第151話 仲良くしてやってくれ
「クミンは、今回も基本的には護衛とサポートを頼む。土石魔術はそっちのが上手だから」
『足場陣地の形成と、弓矢の作成ですね?』
「グッド」
再び、背中にクミンを装備した状態で俺たちは倉庫から外に飛び出す。
この倉庫の中は例外的に安全地帯のようだったが、一歩外に飛び出せばその限りではない。
「どうして、どうして!」
「助けて、私たちを助けて!」
レギオンに接近するまでの間に、挨拶のように喚きながらヒトカタが襲いかかってくる。
助けてと言いながら襲いかかってくることに、彼ら彼女らは疑問を抱かないのだろうか。
……ここに到達するまでの間は避けていたが、今は検証もある。
「せめて眠れ」
俺はすれ違いざまに、そうしたヒトカタの首を刎ねた。
今頃、向こうの顔に変化の一つでも起きているのだろうか。
たまに、即死を誘う黒いモヤを発生させながら、俺たちは危なげなくレギオンへと接近を果たす。
近寄ってくるヒトカタの数は、向こう岸よりは少ないようだ。こちらの人数に比例する仕組みの一つでもあるのかもしれない。
「距離はこんなもんか?」
『先ほどの攻撃が当たる位置は危ないですからね』
先ほどの攻撃。
レギオンが接近した俺に対して取った腕を生やしての攻撃だ。
あの攻撃のリーチが伸びるかどうかは定かではないが、少なくともその間合いの外に陣地を形成しておく。
『CP回復薬、一つ貰ってもいいですか?』
「もちろん」
CP回復薬は、人間のみならずモンスターにもちゃんと効果がある。
普段俺は経口摂取しているが、モンスターは体にかけてもいい。
というか、人間も体にかけるだけで効果はあるんだろうけど、服が濡れるから基本は飲んでいるだけだ。
というわけで、クミンはレギオンに対峙するための足場を固め、固め、何度かの魔術の行使で、数十人が乗っても問題ない程度の足場を構築した。
凹凸やバリケードをうまく作り、ヒトカタの侵入を阻むような地形。
作成過程で近づいてきていたヒトカタをいくらか押し流し、少しの猶予も作る。
その段階で俺はCP全回復薬を一つ進呈し、クミンは流れで石の矢を量産する。
レベルが低いうちは一本一本作っていた矢だが、クミンもレベルブーストされている。
跳ね上がっただろう魔のステータスが、矢の細かい調整を可能にしていた。
対スケルトン用の先が丸まった矢ではなく、対人用のしっかりとした矢。
それがずらっと、200本くらいはあるんじゃなかろうか。
わずかな時間で、クミンは完璧な仕事をしてくれた。
俺も、負けてはいられない。
「サモン:スケルトンアーチャー×20」
まず、今回の主力になりうるアーチャー部隊を召喚する。
CP20で一体なので、これだけでCP400は持って行かれた。
「ぐっ、やっぱちょっとキャパがきついか?」
サモンの弱点の一つに、基本的に自律行動ができない点がある。
とある例外を除いて、サモンで生み出したモンスターは俺が直接指示を出す必要がある。
指示を出せばある程度はオートでも動くが、ギミック戦のような状況で単純な指示では不安がある。
それが20体ぶんとなると、多少脳を圧迫する。並列思考で必要最低限の思考を分けたが、魔術の並行発動よりも重いかも。
そして、これではまだ十分とは言えない。
不足しているものは二つ。
一つは、彼らの護衛。
そしてもう一つは、単純な彼らの火力だ。
クミンにもサポートを頼む予定だが、彼女一人だけではどうあがいても隙ができる。
なにせ、敵は陣地の前と後ろ両方から迫ってくる。
俺はスケルトンへの指示に思考を割く都合上、あまり自由に立ち回れない。
であるならば、もう一人くらい頼れる護衛が必要だろう。
「クミン。今から新しい仲間を呼び出すけど、驚かないで欲しい」
『??? はい』
クミンのイマイチよくわかっているんだか分かっていないんだかの返事を聞きつつ、俺はCP全回復薬を飲み干してあいつを呼んだ。
「サモン:■■」
宣言とともに現れる、黒い闇で構成されたような三本腕のなれはてたものたち。
「UUUUURRURURURURRrrrrrrrrrr!」
『!?!?!?』
出現と同時に、クミンがノータイムで警戒態勢に入っていた。
だが、当然ながら■■がクミンに襲いかかることはなく、勢い近づいてきていたヒトカタを一体殴り飛ばす。
これが例外。俺の指示なしで勝手に動いてくれるサモンモンスター一号である。
「新しい仲間の──Tくんだ。仲良くしてやってくれ」
『え? ええ?』
クミンはまだ事態を飲み込みきれていないようだったが、この非常事態に詳しい説明を求めることはしない。
昆虫の目なのにどこかじとっとした雰囲気で、俺を睨んだだけで済ませた。
『あとで説明してくださいね!』
「無事にあとがあればな!」
そして、クミンと■■は二人でスケルトンアーチャーの護衛に入る。
基本的に、クミンは火力が足りないので足止めがメイン。
そして足止めされたヒトカタを■■が屠るように役割分担したようだ。
この状況で即興の連携が組めているようで、なんとも頼もしい。
「あとは、火力不足」
と、ここまでやったがスケルトンアーチャーには一つ欠けているものがある。
