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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第149話 キルゾーン



 今の足場から外倉庫とやらにたどり着くための障害は三つ。

 一つは、この駐車場のほぼ全域に広がっている得体のしれない肉の海。

 一つは、その肉の海から無尽蔵に湧いてくる悪性変異体のヒトカタ。

 そして一つは、言うまでもなく道中に鎮座している本体だ。


 肉の海に関しては、道を魔術で作りながら進んでいくのが無難だろう。

 最高速で駆け抜ければ問題が発生する前に対処できる、という可能性もゼロではないが、ぶっつけ本番で検証することじゃない。

 なにより、肉壁から生えた腕にぶん殴られた経験は忘れたくても忘れられない。


 ヒトカタについては、少し気になっていることがある。

 というのも、こいつらは無尽蔵に湧いてくるがそのペースは一定でもある。

 俺たちの殲滅ペースとうまく釣り合うように、一定量だけ出てきているようにも思えるし、これ以上ペースを上げられないようにも思える。


 突入の瞬間、他の人に協力してもらって大技で数を減らせれば、比較的安全に移動することができる可能性はある。


 最後の三つ目、レギオン本体について。


 レギオン本体は、ここを駐車場で考えたとき、ちょうど真ん中のあたりにデンと居座っている。

 どこに向かおうと、レギオンを避けて通るのは難しい。


 これはもう、ぶっつけでなんとかするしかない。


 可能な限り近づかないで済むように距離を取るつもりではあるが、それでもこちらから近づくことに変わりはないし、何らかのアクションを起こしてくる可能性は十分にある。

 それを、高度な柔軟性を持って臨機応変に対応するしかない。



「というわけで、できれば皆さんに大技での一掃と、可能な限りの陽動をお願いしたいのですが」


「わかった。可能な限り、やってみよう」



 そんな話を杉井さんとまとめ、俺は一人の決死行と洒落込むことになる。

 この状態になってから、十分は軽く経過している。

 制限時間はもう残り三十分を切った。


 回復物資の残量に限りはあるが、だからこそ、余裕のあるうちに行動に出るべきだろう。

 身動きが取れなくなってからでは遅いのだ。


「今から上杉くんがボスへの揺さぶりをかける! 一同、協力して敵の一掃に当たってくれ!」


 戻った杉井さんから話を聞いた松川さんが、叫ぶ。

 周囲に少し戸惑う気配もあるが、それを言った松川さんが揺らがないので、落ち着くのは早かった。


 周囲が俺に賭けてくれると決めるまでのわずかな間。

 松川さん、杉井さん、そして顔は合わせても会話する時間のなかった桐原や榎木──探索班の第一班の面々が、俺を期待するように見る。


 いつもみたいに、何かを変えてくれ、と願うように。

 俺は、その期待に苦笑いを返した。

 そういうガラじゃないが、できることはやろう。


「クミン。俺は足場に専念する。後ろの守りと、可能な限りの迎撃を任せてもいいか?」


『はい!』


 言って、クミンはいつかのように俺の背中に装着された。

 多少の重さはあるはずだが、ステータスが上がったせいか全く気にならない。

 俺は文字通り背中を相棒に預け、前を向く。


「一斉攻撃は一二の三で行くぞ! 上杉くん!」


「大丈夫です!」


 俺は静かに気配を消す。

 少し飛び出したら、闇を纏おう。

 レギオンは、初遭遇時完全に夜の中の俺を見つけてくれたが、今はレベルブーストもある。

 周囲を闇に囲まれた俺を見つけるのは、容易いことではないはずだ。 


「行くぞ!」


 俺が足場と闇、二つの魔術の準備を終えたあたりで、松川さんが攻撃の合図を出す。


「一、二のぉおおお!」


 いつでも飛び込めるように腰を落とし、耳をすませる。


「さあぁあん!」


 松川さんの声。飛び交う弓矢や魔術の雨。

 俺は、そんな一斉攻撃の嵐を見ながら飛び出した。


 敵に四方八方囲まれた状態だから、本来CPをつぎ込んだ範囲攻撃には大きな意味がある。

 それを積極的にしないのは、効果があるか不透明だったから。


 だが、やる気になればヒトカタに大きな打撃は与えられる。

 全員がレギオンの方を向けば、なおさら束ねられた大きな力となる。

 それを今までしなかったのは、背後にも不安を抱えているから。

 だが、その不安を捨てて俺に協力してくれたのだから、責任は果たさねば。


「闇のカーテン」


 俺は自身を中心に半径十数メートル程度の闇を纏う。

 同時に、肉の海に足場となる石の杭を突き立て、跳んでいく。


 ヒトカタは、非武装状態の俺をうまく捉えられていないようだ。

 今は魔術の反応を頼りにこちらを探しているようだが、使っているCPはわずか。

 足場のダミーも多数設置し、なにより観測した瞬間には俺はもうその場にいない。


 それに、数もやはり少ない。

 復活するのに時間がかかっている。


(一番最初に出てきたときは、即座に俺たちを囲んだのにな)


 ふとそんな疑問が湧いたが、一度心にしまった。

 こちらが見つからないなら、俺は自分の好きなように進むだけだ。



【オムクエ=スヌスイ】



 そう思っていたところで、例の呪文が聞こえる。

 途端、まるで無作為に、闇の範囲の中でボコボコと肉の柱が乱立した。

 それは、前から後ろからいたるところに現れて、俺の進行方向を塞ぐようなピンポイントな攻撃にもなる。



(見つからないなら量で勝負ってか!?)



