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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第150話 初めから罠だった



「っ、切り替えろ俺」


 命がけでたどり着いた外倉庫の、命に見合うか微妙な対価に、一瞬全ての思考を投げ出しそうになる。

 だが、落ち着いて気を取り直せば、状況が悪くなったわけじゃない。

 ここにたどり着くのに消費した分を考えても、明らかにプラスだ。

 HPの方はともかく、CP回復薬に関してはとてもありがたい。

 エリクサーっぽいやつは……まぁ切り札だな。


「端末くん、これ飲んでも大丈夫なヤツだよな? 汚染されてたりしないよな?」


『スキャン結果に問題はありません。それらのアイテムはおそらく試練に対する報酬として自動生成されたものであり、ウイルス側が関与していないものと考えられます』


「じゃあ、本来は倒した後に取りにくるものだったか?」


 言われてみるとそれも正しいような気もしてしまう。

 いや、もしそうだとするならもっと装備とか入ってても良さそうだし、途中で取る想定でも間違ってはいなさそうな気もするが。


「……さて、振り出しに戻ったが、もう一度。本当にこの倉庫にはもう何もないのか?」


 未練がましく、俺は外倉庫を眺める。

 外倉庫というが、サイズ感はトラックの荷台くらいのプレハブみたいな感じだ。

 本来何が入っているのが正しいのかは知らないが、現状では雪かきスコップみたいなのとか、季節の飾り付け用の何かとか、カラーコーンだったり脚立だったりとか、備品関係のものが棚に詰め込まれている気がする。

 これらの備品がレギオンとの戦いに有用という可能性はないだろうか?


「目星」


 そう思って、俺は『レギオン戦の鍵』を探すつもりでスキルを使う。

 だが、倉庫内を見回しても、それらしいものはなく──いや。


「なんで扉?」


 レギオン戦の鍵を探して居たら、外倉庫内の何かではなく、俺が入って来た扉が反応を示していた。

 でも、扉そのものが重要アイテムってことはないだろう。いや、もしかしたらシステム的な保護がどうたらという可能性はあるが、ここは素直に考えよう。


 つまり、何らかの鍵はある。

 ただし、それはこの中ではなく、外にある?


