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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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153/163

第153話 またな



 突如、巨大な肉塊の中から現れた五本腕。

 頭の中では、二つの可能性が浮かぶ。


 一つは、こいつがレギオンの本体にして核の部分。こいつを倒せば戦いに勝利できるという可能性。


 もう一つは、こいつは本体から切り離された最後の雑魚扱いで、本体は依然として肉塊の可能性。


 それによって、俺たちの取るべき道が──。



「うるぅう!!!」



 脳裏で思い描いていた時間は一秒もあるまい。

 だが、どちらかの選択を選ぶまでもなく、俺はそれを叩きつけられる。

 五本腕は、肉塊から即座に飛び降りると、迷いなく一直線に、俺へと向かってきた。



【うぅうぅうぅううううううう】



 そして、残った肉塊は、何もかもかなぐり捨てたかのように、あの長大な腕を生やして向こう側へと殴りかかった。



(後者か!?)



 そう思ってはみても、答えてくれる相手はいない。

 俺は即座に、向かって来る五本腕にアーチャー隊の照準を合わせ。


「っ! 送還!」


 瞬時にそれをやめた。

 スピードが速すぎて捉え切れない。

 やつは、瞬く間にこの二十メートルあるかという距離を詰めて来る。


 むしろ、その思考のリソースを回収しないと。

 奴がこちらに到達する前に、思考を接近戦に切り替えないと。

 俺も間に合わな──。



「るうぅぅうう!」


「UUUURRRR!!」



 五本腕が俺たちの足場に到達するか否かというタイミング、五本腕と三本腕がぶつかりあう。

 大型車が事故ったかのような衝撃。それをTくんはなんとか受け止めきる。

 しかし、


「UUUrrrrr……!」


 三本では、五本の腕は止められない。

 ましてや、基礎スペックは明らかに向こうが上。

 フリーになった二本の腕が、そのままTくんの胴を握り潰そうと動く。


「っ! ■■!」


 俺は叫びながら、力任せに鍾馗を振り下ろした。

 今までにも増した、極太のゴムでも切っているような抵抗感。

 だが、それでもどうにか、五本の腕の一本を切り落とした。


「ううぅうるうう!?」


 唐突なダメージに五本腕が怯み、その場を離れる。

 その一歩も遠い。足のサイズは変わらないくせに、その機動力は明らかに従来の性能を超えている。


 ただ、最初の奇襲はしのぎ切った。

 これで仕切り直し、と言いたいところだが……。



「UUURrruu…………」



 Tくんのダメージは深刻だった。

 三本の腕は半ばまで握りつぶされたようになっていて、胴もまた凄まじい握力で抉られている。

 恐らく、もう間も無くその姿を保てなくなる。


「助かった。あとは任せてくれ」


 俺は小さく、労いの言葉をかけた。

 今は彼が消えていくのを見守る余裕もない。

 ましてや、新たに呼び出しているCPも時間もない。

 最後のCP回復薬は、さっき飲み干してしまった。

 そして、あのスピードについていくには、背水を切ることもできない。


『上杉さん!』


 俺の状況把握の直後、クミンが俺のそばに寄ってくる。



「カバー頼むクミン! 時間がない!」



 クミンの声にそれだけを返し、俺は一人、自らの足で五本腕が待つ肉の海へと飛び込む。



「闇のカーテン」



 つい先ほどまで、CPの節約のために切っていた闇を纏う。



 制限時間は、いつもの宿命のように120秒。

 これだったら、もう自動更新なんか必要ない。



 肉の海を渡るための足場はクミンが作る。

 五本腕との交戦に入るその直前。

 ちらりと、五本腕と肉塊を同じ視界に捉える。



「────────!!」


「───────っ!?」


「──っ!! ──────!!」



 肉塊に襲われている向こう側の怒声も、どこか遠く聞こえている。

 あの巨体相手に、彼らは彼らで戦っている。