 飛び回る相手に散弾をぶっぱなすような感覚で、気軽にヒトカタを作るんじゃねえよ。

 そう突っ込みたい気持ちになったが、今の俺は隠密中である。

 武器を抜くのは、気配を教えることになりかねない。

 少しスピードを落とし、丁寧に、確実に、時には迂回しながら足を進めて行く。


 そして、とうとう、レギオンのテリトリーへと足を踏み入れた。



【うぅうううううううううう】



 うめき声がする。

 奴の肉塊に付いているいくつもの顔が、俺を探すようにギョロギョロと目を動かす。

 だが、それだけ。


 いける。奴も強くなった俺の姿は、捉えきれていない。


 それが本当にレベルブーストの力なのか、このダンジョンでの命がけの行動でスキルの熟練度が上がったからなのかは、定かではない。

 それでも、あのいくつもの顔に見つめられているとわかるような、身が竦むような異常な体感には至っていない。



 そうして、無事に奴の横を通り過ぎた。



 最接近した時には冷や汗がドバドバだったが、そこを抜けると安堵から心臓が鼓動を取り戻す。

 油断はしないが、最大の難所は超えた。

 だから、このまま、無事に倉庫に。




【オユム=クヅスイ】




 知らない呪文が聞こえた。

 次の瞬間、レギオンに変化が訪れる。


 ズヌヌと、レギオンの頭に、まるでなれはてたものたちを模すような、大きな腕が生えてくる。

 数はまだ一本だが、その長さは腕だけで優に五メートル──本体と合わされば十メートルにも達しそうなほど巨大だ。

 そんな、腕が、天まで高く振り上げられる。


 嫌な予感がした俺は、全力でレギオンから離れる。

 高く振り上げた腕。

 闇をまとった俺。

 考えられる結論は一つ。



 レギオンが、その腕を当てずっぽうに。

 俺という個人ではなく──世界が纏う闇そのものへと向けて振り下ろした。



(っぶねぇ!!)



 振り下ろしは適当だったから俺には当たらなかった。

 だが、俺の後方わずか数メートルの地面を破砕した。

 飛び散った肉片からなんとか逃げ切るように俺は走るが、レギオンは攻撃を続けた。




【スツルイ=スムス】




 振り下ろしの後は、なぎ払い。

 三本腕どものお決まりの攻撃パターン。

 ただ、サイズが違い過ぎればそれは回避困難な全体攻撃に早変わりだ。


 本体ごと、地面をえぐりながら急回転する肉の球。

 サイズ感が違いすぎてゆっくりに見えるそれが、ぐるりと回って俺を捕らえんと迫ってくる。

 闇を裂くかのような、凄まじいスピード。

 このまま走っていても逃げきれない。



(飛ぶぞクミン!)


(はい!)



 俺は石の足場を階段状に設置し、腕の高さを超えるように、倉庫に向かって翔ぶ。

 かつて、南小でクミンが作ってくれた足場の再現。

 目の前にせまる暴風をギリギリ回避するためのジャンプ台。


「っっ!!」


 俺の足が土台を離れた直後に、薙ぎ払われた腕が全ての足場を粉々に砕いた。

 有効射程があまりにも長い。

 だが、ここで、焦って足場を出したら。死ぬ。


(クミン! 着地任せた!)


 俺は、空中に浮かんでいる数秒で、俺たちより少し離れた場所に、少し大きめの足場を作る。

 それは、今飛んでいる俺がどうあがいても辿り着けないような場所。

 遠くのせいで、無駄にCPを使わされた。


 だが、それでいい。



【ううぅううぅぅぅうううううううう!!】



 次の瞬間には、作った足場にレギオンの腕が突き刺さる。

 同時に、その周辺にヒトカタが多数現れ、なだれ込んだ。


 やはり、本命は次だった。

 三本腕の戦いでよく見た光景だ。

 一撃目、二撃目を躱したところにくる三撃目。

 丁寧に追い詰めた上で、安易な回答を出したところにやってくる詰み。

 悪辣、というよりはもはや丁寧な仕事とすら思えるそれを、俺は読み切った。


 その様子を確認しつつ、俺は何もない肉の海に足を延ばす。

 だが、俺の足は沈まない。

 足が肉の海に触れるか否かというところで、クミンの繊細な技術でぴったりと足場が生まれる。


(流石だ! クミン!)


(それほどでも!)


 今まで俺の魔術の反応を追っていた奴らは、クミンの魔術の反応にワンテンポ遅れる。

 その間に、俺はレギオンのキルゾーンを抜けきった。






(くっそ、マジでやばかった。あとであれに最接近して急所狙うとか、考えたくねえ)


 クミンに聞こえるかも定かではない弱音を心の中で吐いて、俺はようやく、外倉庫へとたどり着く。

 ここまでくれば、追手はほとんどない。

 たとえあったとしても、闇の中であれば俺たちの敵じゃない。


「外倉庫の鍵。頼むぞ」


 俺は神に祈るような気持ちで、倉庫の鍵を開けた。

 中への警戒もそこそこに、扉を開け放つ。

 果たして、中にあったのは。



「……うそだろ」



 俺は、そのアイテムを手に取る。

 それは、どうにもよく見るアイテムと似通っている何かにしか見えない。


 耳元で、端末くんが淡々と告げた。



『全回復薬九つと、CP全回復薬五つ、そしてHPCP完全回復薬一つです』


「ギミックを解く鍵は!?」


『……ここには、ございません』



 俺たちが希望を見た外倉庫は、なんてことはない。

 ただの、ボス戦でのお助けアイテム倉庫であった。



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