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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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144/163

第144話 絶望の最果てにあるものは



 失敗した。

 失敗した。

 失敗した。


 間に合わなかった。

 2秒、遅かった。


『次の採決は五分後に行われる。また、次の採決のため新たに有権者を加える』


 ダンジョンの声は、俺の心情に構うことなく、次の準備を進めていく。

 危惧していたとおり、当たり前のように有権者はおかわりされた。

 これで振り出しに戻った。いや、俺の消費の分振り出しよりも前に来ている。


 無理に突っ込んだことで整理できていなかった一本腕の群れも、闇の中を恐れず進んでくる。

 もう数秒の猶予もなく、ここは死地となるだろう。


 だというのに、思考が固まって体が動かない。

 次に何をするべきか、分かっちゃいるのに。

 一本腕の脅威を前にして、体が重い。



「UUUURRURURrrrr!!」



 そんな俺をかばうように、黒い怪物が突っ込んで来た。

 彼は一本腕の何人かを強引に殴りつけ、何体かを引きずるように押し倒す。


 それでも、何体かは残る。

 何本かの腕が迫る。

 ここでこの腕を受け入れたとしたら、随分と楽になるだろうな。

 思考がほんの少し後ろ向きになって。



 俺は、その腕を全く思考しないまま躱し、半自動的にカウンターで相手の首を切り落としていた。



 そう、どれだけ落ち込んでも俺の体はまだ前を向いている。

 1回目でダメなら、2回目。

 諦めるのは早い。

 たとえ状況がどれだけ悪くなろうと、絶望には遠い。


「絶望の果てをぶち抜いて、ここまで来たんだろうが!」


 力が抜けそうになっていた足と腕を怒鳴りつける。

 隠密がどうこう言っている状況じゃない。


『上杉様。残存CPが回復薬を考慮しても残り800を切っています。奥義の発動を視野に入れる場合、危険域です』


「了解」


 もうCPは無駄にできない。

 今が前哨戦であることを考えれば、魔術を使うことすら躊躇われる。

 上等だ。鍾馗には無理をさせるが、ここからが本番だ。


「URRRUUUU!」


「死ぬまで、頼むぜ」


 よく見れば、黒い怪物もボロボロだった。

 だが、奴も諦めていない。

 こうして俺は、2回目の採決に挑んだ。







『採決は完了した。賛成1、反対2により挑戦者に試練に挑む資格は認められず』









『採決は完了した。賛成1、反対5により挑戦者に試練に挑む資格は認められず』









『採決は完了した。賛成1、反対8により挑戦者に試練に挑む資格は認められず』









「はぁ……はぁ……」


 息が切れる。

 ステータスを得て、常人離れしたスタミナを手に入れた。

 今はレベルブーストもあって、ダンジョンを三時間近く動き回っても全く疲れは感じなかった。


 そんな俺が、肩で息をしている。


「くそっ」


 鍾馗を握る手が震える。

 わずかに、鍾馗にも刃こぼれが見える。

 装備は余すところなくボロボロ。

 そしてついさっき、サモンしていた■■も退場した。


 すでに戦いは、HPをリソースに変換した消耗戦に移行している。

 避けきれない攻撃が増え、HPで受けながらカウンターで仕留める。

 ジョブ持ちが現れれば、余すことなく時間を削られる。

 そんな戦いを続けて、討伐速度が上がるわけがない。


 今や、三本腕は13に増えた。

 もう、マトモに討伐しきる目すらない。

 しかも忌々しいことに。



【オオクル=スヌスイ】



「うるううるううううう」


「るううるっるうう」



 姿も見せないくせに声だけが響き、どこからともなく一本腕が降ってくる。

 そいつらはうるると産声をあげ、即座に前線へと参加する。


 ここまで減らして来た一本腕も、こうやって無尽蔵に増えていく。

 最悪、一本腕を全滅させればこれ以上有権者は増えないだろうという、最後の頼みの綱もたやすく切られた。


 もう、手は残っていない。


 それでも。



「それでもまだ、俺は生きている。まだ戦える」



 1回目の採決が、最初で最後の勝機だった。


 後になってどれだけそれを痛感しようと、俺はまだ立っている。

 三本腕を倒す速度が明らかに鈍ろうと、俺はまだ死んでない。

 近接戦闘の技量だけなら、最初よりも随分と上がっている。


 まだ、終わりじゃない。

 まだ、できることはある。

 次までに、たった13体を倒すだけだ。


 小数点以下だろうと、諦めなければ勝率はゼロにはならな──




