第163話 揺れる選択肢
端末に表示されるEPを見て俺は悩んでいた。
──────
所持EP:5416
──────
本日、四階層の本格的な探索を始めたのがおよそ17時。
そして現在は22時。5時間。狩ったゴーレムの数は9体。
一時間でおよそ2体。
それが四階層でゴーレムを狩れるペースだ。
今はマッピングをしながら歩いているので、それがなくなればもう少し早くなるかもしれない。
レベリングを考えたら、スケルトンとは段違いの効率になったのでそれは上々。
ゲーム的に考えると30分で1エンカウントというのはストレスしかたまらないだろうが、現実のダンジョンだとこれでもかなりハイペースで狩っている気持ちになる。
探索中にうっかり縄張りに入り込みすぎたら危険だし、かといって待機モードの気配を探知するのはなかなか難しい。
そうなると必然、こちらもかなり気を張って歩かなければならないので、精神の消耗は大きい。
さらに、地形が頻繁に変わることで、いちいち歩く感触が違ってくるのも、地味に精神を削ってくるポイントだ。
(泥濘エリアは特にひどい。ボロボロになった地下足袋に染み込む感じがある。おのれガラス片)
また、この効率がずっと続くかは分からない。
ゴーレムを一方的に狩れる遠距離狙撃スタイルの、重大な欠陥も見つかっている。
それはずばり、曲がり角の向こうにいる相手と致命的に相性が悪いことだ。
この四階層はかなり広い空間でありながら、何本も何回もぐねぐね曲がり角や分かれ道があるタイプの迷路ではない。
ないのだが、どうしても曲がり角は現れるし、その向こうに臨戦態勢のゴーレムのコアが浮かんでいることもある。
そう、曲がり角があると、遠くから狙撃することができないのだ。
当たり前の話だ。狙撃は直線上に障害物がない場所でしか行えない。
そしていくら待とうと、コアがその場所を動いてくれることもない。
今日の探索では、そういうゴーレムは避けて移動していた。
一応、それでも次の階段までのルートは見つかったのは幸運だろう。
だが、明日以降にどうなるかは分からない。
俺はこのダンジョンで敵がリポップする法則を知らない。
極端な話をすれば、明日の狩りで最初の曲がり角にリポップされたら、明日の探索はそれでおしまいという可能性もある。
つまるところ、アイアンゴーレムはまだしも、普通のゴーレムくらいは真正面から戦えるようになるのは急務。
だから、レベルアップか戦闘に役立つスキルの習得が最優先。
というところで、冒頭で俺の悩みに戻ってくる。
「…………」
そう、頭ではわかっている。
だけど、どうしても惹かれてしまうものがある。
──────
オートマッピング:2000EP
行動した範囲を自動でマッピングする。マッピングツールは自前で用意する必要がある。また、端末でもマップを確認できる。
コストCP:15
──────
取りてえなぁ。
第一階層で最初にリストに出現したときは『いつになったら取れるんだよ』と思ったけど、もう射程に入ってるんだよなぁ。
ただ、戦闘に役立つスキルではないんだよなぁ。
『上杉さん……』
「いや、違うんだよ」
俺がスキル習得画面でじっと見つめているものに気づいたクミンが、ちょっと呆れた声を出す。
だが、俺にも言い分がある。
実際の戦闘に役立つかは置いておいて、オートマッピングが探索に役立つのは間違いないのだ。
「今はゴーレムの探索に少しでもリソースを割きたいところだろう? そうなると、マッピングしながら移動するというのは、どうしても負担になるんだ」
最初に言ったが、今はマッピングをしながら探索している状態だ。
戦闘にも使う測量スキルがほぼ常時発動しているおかげで、歩数を数えて距離を概算するみたいな手間が省けたのは良いが、書き込む手間は変わっていない。
そうなれば、当然移動スピードは下がるし、その間の索敵はどうしても疎かになりがち。
クミンが気づかなければ思ったよりもコアに近づいていて、警戒モードに入られることもある。
その手間やリスクを省けるのは大きい。しかも、取ってしまえば今後はどんな場所でも使えるようになる。
そう考えると、可能な限り早い段階でとってしまうのは、悪い選択肢ではないのだ。
『EPにもCPにも余裕がない状態ですけど』
「ぐっ」
ただ、見逃せない真実として、パッシブスキルは取ると最大CPを圧迫する仕様がある。
レベルブーストされた時の感覚なら何を取っても問題ないのだが、今の俺には15CPもちょっと重い。
でも本当に役には立つはずなんだ。探索速度が20%向上する=獲得EPが20%向上するも同義なんだ。
安全性に加えて効率も上昇するなら、立派な選択肢だろう。
『別に悪い選択とは思ってないですよ。ただ、今はそれでも、戦力強化が先じゃないかなと思っているだけで』
「うーん」
それも一理あるのだ。
さっき言ったように、今のロングバレルによる狙撃は一方的だが、同時にハマらないパターンがある。
そのとき、多少苦労しても直接戦闘で片付けられる能力を身につけていたら、探索を中断しなくても済む。
そっちを優先した方が、結果的に効率が上昇する可能性もある。
明日以降の敵の分布が分かっていれば、どっちが正解かすぐわかるのに。
現在の所持EPは5416。
クミンへの借金をまず返して4416。
そこから二つに割るとだいたい2200くらいだ。
16という半端な数はぶっちゃけ使いにくいので、この辺は計算に入れないことで合意している。
そしてここから、罠解除を200EPで取得。
(デフォルトがEP20だから+5くらい)
残り2000となると、レベルアップ一回か、オートマッピング1個。
────逆に考えるんだ。
レベルアップ一回で、果たしてゴーレムを簡単に狩れるようになるか?
