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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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136/166

第136話 本来の苦戦なら




 塵になって消えていった魔術師型の三本腕を見送り、俺は短く息を吐いた。

 周囲に充満していた炎の気配は、死体とともにゆるやかに消えていく。


 ひとまずの勝利に、戦闘時の緊張を解放したい気持ちでいっぱいだが、それはできない。

 まだ、戦闘は継続中だ。



「端末くん」


 現在のHPは 212/570です。回復を推奨します。

 現在のCPは 62/926です。回復を推奨します。


「……っぶねぇ」


 以心伝心のような流れで現在のステータスを教えてもらったが、思ったよりもギリギリだった。


 当然ながら、魔術を行使するというのはCPを消費する行為だ。

 しかも、一度発動した魔術に追加で働きかけるのなら、当然追加のCPは消費する。

 ステータスのブーストでその操作にかかる費用も軽減されてはいたが、好き放題に暴れまわった代償は大きい。


 だが、これは必要経費だ。

 常に優位を保っていた戦いは、裏を返せばそれくらい全力でいかなければ優位を保てない戦いでもあった。


 実際、余裕そうに見えても戦闘中は綱渡りの連続であった。

 そもそも、当たったら即死レベルの火球を紙一重で避けたところで、ダメージがゼロなわけがない。

 炎というのはそれだけ、人体を破壊するのに長けた属性なのだ。



 読みを一つでも間違えれば即死。

 そんな相手を終始圧倒するには、こちらが魔術を温存している余裕など皆無。

 CPの残量を計算に入れながらの、短期決戦以外に勝機はなかった。



 だいたい、レベル50の俺でも当たったら即死級の攻撃を、バンバン繰り出してくる中ボスとか、このダンジョンは本当に頭がおかしい。

 挑むのが俺一人で、味方にはさして影響がないから気にせずに飛んだり避けたりしていたが、これがもし30人のレイドだったら話は違ってくる。


 あのレベルの範囲攻撃を挨拶がわりに放ってくる奴相手に、無傷は無理だろう。


 下手をすれば一撃死の魔術を連射する上に、フィジカルでも並みの戦士の遥か上だ。

 しかも本来なら、戦士型の三本腕ががっちりと守りを固める想定である。

 俺の所感で良ければ、対策を立てられないままこいつらと戦った場合、ボス戦を前にしてパーティ壊滅もありうるんじゃないだろうか。


 もちろん、真っ当にレベル50まで上げたジョブであれば、そういう対策の一つや二つあるとは思うが、それでも被害なしで抜けるのは厳しいのではと思う。

 まず戦士型を抑えるだけでも、並みの前衛3人は必要になるだろう。

 南小の時は俺以外直接戦闘をしなかったのであれだが、こいつらは本来一対多数で存分に力を発揮するタイプの敵だ。

 長いリーチと凶悪な攻撃力を持った三本の腕は、重戦士型のビルドにこそぶっ刺さる凶器だろう。



 俺の場合は、本当にこいつらと噛み合っていた。

 一対一で戦士型を抑えられる■■の存在。

 そして、魔術師型という一対一向きではない相手とのマッチアップ。



 歯車ががっちり噛み合ったことで打倒できたが、奴が一つでも俺の想定を超えてきたら、ここで沈んでいるのは俺だったかもしれない。

 俺は余裕を持って奴を倒したが、別に楽勝だったわけではないのだ。

 今まで散々油断して危ない目にあってきたから、頭の中の冷静な部分の言葉を決して否定しない。



「まぁ、グッドゲームなんて死んでも言わねえけどな」



 鼻息を漏らして、俺はHP回復薬を呷る。

 実はこれで、HPの方の薬もゼロだ。

 道中のギミックと戦闘で地味に削られてきたのもあって、予備を抱えておけるほどの余裕はなかった。


「さて、向こうの様子は」


 HPを最低限回復し、戦闘の準備を整えた俺は、もう一つの戦闘の様子を見る。

 俺と魔術師型がやりあっている裏では、石棒を持った■■と、剣をもった三本腕がやりあっていた。


 途中からもはやそちらを気にする余裕はなかったのだが、戦闘を終えたら加勢するべきだろう。

 そう思って様子を伺うが、こちらは膠着状態だった。



「UUURRRRRuuuuruuruu!!」


「うるうるうぅうううううっっっっっっうう!」



 ガギンガギンと、激しい音を立てながら二体の怪物がお互いを食い合うように殺し合っている。


 かたや黒い怪物は、三本腕の一本を切り飛ばされ、もう一本と身体中に切り傷を作りながらも、その暴力の勢いはいささかも衰えずに殴り続けている。

 かたや剣持ちの怪物は、三本腕の一本をちぎり飛ばされ、もう一本も半ばでぐにゃぐにゃにぶら下がっているが、剣を持った一本はしっかりと切っ先を向けていた。


 武器の性能差はいかんともし難いが、それを上回る暴の力で、■■がわずかに優勢といった様子に見えた。

 CP300を使うサモンではあるが、明らかにそれ以上の仕事をしてくれている■■である。


 だが、それでもこのままだと、どちらが勝つかはわからない。


 心情的には、このまま戦わせてあげたいところなのだが。

 時間制限があるのだ。俺たちには。

 すっきりしなかったら申し訳ないが、早々に決めさせてもらおう。


「夜の目隠し」