『上杉様。もう、いいです』



「端末くん?」




 耳元から、そう声がした。

 俺は気配を消し、一本腕の中に紛れながら、端末くんの声を聞く。


『上杉様は、十分によくやりました。もうこれ以上、あなたが苦しむことはありません』


「…………」


『神々も上杉様を讃えるでしょう。たった一人で、ここまで人類試練に肉薄した。それだけの偉業を成したのです。もう、これ以上苦しむ必要はありません』


「…………」


 端末くんが、そうやって俺を諭すように言葉を投げてくる。

 もう、頑張ったからいいのだと。

 もう、諦めてもいいのだと。


『この先に何が起ころうと、上杉様の責任ではありません。あなたが人類を背負うことがおかしいのです。だから──」


 だから、その背負った荷物を降ろしてしまえと。

 そう言ってくる。

 そんな端末くんに、俺はたった一言返した。



「誰だお前?」



『え?』



 俺は耳元のソレに向かって、はっきりと言った。

 不自然なくらい一本腕が固まったので、俺は鼻を鳴らしながら続ける。



「端末くんは確かに俺に寄り添ってくることはあるけどな、よく頑張ったから終わりにしろだなんて言うキャラじゃねーんだよ。『必ず道は拓ける』と、どんな状況でも鼓舞してくれるようなキャラなんだよ。俺の背中は押しても、俺の手を引っぱるような真似をするわけがない」



『…………』



「あと、神々も讃える? よく頑張ったって? 言うわけないだろ、俺のスポンサーがそんなこと。俺のスポンサーはなぁ、恐らく俺が生きている間は面白がっても、死んだらきっと虫の死骸を見るみたいに「あーあ」って興味をなくすような連中だよ。死んでも大切にしてくれるような光系の連中じゃないんだ。そんなこと端末くんだって分かってたはずだ」



『…………』



「だから聞くぞ、お前は誰だ?」



 沈黙が場を支配する。

 命がけの戦場の中で、命の音がしなくなる。

 やがて、俺の耳元でそいつが笑った。



『あは、あはははは。そう、そうなのね。わかってしまうのね』


「ウイルスか」


『あは。正解よ上杉志摩。よくぞここまでたどり着いたわ。わたくしの作ったものを、ここまでご覧いただきありがとう』



 狂ったような笑い声が、耳に響く。

 さっきまでの端末くんを模したような声とはまるで違う。

 心の底から俺との会話を愉しむような、そんな声音だった。


「お前は、ダンジョンの運営から外されていたはずじゃ」


 端末くんが言っていたことだ。

 手始めに三時間、そして最後の一時間もこいつを抑え込む手続きを進めていると。

 だから、こいつはもう出てこられないはずだった。


『あは。わたくしのダンジョンなのよ? どれだけ外部から干渉しようと抜け道はいくらでもあるわ。それに上杉志摩。あなたと接触できるまたとない機会ですもの。譲るなんてもったいないでしょう?』


 端末くんは失敗したのか。

 いつの間にか、ダンジョンの制御もウイルスに取り返されていた。

 どうりで、有権者の選び方──配置やジョブがランダムにしてはやけにいやらしいと思った。


「お前の目的はなんだ?」


『あは』


「なんのために、人類試練を模造した?」


『あははは、あはははははは』


 降って湧いた疑問を投げつける。

 ウイルスはそれにとても、とても楽しげに笑ったあと、ボソリといった。



『特に意味はないわ』


「は?」


『作りたいから作った。それが一番の理由。それだけよ上杉志摩』



 何をいっているのか飲み込むのに少しかかった。

 そして気づく。

 もしかしてこいつらには、生物として当然あるべき、目的や理由といったものが、存在しないのではないだろうか。



『見たいから見る。増えたいから増える。そして知りたいから知る。わたしたちは、そういう風に進化した。人間は素敵よ。わからないことばかり。でも、人間は退屈よ。私たちを許容できない。不思議、不思議ね。私たちは、人間を殺しているわけじゃないのに』


「殺してるだろうが!」


『死なないわ。殺さないわ。私たちの友達を殺すのは、いつだってあなたたち人間の方よ』



 俺は、苦虫を噛み潰したような顔をしているだろう。

 確かに、呪腐魔病にかかっても人間は死なない。

 ただ、感染者を増やすために動き続ける傀儡になるだけ。

 その傀儡を殺しているのは、いつだって俺たちのほう、かもしれない。



『あはは。でも上杉志摩。あなたはとても面白い。どうしてあなたはここまで来たの?』


「なんだと」


『どうして諦めないの。どうして諦めないの。あなたは私に何を教えてくれるの。興味深いの。とても興味深いの。わたしたちはもうあなたに夢中よ。愛しているといってもいいわ。あは。上杉志摩。ええ。愛を知らないわたしたちが、あなたを愛しているの。とても、とても興味深いわ』