「…………」


 すっと、扉を開ける。

 外には、俺たちが散々苦しめられている肉の海が広がり、その奥には肉塊with人面が鎮座している。

 先ほど俺を捉えるために伸ばした巨大な腕は引っ込んでいて、再び球形に戻っているようだ。

 その向こう側では、俺がなんとか打開策を見つけると信じ、託してくれた各コミュニティの面々の姿があった。


 俺が外倉庫に引っ込んでいるからか、こちら側に攻撃してくるヒトカタはいない。

 だが、レギオンを守るように配置されたヒトカタが、しっかりと周囲を警戒しているのは見えた。

 俺一人を警戒するために、こちら側までご苦労さんだな。


 ……いや、何かおかしいな。

 総数が増えてないか? ヒトカタの。



 ────。



「目星」


 俺はもう一度、目星を使った。

 今度は、その海とレギオン、そして向こう側までを俯瞰的に見通すように。

 弱点を探すのではなく、攻略の鍵を探すために。


 はっきり言えば、この場所に命がけで到達した見返りが何か欲しかっただけ。

 それで本当に何かが見つかると予想していたわけじゃない。


 ただ、目星は今まで見せたことのない反応を見せた。



「どういうことだ?」



 目星は、レギオンでも肉の海でもなく、今まさに攻略メンバーに襲いかかっている『ヒトカタ』を光らせた。

 ヒトカタこそが攻略の鍵だと、告げている。


「……やっぱり、耐久戦?」


 このヒトカタの群れについても、一つの予想は立っていた。

 先ほど、一人の女性が群れの中に恋人らしき男性──それもおそらく、三本腕との戦いで故人になった──を見つけた時点で。

 このヒトカタのベースは、三本腕に連れ去られレギオンに吸収された人間たちだろうと。


 つまり、順当に考えれば、レギオンに吸収された数のヒトカタを倒すことで、レギオンに攻撃ができるようになるという耐久ギミック。

 時間制限のある俺たちにはまっこと優しくない、そういうギミックの可能性は考えていた。


「それじゃジリ貧になりそうだから、打開策を探ったわけで」


 それが空振りに終わったから今の俺がある。

 そう自嘲しそうになったところで、攻略班の誰かがヒトカタを一体屠った。



 次の瞬間、レギオンの顔の一つが光った。



「は?」



 この感じ、弱点ではない。

 そこまでの致命的な何かではないと直感が告げている。


 だが、光った顔を見ていると、その顔は苦悶の表情をあげ、ある程度の時間をかけてずぶずぶと肉塊の中へと沈んでいく。

 ややあって、しばらく空白になっていたその顔の場所に新しい顔が生えてきた。


 その顔に、見覚えがある。

 それは、先ほどちょうど考えに上ったところの、女性と恋仲だったであろう男性の顔だった。

 くそ、復活するのか。

 だったら、やっぱり単純な持久戦では……いや。



「……………………考えろ」



 今、ピースが揃っているような気がする。


 襲いかかるヒトカタの群れ。

 ヒトカタと対応していたレギオンの顔。

 一度倒したはずのヒトカタの復活。


 復活がある。

 一度倒しても、芯は倒せてない。

 つまり、これは単純な耐久戦じゃない。


 目星先生はヒトカタが鍵だと言っている。

 ヒトカタを屠ったとき、対応する顔が消えた。

 やはり、ヒトカタと戦うことは必要な要素である。


 そして、レギオンそのものの特性。

 最初に攻撃したとき、変身中の攻撃は全て弾かれた。

 2回目に攻撃したときはどうだった?


 顔がある部分は攻撃を弾かれたが、そうじゃない部分には確かに通ってはいたはずだ。

 ただし、それはあまり有効な攻撃とは言えなかった。



「……………………」



 そもそも、なぜ、俺は今、ヒトカタと顔の対応性に気づいた?

 さっきまで十分間も戦っていて、100人(うちアリ1)もいて。

 なぜ誰一人、ヒトカタを倒すと対応する顔が消えることに気づかなかった?



 答えは単純だ。

 隠されていたから。



 俺たちは、ゲートを守るように陣を築き、その方面からだけ攻撃を行っていた。

 レギオンは、俺たちから見えない場所にある顔──ヒトカタだけに攻撃をさせていたんじゃないか?

 だから、わからなかった。


 俺たちが倒したヒトカタが、常にレギオンの裏に顔を持っているなら。

 こうやって、裏に回り込んだ俺じゃなければ、それに気づけるはずがない。


 そして、意図的にそれを考える脳があるなら、それを隠すことは造作もない。


 レギオンはゆっくりと回転している。

 そうして、少しずつ登場するヒトカタを入れ替えている。

 だから、俺たちは同じヒトカタと戦っていると気づかせない。

 100人もいれば、自分の反対側で誰がどんなヒトカタと戦っているのかわかるわけがない。


 そうやって延々と、同じ相手と戦い続け、時間とともに消耗していくだけの戦い。

 端末くんは言った。

 ギミックを解く鍵は『ここには、ない』


 攻略の鍵は、ギミックは最初から用意されていた。

 俺たちが気づかなかっただけ。

 レギオンに、隠されていただけ。



「あくまで仮定、仮定だが……」



 もし、ギミックを解く鍵などなく。

 初めから、戦うためのギミックが用意されていたとするなら。

 それに今の今まで気づけていなかったというのなら。



「最初から、俺たちは間違っていたんだ」



 俺は背筋がゾッとするような気分だった。


 レギオン出現時、四方八方から迫ってくる肉の海は、ゲートを囲むように現れた。

 だから、自然と、俺たちはゲートを守るような陣を敷いた。

 ゲートを取られたら逃げ道を失う、負傷した人間を避難させることができなくなる。

 だから、それを守るのは当然だと考えた。



 それが間違い。

 それが、人類試練の罠だった。

 初めからそうやって、俺たちを『一箇所に固める』ために、動いていた。



 本当は、レギオンが臨戦態勢に入る前に動かなければならなかった。

 ゲート側と、この外倉庫側。

 レギオンに対して挟み撃ちの形になるように、布陣しなければならなかった。

 ゲートを捨ててでも、そうしなければいけなかった。


 そして、それぞれの陣でヒトカタを倒せば。

 反対側の陣にある、ヒトカタと対応する顔が消える。


 そこが攻撃のチャンス。


 目星先生いわく、顔が消えた場所こそ、攻略の鍵。

 ゲームで言うところの破壊可能部位のようなものか?