 それだけはわかった。信じて任せよう。


 集中は極限状態。

 体感時間は引き伸ばされ。

 頭痛も少し引いた。


 さぁ、やろう。


 ここは闇の中だ。

 ここは死の淵だ。

 世界は混沌に満ち。

 魔術で作られた夜の世界で、俺は一人。



 今が絶好調だ。



「うぅうううぁあらああああああ」



 五本腕が、普段の鳴き声とは違う何かを発しようとしている。

 だけど、それに構っている余裕はない。


 俺は、肉の海の上に当然のように出現する足場を踏みしめ、五本腕へと迫る。


 頭の腕が五本。もう四本。

 顔が三つ。

 そして胴に生えた無数の飾り腕。


 姿形は更なる異形なれど、倒し方は変わらない。


 手元に刃を喚び。

 首を落とし。

 とどめを刺す。


 それだけだ。


 恐らく、通常の三本腕と比べても図抜けて高いステータスを持っている。

 背筋に感じる悪寒はとんでもないことになっている。

 ソロで戦う方が馬鹿げた相手だということは重々承知。


 でもやるしかないなら、やるだけだ。


「っ!」


「うるぅ!」


 俺の接近を何で感じ取ったのか、頭の腕を花びらのように咲かせた五本腕が、それぞれの腕をなぎ払った。

 俺は急制動をかけ、ギリギリのところでその風車を躱す。


 こちらの隠密が機能しているという甘えた考えは捨てる。

 五感以外の何で感じ取っているかも定かではない。


 ただ、荒れ狂う暴風のような攻撃をかいくぐり、その首を落とす。

 それだけのために、己の意識を研ぎ澄ます。


 奴のリーチは二メートル強。

 俺のリーチは一メートル強。


 その差を埋めるのは、命がけの踏み込みだけだ。


「ううるうるうるううううう!」


 迫り来る槍のような豪腕。

 平時であれば認識すら危うい速度のそれが、今は見える。


 極度の集中。

 加速する思考。

 死への恐怖。


 頭の中で、カウントだけが動いている、焦燥──極限の窮地。


 それらの要素が、少しずつ積み重なって俺の脳を限界以上に回転させる。

 攻撃の起こりを見れば、その先が手に取るようにわかった。


 紙一重もいらない。

 皮一枚、1mmにも満たない傷なら無視していい。


 ギリギリのギリギリを攻めた分だけ、俺の体は前に進む。


 叩きつけるような二撃目。

 薙ぎ払う三撃目。


 横だと、衝撃を殺せない。

 後ろに下がるのは距離の無駄。

 しゃがむことすら、ためらわれる。


 だから、足場を変えた。


 もはや足場が地面に並行であることすら求めない。

 体を大きく傾ければ、以心伝心のようにそこに地面がくる。


 髪の毛一本。まぶたの皮一枚。

 それだけを犠牲にして、死のギリギリまで近づく。


 否。

 もはやギリギリですらない。

 死に触れる、ゼロ距離のところで、俺はそれを見送った。


 体が自分のものではないような錯覚。

 自分の体を、第三者視点で動かしているような客観。

 回りすぎた思考がもたらすそんな境地に、俺は快感すら感じている。


 奴の腕は、残り一本。

 あと一撃躱せば、こちらの射程。


 怪物に生えた、三つの顔が驚愕に歪んでいた。


「う う る ぅ う う る る ぅ !」


 最後は、いつか三本腕に食らったような、抱きしめるような一撃だった。

 これを最初に、四本全部でやられていたら、俺は終わっていたかもしれない。

 三本でほとんど包囲が完成するのだ。五本──いや四本でも絶死の一撃足りえたかもしれない。


 だが、今の状況なら違う。


 限界を超えた脳。レベルブーストされた肉体。

 二つを合わせれば、無理も無茶も無謀も、道を開ける。


 俺は、己の後ろから迫って来る最後の腕を──踏んだ。


「ぐがぁあああああああ!!」


 足に響く衝撃に、苦悶の声が漏れる。

 それは俺に前向きの推進力を与え、その力を殺さずに俺は鍾馗を構えた。

 胴に群がる飾りのような細腕が、首を守ろうと蠢く。

 それらを丁寧に切り落とし、刃先が首へと食い込んだ。


 硬い。

 これまで斬った何よりも硬い。

 腕の力だけでは切り落とせないと思える。


 だが、今俺を押しているのは他ならぬ五本腕の腕力。

