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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第156話 ホームセンターのその後



 俺が目を覚ましたとき、あたりは夕暮れ時だった。

 混乱がひどくて、一体何がどうなったのかをいまいち思い出せない。

 記憶がひどく不鮮明で、そもそも、どうして俺が寝ていたのかすら分からない。


「あっ」


 俺の覚醒に気づいたらしい、女性が声を上げる。

 彼女は──見覚えがあった。

 確か、南小が怪物に襲撃されたとき、襲われる寸前だったのを助けた女性だ。


「……ここは、南小?」


「ちょ、ちょっと待ってください! すぐに松川さんたちを呼んできます!」


「はぁ」


 彼女は、とんでもなく慌ててバタバタとかけて行く。

 俺が目を覚ましたことを知らせに行くには、随分と大げさだなと思った。


 周囲を見渡してみる。どうやら俺は、学校の保健室的なところのベッドに寝かされていたらしい。

 他にも大変な人はたくさんいるだろうに、部外者の俺がベッドを使ってしまって悪いなと思った。

 だが、それにしたってあの慌てようはないだろう。ちょっと寝すぎたくらいで。


 だが、しばらくして彼女が人を連れて戻ってきたとき、松川さんも杉井さんも、やっぱりひどく慌てた様子であった。



「上杉くん! 目を覚ましたのか!?」


「おはようございます?」


「ああ、良かった! もう目覚めないかと思ったよ」


 松川さんが、ほうっと安堵の息を吐いた。

 大げさな、と再び思う。

 だが、その後に杉井さんからもたらされた情報で、俺も困惑した。


「君は二日以上寝ていたんだ。その自覚はないのかな?」


「……嘘ですよね?」


「残念だが、本当だ。もっとも、テレビで日付を確認してみろなんて言えない世界になってしまったがな」


 まぁ、今俺たちは正確な日付を確認する術を持っていないからな。

 いや、ダンジョンに行けばシステムで確認できないことはないだろうし、端末くんも別に教えてくれるだろうけど。


「それで、君は気絶する前に自分がどうしていたか、ちゃんと覚えているかい?」


「どうしてたって……」


 忘れたくても忘れられるわけがない。

 あの、悪意を煮詰めたようなクソダンジョンに閉じ込められて。

 仮眠二時間の体で、必死で駆け回り続けて。


 挙句の果てにクソみたいな集団戦を一人でさせられて。

 そこに松川さんたちが援軍に来て。

 紆余曲折の末に、なんとか肉団子野郎を倒して。

 それで…………っ!



「クミンは?! クミンはここに戻ってきては!?」



 それで、思い出した。

 レギオンを倒した後の、最後の最後、謎の女が現れて、クミンが俺の身代わりになって。

 そして──。


「……残念だが、クミンさんは戻っていない。上杉くんも、分かっているんだろう……」


「…………」


 松川さんの沈痛な面持ちに、俺は俯いた。

 そう。わかっている。

 俺とクミンは、テイマーとテイムモンスターをつなぐラインで結ばれていた。

 あのクソみたいなダンジョンに囚われたときでさえ、か細くても切れることはなかったんだ。


 それが今、ぷっつりと切れている。

 正確には、まだ俺から線は伸びているが、その繋がる先がどこにもなくなっているのだ。


「クミンさんのことは、本当に残念だった。だが」


「……大丈夫です。クミンもあなたたちも、俺を助けるために必死に力を尽くしてくれたんですよね」


「…………力足らずですまない」


 松川さんと杉井さんが揃って頭を下げた。

 二人がこうまで沈み込む理由は、その先を聞いて納得できた。

 先の模造人類試練との戦いにおいて。


 多数の負傷者こそあれど、人類側は──人間は誰一人死ぬことなく帰還ができた。

 もちろん、それまでにあの怪物に殺されていたし、ゾンビも合わせれば被害者は数え切れない数になるだろう。

 それでも、あの決戦の場に足を踏み入れた人々は、皆が生還を果たした。



 犠牲となったのは、クミンだけだ。



「……誰のせいでもないですよ。そもそも、勝てたのが奇跡みたいな戦いで、もしダメだったら全員が死ぬか大変な目にあってたんですから。だから、今は生き残ったことを喜ばないと」



