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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第133話 閉じたシャッター




『消費税を10%で計算した場合に、消費税混みで3000円に合わせるには、消費税抜きでの合計金額が2728円になります』


「了解」


 自分で計算する前にちらっと聞いてみたらあっさりと答えが返ってきたので、俺は元気よく返事をしてから作業にとりかかった。

 といっても、こんなことにいちいちストレージを使っていられないので、レジの横にあった適当な買い物かごを抱えて、とりあえず商品棚へと突撃してみる。


 値札を見ているとやはり多いのは198円とか398円とかのギリギリ大台に乗らない系の値段だ。

 だが、たまに252円とか177円とかの半端な数字のものもある。

 その辺の基準は俺には分からない。競合他社との価格競争でもあったのかもしれない。


 というわけで、金額を端末くんに覚えてもらいながら(あるいは全部知っているのかもしれないが)片っ端から商品をカゴにぶち込んでいった。


 ……側から見ていると、真っ暗なホームセンターで手当たり次第に商品をかき集めている、成人男性の姿がそこにあるわけだが。

 本当にこれ以上ないほど緊急事態なので許して欲しい。




 というわけで、めぼしい商品を適当に詰めてレジまで戻ってきたので、ここからは仕分けタイムだ。

 計算をしていって、レジを通るのに必要な商品だけを分け、あとの商品は適当にその辺に投げ捨てていく。

 本当の店でやったら出禁レベルの暴挙だが、この状況で咎められることはない。はずだ。




 そうして。


「ええと、これで合計2470円だから、あとは?」


『あと258円です』


「……248円ならあるんだけどなぁ」




 そうして……。


「よし、この謎のパーツが一個28円で、今が2320円だから、足していくと……」


『2628円です。100円足りませんね』


「98円ならたくさんあるんだけどなあ!」




 そうして…………。


「よしきた! ここでこの老人用の人参ペーストを加えることで、ぴったり2728円!」


『上杉様。介護食品は軽減税率の対象になります。そのため、消費税が8%となり計算がずれます』


「ふざけんなよ!」




 そうして………………。


「これホースの量り売りやってるらしいから、そこでぴったり端数分を切ってもらえば良いんじゃない?」


『それは良い考えですね。ところで、誰に切ってもらい、誰にバーコードを発行してもらうおつもりですか?』


「……店員……?」


『呼びますか?』


「やめて!」





 そうして…………………………。




「できた……」



 そんなやりとりを十分弱繰り返したところで。

 俺はついに、ついに、ついに、2728円ぴったりの組み合わせにたどり着いた。

 内訳はこうだ。



 ────────


 ボクサーブリーフ黒:1097円

 消臭靴下3枚組:877円

 知らないメーカーの発泡酒:78円

 安いスコップ:272円

 マンガン乾電池単二:206円

 サボテンの植木鉢(極小):198円


 合計:2728円


 ────────



 ……いったいどういう目的があって購入されたラインナップなんだ。

 百歩譲って衣服シリーズと、サボテン&スコップは良いにしても、謎の発泡酒と電池がノイズにすぎる。

 そもそも、単二電池とかなんに使うんだよ、俺の人生でほとんど使った記憶がないぞ。


「ところでさ、この購入したアイテムってどうなるの?」


 とりあえず、ぴったりの商品を揃えた安堵から、時間を気にしつつも気になることを尋ねていた。

 端末くんは、何を聞かれているのか分からなさそうな声音で返す。



『どうとは? そのまま上杉様のものになるとは思いますが』


「例えばこの発泡酒とか飲んで大丈夫なやつなの?」


『……逆に聞きたいのですが、上杉様はウイルスに支配されたダンジョンで手に入れた飲食物を口にするつもりなのですか?」


「いや、聞いただけ」



 まぁ、常識で考えるとそうだよな。

 ダンジョン内で生成された食べ物でもちゃんと食えるだろうことは、モンスター肉が食えるという点から疑う余地はないとは思うが。

 いかんせん、それ以外の要素が不透明すぎる。


 現状では、サボテンも不用意に触れない方がいいな。

 棘に刺されてそこから感染とかしたら笑えない。

 ……いや、だったら危なくない198円のものに代えろよって話なんだけど、ちょうど手元にあったのがこれだったから。


『上杉様がもし、それらの品を手放したいのであれば、ダンジョン側で買い取ることも可能です。その際には値段と同じEPでお返しします』


「それは良いな」


 どうしようか本格的に困っていたら、端末くんの方から救いの手が差し伸べられた。

 EPはあって困るものではない。

 ましてや、こんな現実では大した金にもならない物品が3000EPだと思うと、あまりにも苦しかった。

 だったら、端末くんに引き取ってもらって3000EPとして活用した方がよっぽどマシだ。


「さて、時間も押してきたし、そろそろ、行こうか」


 とりあえず、散らばっている物品は適当に足で退けて壁際に寄せておく。

 もし、ここで再び戦闘になるとしたら、邪魔だから。


