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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第157話 『慈悲なき者』




 松川さんたちから説明を受けたあと、俺はその足で南小のダンジョンへと向かっていた。


 体調は万全。

 二日も寝ていたことで、元に戻った体ステータスが人間離れしたスピードで俺の体を修復した。

 もう完全に人間離れしていると思うが、ステータスを得た時点で今更だし、レベルブーストされていたときはそれこそだろう。


 ついでにレベルブーストに関しては、俺が目を覚ました段階で終わったらしい。それまで治療のため、特例で継続してくれていたとかなんとか。


 さて、どうして俺が南小のダンジョンに向かっているのかと言えば。



『上杉様。目覚めたところで申し訳ないですが、可及的速やかに携帯端末の返却をお願いいたします』



 と耳元で催促されたからに他ならない。

 その辺りの旨を伝えると、松川さんたちは快く案内してくれた。






 正直に言うと。

 今、あまり南小のダンジョンには行きたくなかった。


 だってそうだろう。

 あそこにはクミンが好きだったウサギ肉が居て。

 どうしても、クミンのことを思い出してしまう。


 何か他に手はなかったのか。

 俺もクミンも助かる道はなかったのか。


 いや、そもそも。


 俺がクミンを仲間に誘わなければ、クミンが死ぬ未来も来なかったんじゃないか。


 馬鹿げた想像だってことは分かっている。

 どうしたって、俺が先に進むためにはクミンの存在が必要だった。

 もしもう一度記憶をなくしてやり直したとしても、試練を突破できない未来があり得ても、クミンを仲間にしない未来はありえない。


 それでも、考えてしまって仕方ない。

 どうしようもないことだと分かっているから、答えが出ない。


 今になって、俺に送還されたときのクミンの気持ちが痛いほど分かってしまう。

 これでチャラじゃねーよ。

 お前はしっかり、俺を残して、逝っちまったじゃねえか。


 ちくしょう。

 ちくしょう!!






「上杉くん? 着いたぞ?」


「あ、えっと、すみません」


 考え事をしていたせいで、ダンジョンの入り口にたどり着いたことにも気づいていなかった。

 俺がぼーっとしていたせいで、松川さんたちに心配をかけてしまったかもしれない。


「……上杉くん、その、目」


「え?」


「いや、すまない。なんでもない」


 松川さんは何も言わずに前を向いた。

 俺は自身の目元を触ってみる。

 知らないうちに泣いていたみたいだった。

 俺が泣いたのは──ゾンビパニックの初日以来な気がした。







 南小のダンジョン──素朴な雰囲気を感じる平原も夕方になっていた。

 この時間だというのに、兎狩りで活発に動いている人の姿が見えるのは、これからの交易のためだろうか。


 ホームセンターの解放と、各種コミュニティとの交易の始まりによって、外の世界を探索することによる物資の補給の重要性が下がった。

 特に塩。もしこれが海があるダンジョンから手に入るのであれば、今後は各コミュニティの重要な生命線となるだろう。

 交換するための肉の確保は責任重大だ。



『それでは、回収いたします』



 そんな平原にぽつんと立っている端末くんに近づくと、端末くんは有無を言わさずに俺の耳元の携帯端末を回収した。

 正確には、携帯端末はさらさらとした光の粒子になって、すぐに端末へと吸い込まれていった感じだ。


「くれてもいいのに」


『この措置は、あくまで模造人類試練を突破するための一時的な措置です。その突破がなされた以上、速やかな回収がダンジョンの公平性を保つための必要事項であると考えます』