 ともすれば俺の足から体ごと砕きそうなその暴力が、今は鍾馗へと十全に伝わっている。


「う る る う う る る ぅ ぅ ! ?」


 男の顔が、さらに歪む。

 絶叫を上げながら、刃から逃げるように。

 さりとて、逃げられず。

 抵抗は長く続かない。




 ぶつん、とラインを超えた。




 するり、と鍾馗の刃が通っていく。




 それまでの抵抗が嘘のように、俺の足にヒビが入るような衝撃がそのまま空へと抜けていく。


 あとには、空を舞う四本腕のついた三面の顔と、蠢く細腕を持つ胴体だけが残っていた。



「っはぁああっ」



 それまで、無意識に止めていた息を吐く。

 まだ、終わりじゃない。


 五本腕のとどめも、この戦いそのものも、まだ終わってない。

 まずは、宙に舞う頭に追撃をかけなければ。

 そう思って、石の足場を踏みしめたところで。




「っぐぁ!?」




 俺は背後から、首を絞められた。

 何が起きたのか確認しようと、なんとか目線だけを後ろに送る。



 首を切り落とされた胴体に無数についている細い腕。

 ぬるりと伸びたそれが、俺の首をへし折ろうとしている。

 頭を失ってなお、それらは俺を殺そうとしていた。



 この期に及んで、そんな隠し球を──と文句を言う余裕がない。

 五本腕と渡り合うために維持していた背水のために、俺に余分なHPは残っていない。

 すなわち、攻撃は即座に俺を死へと誘う。


 意識が遠のく。

 それまで触れていた死が、逆に俺を触りにくる。


 遠くで、クミンが叫びながら何かをしようとしている。





 だが、それらは全部中断された。





「UUUUURRRRRRrrruuuuuAaaaaaaa!!」



 もはや、ゆるやかに消滅を待つだけだったはずの■■が、その存在を掠れさせながら突っ込んできていた。

 暗視も与えていないのに、どうやって、と疑問に思う間すらない。

 俺をつかんでいた細腕を突進の勢いで強引に引きちぎり、代わりに腕に飲み込まれながら俺を庇った。


「げほっがほっ」


 俺は、何も言葉を発せられない。

 まだ、喉が酸素を欲してやまない。

 そんな俺を尻目に、黒い怪物は、化け物の胴体に絞め殺されるように消えていく。


 俺がまだ何も言えずにいたところで、■■は、その口を面白そうに歪ませた。




「またな」




 聞き間違いだったかもしれない。

 それでも最後に、確かにそう言った気がした。

 そして、■■──いや、田無は消えた。



 ……しばらく、会うことはないだろう。

 今はゆっくり休んでくれ。



 息を整えた俺は、残っていた五本腕の胴体に向き直る。

 改めて向き直れば、ただの役立たずの腕が生えただけの、ただの置物だ。



 胴体を切り裂き、遅れて降ってきた頭に鍾馗を突き刺した。






【うぅウゥうううううぅうぅうううううう!!】





 そして俺は、肉の海の上でそれを見る。

 レイドパーティと交戦し、大ぶりの攻撃を繰り出し、時には反撃を受け体をぐらつかせる巨大な肉塊。


 まだ消えていない。

 戦いは終わっていない。

 やはり、とどめを刺すべきはあの肉塊。


 ただ、気にかかる。

 先ほど、脇を通り過ぎようとした俺を追い詰めた思慮深さをどこへやったのか。

 その攻撃は精彩を欠き、ただ、力任せに暴れているように見えた。



 頭脳となっていたのは、先ほどの五本腕だったのだろう。



 そして気づく。



 五本腕が這い出してきた、その頂点。

 その隙間が埋まっていない。

 ぽっかりと空いたままだ。



「クミン!」



 俺は背後に叫び、そして跳ぶ。

 石の階段を駆け上がり、レギオンがこちらに気づくギリギリまで近づいて。



「目星」



 その奥に、見えた。



 どす黒く染まった、悪魔の心臓。

 もはや考える力も失い、暴れるだけの烏合の急所。



 確かに人類試練の──レギオンの急所が、そこにあった。



「奥義」



 カウントは588。



 残り12秒。




「【十歩必殺】」




 俺は、その一歩目を踏み出した。


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