第161話 絶賛発狂モード付きゴーレム
──────
所持EP:616
──────
「よしっ」
無事にゴーレムのコアを粉砕し、そのコアから光の粒子を吸収してきた俺は、端末まで戻ってきて所持EPを確認した。
それにより、ゴーレムのEPはあの憎き一本腕と同じ600EPであることが確認できた。
まぁ、フレッシュゴーレム──俺の知識が正しいなら人肉でできたゴーレム──換算で600と言っていたので、薄々同じじゃないかなとは思っていたのだが。
とりあえず、600EPは全てCP回復薬に変換した。
『……………………』
「端末くん、何か言いたいことがあるなら言ってよ」
『……いえ』
なお、ログを見ていたのかそれとも監視していたのかは定かではないが、端末くんはものすごく何か言いたげな雰囲気を出していた。
まぁ、言いたいことはわかるよ。うん。
多分あれ、戦闘系の神様からめちゃくちゃ評判悪いと思う。
相手の索敵圏外から一方的に即死火力を押し付けるとか、並みのRPGだったら許されないレベルの暴挙であろう。
戦わずして勝つ(物理(魔術))って感じだし。
でも、こっちにだって言い分はある。
「だって普通に考えてさ、600EPってことはあの一本腕と同程度の強さってことでしょ? それをクミンと二人がかりでとはいえレベル10で正面から倒すって至難の技だよ? 俺レベル10のとき即死以外で倒したことないよ? しかも相手めっちゃ硬いのよ? 弱点らしいコアが中に隠れるゴーレム相手とか無理じゃんね?」
『……何も言っていませんが』
と、尋ねられてもいないのに言い訳を述べてみたが、端末くんのもの言いたげな雰囲気は変わらなかった。
まぁ、実際のところ、言うほど簡単な話でもないのだ。ゴーレム狩りは。
なにせ、さっきは一発で命中し、しかも一撃だったから良かったが、もし外していたらCP110強──EP換算で220程度を丸ごと損失することになる。
これスケルトン換算で9体分くらいだよ。時間にして一時間分くらいのロスになる。
そのリスクを背負って攻撃しているのだから、安全圏からチキっていることくらいは大目に見て欲しい。
俺はそんな気持ちをこめて、ちらっと端末くんを見てみるが、やっぱり雰囲気は変わっていなかった。
「まぁいいや。誰がなんと言おうと、安全に狩れる方法があるのならそれに越したことはない。必要経費も削れるところは削っていかなきゃだな。このままだと時給換算ではスケルトンの二倍くらいにしかならないかもしれない」
端末くんからの視線(?)から逃げて、俺はスリープモードっぽかったアリさんに話を共有する。
「まずは、マップの作成、それと並行してコストを抑えるための試行錯誤を行なって行こう。ロングバレルを使いまわせるようになれば、それだけでコストは大分浮くしな」
先ほど固定砲台だった大きな原因は、強度に不安があったからだ。
そして事実、ロングバレルは一発撃ったら壊れた。
土台はともかく、砲身の方にヒビが入っていたのだ。
これが使いまわせるようになるだけで、かかる費用が三割は削減できる。
この辺の改良と、必要な威力の算出から検証していきたいところだ。
「これはダメ元での提案なんだけど、クミンが背中にロングバレル背負って砲台アリになるっていうのはどう思う?」
『うっかり振り向いても責任はとれませんが、試してみます?』
「ごめん」
ほんのちょっと良い案かもしれない、と思ったのだが、アリさん的にはNGだったみたいだ。
端末くんだけでなくクミンからも冷ややかな目を向けられつつ、俺たちはようやく四階層の本格的な探索に入るのだった。
四階層の特徴は、まず広い。
一階層、二階層はソロも可能なエリアだったので置いておいて。
パーティ推奨になった三階層もここまでの広さはなかった。
おそらく三階層ですら、パーティ向けのチュートリアル階層だったのだろう。
この四階層からが、本格的な難易度──あるいは、ここですらまだチュートリアルかもしれない。
そう思ったのは、俺がゴーレムへの一撃必殺に失敗し、そのまま戦闘に雪崩れ込んだ戦いを終えてからだった。
「……はぁ……はぁ」
『……死ぬかと思いました』
「ははは、クミン、もう一回死んでるじゃん……」
『ふふ、そうでした……』
と、俺たちはどうにか倒した泥でできたゴーレム──マッドゴーレムの死骸を前に、冗談なのか深刻なのかわからない軽口を叩いていた。
遠距離からロングバレルで攻撃を行うまでは良かった。
だが、拳で撃ち出す時の衝風魔術をCP30くらいまで削ってみたら、この一撃がゴーレムのコアを貫通できなかった。
それだけならまぁ、一旦仕切り直せば良いという感じなのだが、これが中途半端に瀕死のダメージを与えてしまっていたらしい。
泥の地形で泥ゴーレムと化したコアは、絶賛発狂モードに突入したのである。
お返しとばかりに降り注ぐ、泥の弾丸の雨あられに、俺とクミンは咄嗟に逃げることすらままならなくなった。
壊れたゴーレムは、遠距離攻撃をかましつつ、凄まじい速度で走りながらこっちに近づいて来たのだ。