 言うほど、ダンジョンは公平性を大切にしているのだろうか。

 神様を見ていると、気に入った相手にこれでもかとテコ入れしている気しかしないのだが。


『……少なくとも、システムが公平である必要はあると考えます』


 俺の心を読んだように端末くんが言った。

 まぁ、そうだね。

 上が好き勝手やっているとしても、現場まで規範を崩していいわけじゃないよね。


「それで、用事はおしまい?」


『いえ、あと一つ。上杉様に贈られるものがあります』


 贈られるもの。

 そういえば、みんなは貰ったという称号を俺はまだ貰っていなかった。

 全員に配られたタイミングで気絶していたから、改めてといった感じだろうか。


『上杉様へ贈られる称号は、議論が紛糾いたしました。それほどの功績、もはや神々の中で上杉様を見くびるものは一柱もいないでしょう』


「買いかぶりだろ」


『それゆえに、あなたに贈られるものを決めるのが遅れました。しかし、たった今、決まりました』


「……いま?」


 この時点で、全員に配られたものとはちょっと違う称号でも贈られそうだなとは思った。

 だが、まぁ、正直言うと俺の心は冷え切っていた。


 何を貰ったところで、失ったものに釣り合うわけがない。

 クミンはもう、帰ってこない。


 そう、どこかで皮肉をこぼす自分がいた。

 そんな俺の心中を見透かすように、ダンジョンの声が響いた。



『上杉志摩様に、称号が3つ送られました』



 3つだって。

 どう考えても公平感はないが、苦労と天秤にかけたら公平なんだろうか。

 俺の促すような視線を受けて、端末くんが称号の詳細を表示する。



 ──────

『軍勢の試練を越えし者たち(偽典)』


 模造人類試練『悪性変異集合体レギオン』を討伐した証。

 模造であろうと、人類は試練を一つ越えた。

 その魂の輝きは、あまねく世界の未来を照らす光となるだろう。


 ステータス補正:全ステータス+2。対多数の戦闘において、全ステータスに微補正。また、人類試練に対し、追加で全ステータス中補正。

 ──────


 これはきっと、全員がもらったものと同じものだろう。

 わざわざ偽典とかつけてくれているけど、本物を出すつもりはないんだからこだわる必要があるんだろうか。

 効果としては腐るところがなくてよさそうだな、ってくらい。

 特にこれからダンジョンの奥に行くのなら、あって困ることはないだろう。



 ──────

『軍に勝る個』


 数多の悪辣なる試練を乗り越え、自分より圧倒的多数の敵を退け続けた功績に対して送られた称号。

 貴方の孤軍奮闘が誰かに目撃されることはなかった。

 しかし、たった一人の英雄の功績が埋もれることも、決してない。


 ステータス補正:力+2、魔+2、速+2。アクティブスキルのCP消費量軽減(小)。一対多数の戦闘において、ステータス中補正。

 ──────



 上のと関連して、人類試練を越えた際の功績に対して送られた称号らしい。

 別に好きで一人で戦っていたわけじゃないんだがな。まぁ、一人の方が補正がかかるから強いのは間違いないんだけど。

 これが二つ目。一つ目とほぼ同じ感じだし、なんとなく、会議がうんたらで決められたものとは思えない。

 となると、最後の一つがそれか。


 俺は、心が錆びついたような無感動さで、その最後の一つの称号を確認した。



 そして、言葉を失った。



 ──────

『慈悲なき者』


 慈愛の女神と、従魔の女神から祈りを向けられている証。

 死の安らぎは等しく訪れる、それを奪う権利など本来は誰にもない。

 あぁ、それでも、貴方の涙に手を差し伸べずにはいられない、弱い私たちを許して欲しい。

 遠い果て、死すら許さぬ貴方の行く末が、慈悲なき者となったとしても。

 ──────


 フレーバーの段階で、俺は目を見開き。

 そして、ステータス補正で、うつむき下を向いた。


 ──────

 ステータス補正:奥義【テイムモンスター:レイズデッド】を習得可能になる。

 ──────



 どれくらいの時間、うつむいていただろう。

 俺は端末くんに、低い声で尋ねていた。


「いくらだ?」


『20000EPです』


「クソッ」


 俺は即座に、頭の中で時間と費用を計算しようとして、ふと気づいた。

 ストレージに入れっぱなしにしていた、回復アイテムを強引に引っ張り出す。


 それは、レギオンとの戦いにおいて外倉庫の中から発掘された回復アイテム。

 本来はレベル50とかその辺になって初めてお世話になるだろう、現在の基準を大幅に越えた逸品たち。


 HPの回復薬が8本に、HPCP完全回復薬が一本、丸々残っていた。


「全部売る。EPはいくらになる?」


 後ろで松川さんたちが見ているということも御構い無しで、俺はそれを尋ねた。