 綺麗事を俺は吐いていた。

 本心でもちゃんと、そういう風に思ってはいるつもりだ。

 みんな死ねば良かったのかと言われて、そうだと答える奴はいない。


 それでも、クミンを失った辛さを一番感じているのは俺だろうとは思うだけだ。



「……とりあえず、俺たちの今の状況を共有しておこう。それで上杉くんがどうするのかも、確認させてほしい」



 松川さんは、俺の発言にはあえて触れなかった。

 そのまま、レギオンを倒した後に、もろもろがどうなったのかの説明が入った。



 まず、ホームセンターがどうなったのか。

 これについては、想像よりも『人類側』に有利なことが起こった。

 ホームセンターそのものは元に戻り、そこの物品はコミュニティ間で分け合うように決まった。

 だが、それで終わりではない。


 曰く、あのウイルスに作られたホームセンターダンジョンが、内容を一新されつつそのまま店の中に残ったらしい。

 ホームセンターの物資が、条件付きとはいえ無限に手に入るようになったのだとか。


 その条件とはずばりEPである。

 内部で新たに設定されたモンスターを倒すことで得たEPを使って、ダンジョン内に配置されている物品を持ち帰ることが可能になったのだという。(うっ、セルフレジ……)

 また、ダンジョン外から持ち込んだEP結晶に関しても、このホームセンターダンジョンでは特例で、通貨として利用できるようになったのだとか。


 この辺は、おそらくダンジョン側からの譲歩だろう。

 言っていたように、レギオンを倒しても松川さんたちは大した報酬を得ることはなかったそうだ。

 せいぜい、みな一律にちょっとした称号をもらい、それに付随して少しの恩恵を得た程度。

 持ち出しを考えると、失ったものの方が多いくらい。


 だが、それを補って、他所のコミュニティと交流しつつ、ホームセンターの物品を自由に使えるようになったのは大きい。

 例えば今後素材の加工をしたいとか、武器防具を作りたいと考えたときに、工具が手に入るか否かは大きなポイントだ。

 ホームセンターの物品がそのまま資源となるこのダンジョンは、ゾンビ世界にもダンジョン攻略にも有用な要となるだろう。


 というわけで、そのホームセンター周りの管理については、コミュニティからそれぞれ人を出し合うことが決まった。


 欲を言えば皆が独占したいところだろうが、あの戦いでどこか一つのコミュニティが突出して成果を上げたわけではない。

 あえて言うならそれは俺だし、もしダンジョンの独占を考えるなら、俺が独占すべきという答えになってしまう。


 そうならないために、皆が平等に利用できるようにしようと決まったらしい。



「とはいえ、それは仮決めだ。もし、上杉くんが管理の独占を求めるのなら──」


「いやいいですよ。その代わり、俺も自由に利用できるんですよね?」


「それは保証しよう。一応、立場としては南小コミュニティのゲストという形になっているしね」



 俺も利用できるなら、別に文句はない。

 そもそも、ダンジョンの独占など俺の柄じゃないのだ。

 自宅のダンジョンは独占しているわけだし、ここで有用なダンジョンが現れてくれたのは、俺のダンジョンを公開しろとか言い出す輩が減りそうでありがたいくらいだ。


 それで、ホームセンターが五つのコミュニティの共有エリアとなったので、今後の交易なども主にそこで行われることが決まったらしい。

 ホームセンターに遠い、近い、といった差はあるし、道中でゾンビと遭遇する危険もしっかりあるわけだが、それはどこを交易の中心にしようとも変わらない。

 その辺りを考慮しても、ホームセンターを中心にするのが一番丸いという話になったようだ。


 南小のコミュニティが交易するのは、主にウサギ肉だ。

 簡単に取れて、そこそこ量があって、美味しい。