スピードだけならこっちが上だと思うが、遠距離攻撃しながらのゴーレムに背中を向けるのはリスキーすぎる。
俺たちも逃げるのを諦め、土石魔術のバリケードを駆使したり、二人で飛び出して狙いを分散させながらHPを削られつつ、接敵まで耐える。
そうやって至近距離に至ると、更なる発狂を始める前に一か八かの目星先生。
弱点見えない。目星先生の敗北。
最終的にクミン囮作戦から、衝風魔術の衝撃をゼロ距離でぶち込んで、身体中にダメージを通すことでなんとかコアを破壊したのがついさっきである。
「ちょっと反省会しようか」
『ですね』
疲れた精神とは裏腹に、少しの休憩でスタミナは回復したので、俺たちは静かにゴーレムの分析を続けた。
なお、そういった俺の体は泥だらけである。
「とりあえず、HPが少なくなると、なりふり構わない攻撃モードに入るのはなんとなく分かったな」
『防御力を犠牲にして攻撃に全てを注ぎ込むような勢いでしたね』
マッドゴーレムだけでなく、この階層のゴーレムは多分同じだろう。
中途半端に瀕死に追い込むと、色々と度外視した攻撃を繰り返す。
そうなったら、逃げることすら難しくなる。
マッドゴーレムならそうでもないかもしれないが、ロックゴーレムとかだったら岩投げてくるからな絶対。
当たりどころ悪かったら普通にHP全損して死にそう。
「逆に、近づいてくるのが分かっていれば、マインも有効か?」
『マインの強みは活かせるかもですが、そこを調整するくらいなら一撃で屠った方がよっぽど楽ですよ』
「だな」
近寄ってくるなら、と今まで散々お世話になった火炎魔術も思い浮かべてみるが、そうならないようにする方がよほど良い。
となると、狙撃する際のCPは最低でも35は必要か。
「もう少し安くできそうで、微妙なラインだな」
『悩むのは良いですけれど、刻むのはもう少しレベルを上げてからでもいいんじゃないですか? CPを1詰めるためにもう一度こんな目に合うのは』
「……そうしよう。ひとまず、経費削減はしばらくお預けだ」
狩りに必要なコストを削るのは、俺たちの成長に直結する要素ではある。
だが、削った結果、今回みたいな危ない目にあうのなら、今は安全マージンを取って、強くなる方が先決だろう。
「とりあえず、使い捨て砲台とセットで、一体倒すのにCPは90ってところか」
砲台は最初からCP5削減して25。弾丸は30、そして衝撃に35。
気持ち二割のコストカットが、安全を考えた上でのラインかな。
『それでも、一体で差し引き420です。スケルトンのパーティで頭蓋骨が一個ドロップした時より利率は大きいです。しかも安全です』
この四階層の魅力はCP効率の劇的な向上である。
今回みたいに仕留め損なって直接戦闘になったら大分危ないが、そうでないなら安全確実にスケルトンより時給アップ。
しかもまだ、俺たちはゴーレムのドロップを確認していない。
もし、ドロップが今まで通りなら、それ一つで6000EPになるはずだ。
一日篭れば、EP10000も夢じゃない。
凄まじいEP効率の上昇である。
(もちろん2時間ちょっとでEP25000近くを叩きだしたあのクソダンジョンには及ばないが、あんな密度での戦いがずっとあってたまるか)
「ひとまず、何日かはこの階層でレベルアップを図るつもりだが、クミンはどう思う?」
『それで良いと思います。理想を言えば、正攻法でゴーレムを倒せるくらいになっておきたいところです』
「……まぁ、そうだよな」
出来るだけ早く進みたいと逸る気持ちを抑えつつ、クミンの言葉に頷く。
今の俺たちは、相性が悪いとはいえ四階層で苦戦する程度の戦力である。
それはつまり、五階層でマトモな戦いができない可能性があることを示す。
早く進みたいのはやまやまだが、勝てなければ意味がない。
五階層の敵を見て見なければ通用するしないは分からないにせよ、少なくともゴーレムに手も足も出ない状態というのは、あまりよろしくはないだろう。
ゴーレムと積極的には戦わないが、戦っても勝利できる。
その位の強さをここで身につけておきたい。
「とりあえず、目標はクミンが25、俺が15あたりにしておくか」
『了解です』
召魔忍者の必要EPが多すぎてそこまでいくらかかるかも分からないが、クミンを25にしたいのは多少の意味がある。
俺の称号『魔道の探求者:破』によれば、25は何かの区切りという可能性がある。
もしかしたら、レベル25でクミンは次の進化をするかもしれない。
それを少し期待したい。
「よし、それじゃ進むか」
『はい!』
というわけで、俺たちは今後の目標をそのように定めた。
そして、俺は思い知った。
ゴーレムと積極的には戦わないが、戦っても勝利できる。
その位の強さは、最低条件であるということを。
──────
アイアンゴーレム:無性
状態:正常
──────
「……倒さなきゃいけない門番ばっちりいるじゃん」
『……しかも、思い切り臨戦態勢ですね』
五階層へ続く階段の前には、明らかに一段格上のメタリックなゴーレムが、コアをばっちり内蔵した状態で待ち構えているのだった。




