表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/169

第154話 ダンジョンの空を灯す



 目の前にそびえるのは、見上げるほどの高さをもつ化け物。

 入った瞬間から、夜と夜明けの中間みたいだったダンジョンの空は、もう間も無く日の出を迎えそうな明るさだ。



 事実、その通りなのだろう。

 この世界に、太陽のような明るさが灯ったとき。

 東京は終わる。

 そう確信した。



 カウントは588。

 残り12秒。



 クミンが作り出してくれた足場を踏みしめ、一歩進む。

 そして気づく。


 世界が変わった。


 急激なステータスの変化に戸惑う身体を、加速した思考能力による身体制御で強引にねじ伏せる。

 まるで加速アイテムを限界まで取ってしまった、シューティングゲームの自機のような体を、体感時間を引き延ばすことで強引に操作している。


 それが苦じゃない。

 言いようのない全能感が俺を包んでいる。


 身体は悲鳴を上げている。特に足が酷い。もともと負傷はしていたが、今にも砕けそうなほど痛い。

 背水で0になった体ステータスでは、どれだけ器用に動こうともダメージを受け止めきれていない。

 顔にぶつかる空気すら、粘性のある壁のようだ。

 風の抵抗、重力の軛、そういったものを、俺は生きてきて一番感じている。


 俺はそれを、広がる闇で強引に塗りつぶす。

 俺の動きを阻害する全てを食いつぶす。

 この世界に存在する物理的な法則を、闇の中に葬り去った。


 やろうと思ったら、出来た。

 俺はいま、魔術の深淵を少しだけ覗いている。


 慣れない身体の操作と、魔術による防護だけで1歩目は終わってしまう。

 側から見れば、俺は高く飛び上がっただけだろう。


 闇の中を見ることができていれば、の話だが。



 590。



 続く二歩目。

 もう俺には分かっている。

 この闇はすでに俺の支配下にある。


 俺は、纏う闇を一部『固定』して、そこに足をかけた。


 地を蹴るような感覚とは程遠い、地面に比べてひどく曖昧で不安定な足場。

 それでも確かに、闇を踏む。

 魔術の深淵に、また一歩近づいた。


 俺がそこを離れてから、数瞬おくれて土石魔術の足場が届いた。


 もう、クミンに足場を作らせるのは無理だろう。

 体と運を除き、背水を合わせて9倍になったステータスは、別物すぎる。

 今の俺のスピードに、おそらくクミンは付いてこれない。



「送還」



 俺の背後にいたはずのクミンを、俺は送還で杉井さんたちの足場に合流させる。

 ここからは、俺一人でやる。

 やらなければならない。



【うぅうううぅうぅうぅうううう】



 前を見た。

 司令塔を失った肉塊が、反射的に近寄ってくる俺に気づく。

 そして、俺を脅威と認定したらしい。


 松川さんたちは、時間内にレギオンを殺せない。

 俺は殺せる。

 それが事実だ。


 だからレギオンは、俺に全てを傾けた。


 松川さんたちを狙っていた攻撃の全てが、俺へと向かってくる。

 この空間を肉の海ごと薙ぎ払おうとした巨大な腕が、今はただ俺一人めがけて薙ぎ払われる。



 592。



 三歩目。

 闇を踏んで、薙ぎ払われる大腕を回避する。

 だが、案の定それでは終わらない。


 腕が払われると同時、千々に腕から肉片がちぎれ飛んでいき、それらは不定系の人間──ヒトカタの腕や足となって俺に伸びてくる。


 司令塔がいなくなって、個々が人の形を保てなくなっている。

 雑多に混ざり合った『何か』が、さらに雑に蠢いている。

 だが、無秩序ながら、確かにそれは俺の動きを阻害する脅威たりうる。


 腕を払う。

 足を切りとばす。

 大口を開けた顔もどきを殴り飛ばす。


 空中で力を込めるのは難しい。

 そのために踏ん張ると、歩数を使ってしまう。

 俺はまだ、レギオンの弱点に飛び込める場所にすら来ていない。


 体捌きだけで、慣性だけで、前に進む。

 だが、限界がくる。

 これ以上は、進めない。



「ちっ!!」



 594。



 四歩目。

 もう一度、闇を踏み込み加速する。


 先ほど群がって来ていたヒトカタモドキを振り切り、レギオンの直上へと到達する。


 心臓への道が見えた。

 肉がごっそり抜け、落ち窪んだその穴の奥。

 脈動する黒いコアが闇の中に浮き上がる。


 だが、そこまでの道を阻むように、肉塊からサイズ感を無視した人間の形の肉が、何体も何体も、上半身を生やして現れる。


 先ほどのパーツ人間とは明らかに違う。

 明確な意思を持ったそれらが、レギオンの心臓へと至る道を塞ぐように立ちはだかる。



 邪魔臭い!!