 今のこの世界で肉が食べられるかどうかは、完全にダンジョンのモンスターに依存している。

 肉の存在は、とてつもなく大きい。



「まぁ、ウチで取れる肉はこれだけじゃないがな。二階層では実はイノシシの肉も取れるようになってね」


「…………」



 え、なにそれずるい。

 二階層? ゾンビですよウチ?

 俺は、静かに沈んだ。


 そういえば、クミンはゾンビの臭いがとにかく嫌いだったな、なんて思うと、ますます沈みそうになってその思考は慌てて止めた。

 まだ、その時じゃない。



 というわけで、交易はしめやかに始まっているらしい。

 最初は少量で。

 次第に、ホームセンターまでのルートを整備したり、アイテムの流通を強化したりといった計画はあるらしいが、今はまだ試しに始めてみたといった程度。

 ただ、それでも、肉の需要はすさまじいようで、結構せっつかれているみたいだが。


 その取引の基本は、同EPによる交換らしい。

 この貨幣価値が死んだゾンビワールドで、唯一EPだけが、ダンジョンというシステムによって価値を担保されている。


 取得のしやすさで言えば、食べ物より武器の方がEP的に割高だったりもするが、武器と違って食べ物は消費するものだ。

 武器も消耗はするが、食べ物はその比ではない。

 長い目で見れば、釣り合いが取れてくることだろう。

 なにより、ホームセンターダンジョンそのものが、EPで買い物をする設備だったりするわけで、EPの価値で流通を回すのはそれほど抵抗のある話ではなかったそうだ。


 状態の悪い品だと、ダンジョンの端末がしっかり査定を下げるとのことで、詐欺を行うのも難しいようだし。


 あと、俺がダンジョンの攻略のために使ったEPについて、端末くんの方からしっかりとアナウンスがあったようで、そのEP分俺はホームセンターで各コミュニティからの買い物が自由という話になったそうだ。

 ありがたいが、そのために戦ったわけではないので、少しだけ複雑な気持ちだった。




「とりあえず、現状はこんなところかな。ホームセンターの怪物のおかげと言ってはなんだが、ホームセンター周辺はゾンビも少ない。しばらくは、この周辺のコミュニティが固まってここを守り、次第に周囲にも生存圏を確保していく形になるだろう」



 最初は野菜の種を欲していただけだったはずだが、ことの外大きな話になって南小でもまだバタバタしているらしい。

 ただ、そのおかげでどの大人も忙しく、引きこもって変な思想をこねくり回す暇がないそうだ。

 他のコミュニティとの交流もできたことで「ウチが嫌ならどうぞ出て行け、と言いやすくなった」なんて杉井さんが黒い笑みを浮かべていた。



「それで、上杉くんはここからどうする?」



 寝ていた間にまとまった話を詰め込まれたところで、俺はそう尋ねられた。

 俺がこれからどうするのか。

 人類試練との戦いで、俺が果たした役割については、恥ずかしいくらいコミュニティに共有されているらしい。

 だから、俺はかなり、自由にコミュニティを行き来できるだろう。


 ホームセンターに寄らずとも、ストレージを利用することで各コミュニティで行商の真似事なんかもできるかもしれない。

 さっきのEPでの取引は、基本的にホームセンターでの取り決めらしいので。


 なんてことを考えても、答えは決まっている。



「ダンジョンに潜ります。助けなければいけない人がいるので」



 クミンを失った。

 無駄な時間を食った。

 それでも、安全は確保できた。


 俺は拳を握りしめる。

 もう、俺の足を止めるものは何もない。



「次のアタックで、第五階層を突破する。それが俺のやらなければいけないことです」


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