ならないだろう。レベルは所詮基礎ステの向上。
積み重ねは大事だが、1ではたかが知れている。
ヨシッ!
ここは、オートマッピングが優先だ!
『考えがあるならウチは何も言いません』
「よしっ」
クミンも理解してくれたということで、俺はついに念願のオートマッピングを手に入れたのだった。
クミンの方は、無難に失った身代わりを取り戻したあと、残ったEPはレベルアップに注ぐようだ。
──────
CP 30/108(使用中166/274)
【所持スキル】
[パッシブスキル]
悪臭 神出鬼没 並列起動
【セットスキル】
[パッシブスキル]
《闇夜と死の徒》 ストレージ(小) 石工
思考加速 並列思考 狙撃 オートマッピング
──────
CPが危険域に近づいて来てるな。
だが、へへ、ついに取ってやったぜ。
神出鬼没の値段を超える2000EPの大物を。
「明日が楽しみだ」
これで、心置きなく明日からのEPはレベルアップにつぎ込める。
まずはレベル15。そのあとは習得可能なスキルを並べてゴーレムへの対策を考えるとしよう。
『そういえば、上杉さん。CPがカツカツなわりにはずっと「石工」スキルはつけたままですよね』
俺の画面を覗き見たクミンが、そう尋ねる。
俺はそれにうーん、と唸る。
「これはな。そもそも石工スキルがコスト2ってことでほとんど影響がないっていうのもあるんだけど、それだけじゃなくてさ」
『何か他に意味が?』
「たぶんだけど、これが付いていると土石魔術で石系を使う時、性能が向上している気がするんだよね」
石工スキル自体は、もともと前回のダンジョンアタックで、石矢とか忍具の内職を始めたときに気休め感覚で取ったものだった。
だが、その時から体感で、土石魔術そのものを扱う時の手応えも変わった気がしていたのだ。
──────
石工
石の扱いが上手くなる。
コストCP:2
──────
説明はたったこれだけ。
どこにも土石魔術が向上するとは書いていない。
だが、どこにも魔術には影響しないなどの但し書きもない。
効果が出ていてもおかしくはないのだ。
『それは、もっとしっかり検証するべき項目じゃないですか?』
「やっぱりそう思う?」
クミンの意見に俺も頷く。
今までそんな余裕がなかった(いつも余裕ないな俺……)ので頭の片隅レベルだったが、ゴーレムハントでEP効率が急上昇した今、多少の検証に割くことはできるだろう。
魔術は俺達の重要な手札の一つだ。
俺たちのメイン火力と言っても良い(奥義は除いて)
パッシブスキルの中で『火炎魔術威力向上』みたいな分かりやすいものを、俺はまだ見つけていない。
だが、例えば料理技術のパッシブで『火の番』というものがあったとして、そこに火の扱いが上手くなるとあれば、それがそのまま火炎魔術に乗ってくる可能性はある。
そして、そういう生活スキルみたいなものは、総じてコストが安い傾向にあった。
だったら、何か関係がありそうなのを片っ端からリストアップして検証するのは悪いことじゃない。
一つ一つの効果は少なくとも、かき集めれば、大きなアドバンテージになりうるのだ。
もちろん、コスト以外に値段そのものも安ければというのは前提だが。
「まずは分かりやすいところで検証してから、実際に効果がありそうならリストアップしてみるか」
『でもどうやって検証するつもりですか?』
「そりゃあれだ」
頭の中で、俺がよく検証に使っている素敵な彼らを思い浮かべた。
「二階層のゾンビ相手に、マインで確殺できるCPのラインが変わるか見てみよう」
スケルトンは、検証に使うにはちょっと危ないからな。
悪臭をつけていれば実質無害なゾンビが、検証には一番である。
「まぁ、まずはレベリング優先で。リポップの間隔とかが分かって時間が取れそうだったら、検証を初めよう」
『了解です』
頭の中のTODOリストに、パッシブスキルの検証を書き加え、俺は四階層の端末前で早めに眠りにつくのだった。
(家は、簡易なものをせっせとクミンが作った。ゴーレムは動かないので防御力はあまり必要ないだろう)