それは、こいつらの元々のスペックがレベル10の俺でも倒せる程度のものであり、火力に欠けているというところだ。
こればかりはどうしようもない部分があるが、同時に俺は、これを少しだけ補う手段を持っていた。
「まずは、背水」
あまり濫用したくないのに使用頻度がクソ高い自傷系スキルを発動。
これによって、俺の力のステータスは200近くまで伸びる。
次に、スケルトンアーチャーたちを対象に、それを『配る』
「ステータスリンク×20」
このスキルは、最終決戦に挑む前のお買い物タイムに購入したもの。
効果は、俺からモンスターか、モンスターから俺に対して、一つのステータスを選んでその10%を加算するというもの。
これが今回は生きてくる。
ただの雑兵でも、力のステータスが20も上がれば、それは侮れない窮鼠の一撃くらいにはなろう。
効果のために俺が常にHP0になるのと、CPも安くない額を持っていかれるのが癪だが、致し方ない。
「準備完了」
これで、こちら側の陣地も整った。
タイムはもうまもなく一分。
向こう側との連携攻撃までもう少し。
「クミン! 問題は!?」
『ありません! なんとか対処できます!』
「UURRRrrrruuuu!」
頼もしい返事を浴びて、俺たちは前を見据える。
最初に挨拶をしにきたヒトカタ──店長葛城の顔は、どこにあるのかわかりはしない。
だが、ようやく、こちらから反撃のようなものが叩き込める。
「ファイヤー!」
そして、約束の一分が経ち、俺たちは攻撃を開始した。
近寄ってくるヒトカタを狙うのは、全てクミンたち配下のモンスターに任せる。
やはり手数不足は否めないが、多少の無茶は■■が強引に薙ぎ払うことでカバーする。
傍で、クミンは矢の増産も行なっており、スケルトンアーチャーたちは残弾を気にせず援護するように矢を打ち込んでいた。
やはり火力不足は否めないが、それでも有効打にはなる程度の攻撃ができているようだ。
まぁ、迫ってくるヒトカタの邪魔ができれば、それで御の字。
彼らの本命は、このあとだ。
俺は、じっとレギオンの本体を見つめていた。
やがて。
「来た!」
向こうでも同じように攻撃を激化したのか、ぽつりぽつりと、レギオンの表面にある顔が苦悶の表情を浮かべる。
俺はそこを指差し、吠えた。
「アーチャー隊! 撃ち込め!」
苦しんでいる顔と、そのあとの肉壁。どっちに攻撃が通るのかは定かではなかったが、矢は表情を崩した顔を射止めた。
顔を攻撃しても、弾かれない。
この状態なら、攻撃が通る。
レギオンにできた有効部位に、スケルトンアーチャーの石の矢が幾重にも突き刺さる。
足りない火力は、数で補う。
あとは駄目押しに、俺の出番だ。
「複合魔術とでも言ってみようかぁ!」
今まで俺は、土石魔術で作った棒手裏剣をサブウエポンとしてたまに使っていた。
だが、正直に言えば鍾馗と比べて威力不足感は拭えなかった。
そこで、今回のこれ。
基本は棒手裏剣だが、細部が違う。
並列起動のスキルによって魔術を同時に扱えるようになったことで、新たに考えたもの。
火炎魔術と土石魔術の融合。
棒手裏剣の先にありったけの火炎魔術──熱を込めて。
ドロドロに溶けそうなそれを肥大化した魔のステータスで押さえ込んだ一品。
例えるなら、棒状の火炎爆弾。
アーチャー20体の攻撃とどっちが上かは分からないが、俺だってやれることはやってやる。
「喰らえ!」
そうして出来た棒手裏剣改を、俺はアーチャーたちの狙いとはまた違う箇所に叩き込む。
それはグズリと溶けるようにレギオンの人面に突き刺さり、肉を焼き焦がした。
【ううぅうぅううううぅうう!!】
タイミングよく、レギオンが呻いた。
それからしばらく、俺たちは攻撃を加えた箇所がどうなるのかを見ていたが。
「……再生しない」
さっきは少しの時間で新しい顔が生えて来たその隙間が、埋まらない。
死した顔でその場所を埋めたまま、攻撃の跡が残りつづけている。
試しに矢で射てみたが、弾かれもしない。
「いけるぞ!」
仮説はおそらく正しかった。
レギオン攻略の鍵は、二正面作戦にある。
こうして、少しずつ少しずつ、やつの無敵を剥ぎ取り、体力を削っていくのが正攻法。
……ようやく、希望が見えてきた。
「あとは」
『時間との戦いですね』
そう、手応えを感じてはいたが。
逆にそれはレギオンを本気にさせたようだった。
さっきまで、ギミックを悟らせないためか控えめだったヒトカタが、次から次へと肉の海より湧いて出る。
その数は、優に俺たちを飲み込んで余りあるだろう。
「ギミックが割れた以上、控えめな攻勢は無意味と切り替えたか」
『合理的ですね』
「ありがたくないことにな」
ヒトカタが控えめだったのは、時間稼ぎとギミックの秘匿のため。
一度タネが割れたら、もはやその配慮は必要ない。当然だ。
当然だが、その判断で俺たちが助かることはない。
こちらのスケルトン軍団など、油断すれば一飲みにされそうなヒトカタの群れが、虚ろな表情で俺たちに迫っている。
「助けて!」
「死にたくない!」
「見捨てないで!」
そう口々に声を上げるヒトカタに、俺は少し眉間にしわを寄せ。
(こっちのセリフなんだよなぁ!)
と、誰に訴えるでもなく心で叫んでいた。