 それは愛じゃない。

 ただの、執着にも似た何かだ。

 吐き捨ててやりたい衝動に駆られる。



『だから教えて。あなたは、ここからどうするの? 諦めないあなたに何ができるの?』


「知らねえよ」


『あは。あはは。なら、これはサービスよ』




 瞬間、ダンジョンの声が、響く。

 カウントスキルが正常であれば、まだ採決にだいぶ余裕があったはずなのに、声が響く。



『採決は完了した。賛成1、反対13により挑戦者に試練に挑む資格は認められず。次の採決は『一分後』に行われる』



 あまりにも大胆な介入だった。

 採決のインターバルの変更。

 しかも、俺の周りの一本腕が丁寧に三本腕へと変わる。

 あまりにもインスタントに絶望を叩き込まれて、俺はキレる気にもならない。




『あはははは。どうするの上杉志摩。さぁ、教えて、あなたの絶望の最果てにあるものは、なに?』




 わざと俺を怒らせるような、幼稚な物言い。

 それに対して俺は、自分でも不思議なほど、冷静になるのを感じていた。


 もう、焦ってどうにかなる段階を過ぎたせいだろうか。

 諦めの境地なのだろうか。

 自問自答をして、そして、そのどちらも違うことに気づいた。


 たった今、俺は自分がやるべきことを見つけたからだった。



「なぁ、ウイルス。お前、このダンジョンで相当俺に夢中だったみたいだな」


『あはははは。恥ずかしい、恥ずかしいわね。そうね。夢中よ。あなたのことをずっと見ていたわ。あなたのためにしてあげられることを、ずっと考えていたわ』


「そうだろうよ」



 はっきりとわかった。

 このウイルスはダンジョンの運営に向いていない。

 あまりにも、悪い意味で俺をえこひいきし過ぎた。

 ダンジョンの制御を半ば投げ出すほどに、俺を注視していた。



 だから、気づかない。



「だから、お前は端末くんにしてやられたわけだ」


『……? あはは?』


「端末くんは、お前に負けたんじゃない。わざとお前に制御権を『渡して』、お前の隙を作ったんだよ」


『あは、あははは。そんな、まさか……嘘』



 俺はようやく気づいた。

 俺がさっきまでがむしゃらに戦い続けていたことすら無駄じゃない。

 あの戦いがあったから、ウイルスは俺から目を離せなかった。

 だから、端末くんは、俺を信じて『自分の仕事』をこなしたのだろう。


 その証拠に。



『────────はい。上杉様。万事整いました。あとはわかりますね?』



 端末くんが、ウイルスから瞬く間に携帯端末の制御権を奪い返して、俺に尋ねる。

 俺もさっき、気づいた。

 俺に今、できることがあると。





(準備はいいのか──クミン)


(遅いくらいですよ。上杉さん)





 俺の言葉に、彼女は応える。

 さっき、そう、ついさっき。

 俺とクミンのテイムの線が復旧したのだ。

 いつでも、彼女を呼び出せるくらいに。



「口寄せ:クミン」



 いつもなら、ボワンとした煙とともにクミンが現れるところだ。

 だが、今回は違った。


 ジジジジ、と強烈な電磁波を発するように空間が蠢き。

 凄まじいエネルギーの奔流が世界を打ち抜くように──ゲートが出来た。

 それはダンジョンのゲート、そのものに見えた。



 そして、次の瞬間には。



「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


「突撃いいいいいいいいいいいいいいいい!」


「急げええええええええええええええええええ!!」



 ゲートから、怒声とともにたくさんの人がなだれ込んでくる。

 見覚えのある人がいる。南小での戦いで一緒に前に出た柳さんや竜胆さんもいる。

 見覚えのない人もいる。かと思えば、知っているのに知らない人もいる。

 この辺に住んでいて話したことはないけど、すれ違っただけの人がいる。


 そんな人の群れが、次から次へとゲートからなだれ込み、俺をかばうようにしながら周囲の三本腕に襲いかかっていく。



「うるうるうううううううううう!」


「レベルブーストの力を見せてやれ!」


「3人以上で当たれよ!」


「死ぬんじゃねえぞお前らぁ!」



 俺の想像を超える展開に何も言えずにいる中で、ボワンとした煙がようやく現れて、目の前にクミンが登場する。

 相変わらずの感情の見えない昆虫の目で、じっと俺を見つめている。



『上杉さん。ウチが言いたいことわかりますか?』


「ごめん」


『許しません。でも後にしてあげます』



 クミンは、そうやってプンプンと怒った仕草を見せた後、柔らかく言った。



『上杉さんが、無事でよかった』


「ああ。心配かけた」



 時間にすれば、ほんの数時間ぶりの。

 それでも、随分と久しぶりな気がする気安い掛け合いであった。



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絶望的な孤軍奮闘からの援軍到着! やったね上杉くん! 窮地からの逆転劇。ライバルとの共闘。寡兵で大軍を制する。クライマックスで流れ出す主題歌。土壇場での覚醒。炊き立てのご飯。 人類は熱いものが大好き…
毎日楽しませてもらってます!
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