 595。



 選択肢は二つに一つ。

 排除するか、すり抜けるか。


 排除するには、足を止めるしかない。

 すり抜けるには、足を使うしかない。


 足を止め過ぎれば、俺は死ぬ。

 足を使い過ぎても、俺は死ぬ。


 どちらが、より早く心臓にたどり着けるか。

 それすら分からない中で、声が聞こえた。



「目を覚ませ! 萩原! 石楠花しゃくなげ! 韮崎にらさき!」



 松川さんの大声だと気づいた。

 だが、このタイミングでいったい何を。



 そう思った瞬間、気づく。



 レギオンから生えて来たヒトカタのうち、いくつかの動きが、鈍る。

 それはまるで。


 上位者の支配が弱まった『彼ら』が、生前の名前にうっかり反応したような。



 596。



 五歩。六歩、そして七歩。

 闇を蹴り、姿勢を変え、立ちはだかる敵をすり抜ける。

 最小限の障害だけを斬り伏せ、悲鳴をあげる足を強引に動かし。

 ヒトカタの隙間を縫う。


 当然、行き先には新たなヒトカタも現れ、それらが俺の行く手をまたも阻もうとするが。



「蓮也!」「アザミ!」「侘助!」「茅場!」「篠原!」



 外から、人の声が響く。



「──!」「──!」「───!」「─!」「──!」

「──!」「──!」「─!」「───!」「──!」

「─!」「───!」「──!」「─!」「────!」

「──!」「──!」「─!」「───!」「──!」

「────!」「──!」「───!」「─!」「──!」

「──!」「─!」「─!」「───!」「──!」

「─!」「───!」「──!」「─!」「────!」

「──!」「──!」「─!」「───!」「──!」

「─!」「───!」「──!」「─!」「─!」



 男性の声も、女性の声も、ごちゃごちゃになって聞き分けできないくらい、たくさん聞こえる。

 手当たり次第に、仲間の、友の、家族の、知人の名前を叫んでいる。

 ホームセンターの怪物に飲まれた、大切な人の名前を呼んでいる。



 それによって少しだけ、ヒトカタは動きを止め、空いた隙間を俺は抜けた。



 これは戦いだった。

 俺のじゃない。

 レギオンに飲み込まれた、彼らのだ。



 まだ彼らが人の意識を残しているのか。

 それとも心まで飲まれて消えてしまったのか。

 今、その最後の戦いが始まっているのだ。



 勝ってくれ。

 少しでも、抗ってくれ。

 俺を、前に進ませてくれ!



 レギオンの心臓が近い。

 鍾馗を握りしめる。



 直進すればあと二歩もいらない。

 そんな場所まで来ている。 



 598。



 八歩目。

 俺は闇を踏み込む。


 まっすぐに、もう邪魔は気にしない。

 鍾馗を構え、前を見据え、周囲から伸びてくる手も、足も、口も、全て思考の外に追いやる。

 それらが支配に抗って、勝ってくれることを信じる。


 俺の『暗澹たる死よ来たれ』で即死判定を出すには、攻撃が有効でなければならない。

 相手は悪魔の心臓だとすれば、生半可な攻撃ではきっとだめだ。

 有効な一撃をあの心臓に叩き込むには、全身全霊の一撃が必要だろう。



 そんな一撃を加えるために、ただ前を見て、闇を道とし。




 そして、両足を掴まれた。




 肉塊から伸びているその長い腕は、ヒトカタのものですらない。

 どこぞの、なれはてたものたちの。

 例えば、二階層で屠った誰かのような。

 そんな、頭から伸びているような腕が、いままさに踏み込もうとした俺の足を掴んでいた。



 ああ、そうだろうな。

 お前らみたいなやつは、とっくに飲み込まれて久しいだろうな。

 誰かの足を引っ張ることすら楽しむような連中なら、抗うことも、名前を呼ばれることもないだろう。



 だが、こんなところで足を止められてたまるか。



 お前らごときに、止められてたまるか。



 もし、欠けらでも、まだ自我が残っているのなら。

 少しでも、取り込まれた意識があるのなら。

 あと一度だけ自分を取り戻せるのなら。


 俺が呼ぶ。


 足元を見もせず。

 名前を口にした。



「田無。葛城店長」



 拘束が消えた。

 さぁ、行こうか。



 599。



 九歩目。




 踏み込んだ足が、今までよりもしっかりと闇を蹴る。

 最高の踏み込み。その証拠に足がぶっ壊れた。

 もはや痛みは気にしていないが、少し怖い。


 そんな思考すらどこか遠くに感じながら、俺は鍾馗を突き出した。

 早く、鋭く、人生で最高の一撃を。



 ズブリ。

 ほんの薄皮一枚のような、それでいてとてつもない金属を貫いたような。

 そんな相反する抵抗を感じて。



 鍾馗は確かに、模造人類試練の。

 悪性変異集合体レギオンの。



 その心の臓に突き刺さった。



 傷口から、黒い力が漏れ出す。

 それは今の俺の知覚ですら、瞬く間と感じるほどの速さで心臓を包み。




 刈り取った。




 そして十歩。


 俺は最後の一歩で、心臓のくぼみから飛び上がり、空を見る。

 同時に闇が晴れ、俺は自身を包んでいた全能感が消えていくのを感じた。


 でも問題ない。

 もう、俺の行動を阻むものはなにもない。


 ずるりと、レギオンだったものに横たわる。

 正確には、体に一切の力が入らないので、沈み込む。

 ぐずぐずに崩れていくそれを背に感じながら、じっと空を見つめていた。




 カウント600。




 今、俺たちの終わりを告げるはずだった朝日のような何かが、ダンジョンの空を灯した。






『残り0.02秒。お見事です上杉様。あなた方は模造人類試練を突破しました。戦闘評価は、私情を込めてSとします』





ここまで読んでいただいてありがとうございます!

明日でクソダンジョン編はおしまいです。

すっきり眠れるようにどうか最後まで読んでくださいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
私情こめちゃうかあ
人間の証明ってなんだろうと思っていたけどやっぱり最後に残るのは名前とか異名なのかな そして上杉君いつも足といわずどっかぶっ壊してますね… 絶えず自壊する闇人形というかアンデッドというか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