第139話 よりにもよって、これかよ……
とりあえず奥義【十歩必殺】について考えるのはこのくらいで良いだろう。
もう使ってしまったEPは戻らないし、今更待ったをかけたいわけでもない。
これで残ったEPは6996で、回復薬を予定通り買うと残り1996。
装備のうち店売りのものを新調すると450使うから1546。
なんてことだ、あれだけあったのにもう1500くらいしか残っていない。
「この残ったEPであと何ができるのか」
ここから、さらに俺をドカンと強化する、というのは現実的ではあるまい。
そもそも、値段以上に破格だった奥義を差し置いて、1500でそれ以上の強化をしようというのがおこがましい。
ただ、ステータスやアクティブスキルだけが強さではない。
そう、俺は一つ、欲しているスキルがあった。
時間がないし、どうせこの後は万が一に備えて全快するつもりだったわけなので。CPには余りが出る。
……使ってしまうか『目星』先生を。
「端末くん、一度習得可能スキルを一覧表示にしてくれる?」
『現在の上杉様ですと膨大な量になりますがよろしいですか?』
「構わない」
『かしこまりました』
俺は端末くんにお願いして、俺が現在習得可能であるというスキルを表示してもらう。
だが、ちょっと想定よりも多かった。
端末くんのいつもの画面に収まりきらず、床や天井に届くくらいのドデカ画面が表示され、そこにずらっとスキルが並ぶ感じになっていた。
「多くない?」
『ノービスでもないのに、これほどの量を増やすとは素直に賞賛します』
「……お、おう」
なんか、このダンジョンに入ってから端末くんが結構素直に肯定してくるんだけど、なんなんだろうね。
遅れてきた反抗期ならぬ、遅れてきたデレ期だろうか。
『ですが、習得可能なスキルが増えても習得しなければ意味はありません。全てを把握するのが難しいのは存じますが、これでは端末の肥やしです。可能な限り目を通し、早急に分別を行うことを推奨します』
「はい」
そう思うと、即座に冷や水を浴びせてくるので、やっぱりいつもの端末くんだった。
まぁ、それはいい。俺はここぞとばかりに『目星』を使って、それを探す。
「『目星』」
果たして、一階層の黒い小部屋の時の苦労はなんだったのかと思えるほど、即座に俺の求めているスキルが俺の目に輝いて見える。
そのスキルはこうだ。
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スキルリンク:200EP
自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターに、自身の保有するパッシブスキルを一つ共有する。
または、自身に、自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターの保有するパッシブスキルを一つ共有する。
※ユニークスキル、種族固有スキル、複合スキルは対象外となる。
消費CP:(スキルのコストに依存)
──────
あった。
これが今の俺の最大の問題を一つ解決してくれるスキルである。
これさえあれば、フィールド全域を『夜のカーテン』で覆った後に、呼び出したモンスターに『暗視』を共有することで行動を阻害することなく動かすことができるのだ。
つまり、もはや俺の切り札の一つとなっている■■をなんの憂いもなく喚び出せるということになる。
この後の戦いは少しでも俺にバフを積み上げないといけない。
そうなったとき、闇の中で動けない仲間は足手まといなのだ。
あとは、モンスターの方から何か一つ引っ張ってくるみたいな使い方もできるようだが、今は考えなくて良いだろう。
これを取るのはマストとして、お値段はそこそこお安いEP200。
多分、テイマー(サモナー)にとっては基本的なスキル扱いなんだろうな。
俺、今までその辺のスキル全然取ってなかったからあれなんだけど。
「あとは、その近くのこれも取っておきたい」
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ステータスリンク:100EP
自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターに、自身のステータスのうち一つの値を選び、その10%を加算する。
または、自身に、自身のテイムモンスター、またはサモンモンスターの保有するステータスのうち一つの値を選び、その10%を加算する。
消費CP:10
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地味にテイマー(サモナー)らしいバフスキルである。
これ単体だと、一つのステータスをちょろっと伸ばせるみたいなスキルに見えるが、これの恐ろしいところは他にある。
なんでも、このスキルは、バフをかけたらそのかけた分も10%の加算値に乗るのだ。
つまり、テイマー系のパッシブスキルで配下のモンスターのステータスを10%増量したあとに、このステータスリンクを使うと、11%の強化が得られるようになる。
つまり、配下を強化すれば強化するほど、固定消費CPで破格のバフが得られるようになっているのである。
