第138話 【十歩必殺】
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奥義【十歩必殺】
十歩の間、あなたは全ての命を終わらせる権能を手に入れる。
ただし、何者かの命を奪うことでしか剣を収める術はない。
それが憎き敵であろうと、あるいは己自身であろうと。
故に、十歩必殺。
《発動条件》
発動条件1:『上杉志摩』が『鍾馗』を装備している。
発動条件2:『対象』が『悪魔に類するもの』あるいは『軍勢の長』あるいは『人類の脅威』である。
《効果》
このスキルを起動後、十歩動く間、以下の効果が発動する。
・全ステータスに(1+『現在レベル*0.1』)倍の補正をかける。
・あらゆる状態異常に『完全な耐性』を得る。
・『鍾馗』を用いた攻撃において、『即死』の判定が発生した場合『あらゆる耐性を貫通』し『確実に成功』する。この効果はいかなる場合においても打ち消されない。
なお、スキル発動中に歩みを止めた場合、スキルの効果は直ちに終了する。
《代償》
スキルの効果終了後『対象』の『即死』に成功していた場合は、HPを全損し、(80-現在レベル)秒の間、あらゆる行動が不能になる。
失敗した場合は『上杉志摩』は『死亡』する。
消費CP:444
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重てえ。
消費CPの話ではない。
いや、消費CPは確かに重たいのだが、問題はそこではない。
「効果のヤバさと、代償の重さが見事に天秤を取ってくる」
発動条件の厳つさについては、もう見なかったことにしよう。
奥義と名の付くくらいだし、雑魚相手にほいほい使うものではないのだと納得しておくしかない。
レギオンに関しては、もう発動条件に乗っていること全部当てはまっているレベルである。
というわけで問題はまず、効果。
十歩動く間、ステータスがうん倍になる。
現在のレベル50だと、全ステータスが6倍である。
6倍って意味わからないよね。
今まで二桁三桁でやってたステータスで急に四桁も現実味を帯びてきてしまう。
さらに状態異常無効。
そりゃステータス六倍にしたあと麻痺であっさり止められるとか、冗談じゃないのはわかるけど。
ちょっとしたスーパーアーマーみたいな状態である。
そして最後。
これが、一番やばい。
鍾馗による攻撃に限る、という但し書きはあるが、即死が確定で成功する。
99%じゃないぞ。100%だ。
この世の中で最も信じて良い数字の一角を担う100%である。ついでにもう一個は0%。
これは、つまり、そういうことだ。
今、鍾馗がこの奥義に目覚めたのは。
「レギオンを即死させるには、この奥義を発動するしかない、ってわけだ」
シンプルな答えである。
もともと、ボスに対して即死を狙うという、マトモなRPGだったら確実に対策されていそうな穴にかけるしかない状況だった。
それが、いきなり完全開放されたような気持ちだ。
レギオンを倒すには、奥義を使うしかない、というよりも。
レギオンを倒すために、必要な奥義が使えるようになった、というのが正しい気がする。
もちろん、まずあの肉塊に弱点が存在するのか、存在するとして鍾馗で攻撃できるのか、これらは不明だ。
だが、一筋の光明が見えたことだけは間違いない。
「……問題は、デメリット」
だが、当然のようにこんなぶっ壊れスキルに良い側面だけがあるわけがなかった。
まず、歩みを止めるとスキルの効果が直ちに終了するという一文。
これはあれだろうか。
スキルを発動しておいて、一歩も動かず固定魔術砲台になるような使い方を危惧してのものだろうか。
とにかく、これを発動したが最後、泳ぎ続けるマグロのように、走り続ける必要があるらしい。
そして代償。
これが、重い。
挨拶がわりみたいに書いてあるHP全損はもう気にしたら負けだろう。
普段からギリギリの戦いを終えたあとはHP一桁余裕だからな。一桁と0にさしたる違いはない。
厄介なフィールドギミックでもない限り、HPは投げ捨てるものだ。
問題はそのあとの文。