 

 ヒトカタを倒し、顔が守っている場所を裸にし、そこを攻撃することで次のヒトカタの出現を抑える。

 そうやって、ヒトカタの数を減らしていき、同時に本体に攻撃を加えられるようにする。

 ヒトカタの顔の数と、防御力が連動している可能性もある。


 これはヒトカタとレギオン、双方を相手取って攻撃していく必要がある戦いだった。

 それが、俺が今得られた情報から仮定した、レギオンの攻略方法だ。



「合っている保証はないが……」



 間違っているともわからない。

 なにせ正解など誰も教えてくれないのだ。


 分かっているのは、ヒトカタを倒すと対応する顔が数秒消えるということのみ。

 だが、この状況でその場所を攻撃しない理由は。


 ない。



「……時間がない。試せるうちに試すしかない」



 もしこの仮定が正しいとするなら、絶対に俺がやらなければいけないことがある。

 それは、二つの側面から攻撃するうちの、こちら側を俺が担うということだ。


 はっきり言って、臨戦態勢になってしまったレギオンの横を通り抜けるのは並大抵のことじゃない。

 俺だって、次やったら成功するかわからない。

 だけど、もし俺の考えが正しいなら、レギオンを挟んだこちら側からの攻撃は必須なのだ。


 こちらでヒトカタを倒せば、向こうの本体に隙ができ。

 向こうがヒトカタを倒せば、こちらの本体に隙ができる。

 両側面でヒトカタを倒すだけでもしなければ、今と状況はなに一つ変わらない。


 なら、俺一人であろうとやるしかない。

 幸い、俺にはサモンがあるし、クミンもいる。

 倉庫から回収したCP回復薬もある。

 全力で行けば、十分くらいは保たせられるだろう。


 問題は、その仮定と作戦を、どうやって向こう側に伝えるかだが。



「クミン。頼みがある」


『はい』



 俺にはクミンがいる。

 そしてクミンは、この状況でおそらく唯一の瞬間移動が可能なユニットだ。

 俺は、先ほどの仮定を可能な限り簡略に説明した上で、二正面作戦を行いたい旨をマッピング用の紙に記す。

 そして、それをいつものようにクミンに託す。


「クミンを今送還したら一度ゲートの外に出るはずだよな? そしたら再び中に入って杉井さんに紙を渡してほしい。そして、杉井さんの言葉を念話で伝えてくれ。作戦に賛同してもらえたら、こちらに呼び戻すから」


『また一人で無茶しませんよね?』


「好きで一人で無茶してたわけじゃないんだよ……」


 どうにも、送還に対するクミンの警戒心が強い。

 だが、流石の俺もこの状況でクミンの助けを手放すのは辛い。

 サモンを駆使しなければ手数が足りない現状で、自分で考えて動けるクミンは何よりも頼りになるのだ。


「だから頼んだ」


『……わかりました』


 とはいえ、クミンは合理的に動けるアリさんなので、ここですったもんだの論争をすることもない。

 物言いたげな雰囲気は残しつつ、確かに彼女は、俺の残した用紙を持って送還を受け入れた。


「…………ふぅ」


 カウントスキルによると、残り時間は二十分と少し。

 焦燥感が背中を焦がす感じが強くなってくる。

 もし仮定が的中しても、持久戦には変わらない。


(上杉さん。『作戦、了承した。そちら側を信じて任せる。攻撃開始は一分後で頼む』とのことです)


 ややあって、クミンから念話が入った。

 俺の計画は、滞りなく向こう側へと伝わってくれた。


 あとは、やるだけだ。


「口寄せ:クミン」


 ボワンという煙とともに、相棒のアリさんが目の前に現れる。

 時間は一分弱。

 その間に、陣地を構成し、総攻撃の準備を済ませる。


「やるぞクミン」


『はい!』


 絶望の中で見つけた蜘蛛の糸を、引きちぎらないように気をつけて。

 俺たちは、外倉庫から飛び出した。



ここまで読んでくださってありがとうございます!

明日は四話更新になります。

四話目更新は19時20分の予定です。

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