 端末くんは、いつもの平坦な、しかし少しの温かみを感じさせる声で、答えた。


『合計、20000EPで買い取ります』


「!?」


『現在のレートに合った、適正価格です。今後、同じレートになる保証はありませんが。これに関しては──神々の気まぐれとでも思っていただければ』


 俺は、少しだけ泣きそうだった。

 このアイテムの適正価格など、今の俺が知る由もない。

 おそらく、世界中で知っている人間は一人もいない。


 未来で再びこのアイテムと出会った時には、レートの変わったアイテムが目の前に現れるかもしれない。


 だが、それは今じゃない。


「頼む」


『かしこまりました』


 そこから先に、煩雑な手順は必要なかった。

 俺が頼めば、端末くんは売却、スキル選択、そして習得までをワンアクションで終えてくれる。


 取り出したアイテム群が、EPの粒子になって溶けていき、端末くんへと吸い込まれ。

 すぐさま、白く輝く光となって俺へと帰ってきた。


 自分の中に、再び新しい何かが芽生える。

 使い方がわからない。俺は端末くんへ目を向けた。

 阿吽の呼吸で、そこにしかとスキルの説明が表示されていた。


 ──────

 奥義【テイムモンスター:レイズデッド】


 あなたが死を認めず、しもべたちもまた死を認めず。

 二つの願いが切れた線を結び直すとき、そこに奇跡はない。

 込められた思いがなんであろうと、祈りは時に死すらも覆すだろう。


 生きよ、再び死するその時まで。



《発動条件》

 発動条件1:『上杉志摩』が『鍾馗』を装備している。

 発動条件2:『上杉志摩』が『闇の女神』『死の女神』『慈愛の女神』『従魔の女神』よりスキルの使用許可を得ている。

 発動条件3:『対象』の好感度が『死を超えて再び起き上がる』条件を満たしている。

 発動条件4:『対象』との契約が解除されていない。


《効果》

 このスキルを起動後、死亡したテイムモンスターを以下の条件で蘇生する。

 ・レベル-1

 ・全ステータス半減(24h)

 ・スキルをランダムに消失(再取得可能)


《代償》

 『上杉志摩』は、スキル使用後以下の代償を払う。

 ・HP全損(自動回復停止24h)

 ・CP全損(自動回復停止24h)

 ・全ステータス半減(24h)

 

 消費CP:ALL

 ──────


 相変わらず、奥義ってのはバカみたいに代償が重い。

 まぁ、死亡を要求してこない分、可愛いものだが。


 多分きっとこれも、今の俺が使っていいような奥義じゃない。

 これこそが、正真正銘の報酬だ。

 神々が議論を重ねた末、俺に手渡された、俺だけの報酬なのだ。


 有料だったことに文句を言いたい気持ちがちょっとだけあるけれど、全て許そう。

 今は、それだけだ。



「奥義【テイムモンスター:レイズデッド】」



 俺は迷わず唱えた。

 今のうちにCPを使っておいた方が、とか、小賢しく考えそうになったが全て無視しておく。


 スキルを発動すると、目の前に神々しい光の卵のようなものが現れた。

 その卵に、ゆっくり、ゆっくりとヒビが入る。

 見つめていたのも束の間のことで、やがてそこには、一体のアリ型モンスターがいた。



『……あれ、なんでウチ』



 そのアリさんは、自分に何が起こったのか分からない様子でキョロキョロと辺りを見回し、俺と目が合う。

 そして、バツが悪そうにそっぽを向いた。まぁ、アリの目は横についているから、全然目を逸らし切れてはいないんだけど。


 俺は、なんて言おうか言葉に迷う。

 やっぱり、こういう時は言葉が咄嗟に出てこない。

 少し悩んで、俺は当たり障りのないことを言うのが精一杯だった。



「おかえり、クミン」



『……ただいま。上杉さん』




 クミンとのラインはしっかりと結び直された。




 改めて宣言しよう。

 今回の人類試練。



 俺たちの被害は、ゼロだ。




 これにてホームセンターでのお話はエピローグ含めて一旦おしまいです。

 地上では色々と忙しくなるようですが、主人公たちにはあまり関係がありません。

 多少ご都合かもしれませんが、神々が自分の裁量で与えられる限りの報酬を支払ったものと思っていただければ。


 次に彼らの目指す先は、自宅のダンジョンの五階層になります。


 今後もお付き合いいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
絶望なんか現実で足りている。希望が俺たちには必要だ。
あらあれヒロイン決定しちゃった。 まつりちゃん目覚めた時は手遅れか?
最後の決め手は上杉君の涙だったのかな。
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