 二体が激しく争っているところに俺はそっと横槍を入れる。

 当然、対象は剣を持っている三本腕だけだ。


「うるぅ!?」


「RRRRUUUU!!」


 今まで、ほぼ互角の勝負を繰り広げていた二体だが、俺のちょっかいによりその均衡が大きく崩れる。

 それまであった視界を唐突に奪われた剣持ちが動揺する、その一瞬の隙を■■は見逃さない。


 渾身の力を込めた横薙ぎが炸裂し、三本腕の大元の首をぐんにゃりとへし折るように壁に叩きつけた。

 ずるずる、と壁にもたれかかるようにして脱力した剣持ちに、黒い怪物は嬉々としてさらに躍りかかった。


 俺が作った石棒で、殴る、砕く、叩き壊す。

 剣持ちも必死で抵抗しようとするが、もともとが互角だったのにこの状況で覆せるはずがない。

 決着がつくのに、そう時間はかからなかった。





「URURruru!!」


 最終的に、体は原型を留めず、首から上を純粋な打撃によってすり潰された剣士型の三本腕の姿。

 その暴虐の限りを尽くした■■は満足げに唸る。

 それから、どす黒く染まりつつも決して折れも曲がりもしなかった石棒を天に掲げた。


『戦闘終了。戦闘評価A+です。お疲れ様でした。まさに神の期待に恥じない戦いぶりであったでしょう。犠牲者なしでこの地点を抜けられた上杉様を、私が称賛いたします』


 それを見届けた端末くんからの、初めてのA+リザルトであった。

 剣士型は撲殺され、魔術師型は焼死体となってボスの排除はここに達成された。


 でも犠牲者なしって、ソロだから当たり前じゃんね……。





『問題が解決されました。これより各通用口の閉鎖を解除いたします。お客様にはご不便をおかけいたしましたこと、改めてお詫び申し上げます』


 戦闘終了後、ほとんど間を置かずに閉鎖が解かれたアナウンスが流れる。

 お客様にはご不便をおかけしたというか、問題解決をお客様に丸投げしてたじゃねえか、という当たり前の文句はあったが、ダンジョンに言うのは今更だろう。


「URu」


「ありがとう。また助けられた。またすぐ、力を借りると思うけど、よろしく頼む」


「Ou」


 再び、最後にまるで返事のような声をあげ、黒い怪物は役目を終えたというように消えていった。

 せこい本音を言えば、せめて次の階層に着くまでは残っていてもらいたかったのだが、サモンの仕様上仕方ない問題なのだ。


「さて、あとはシャッターを潜るだけか」


 この階層の攻略は成った。


 道中のクソみたいなフィールドギミックを越え、イレギュラーを回避し、イベントをちゃんとこなし、最後にお買い物までさせられた。

 それで中ボスを倒したのだから、これ以上俺に何を求めるというのか。


「あとは進むだけ、でいいんだよな?」


 だが、不安はある。

 俺はあまりにも順調に二階層を越えてしまった。

 ちょっと死にかけたことが何回かあった程度で、絶望も数えるほどしかしていない。

 一階層に比べたら体感楽だったくらいだ。


 それゆえの確認を端末くんにしてしまったが、端末くんは呆れた声を返した。


『上杉様。あなたがこの階層で陥った危機は、並大抵の人間がその場で死ぬようなものばかりです。それをあなたは越えた。これは純粋な偉業と言えるでしょう。何を不安に思う必要があるのですか?』


「正直言えば、ぬるい。まだ何かあるんじゃないかと疑っている」


『……………………はい。上杉様の気持ちはよくわかりました』


 俺の声音が真剣だったからか、端末くんも少し言葉を選ぶような間を挟む。

 それから、あまり言いたくなさそうに言った。


『正直に言えば、第二階層を上杉様がソロで抜けられる確率は、第一階層よりもずっと高いものでした。レベルブーストによる強化は、それだけ上杉様の生存率を高めます』


「……それで?」


『それをしてなお、ダンジョンの攻略成功率──模造人類試練の突破成功率は「0.8%」です。これは、依然変わりありません。いえ、上杉様の活躍によって「1.2%」程度まで上昇させてもいいかもしれませんが』


 端末くんの言葉を、冷静に飲み込んでいく。

 多少の命の危機はあったが、やはり一階層よりは簡単だったのだ。

 そして、それを込みにして、ダンジョンの攻略成功率に大きな違いはない。


 つまり、それは。


「レギオンを一人で倒すのは、無理ゲーか」


『…………この先、三階層のボスに挑む前に、再びEPによる強化が可能です。そこで可能性を、手に入れてください』


「……おう」


 遠回しな戦力外通告である。

 今だとまず勝てない。

 だから、勝機を手に入れろ。


 シンプルでいいじゃないか。

 追い詰められている実感が湧いてくる。


「じゃあ、行こうか」


 俺は二階層で起こった全てを踏み台にして、壊れたシャッターの先へと歩みを進める。

 そんな俺の足を鈍らせるようなことを、端末くんが言う。


『三階層へ侵入したら、もう二階層に戻ることはできません。本当に進んでもよろしいですか?』


「時間はないんだ。行こう」


『かしこまりました』


 そして、俺は二階層を抜けて三階層──ボスが待つエリアへと足を踏み入れる。

 この先に待つ、絶望を約束された戦いに、眉間の皺を寄せながら。



 現在のカウントは16425(4時間33分45秒)──二階層突破の時間はおよそ2時間半だった。



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