの力については、後述しよう。
今は、目の前の宝箱である。
以前からこのダンジョンでよく見る、箱とかまぼこを組み合わせたみたいな姿。
鍵穴のようなものはついているが、今まで鍵がかかっていた覚えはないお宝。
それを、今日は開けていきたいと思う。
「罠解除を発動」
罠解除スキルは、CPを消費するアクティブスキルだ。
その性質は簡単に分けると二つ、罠の解析と、その解除方法が分かる。
熟練度に応じて、簡単な罠から少しずつ複雑な罠に対応できるようになっていき、また、罠解除時にスキルによる補助も強く働くようになっていく、みたい。
熟練度が足りなければ、罠があることはわかっても、それが何の罠かも、解除方法も分からなかったりする。
あと、解除方法がわかっても、それを解除するために必要な道具とかはまた別途必要だったりする。
まぁ、土石魔術である程度なら即席でツールを作れるのは強みか。
ただ、あまりにも罠のレベルが高すぎると、罠そのものを見誤ったりもするとか。
そうならないためにも、罠を見つけたら積極的に使って熟練度を上げていきたいところだ。
閑話休題。
俺は罠解除スキルを発動することで、宝箱の罠を判定した。
──────
毒針の罠
正しい鍵を利用せずに宝箱を開けた際に、罠の発射口から毒針が射出される。
正しい鍵を用いるか、ピッキングで鍵と同じように宝箱を開けることで、毒針の射出が止められる。
また、初めから毒針の射出口を塞ぐことでも対処可能。
──────
やっぱり毒針だったわ。
やっぱり毒針だったわ!
「やっぱり毒針だったわ」
『やっぱり毒針でしたか』
クミンがちょっとだけ、バツが悪そうにしていた。
いや、俺は決してクミンを責めはしない。罠の種類がわからなかったのはそうだし、クミンは何も悪いことは言ってなかったのだから。
ただ、結果的には、適当に距離をとってゴブリンにでも開けさせて問題なかったというだけで。
「というわけで、罠の射出口は──目星」
終わったことはいい。
結果として無事故であるならそれに越したことはない。
というわけで俺は追加で目星を発動する。
目星先生でもさすがに罠の解除方法は教えてくれないが、毒針の射出口がどこかならわかる。
いかにも宝箱らしい宝箱の、かまぼこみたいな上蓋部分の飾り模様。
その一部に、模様の一部のようになっていて実際には穴を隠している部分があった。
宝箱を強引にあけた際には、その飾りの部分がスライドして、毒針が射出されるしかけのようだ。
とりあえず、その穴に土石魔術で蓋をしてから、俺は罠解除にも挑むことにした。
熟練度欲しいからね。
射出口を塞いだから罠解除に失敗しても問題ない。安全に練習できるというわけだ。
罠解除スキルが、頭の中に宝箱の開け方を教えてくれる。
この箱には鍵が掛かっていないが、専用の錠前でないと罠の停止ができないという仕掛けのようだ。
初心者をしっかり罠にかけるために、最初はこういう仕掛けなんだろうな。
後半になればなるほど、鍵を開けたは良いが罠が解除できてなかった、みたいなパターンも増えるのだろう。
とりあえず、六角レンチみたいな工具を土石魔術で作成して、それを錠前の中に押し込み、スキルが教える要所を押し込んでいく。
最初だから簡単なのか、EPを余分に払った補正なのか、ものの数秒でカチっと音がし、罠感知スキルの反応が消えた。
「オーケー、解除だ」
『お疲れ様です』
めちゃくちゃビビっていたわりには、案外あっさりいけた。
ちょっと土石魔術のCPが勿体無かったかもしれない。
と、安全に払った対価に思いを馳せながら、俺はワクワク気分で宝箱を開けた。
「…………」
『…………』
そして、そこに収まっていたアイテム群に、クミンと二人で無言になってしまった。
中身は、珍しく一点ではなく、4点だった。
見ただけでわかった。正しい鑑定結果は分からないが。
答えはこうだ。
──────
薄汚れた忍び装束
軽く、丈夫な忍び装束。だが少しくたびれている。
隠密が必要な人間には有用な装備だが、可能であれば更新すべきだろう。
ステータス補正:体+1、隠密スキルに微補正
──────
薄汚れた頭巾
軽く、丈夫な忍び頭巾。だが少しくたびれている。
隠密が必要な人間には有用な装備だが、可能であれば更新すべきだろう。
ステータス補正:魔+1、隠密スキルに微補正
──────
薄汚れた鎖帷子
軽く、丈夫な鎖帷子。だが少しくたびれている。
隠密が必要な人間には有用な装備だが、可能であれば更新すべきだろう。
ステータス補正:体+2
──────
忍びの地下足袋
軽く、丈夫で、足音を殺す機能のある地下足袋。
隠密が必要な人間にはこれ以上ない装備である。
ステータス補正:体+1、速+1、隠密スキルに+補正
──────
「…………」
『まぁ、良いじゃ無いですか』
「そうだね」
……………………。
……………………。
これさっき更新したやつぅ!!
しかもワンセットで入ってるの、めちゃくちゃ忖度感じるのにさぁ!!
嬉しいけど嬉しく無い、ちょっと嬉しい装備群だよ。
まぁ、予備ができたと思えば良いだけなんだけどさぁ。
「探索つづけようか」
『ですね』
こうして、三日目の探索は何もマイナスになっていないのに、ちょっとだけ気分が落ち込んだ状態からスタートするのだった。




