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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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137/163

第137話 鍾馗の要求



 シャッターをくぐると、そこには見慣れた景色があった。

 見慣れたというのは、この世界がこんな状況になる前の話。

 つまり、ゾンビパニックが発生する前に幾度となく見てきた景色である、ということ。


 そう。シャッターの外側には、俺が実際に利用していた記憶の中のホームセンターと同じ世界が広がっていた。


 もちろん、もともとこんなシャッターは存在していなかったので、ホームセンターの中にダンジョンが出来ているようなイメージになるだろうか。

 俺が通った瞬間、そのシャッターも消えてしまったのだが。



(……なんだこれは)



 だが、記憶にある景色と違うこともある。

 シャッターの話ではない。

 それは、店内の所々にあって怪しく蠢いている謎の肉塊だ。


 ちょうど人間ひとり分くらいのサイズのそれが、床とも壁とも天井とも知れず点在し、たまに、脈を打つように揺れている。

 ゾンビとはまた違う異様に、思わず簡易鑑定を使ってしまった。


 ──────

 肉塊・男

 状態・正常

 ──────


 頼むから、正常の意味をちゃんと辞書で調べて欲しい。

 この鑑定結果からは異常しか見つからない。


 そもそもなぜ、肉塊に性別がある?

 あまり、答えを知りたくない。


(ああでも、たぶん、きっと……)


 思わず吐き気を催しそうになるが、深呼吸をしたところで良い空気が入ってくるわけでもない。

 ただ、ホームセンターには似合わない、肉の饐えたような臭いが、鼻につく。


 見なかったフリだって、出来る。

 でも、ここで俺が見なかったら、きっと誰もそれを知ることはないだろう。

 だから、他の肉塊も、一度だけ確認してみた。


 ──────

 肉塊・女

 状態・呪腐魔病(軽)

 ──────


 ああ。

 この肉塊の元がなんだったのか、分かりたくなかった。

 予想通りだったとしても、やっぱり見なければよかった。

 つまり、この店内のいたるところに点在しているそれらは全て、そういうことだろう。

 他にどんな種類の肉塊があるのか、調べる気にはなれない。



『上杉様。まずは三階層の端末を』


「……ああ」



 今のところ、周囲に敵の気配はない。

 そして気配を察知したことで、あらゆる肉塊の気配の情報が頭に入ってきてしまい、少し後悔する。

 こんな状態になっても、気配は、それだ。

 なんとなくだが、この階層にヒトカタは出てこない気がした。


 さて、これまでの『ホームセンター型ダンジョン』に比べて、実際のホームセンターを基にしているこのエリアは、とても分かりやすい。

 とりあえず、端末を探してみれば、実際の店舗の入り口があった場所のすぐ近くに配置されているのが分かった。


 警戒は切らさずに、俺はまっすぐ端末の元へ向かう。

 声の届く距離にまで近づけば、別に意識を切り替えたとかそういうわけではないだろうが、耳元からではなく設置型の端末から声がした。


『改めて、二階層突破、おめでとうございます。上杉様』


「ああ、ありがとう」


 改めてのお褒めの言葉に、俺は軽く返した。

 一階層のときとは違い、二階層では基本的にずっと一緒に行動していたのだ。

 俺の行動を見てハラハラする瞬間はあれど、俺の無事を心配する必要はなかっただろう。


『EP計算終了。暫定対処として上杉様にはゾンビ62体とフレッシュゴーレム34体、フランケンシュタインの怪物2体分のEP、合計24896をお渡しします』


「ついに万の大台に乗ったか……」


 言葉とともに、これまで見たことのない量のEPの粒子が俺の中へと吸い込まれていく。

 ここまでとなると、ただのエネルギーの塊のようなEPであっても、大きな力のうねりのようなものを感じてしまう。


 かつてEP400を稼ぐために泊まり込みで2階層をグルグルしていたというのに、二時間半で二万五千弱ものEPが溜まるとは。

 まぁ、本当にレベル50になるころには、そのくらいのEPは湯水のように消費するものなのかもしれないが。


 とにかく、今の俺からすれば、恐ろしいほどのEP効率である。


『また、現在、引き続きこのダンジョンの管理を行えるように手続きを行なっています。こちらが終了すれば、試練のタイムリミットまでウイルス側から管理権限を握ったままにできるものと考えられます』