まぁ、今の段階だとそこまでのシナジーを発揮するスキルは取れないが。
それでも、■■の力ステータスを分けてもらうと、ぶっ飛んだ強化にはなるのである。
これで残りは1246EP、あとは。
うーん。
「端末くん、参考までに聞きたいんだけど、対多数との戦いを想定した上で強力なスキルってどんなのがある?」
ざっくりとした質問を投げかけてみた。
本来、俺はこういうのは自分で調べてじっくり悩みたい派閥なのだが、とにかく時間がない。あれこれ考えている時間があるなら回復薬でも買ってとっとと突入した方がいいかもしれないレベルなのだ今は。
端末くんにそのものズバリの答えを聞いても返ってくるとは思わないが、こういう方針の相談であれば、少しくらいは答えが返ってきてもいいんじゃないだろうか。
果たして、端末くんは『…………む』と小さく唸ったあとに、続けた。
『……現時点での上杉様のメインの火力が魔術である、という想定なのであれば、魔術の幅を広げるスキルを選択されるのが望ましいのでは?』
「例えば?」
『この辺りのスキルになります』
と言って、想像よりもストレートに端末くんはスキルを示した。
──────
思考加速:200EP
集中力に応じて思考の速度が上がる。
コストCP:10
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並列思考:300EP
自身の思考を割いて、複数の思考が同時に可能になる。
ただし、分割した思考それぞれの処理能力は割いた分だけ低下する。
コストCP:30
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並列起動:500EP
魔術の同時起動が可能になる。
ただし、同時起動にはそれぞれ独立した思考が必要になる。
コストCP:40
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ついに人間の脳みそにまで手を加えるようなスキルが現れたな。
いや、ステータスやスキルの原理が謎な時点で、肉体だの脳だのに対する文句を今更言うつもりはないのだが。
それでも、スキルの力で思考を分けるとか、できるようになるんだ……と、ちょっと恐ろしいものを感じた。
『それらのスキルは、それぞれ魔術の行使速度に影響を与えるものです。今の上杉様であれば、取得する価値はあると考えられます』
言いたいことはよくわかる。
基本的に、魔術は二つ以上を同時に使うことができない。
今まで使っていた魔術の中では、マインが特にその制限を受けていた。
他の魔術の場合、基本的に発動したら結果まで一直線なのだ。
土石魔術なんかは特にそんな感じだし、耐性上昇の魔法陣だって、魔法陣を設置するところまでが魔術で、あとの効果は設置した魔法陣が設定した通りに起動するだけだ。
マインは、少し違う。
あれは設置した段階では俺の管理下のままであり、起動した瞬間に一つの魔術として完成する設計になっている。
どうしてそういう感じなのかと言われると、主にコスパの問題である。
自動で起動するより、手動で起動したほうが安いコストで火力が高いんだ。
と、俺のメイン火力なのにクセの強かったマインなのだが、このスキルがあると色々と解決する。
マインを複数設置したり、マインを保持したまま他の魔術が使えるようになったりする。
これは、大きなアドバンテージになる。
「わかった。それも取得しよう」
『本当によろしいのですか?』
「問題ないさ」
もちろん、端末くんの言うこと全てを考えなしで肯定するわけじゃないぞ。
今回はあくまで、俺の要求に対して本当に欲しいものが出てきたからこう言うだけだ。
ここまでを取得するとなると、残るEPは246。
最近のスキルのインフレ具合からしても、取れるのはあと一つくらいだろう。
「『目星』先生、何かないかな、 EP200で奥義とシナジーがあって、コスパが優秀で、なおかつ強化幅も優秀なスキルは」
俺のファジーなんだか検索条件ガッチガチなんだか分からない要望である。
これが物件探しの時の不動産屋だったら困り顔の一つも浮かべるところだろうか。
であるにも関わらず、目星先生はノータイムで一つのスキルを光らせた。
さすが目星先生と賞賛を送りつつそのスキルを確認し、俺は思わず固まった。
「よりにもよって、これかよ……」
俺は、背中に冷や汗が垂れる感覚を覚える。
いや、実際にかいたわけじゃないと思う。
ただ、それを感じるくらい、このスキルは嫌な思い出を呼び起こさせてくれたのだ。
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背水:200EP
自身のHPを全損し、体のステータスを0にする。
その後、自身の力、魔、速のステータスをそれぞれ1.5倍にする。
消費CP:10
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これは、俺がゾンビパニックの初日に、グールを死にかけながら討伐した時に生えたスキルであった。
こんな危ないスキル絶対に取るものかと決めたはずなのに、今一番の取得候補に上がってくるとか、いったいどういうことだよ……。
しかも奥義とアホみたいにシナジーあるし……。