 そうして最低限のスペースを確保したあと、俺はもう一度セルフレジの前に立った。


『商品を置いて、バーコードを読み取ってください』


 先ほどと変わらぬやりとり。

 さっきのマグカップはキャンセルしてしまったので、改めて商品をレジに読み込ませていく。



『1097円、877円、78円、272円、206円、198円』



 そこまで進んだところで、画面に表示されている合計金額は2728円。

 俺はそこから会計のボタンを押した。


『合計3000円、です。お支払い方法はEPでよろしいでしょうか』


 端末くんとのやりとりに慣れすぎて口頭で答えようかと一瞬思ったが、セルフレジはそういう高度なAIを搭載しているわけではない。

 俺は画面に表示されている確定のボタンを押した。


『確認いたしました。ただいま会計中です。しばらくそのままでお待ちください』


 すると、そんな言葉とともに端末くんで行なっているのと同じようなEPのやりとりが始まる。

 俺の体から溢れた白い粒子が、すーっとセルフレジへと吸い込まれていった。

 ……大丈夫なんだろうな、とちょっと不安になるが、ここの支配権はまだダンジョン勢が握っているはずなので信じるしかない。


『ありがとうございました。またいつでもご利用ください』


 ややあって、セルフレジは会計を済ませたことを告げ、俺へとビジネスライクな言葉を投げかけていた。

 だれがこんな殺伐としたホームセンターをまたご利用するというのか。



『ドアが開きます。しばらくそのままでお待ちください』



 そして、一階層で聞いたトラウマもののセリフが再び流れる。

 俺は、ここでまたゾンビラッシュが始まるものと思い、来た道を警戒する。

 ……だが。


「足音も、うめき声もないな」


 来ると思った襲来の予兆が、一向に訪れなかった。

 相変わらず、場違いに軽やかな店内BGMがかすかに流れているだけである。


 もしかして、ちゃんとEPを払って脱出路を開けたので、何も起きずにちゃんと脱出させてくれるのだろうか。

 そういう楽観的な希望を懐きそうに──ならない。


 俺はどこまで行ってもこのダンジョンを信用しない。

 あるいは、ダンジョンの悪意を信用している。

 俺のスキルに引っかかる要素が、来た道から来ないというのなら。


 これから行く方の道に何かあるに決まっている。



「…………きたか」



 そうしてしばらく待っていたところで、それは訪れた。

 それまで、俺を逃さないとばかりに降りていた出口へのシャッターだったが。


 それが凄まじい音を立てて、凹んだ。

 否、俺から見たら『出張った』と言うべきだろう。


 外から、内へ。

 ガゴン、ガゴン、とおよそシャッターが立てるような音ではないその轟音とともに、外側からシャッターが叩かれ続けている。


 それはまるで、俺を逃さないためにシャッターがあったのではなく。

 俺を外側にいる『何か』から守るためにシャッターがあったとでも言わんばかりだ。


 その様子を見ながら、頭の中ではすでに戦闘の準備を始めていた。

 現在は見ての通り真っ暗な店内であるが、外がどうなっているのかは定かではない。

 念のため、暗闇の魔術は準備しておくべきだろうか。

 しかし、それには一つ懸念があった。


(外から感じる気配は、二つか)


 今、シャッターをぶち壊そうとやっきになっている何かは、二体いる。

 そして俺は一人だ。


 これがどういうことかと言えば。

 このまま待っているとおそらく二対一で戦う羽目になるということ。

 だから、王道は温存していたCPを使って──■■を呼び出すことなのだが。


 ■■には、暗視がない。


 奴は暗闇の中でも的確に気配を探って反撃してきたから、そんな気がしていなかったのだが、暗視を持っているわけではないのだ。

 一対一の戦いならそれでも問題ないかもしれないが、二対二で背中を預けようとしたら、それは致命的にすぎる。

 俺に向かって攻撃されたら、俺が死ぬ。


 であれば、火炎魔術でも使って、明かりを用意するべきだろう。


 だが、それは俺の弱体化も意味する。

 だから、悩む。


 暗闇の中で一人戦うか、明かりを用意して二人で戦うか。



 そう思ったとき、心臓のあたりがドクンと跳ねた気がした。



 もちろん、ただの勘違いかもしれないが、なんとなく俺はそれが意思表示のように思えた。

 じゃあ、一緒にやろうか。



「サモン:■■」



 俺は闇の中であってもなおその威容を示す、黒塗りの怪物を召喚する。

 俺は少し悩んで、適当な棒材に適当な衣服を巻きつけ、ガソリンを軽く垂らして即席の松明にした。

 爆発しないか心配だが、燃え続けている限りは大丈夫だと信じたい。


 俺が明かりの準備を終えてもなお、怪物は、まっすぐに今にも壊れそうなシャッターを見つめていた。


「Urrrr……」


 その唸り声は、心なしか『怒り』を宿しているような気がした。

 やがて、それまでの猛攻にも耐え続けていたシャッターがついに限界を迎え、内側に裂けるような形で破られた。



「うるるるる」


「るーるるー」



 そうしてその二体──三本腕の怪物が、二体現れる。

 そいつらは、ある特徴を持っていた。



 それは、腕の一本にそれぞれ、剣と杖を握っているという特徴だった。


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