「それは是非、頑張ってくれ」


 確か、最初に理不尽に俺を陥れようとしたとして、ウイルス側が三時間のペナルティを受けていた。

 その間にちゃんと運営していたという実績があれば、その時間が終わってもタイムリミットくらいまでは、ダンジョン側がウイルスの手出しを抑えてくれるということだろう。


「それで端末くん、俺はこの先、どうすればいい? ここから先には何が待っているんだ?」


 なんとなく、予想は立てながら尋ねてみる。

 返ってくる答えはまぁ、これだ。


『このような状況にあって、誠に恐れ入りますが。それでも攻略情報に関しては、上杉様の攻略進度にしたがって解禁されます。だから今は──』


「今は、何が起きても良いように心構えをして、先に進むしかない」


『その通りです』


 こんな状況なんだから、という思いもなくはない、が、これがきっとダンジョンの管理者として必要な割り切りなのだろう。

 かつて、端末くんが先の情報を教えてくれたのは、たった一度だけ。

 ウイルス側の情報を提供し、情報の対価として攻略情報を選択したときだけ。


 もし、ここで余計なことを言って、ダンジョンの権限がウイルスに戻ることの方が、きっとやばい。

 二階層が順調に攻略できたのは、ウイルス側の横槍がなかったおかげとも言えるしな。


「ただ、もう一回聞いておきたいんだけど、今の状態でもダンジョン攻略はほぼ奇跡みたいな確率なんだよな?」


『……はい』


「……おーけー」


 つまり、この貰ったEPを十全に使うことが、俺の生存確率をあげる一助になる。

 先ほどの、ただレジを突破するだけのお買い物じゃなくて、真剣な買い物──あ。


「あと端末くん。さっきの品物の買取は」


『買取をお望みでしたら、納品をお願いします』


「ほいきた」


 俺は、後で買い取ってくれるというのでストレージに入れておいた品物を出す。

 実際、ストレージの枠一個を占有するような形で、ちょっと邪魔だったのだ。

 そうして、何に使うのかも定かではないラインナップの商品たちは、キラキラとした粒子となって消えた。


 合計27496。

 これが、今の俺の手持ちの全部だ。

 これをうまく使って、俺の生存率を上げなければいけない。


「まず、回復アイテムは確保しなければいけない」


 HP回復薬とCP回復薬は現状どっちもすっからかん。

 特にCP回復薬はお値段それなりなのでがっつりとEPを削っていく。

 この状況で回復くらいはサービスしてくれても良いのに、と思わなくもないが、端末くんはどこまでもフェアだった。


 ただ、回復アイテムばかり買って強化ができなければ本末転倒。

 とりあえず、CP回復薬を20個。回復薬を10個買ってこれで5000EP。

 CPにして2000、HPにして3000の回復量になる。


「あとは、鍾馗の修復、そして防具の新調」


『現在の鍾馗のステータスは一部破損状態です。ここから万全の状態に修復するためにはEPが500ほど必要です』


「やっぱり無茶させたな」


 一階層の時は最後の最後に刃を欠けさせるところまで行ってしまったが、今は今で全体的に無茶をさせた。

 効率がどうのこうのと言ったが、効率とはつまり自分がどれだけ無茶を出来るかで変わってくるものだからな。


「当然、修復だ」


『かしこまりました…………っ、これは……』


「……どうかしたのか!?」


 当たり前のように修復をお願いしたところで、端末くんが珍しく驚いたような反応を見せた。

 もし、鍾馗に重大な問題でも見つかったらやばい。ただでさえ絶望的な状況が絶望に染まりきってしまう。

 そう思い、思わず焦った声をかけたが、端末くんは厳かに答えた。


『上杉様。鍾馗がさらなる成長を求めています』


「鍾馗が?」


『はい。この段階の武器としては異例中の異例ですが、このダンジョンでの特異な──短時間で幾度も死線を潜るような経験が、鍾馗に眠る『奥義』の可能性を結びました』


「奥義」


 思わず、おうむ返しのように言ってしまった。

 響きがかっこいいとか、そういう子供みたいな反応は置いておく。


『奥義とは、特定の条件を満たした場合にのみ発動可能な、特殊なアクティブスキルの一種とお考えください。本来であれば、そのスキルは人間が修練の果てに特定の武器種にて発動できるようになるのが主なものですが、今回は『鍾馗』と『上杉様』の二つの条件が揃った場合にのみ発動可能な、武器限定スキルのような形になります』


「その奥義っていうのは、強いのか?」


『少なくとも、現状上杉様が習得できるレベルのものではないでしょう。特異な状況ゆえの、特殊な奥義の可能性が高いですが』


「奥義ってのは一つだけしか習得できないとか、そういう縛りは?」


『基本的にございません。ただし、習得には相応のEPを消費します』


 唐突に始まった奥義の説明を噛みしめる。

 この状況で、恐らくこれは、でかい。


 鍾馗は意志の力で成長する武具だ。

 そして、俺も鍾馗もきっと、この状況を生きて突破することを望んでいる。

 そんな鍾馗が、この状況で無理をしてでも奥義を見出した。


 恐らく、俺が生き残るために、必要な力だと。


「聞きたいことは一つだけだ、端末くん」


『…………』


「奥義があれば、人類試練を突破できるのか?」


『確証はありません。そもそも、戦闘と呼べるものが発生するのかも定かではありません。ただ……』


 楽観的なことは死んでも言わないと、端末くんが事実を並び立てる。

 それでも、最後にその言葉を力強く付け足した。



『その可能性を、大きく引き上げる可能性を秘めているのは、間違いありません』


「なら、習得するしか、ないじゃないか」



 悩む必要はない。

 目星先生に頼るまでもない。

 短い付き合いだが、命を何度も助けられた相棒の言うことだ。

 俺は鍾馗を信じる。



『なお、奥義の習得に必要なEPは、20000です』


「……………………男に二言はない!」



 すごい揺れた。

 だけど俺は鍾馗を信じる。



『かしこまりました。では鍾馗をお預かりいたします』



 俺は鍾馗を端末くんに掲げ、同時にさっきもらったばかりの膨大なEPの大半が再び出ていくのを感じた。

 そして鍾馗が瞬くような光を発し、それが落ち着いたころに静かに端末くんが告げた。




『鍾馗の強化が完了しました。奥義【十歩必殺】を習得しました』



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