対象の即死に成功していた場合、80から自分のレベルを引いた分の秒数、行動不能になる。
そもそも、バカみたいな倍率のステータスアップが切れるのだ。その反動が入ってくるのは頷ける。
レベル80まで上がれば、それを踏み倒せるみたいだしな。レベル50が上限の可能性もゼロじゃないけど。
とはいえ、現在の俺なら、即死を成功させたあと30秒間も、無防備な状態で敵陣の真ん中に取り残されることになる。
結論としては、ボスを倒した直後に備えた守りがなければ、取り巻きになぶり殺しにされるのを覚悟しなければいけないわけだ。
このデメリットは、暗殺者が暗殺に成功したあと、おめおめと帰れると思うなということだろう。
もう一つ、失敗した場合についてだが、実はこれが一番どうでもいい。
だって暗殺を敢行して失敗したあとは、どのみち死ぬだろうし。
せいぜい、『対象』を残しつつ雑魚狩りのために奥義を何度も発動することはできない、という程度だろう。
俺の総評としては、めちゃくちゃピーキーに見えて、使い方自体はシンプルな決戦用バフスキル。
ただし、考えなしに使うと死ぬ、って感じだ。
「そしてこのデメリットは、おそらく召魔忍者と相性がいい」
なぜなら、召魔忍者は忍者でありながらサモナーでもあるからだ。
スキルの即死判定が成功する前に、自身を防御なり掴んで移動なりしてくれるモンスターをサモンすれば良いだけだからだ。
最悪、石壁を作って耐えるとかでもいい。
ソロで使ったら絶対死ぬような奥義でありながら、生還の可能性が残っているのが召魔忍者である。
まぁ、鍾馗が俺に合わせてカスタマイズしたような奥義なので、当たり前といえば当たり前なのかもしれないが。
「奥義っていうのは、基本的にこう、発動条件だのデメリットだのが付いているものなのかな?」
十歩必殺の性能を確認してから、俺は素朴な疑問を投げてみる。
それに対する端末くんは、首を横に振る仕草を幻視するような、少し疲れた声で言う。
『そんなわけはありません。発動条件も、デメリットも、今の上杉様でも購入でき、扱えるようにするための拘束具のようなものです。おそらくそういった制限のない状態であれば、EPの桁が一つや二つ違っていたものと思われます』
「なるほど」
このレベルで奥義なんて異例中の異例みたいな発言があったが、それくらい、十歩必殺は俺が扱えるギリギリの奥義なのだろう。
実際、レベルブーストが終わったらCP的にもう使えない。
最低でもレベル30くらいにならないと、最大CPが足りてくれないだろう。
『それを踏まえた上で、この性能は破格です。即死の確定成功など、神の権能に手を伸ばすものです。上杉様限定でなければ、要望した瞬間に武具がロストしていてもおかしくありません』
「鍾馗も、危ない橋渡ったのか……」
俺の周りは、どいつもこいつも綱渡りがお好きらしい。
だが、鍾馗は無事にその綱を渡りきった。
そして俺に、レギオンと戦う上での『切り札』を手に入れてくれたのだ。
「さて、端末くん、これで、勝率はどうなった?」
先程までの俺では1.2%だった。
今の俺なら、どうなっただろう。
端末くんはしばし計算をするような間を開けたあと、しずしずと告げる。
『計算不能です。今、上杉様の運命は計算の外にはじき出されました』
「良いことかな?」
『今までは上杉様のステータスやスキル、そして最大のパフォーマンスを計算しながら、相手側の出方を推測しつつ確率を求めていました。しかし現在、上杉様のパフォーマンスは、タイミング次第でどこまでも化ける可能性が生まれました』
なんとなく読み取れたことはこうだ。
今までの俺は、どれだけ頑張って動こうと、レギオンのほんの気まぐれの行動で死ぬような木っ端のごとき命であった。
だが、今はレギオンの気まぐれに、対抗できる力を手に入れた。
『つまりはこういうことです』
端末くんは、目もないのにじっと俺を見つめるような、俺の目を覗き込むような気配をにじませ、断言する。
『勝てるかどうかは、上杉様次第です』
「オーケー、把握した」
俺は、その言葉に大げさに頷いた。
ようやく、ようやく俺はこのダンジョンで前向きな言葉を聞いた気がしていた。




